Contents
結論
臓器障害の原因がうっ血の場合は、VExUSで評価
下大静脈評価に加えた客観的指標をとりいれてみる
臓器のうっ血がありそうなら、治療反応性評価として使用する
臓器障害の原因はうっ血 or 虚血
臓器障害は様々な原因で起こります。
敗血症がもっとも有名です。
敗血症を端的に表すと、感染症に伴う臓器障害のことです。
臓器障害に加えて、適切な輸液にも関わらず昇圧剤が必要な状態を敗血症性ショックと定義されています。
つまり、ショックというだけでは敗血症性ショックとは言えないので、プレゼンの際には注意が必要です。
敗血症は、特に2000年代は多くの施設で多量の輸液がされてきました。
その結果、近年ではようやく輸液による害がランダム化比較試験で示されるようになってきました(以前は観察研究だけでした)。
大量輸液後の水分バランスを戻すのは難しい
これはどういうことかというと、以前は輸液を入れて後で水を引けばよい、という考えだったと言えます。
しかし多臓器障害になると、そう簡単には水も引けない状態になると、いうことはしばしばありました。
水が引けずに体は全身浮腫の状態では、リハビリも進みませんし全身浮腫があるということは、各臓器の浮腫もあるということにもなります。
腎臓はもっとも議論されている
臓器の虚血かうっ血かの議論で多いのが、腎傷害(障害)です。
例えば、うっ血が示唆される腎傷害の場合に利尿を行うと、腎傷害が改善するということはよくあります。
以前は、腎臓にはとにかく水を入れておけば良いという風潮すらありました。
近年では、過剰の輸液は腎傷害の原因になりますので、適切な体液量(eu-volemia)を保つということがいかなる場合にも重要です。
じゃあ、腎傷害の原因が虚血なのかうっ血なのかどうやって評価すればいいんだ、というシチュエーションがあります。
これ、全く別のプラクティスになります。
例えば、脳梗塞疑いの人にtPA(血栓溶解)を使ったら、実は脳出血でしたということと同じです。
まぁ、実際はCT撮影後にしかtPAは投与できませんので、そのようなことは無いのですが‥
話を腎臓に戻しますと、治療的診断が多く用いられてきました。
例えば、輸液反応性があるので輸液をしてみる。
輸液反応性が無いので、フロセミドを使って利尿をしてみる。
といった感じです。
本来は、もう少し臓器うっ血の根拠がほしいところです。
近年はエコーがだいぶ進歩しています。
エコーを使って、評価してみましょう。
下大静脈だけでは評価できない
通常エコーとは心エコーの事
エコーといえば、通常はechocardiographyのことで、心エコーを示すことが多いそうです。
福井大学の林先生が言っていました。
心臓以外では、Ultrasonography(US)が多いようですが、日本の場合はエコーで通じるのでエコーで良いと思います。
まずは下大静脈の評価をすることが多い
エコーの初学者は、まず下大静脈(IVC)を描出できるようになり評価していると思います。
IVCの欠点は、体液量以外の要素が大きいという点があります。
圧と量、血管内圧と血管外圧
例えば、血管にかかっている圧というのは血管が内側から押す圧と、外側から押される圧によって規定されます。
我々が知りたいのは、圧を使って量を知りたいということになります。
人工呼吸器の場合、従圧式(PCV)と従量式(VCV)があります。
この2つの換気様式は似ているようで、全く異なります。
例えば、コンプライアンスの良い肺では、15cmH2Oで1回換気量が800ml得られたとします。
逆に、コンプライアンスの悪い肺では、同じ圧で300mlしか換気量を得られないこともあります。
つまり、圧と量はある程度の関連性がありますが、必ずしもリニアな関係性とは言えない場合がしばしあります。
IVCの議論では、輸液反応性ばかりが独り歩きしています。
何事においてもそうですが、IVC単独で体液量を判断するということは通常ありません。
もし、IVCだけで体液量を判断している場合は、多分多くの場合間違っている可能性があります。
あくまでも、たくさんある指標の1つに過ぎません。
特に人工呼吸管理のような、陽圧換気を行っている場合は注意が必要です。
VExUSプロトコール
VExUSとはThe Venous Excess Ultrasonography Scoreの事のようです。
要は、繰り返しになりますが下大静脈(IVC)だけで体液量の評価はできないということです。
当然、IVCが拡張していれば推定右房圧は上昇しますので、臓器うっ血の可能性は上がります。
けれども、IVCが拡張しているイコール、臓器うっ血や体液量増加ではない、ということです。
まとめると、難しいということになります。
そこで、エコーと生理学的特性を使って、各臓器のうっ血を評価するというがVExUSになります。
下に書いているように、4つの評価項目だけですので、慣れれば簡単にできます。
1:下大静脈を評価
まずは、下大静脈(IVC)を評価します。
このとき、20mm未満の場合はVExUS 0点なので、この時点で終了します。
まずは、IVCを描出できるかどうかが大事ということです。
IVCの描出は、以外に難しい場合があります。
その時は、肝臓越しに右中腋窩線〜前腋窩線あたりから、depthを深くすると見えることがあります。
通常は長軸といって、プローベを縦方向に置きます。
VExUSの場合は、そのまま肝静脈も見ますので、短軸(水平断)のほうが見やすいかもしれません。
2:肝静脈を評価
IVCを見たら次に、肝静脈を見ます。
VExUSで検索すると、Youtubeを始め様々な解説がありますので、そちらを参照すると良いでしょう。
肝静脈は、みぎ・ひだり・中の3つあります。
どれでもよいので、そこにPulse wave(PW)を当てます。
通常、収縮期(S)と拡張期(D)の2つの波があり、収縮期のほうが大きい下向きの波形になります。
つまり、S > D になります。
うっ血が進んでくると、これが逆転して S < Dになります(軽度うっ血)。
さらにうっ血が進むと、S波は上向きの波形になります。
S波は上向き、D波は下向きの場合は、高度うっ血初見を示唆します。
3:門脈を評価
IVC、肝静脈を評価の次は、門脈を評価します。
門脈は通常拍動がありません。
門脈評価の場合は、腸管のうっ血を評価しています。
うっ血が進行してくると、拍動として捉えられます。
ここでも、Pulse wave(PW)で同じように、高い波と低い波を測定します。
門脈評価は、その比率を評価します。
Pulsatility indexというものを使用します。
式にすると、(Vmax - Vmin) / Vmax になります。
この比率が<30%で正常、30−49%で中等度、50%以上で高度うっ血の評価になります。
4:腎静脈を評価
次は、最後の腎静脈の評価を行います。
通常は、単相性の連続波です。
静脈のうっ滞が進むと、2相性になります。
さらに腎うっ血が進むと、収縮期流が消失し、拡張期のみの単相性流になります。
様肝静脈にPulse wave(PW)をあてて評価します。
下向きに2つの波があれば、軽度の腎うっ血です。
1つ目の波がS波、2つ目がD波です。
さらにうっ血が進むと、D波のみになります。
5:VExUS評価
ここまでくれば、後は評価になります。
Grade 0〜3までの4段階です。
Grade 0:IVC経 < 20mm
Grade 1:IVC経 ≥ 20mmm + 軽度うっ血所見の組み合わせ
Grade 2:IVC経 ≥ 20mm + 高度うっ血所見1つ
Grade3:IVC経 ≥ 20mm、高度うっ血所見2つ以上
まとめ
臓器うっ血所見がありそうなときは、まず下大静脈を評価
下大静脈経が2cm以上ある場合は、VExUS評価として、肝静脈・門脈・腎静脈の評価
それぞれ評価を行い、Gradingでうっ血所見を評価
うっ血があるということは、基本的にはVolume reductionが必要な病態になるはずなので、利尿必要性を評価