診療看護師(NP) 集中治療科

洞性頻脈: TACH-FEVER

結論

洞性頻脈は、原因を考える

洞性頻脈に対して、脈拍を落とすことは得策ではない(危険)

TACH-FEVERの語呂合わせはよく使う

洞性頻脈

洞性頻脈はよく起こります。

よくあるのは、ショックインデックスと呼ばれる、通称バイタルの逆転という減少があります。

バイタルの逆転とは、心拍数が収縮期血圧を上回ることを指します。

例えば、出血性ショックでは循環血液量が失われていきますので、頻脈になります。

なぜ頻脈になるのでしょうか。

人の体には、酸素が必要です。

酸素を取り込むだけではなく、細胞レベルで利用することが最終目標になります。

この酸素需給バランスが破綻した状態を一般的にショックと呼んでいます。

収縮期血圧が90mmHg未満などと言われますが、収縮期血圧90でも元気な人はたくさんいます。

では、なぜ元気な人と元気じゃない人がいるのでしょうか。

ここでも酸素需給バランスがポイントになります。

例えば、全力で階段を10階まで昇ったとします。

その時の酸素消費量は、当然亢進しています。

なぜ、酸素消費量が更新するのでしょうか。

体を動かすには、筋肉を使います。

逆に何もしていなくても、呼吸をしているだけで筋肉を使用しています。

筋肉を使うには、エネルギーが必要です。

脳を使うには、エネルギーが必要です。

脳の場合は、唯一のエネルギー源としてブドウ糖を利用しますが、そもそも酸素が不足していると機能しません。

逆に、酸素の害も近年は明らかになっています。

低すぎる酸素も高すぎる酸素も、毒ということになります。

この辺の調整は、酸素飽和度を利用できるので、酸素飽和度を見て酸素の量を調整すれば良いです。

具体的には、酸素飽和度90%前後を目指せばよいはずです。

ここまでは、血圧ではなく酸素需給バランスについて書きました。

洞性頻脈の際にまず考えることは、ショックかどうか、ショックの原因として出血や脱水が無いかを評価します。

出血の場合は、外傷の場合は見ればわかります。

けれども、消化管出血の場合は嘔吐や下血がなければわかりません。

つまり、直腸診と胃チューブが入っている場合は、胃内容を吸引して黒色便やコーヒー残渣様の所見が無いかをチェックします。

他は、骨折・筋肉(特に大きな筋)・腹腔内・後腹膜といった、一見分かりづらい出血源についてはCTを撮影しないとわかりません。

また、止血(血管内治療)が必要かどうか、詳細に確認するためには、造影CTを撮影しなければわかりません。

よくわからない洞性頻脈がある場合は、まずは出血や脱水の可能性を考えましょう。

他には、痛み・不穏・発熱でも頻脈になります。

発熱の場合は、Δ20ルールというものがあります。

これは、体温が1℃上昇すれば心拍数は20回/分程度上昇するというものです。

厳密には、16回くらいのようですがざっくり20回/1 ℃と憶えます。

脱水や発熱などは、原因としてすぐに思いつくと思いますが、他の原因の見逃しがないかもチェックします。

語呂合わせで、tach feverです。

Tamponade / Thyrotoxicosis(タンポナーデ/甲状腺中毒症)
Anemia(貧血)
CHF(うっ血性心不全)
Hypotension(低血圧)
Fever(発熱)
Excrutiating pain(激しい痛み)
Volume depletion(体液量減少)
Exercise(運動)
Rx (Theo, Dopa, Epi, etc)(薬剤: テオフィリン、ドパミン、エピネフリンなど)

https://knowmedge.com/medical_mnemonics/Cardiology_mnemonics/Sinus-Tachycardia/110

Tamponade / Thyrotoxicosis(タンポナーデ/甲状腺中毒症)

Tは、まずはタンポナーデです。

特に心タンポナーデです。

心タンポナーデは、心嚢水が貯留しているかどうかは、エコーをあてればすぐに分かりますので、まずエコーをあてます。

それなりに心嚢水があれば、心タンポナーデの可能性が上がります。

同じ心嚢水の貯留量でも、急性と慢性では慢性の場合は心タンポナーデになりません。

心嚢水があるだけでは、心タンポナーデかどうかはわかりませんので、専門家(循環器内科)に相談するのが良いでしょう。

 

Anemia(貧血)

貧血も頻脈になります。

血液、特にヘモグロビンは何をしているかというと、組織に酸素を運搬しています。

ただ、運んでいるだけです。

ヘモグロビンの減少は、運ぶトラックの荷物が少なくなっている状態です。

例えば、トラックには規定量の荷物(ヘモグロビン)が適正化されているのが理想です。

けれども、トラックの台数だけ増えて、荷物は少量だと効率が悪くなります。

そのため、トラックの台数やトラックの走るスピードを上げて対応します。

ちなみに組織に酸素を運ぶには、貧血以外にも、酸素飽和度と心拍出量の3つの要素が重要になります。

その中でも、ヘモグロビンは最も効率がよい酸素運搬といえます。

通常は、ヘモグロビン7g/dl以上を目指します、心不全などでは8g/dl以上です。

他には、重症患者さんでは個別化して、混合静脈血酸素飽和度などを評価して、目標のヘモグロビン濃度を上げること(輸血)もあります。

CHF(うっ血性心不全)

心不全は大きく分けると、収縮が良いものと、悪いものに分けられます。

収縮が悪い心不全は、心筋梗塞や心筋症などで悪くなることがあります。

収縮が良い心不全は、弁膜症や貧血などが原因となります。

いずれの心不全でも、心拍出量の不足がある場合は、適切な生体反応として頻脈になります。

心拍出量は、1回拍出量に心拍数を積算したものです。

心拍出量を上げるためには、この2つのうちどちらかを上げて対応するしかありません。

Hypotension(低血圧)

低血圧で血圧低下をきたす原因は、循環不全です。

血圧低下の原因は多岐に渡ります。

血圧低下とショックは似て非なるものです。

ショックの定義は、酸素需給バランスの破綻です。

つまり、血圧を保つことができなくなることで、循環不全(ショック)を来した場合には通常人間の代償機構として、脈拍を上げることで対応します。

ショックインデックスとは、収縮期血圧 ÷ 脈拍数です。

通常は、収縮期血圧 < 脈拍数となるはずです。

では、なぜ脈拍を早くする必要があるのでしょうか。

それは、心拍出量を保持するために必要だからです。

心拍出量は、Cardiac output (CO)のことです。

COは1回拍出量に心拍数を掛け算したものです。

この式からわかることは、1回拍出量が落ちても心拍数が増加すれば、COは変わらないということになります。

逆も同じで、心拍数が低下した場合は1回拍出量を増加させることでCOは保持できます。

COを保持できると簡単に言っていますが、どこかで破綻してしまいます。

つまりは、原因を検索する必要があります。

血圧低下の原因は4つ(心原性・循環血液量減少・閉塞・分布異常)あります。

つまり、低血圧が原因で頻脈を来している場合は、原因検索が最も重要になります。

原因がわからずに、昇圧剤を使うというのは盲目的です。

近年では、ノルアドレナリンやバゾプレッシンの出番が早くなってきていますが、昇圧剤をつないで終わり、というのは何も考えていないに等しいわけです。

Fever(発熱)

発熱は最もよく遭遇する、頻脈の原因です。

発熱の時によく言わているのは、デルタ20ルールというものです。

体温が1℃上昇すれば、脈拍数は20回程度通常は上昇します。

これも、原理の1つとしては代謝の亢進です。

代謝が亢進するということは、酸素の需要が亢進している状態です。

需給バランスを保つためには、供給量を増やしてあげることが必要になります。

供給量は心拍出量・酸素飽和度・ヘモグロビンで規定されるので、通常は心拍出量を上げて対応することになります。

デルタ20の話に戻りますと、例えば平常時が36.5℃で脈拍数が60回だとします。

これが、38.5℃の発熱を来した場合は、40回増加するということになるので、脈拍数は100回になります。

通常、頻脈の定義は100回以上なので、発熱で頻脈を来すということは38.5℃程度の発熱が必要になります。

逆に、発熱しているのに徐脈の場合は、「比較的徐脈」と言われます。

薬剤が最も多いですが、発熱の原因を考える上で重要な所見になります。

Excrutiating pain(激しい痛み)

痛みも頻脈の原因になります。

痛みの場合は、NRSといって「0-10のうち、10が人生最大の痛み、0が全く痛みなしの場合、今どのくらいの痛みですか?」と聞くやつです。

定規などを用いて、指で指してもらう場合は、VASという表現になります。

基本的には、どちらも同じです。

しかも、NRSは信頼性が良いと言われています。

とはいえ、全然痛くなさそうなのに「10痛い!!」という人もいます。

そのような場合は、BPSも同時に評価します。

BPSは重症患者さん用のツールで、しかも気管挿管時(話せない場合)の評価ツールです。

呼吸器との同調整・四肢の緊張・表情から評価します。

例えば、我々健常人が日常で遭遇する痛みの多くは、頻脈の原因になりません。

多くは、痛みの原因が何かしらあり、何らかの介入をしなければ改善しない場合に起こりえます。

例えば、急性腹症や大きな骨折などが代表的です。

これらは、いずれも外科的介入が必要もしくは検討されるべき疾患であり、ほっとくと重症化してしまいます。

代表的な急性腹症である虫垂炎の場合は、痛みが改善することがありますが、これは虫垂が破裂したと考えるべきです。

頻脈を来しうる痛みの場合は、評価をして痛み止めの投与が必要になります。

痛み止めを使用しても、痛みは原因があるかぎり継続するので、ここでも当たり前ですが評価が必要になります。

あと、痛み止めを使った後も評価が必要です。

これは、NRSが例えば8 → 5といった感じで改善していれば、定量的に評価できるのでおすすめです。

Volume depletion(体液量減少)

頻脈の原因ですぐに思い浮かぶ原因です。

先に書いたように、骨折で出血して循環血液量が減少すると、ショックインデックスが1を超えてきますので、頻脈になります。

他にも体液量が喪失するような病態の、下痢や膵炎や糖尿病の悪化による多尿などが代表でしょうか。

他には、体液喪失がなくても体液の入ってくる量の喪失でも起こります。

例えば、飲水行動を取れない意識障害の場合や地震の後瓦礫に長時間埋もれていた人なども脱水になります。

ちなみに「脱水」と一言で言っても、3つに分ける必要があります。

Volume deplesion、Dehydration、Hypovolemiaです。

Volume deplesionは、何らかの体液量喪失が原因です。

最も体液量喪失で効くのは、出血です。

Dehydrationは、日本語でいういわゆる脱水です。

脱水は、細胞内外の全脱水を示すことが多いです。

Hypovolemiaは、単純に血管内の容量の不足です。

ここでは、心拍出量に影響を与える因子ということになります。

血管も大きく分けると、動脈血管であるStressed volumeと静脈血管であるUnstressed volumeがあります。

ちなみにノルアドレナリンなどの昇圧剤はどちらも収縮させます。

つまり、血管内容量は減少しますが、適切な心拍出量は保持できるという状態になります。

血管内容量が減少しても、心拍出量が保てていれば多くは問題になりません。

問題になるのは、これらの破綻によるショックが問題になります。

輸液を行う行為は、静脈に輸液しますが、前負荷として輸液された輸液はその後動脈血になります。

ノルアドレナリンは、この輸液の量(静脈血管のプールの量を減らす)をへらすことも可能です。

Exercise(運動)

運動は最も一般的です。

階段を全力で10階まで駆け上がったら、大抵は頻脈になります。

これも、組織代謝の亢進(VO2の亢進)なので、供給量を増やして対応しています。

Rx (Theo, Dopa, Epi, etc)(薬剤: テオフィリン、ドパミン、エピネフリンなど)

最後は、薬剤です。

上記に書かれている薬剤が代表ですが、他にもたくさんあります。

例えば、抗血小板剤のシロスタゾールは頻脈の原因薬剤として有名です。

先に上げた甲状腺機能低下の薬剤である、チラーヂンの量を間違えるとが効きすぎて頻脈になるということもありえるでしょう。

いずれも、交感神経賦活薬は頻脈になります。

ドブタミンの頻脈も有名ですし、ドパミンも頻脈になります。

まとめ

洞性頻脈にはいろんな原因があります

まずは評価して、介入して介入の効果を再評価が基本になります

TACH-FEVERは語呂合わせで抜けがある時に、気づけるかもしれません

 

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