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気管挿管の転機
気管挿管が必要な患者さんがとる転機は一般的に2つか3つあります。
1つは、治療がうまくいって抜管に至る
2つ目は、治療がうまくいったと思って抜管したけどいろんな原因で再挿管
3つ目は、治療に難重して気管切開
もう一つ加えるとすれば、治療の甲斐なく挿管したまま死亡するというパターンもあります。
始まりは終わりを常に考える
医療における原則として、何かを始めるときにはいつ終わらせるかを考えてから始める必要があります。
抗菌薬はその代表といえます。
たとえば、肺炎に対する抗菌薬治療は通常5-7日間とされています。
当然、始めるにあたっては次善の策を常に考えています。
将棋のプロはすごく先の手を読みます。
医療者もプロですが、流石に何千というパターンまではなく、数個のパターンを予測して対応することが多いのではないでしょうか。
再挿管
先に挙げた、2つ目のパターンですが、一定の確率で再挿管というイベントが発生します。
再挿管の理由は様々ですが、気道の問題と呼吸の問題の2つに大別されます。
ここで言う気道とは、上気道の事です。
気道の問題
喘息などの下気道の問題の場合は、薬剤治療を行います。
一方、上気道の問題の場合は、気管切開か気管挿管などの人工気道で対応するしかありません。
かなりアドバンスドな方法としては、ECMOという方法もありますが通常は何らかの方法で気道を確保します。
気道の問題で再挿管になる場合は、通常避けられません。
時間が無いからです。
アドレナリン吸入などを行いますが、上気道の問題が差し迫っている状況ではその効果を待っている猶予はありません。
呼吸の問題
呼吸の問題も大きく2つに大別されます。
肺が悪い場合と、全身状態が不良で呼吸が悪くなっている場合です。
前者は肺炎やARDSなどが挙げられます。
後者は、敗血症などの多臓器障害があります。
通常、多臓器障害がある程度改善、もしくは改善傾向にあることを確認してから抜管を行います。
なんで、全身状態が悪い場合肺が問題になるのでしょうか?
全身状態と肺の関連
一般的に生体外から、酸塩基平衡を調整できる因子は3つしかありません。
NaやClなどのSID、アルブミンなどのAtot、PaCO2の3つです。
重炭酸という方法もありますが、Stewert法でのアプローチはこの3つになります。
重炭酸の補充
重炭酸の補充は、Naの補充になります。
つまり、NaーClのGapを増やす方向に作用します。
通常、Na-Clは36-40程度になります。
アシドーシスになると、このGapが閉じてきます。
この状態を、相対的高Clと呼んだりしています。
相対的高Clの状態で、重炭酸を足すということは、Stewertの考え方ではNaの負荷ということになります。
その結果、2次性にHCO3-が変化するという考え方です。
代償機構としての呼吸回数増加
話が少しそれましたが、全身状態が悪い場合はこれらの代償機構が働いて呼吸回数を増加させるなどの反応を示します。
この呼吸回数の増加が代償の範囲内であればよいのですが、ショックの場合は代償の範囲が極めて狭くなります。
ショックの定義は酸素需給バランスの破綻です。
つまり、組織で使う酸素の量が供給される酸素の量よりも多ければ、破綻します。
この状態がショックです。
ショックに対する気管挿管
その場合は、酸素需要を減らすために気管挿管を行います。
鎮静を行い、呼吸に使う酸素需要を減らすことはショックの治療において必要な事なのです。
ということで、気管挿管が行われるような重症患者さんの場合、抜管のタイミング、更には再相挿管を避けるということは、集中治療のテーマの1つであると言えます。
今回の研究
今回の研究では、抜管後にベンチュリーマスクを使用するか、ハイフローセラピーを行うかで再挿管率を比較しています。
AJRCCMという呼吸集中治療系のトップジャーナルの1つです。
通称ブルーじゃーナると呼ばれています。
表紙がブルーだからというのと、アメリカンジャーナルオブレスピラトリーアンドクリティカルケアメディシンという名称はとても長いからだと思います。
抜管後のデバイス
抜管後のデバイスには3種類くらいあります。
1つ目は、通常の酸素療法
2つ目は、ハイフローセラピー
3つ目は、NPPV
このあたりの使い分けもありますが、今回は飛ばします。
研究の概要
多施設無作為化比較試験で、494症例で抜管後のPaO2/FIO2比が300以下を対象としました。
それらの患者さんを無作為に、ベンチュリーマスク群とハイフローセラピー群に分けて検証しています。
主要評価項目
主要評価項目は、抜管後72時間以内の再挿管率としました。
副次的評価項目は、28日以内の再挿管とNPPVのレスキュー使用としました、
結果
最終的に492症例を解析しました。
再挿管率は、ハイフロー群で13%(32例)、ベンチュリー群で11%(27例)でした。
95%信頼区間は0.7-2.26なので、統計学的有意差はありませんでした。
副次的評価項目は、再挿管率に差はありませんでしたが、レスキューでのNPPV使用率はベンチュリー群で多く見られました。
結論としては、抜管後のハイフローセラピーでは再挿管を回避できませんでした。
私見として
抜管後のレスキューとして、NPPVの有用性はある程度示されていています。
一方、ハイフローセラピーに関しては明らではありませんでした。
今回の検討を持って、抜管後のハイフローセラピーがダメというには尚早かもしれません。
ベンチュリーもハイフローも大量の酸素を使いますが、どちらも比侵襲的です。
ハイフローセラピーの場合は口がフリーになることで、状況に応じては食事も可能、加湿による気道粘膜障害減少などの利点があります。
一方、MDRPUという医療機器関連褥瘡のリスクも多少増加しますので、看護としては観察がとても重要になります。