結論
総合診療は、看護との親和性が最も高い診療科
他科が診たがらない症例は、積極的に診療看護師中心に診療の補助ができるかも
どこの診療科でも使える知識ばかり
はじめに
コメントで総合診療での診療看護師(NP)の働き方について知りたいというご意見を頂いたので、書いてみました。
総合診療は医療の中心かも
診療看護師(NP)の総合診療科での働き方としては、まずは自分自身の知識・技術の面からは、とても役立ちます。
何故かというと、他の診療科でもたいてい困るのは一般診療だからです。
特に大病院の場合は、細分化された診療科では得意分野があります。
その得意分野を専門家たちは活かしたいですし、専門家でない仕事に関してはナースなどの多職種がうまくやってくれたほうが双方にとって良いはずです。
外科医の得分野
例えば、外科術後の感染症に関しては、外科医師はそれほど得意ではないはずです。
手術に関連した感染症に関しては、ある程度経験しているでしょうが、果たしてその炎症のフォーカスはどこなのか、そもそも感染症なのか、といった議論はそれほど得意ではない外科医のほうが多いかもしれません。
最終的には、薬剤熱という結論に至るまでは他の熱源を除外する必要がありますが、同じ発熱でも待てるものと待てないものがあります。
外科手術を契機に、違う病気が顕在化してくるということもありえます。
身体診察の重要性
抗菌薬をエスカレーションするだけなら誰でもできますが、適切な診断・判断に基づく抗菌薬治療に関してはそれなりの知識・経験が必要です。
そのためには、全身を見ることが重要です。
全身を最も手っ取り早く見るには、身体診察が最も迅速にできます。
その次には、モダリティにもよりますが超音波、採血、CTなどと続きます。
看護との親和性が高い
看護師の場合は、採血やCTなどの選択肢をとることは難しいですので、身体診察や病歴である程度アセスメントすることが必要になります。
いつも言っていることですが、熱が出て38℃でコールという指示があったとします。
熱を測って、38.1℃になったので医師に連絡しました。
これでは、看護師のアセスメントは全く入っておらず、意識のある患者さんでもできる仕事になります。
他にも、38℃以上で血液培養、アセトアミノフェン500mgなどといった事前指示も、ほとんどアセスメントが入っていません。
病歴や身体診察を行い、解熱の必要があるのか、熱源はどこなのかは診察でわかることも多いです。
例えば、尿路感染症だと頻尿・残尿感・排尿時痛などがあれば、尿路感染症の確率が上がります。
念の為付け加えておきますが、尿路感染症の診断はめちゃ難しいです。
尿所見も無症候性細菌尿の場合はよくあり、他の感染症などの除外が必要だからです。
この様に、病棟における看護師の役割やは診療看護師(NP)の総合内科から学べることがとても多くあります。
とある日の流れ
プレラウンドから始まり、夕方の回診で大抵は1日の業務は終了になります。
午後など時間がある場合は、調べながらカルテを書いたり、頭を使うことが多いのが総合診療の特徴の1つです。
また、高齢者が多く退院するにあたっても、安易に自宅に帰れない場合が多いので退院の調整も業務の多くを占めるかもしれません。
7時~プレラウンド
本回診の前に自分で患者さんをラウンドして、即介入が必要な状況がないかなどをアセスメントします。
その際に、本回診で行うための材料を集め、何をどの様に進めるかを予め自分の中で決めておきます。
このとき必要に応じて、超音波検査を行い輸液量の調整材料として使用することもあります。
超音波検査を体液量評価に使う場合は、通常のVisualでの画像に加え、E/A、E/e'、MAPSI、TAPSE、TRPG、IVC、胸水、Bライン、肝障害などあれば胆嚢や胆管、IVC2cm以上あればVExUSを行います。
慣れれば、5分もかからずできるようになります。
8時~ 全体カンファレンス
ここでは、前日入院症例などを夜勤より全体プレゼンしてもらいます。
なんでこれしなかったの?とかいう、個人を責めるようなことはなく、教育的な補足として上級医より意見があります。
個人的には格言だと思っているのですが「その場にいなかった人は診療内容に後からケチつけるのはナシ」だと思っています。
教育的側面
総合診療の場合は、そのような教育的側面も強く持ち合わせています。
というのも、「言った」だけでは人は行動に移せません。
これは、患者さんへの教育も同じです。
生活習慣や内服アドヒアランスが重要になる疾病の場合は「患者さん自身がどうすれば目的を持って行動してくれるようになるか」という部分に焦点をあててアプローチする必要があります。
これも格言の1つだと思っていますが「処方した薬をきちんと服用してくれると思っているのは医者だけ」というものがあります。
例えば、「1日4回の薬を欠かさず飲んでくださいね」と言われても仕事している人の場合、多分殆どの人が無理なんじゃないかと思います。
自分ができないのに、患者さんにコンプラインスを強いるというのは、間違っているかもしれず、よく考える必要があります。
8:30~ ラウンド
指導医により、回診方法は多少異なります。
例えば、テープル回診といって電子カルテをチェックしてから実際に患者さんのラウンドを行う場合と、ラウンドしながら方針を決める場合があります。
どっちが良いというものではありませんが、双方ともに利点と欠点があります。
電子カルテがあれば、血液データや画像所見などわかることが、いろいろあります。
患者さんの近くに行けば、インプレッションなど電子カルテからは全く伝わって来なかった、一般状態がパット見でわかります。
この回診の時に、受け持ち患者さんのショートプレゼンと方針をディスカッションします。
指導医はえらい
ここでは、意見のすり合わせを行い、指導医との意見が合わないときもまれにあります。
その時は、ディスカッションの末に、指導医の方針を採用します。
指導医はその名のごとく、知識も経験も豊富ですので、診療看護師(NP)や研修医の先生方が行える範囲というものをある程度理解しています。
その枠から外れるような場合は、指導医はストップをかけることになります。
指導医の心の枠
この枠は指導医により、幅が異なります。
研修医や診療看護師(NP)にとっては、幅の広い指導医のほうが自ら考えて行うことが増えますので、有意義な診療になるでしょう。
一方で悩みは増えます。
診療看護師(NP)や研修医が考えて考えて出した答えを、大抵の指導医はすぐに引き出しから出すことができます。
常に答えはすぐに出せるのですが、旅をさせるような感覚で見守ってくれる指導医は、とても心強いと感じます。
10:00~ 回診で決まった内容の代行入力など
回診で決まった内容、例えば抗菌薬の変更やステロイドの量など、決まった内容の指示を出します。
診療看護師(NP)の場合は、指導医からの直接指示ということで代行入力で指示を出すことになりなす。
大抵は、曜日により定期処方日というのが決まっていますので、週のどこかで定期処方を全員分行います。
このあたりの処方の代行入力は、薬剤師の方が行っている施設もあるかもしれません。
とくに、処方数が多い場合や変更が多い場合などは、修正も難しくなり時々抜けも生じます。
そんなとき助けてくれるのが、ナースと薬剤師さんです。
医師は、このように多職種により支えられているのだと感じます。
午後~ 午後の回診やカルテ書き
午後は入院がなければ、担当患者さんのカルテを修正したり、アセスメントで抜けているものは無いか、などチェックを行います。
転院や退院が決まっている場合は、診療情報提供書の代行記載も行います。
総合診療の場合は、救急と異なり多少入院期間が長くなるケースがあります。
そのため、診療情報は割と丁寧に書いている気がします。
救急からの紹介状をもらうと、ほんとにあっさりしており、エコーなどのレポートもなかったりと診療の継続という観点からは、再度情報依頼を行うこともあります。
各診療科の役割
そのへんは、救急が悪いというのではなく、役割が異なるので仕方ないことです。
総合診療はより深く考えていますし、救急は沢山の救急患者さんの受け入れを行いつつ紹介状を記載して頂いています。
わからないことは、手間にはなりますが問い合わせをすることになります。
そのため、診療看護師(NP)が紹介状の代行記載を行う場合は、丁寧かつシンプルに記載することが 必要です。
慣れない人の紹介状をみると、ぎっしり書かれていますが何が言いたいのかさっぱりわからない、ということはよくあります。
一方、指導医の紹介状は数行でも、端的に記載されており必要十分な情報が整っています。
紹介状で重要な部分は、まずは診断名、それに対する治療内容とアセスメントを書くと良いと思います。
長くなる場合は、プロブレム毎に記載するとわかりやすくなるはずです。
16時~ 夕回診
夕方の回診は、患者さんに直接会って問題ないかを確認します。
指導医によっては、各担当患者さんの回診を行っていれば、カルテ診だけで終わることもあります。
総合診療は診断力
医療に限らないですが、すべての介入には何らかの「判断」のもとに行われます。
たとえば、車の運転をしていて前の車が速度を落としたら、取締りが行われているのか、とか歩行者が飛び出してきたのかなど考えることになります。
車の運転の場合は、殆どは体験をベースに考え、ブレーキを踏むなどの行動に移します。
これは、OODAループという考えに近いです。
ドラスティックに動く臨床現場では、OODAはとても有用になりますが、時間がある場合はより考えることが必要になります。
その時は、PDCAのほうが個人的には良いと思っています。
常に何かの根拠を持つ
先にも書いたように、抗菌薬を使うには「何かの根拠」が必要です。
根拠と言っても、ランダム化比較試験のようなエビデンスとは多少異なる概念です。
抗菌薬を使うシチュエーションは、感染症です。
感染症の治療は、抗菌薬ではなく実は感染源の除去です。
腹腔内感染症であれば、ドレナージや開腹洗浄が治療です。
抗菌薬はあくまでも補助的に使用されるべきものであり、腹腔内感染症でも手術で感染元がコントロールされていれば5日程度で終了可能となります。
感染創の除去ができていない場合
問題は、感染原の除去ができない場合です。
肺炎では、痰のドレナージは行いますが、細菌性肺炎の場合はそれだけでは良くならず、肺を切除するわけにもいきませんので、抗菌薬が必要になります。
じゃあ、ほんとに肺炎なのかと言われると総合的に判断するしかありません。
総合的に判断って何?
じゃあ、総合的って何なんですか、と言われるとそれぞれの重み付けだと思います。
肺炎の場合は、臓器特異的所見である呼吸器症状(頻呼吸、低酸素、胸痛、痰の増加、画像所見など)に加え、全身的所見(発熱、時にCRP、食欲など)で決められます。
全身的所見だけでは、感染症なのだろうけどどこの感染症なのかわかりません。
これに肺に特異的な所見が加われば、肺炎の可能性が上がります。
除外も必要
他に行うべきは、他の感染症の除外が必要です。
市中の場合は、肺・尿路・肝胆道・皮膚軟部組織などが多いので、このへんは最低限除外すべきでしょう。
重症度評価
その結果、肺炎が鑑別診断の最上位となった場合は、重症度の評価を行います。
日本だとADROP、CURB-65なども簡単に評価できます。
セプシスなのかどうか
要は、セプシスかどうかということはとても重要です。
セプシスは感染症が原因で臓器障害を呈している状態です。
だからこそ、死亡率が上がりますし、ほっとけば時間単位で悪くなります。
この様に、様々な判断が必要になります。
結局、常にアセスメント
肺炎という判断(診断)に至ったのであれば、培養を採取して抗菌薬を使用することになります。
抗菌薬はどの様に決めるのか、ここでは肺炎と判断したなかにすべて情報があるはずです。
市中なのか院内なのかで、使用する抗菌薬は異なります。
肺炎の重症度でも、使用する抗菌薬は異なります。
常に、何かのアセスメントの上に患者さんにアプライするという事は忘れてはいけない事実です。
まとめ
あまり綺麗にまとまりませんでした、総合診療の診療看護師(NP)の1日を書いてみました
常に何らかの判断により、患者さんにアプライされる
体験も大事だけど、根拠も同じくらい大事