診療看護師(NP)

診療看護師(NP)は医師になればいい?

結論

診療看護師(NP)は医師の臨床業務の一部を担うことができる

現在の医師の給与体型を鑑みると、診療看護師(NP)はコスパが良い

医師が増えれば、診療看護師(NP)はいらない(かも)

診療看護師は医師を目指すべきか

診療看護師(NP)界隈では、「医行為」という部分にフォーカスされた結果、「医師になればいいのに」という声が聞かれることがあります。

個人的には、この論理は至極まっとうで、医師になったほうがいろんなことができます。

なんなら、極論ですがすべての職種は医師であれば担うことができます。

例えば、特殊な職種である診療放射線技師ですが、放射線を使った治療や診断を行うためには、診療放射線技師でしか行えない仕事です。

CTや透視台に患者さんを連れていき、同意書を確認して、これまた極端な話ですが「放射線を出す」だけで良いということになります。

ところが、当然ですが「放射線を出すだけ」といっても、放射線に関する基本的な知識は必要ですし、ビームを出すボタンを単純に押しているだけが仕事ではありません。

その背景には、(看護師なので知りませんが)体型などから適切な線量の設定を行い、造影CTの場合は循環も考慮してどこの臓器に最もフォーカスして撮像するのか、などを決める必要があります。

つまり、医師でも放射線のボタンを押すことだけはできますが、細かいところは行えない、というのが現状です。

ただし、当然ですが医師にこれらの基本的に知識や技術を学べば、普通にCTや単純X線撮影は行うことができるはずです。

X線は写真と言われるように、普通の一眼レフカメラと似たような側面を持ちます。

使い捨てカメラで撮影したものと、一眼レフカメラで撮影したものではその出来栄えは大きく異なります。

専門家と非専門家の差

では、同じ一眼レフカメラを専門家と非専門家が使えば、どうなるでしょうか?

おそらく大きくは写真の出来栄えに変わりはありませんが、明らかな「差」が出るはずです。

これが風景写真であれば、人の見た目だけで良いはずです。

ところは医療の診断や治療に用いる場合は、撮影方法に問題があれば鮮明な画像になりませんので、見逃しや治療不十分になることもあるはずです。

ここでの例えは医師の場合、法律上は放射線技師の業務も担うこともできますが、質が(時に大幅に)低下するということが挙げられます。

質の低下だけならまだしも、放射線の場合は不利益も時に多大なものとなりうるため、やはり専門家が放射線照射の業務を担うべきと言えるでしょう。

侵襲度と得意とするモダリティ

つぎに同じ画像診断でも、超音波検査になるとどうでしょうか?

超音波検査の利点は、侵襲性が極めて低いという点です。

侵襲性が低いということは、放射線診断と比較して安易に行うことが可能です。

一方、施行者の質の低下の懸念もあります。

同じ測定方法で計測を行った場合でも、その結果は検者により大きく異なることは知られています。

つまり、超音波検査を診断として使うには、やはり専門家による検査が必要ということになります。

ただ、情報の一環として利用するには問題ないので、侵襲性が低いという利点を活かして看護師でも積極的に行うべきだと思います。

二元論ではなくグラデーション

このように、医療にはある・なしの二元論ではなく、「ある」と「なし」の間はグラデーションになっています。

別の言い方では、白でも黒でもないので、グレーゾーンとも表現できます。

このグレーゾーンは、LegalとIllegalのグレーゾーンでもあります。

例えば、気管挿管は看護師独自の判断で行うことはできませんが、医師の直接的指示があれば可能です。

胸腔ドレーンや中心静脈カテーテル留置などの処置を診療看護師(NP)が行った、というようなものも比較的散見されます。

このあたりはよく行われる医療処置ですので、「簡単」と思われる医療者もいると思います。

けれども、これらの処置の「怖さ」を知っていれば安易に行われるべき処置ではありません。

当然、代替者がいない場合は、自分自身で行うしかありません。

中心静脈カテーテル留置は簡単な様で、非常に技術を要する処置です。

診断の世界の格言

診断の世界では格言があります。

稀な疾患の典型的な症状、よくある疾患の稀な症状というものです。

見逃しや誤診の代表とも言える虫垂炎ですが、虫垂炎はよく見逃される病気の代表疾患です。

通常、虫垂炎の臨床経過というのは医学生でも知っています。

あとから見直すと、当たり前の経過なのですがよく見逃されます。

虫垂炎の場合は、見逃されると腹膜炎・敗血症になり、最悪の場合は死亡する可能性のある病気です。

騙されないように、素直に考える

つまり、よくある病気にも関わらず誤診が多いということは、騙されやすいということでもあります。

一方、稀な病気の場合はそもそも見たことがある人が少ないので、診断のザルからこぼれ落ちていることがほとんどです。

知っていれば、いくら稀な病気の場合でも典型的な症状を呈するので、診断可能ということになります。

逆に深く考えすぎるのもよくありません。

馬の蹄の音をきいたら、そこには何がいるのか?

馬の蹄の音を聞いたら、そこには何がいるのでしょうか?

正解は「馬」です。

たまには馬の蹄の音をさせるシマウマもいるのかもしれません。

ただし、かなりレアケースです。

まず考えるのはシマウマではなく馬なのです。

 

医療の中心は「医師」である

現代の日本では、医療の中心は医師です。

例えば、看護師でマネジメント能力がめちゃくちゃ高くて成果を発揮している人がいたとしても、院長なれるのは医師のみです。

ドラッカーは組織にとって最も重要なことは、組織の存続であると言っています。

どの様な形であれ、存続させるということが最も重要と言えるでしょう。

日本の場合は、創業◎年などとありますが、それでも最近は老舗の倒産も珍しくありません。

これらのことからも分かるように、組織の存続は当たり前ではないのです。

これは、非営利組織と言われる病院でも同様です。

競争は自然の摂理

マイケルEポーター氏は、競争戦略で有名ですが競争の原意をもう少し働かせることも本来必要なはずです。

そもそも、病院の多くは医療保険ですので7-9割は国の税金です。

税金を使う以上は、もう少し医療の健全化が必要であるということが自明なのですが、何故かなかなか大規模な改革には至らないというのが現状です。

そんな医師が中心ですので、法律上も先に書いたように何でもできます。

ということは、医師を増やせば万事解決と言えるのかもしれません。

医師は時に万能だが医師だけでは医療は成立しない

野球に限りませんがチームビルディングを構築するためにはバランスが重要です。

野球で言うところの4番バッターばかりを集めても、試合に勝てるわけではありません。

医療は高度になるほど、専門分化が進みます。

現代の総合診療医と呼ばれる人には、現時点でのAIを遥かに凌ぐ知識を持っています。

医師のすべてがこの様なスーパースターであれば、何でもできるのでそんなに問題はないのですが、いくらアタマの良い医師でもそんなに賢い人はマイノリティです。

ということで、現代の医療においては多職種連携が重要です。

診療看護師(NP)の場合

では、近年ごく一部の医療者の間で話題の診療看護師(NP)の場合はどうでしょうか。

診療看護師の場合は、医師の業務の一部というか8割程度を担います。

米国では、Feeも医師の8割程度と聞いたことがありますが、実際はどのように運営されているのかは知りません。

利点は医師と同じ様な能力と仮定した場合、明らかにコスパが良いです。

医師の場合、アルバイトでは普通の人の感覚からすれば桁違いのFeeをもらっています。

例えば8時間で10万円だとすれば、時給は12500円です。

看護師の場合の時給は、2000円くらいです。

一般的な飲食店などでは、1000円くらいでしょうか。

逆に言うと、現行の日本のシステムでは医師に多額の料金を支払ってもPayできるということです。

もう一つの診療看護師の利点

看護師の経験があるので、看護師の気持ちが分かるということです。

診療看護師になると、看護師の気持ちを忘れてしまう人がいますが、医師にこうしてほしかったという過去の思い出は、改善できるような介入が可能です。

例えば、血糖値が安定している人の血糖値をいつまで測り続けるのか、とか尿検査とかバイタルサインの頻度とか生活動作の制限とか挙げればキリがありません。

包括指示は基本的に毎日見直し毎日改定されるべきものです。

このようにチームとしての医療の健全化を図るべきだと思っています。

医師には無い視点は、診療看護師の大きなアドバンテージといえます。

診療看護師のさらなる利点

利点1: 給与への反映

看護師としてのNext stageとしての地位を確立しつつあることがあります。

これは、手当てという点で評価されています。

手当は、認定看護師・専門看護師の場合は数千円のレベルが多く、手当がない施設も多数あります。

一方、診療看護師の場合は国立病院機構の先進的な取り組みのおかげもあり、6万円/月というのが基準点になっています。

とはいえ、夜勤をしなくなるので±0なのですが。

利点2: 長い目でみると給与への反映があれば進学の費用はPayできる

利点の1つは、金銭的に評価されているので進学する価値がゼロではない、という点です。

モチベーションの1つとして、勉強したほど実践し効果を提示できたほど、給与として還元してくれるというのがもっとも納得のいく給与の提示方法だと思います。

給与のために進学したわけではない、という人もいるでしょうが、それでは趣味の世界で終わってしまいます。

実践して給与をもらっている場合、お互いに(給与の需給関係として)納得のいく給与形態はまさにプロフェッショナルといえます。

例えば、プロスポーツ選手の場合は、年俸に合意して契約関係が締結されるのと同じ様な関係性です。

会社員や医療従事者の場合は、そもそも給与がプロスポーツ選手と比較すると低いので、このように一人ひとりの年俸に時間を割くことは非効率的かもしれません。

とはいえ、プロフェッショナルであるということは、固有名詞での個人を評価できるシステムの構築が望まれるでしょう。

仕事を評価するのは難しい

例えばわたしの場合、仕事には人一倍向き合って真摯に仕事をしていると思っています。

他の人からみると、なんでそんなに忙しいの?と思うかもしれません。

評価の方法によっては、生産性が低いということになります。

しかし与えられた仕事に関しては、時間内に終わらせています。

このように評価の方法はとても難しいということになります。

どれだけ深いアセスメントをしたとしても、実践できること(最終的にやっていること)は同じ場合があります。

担当患者(主治医的な)方式であれば、評価の測定はある程度差が出る可能性があるでしょうが、近年のチーム方式の場合アウトカムに差を見出すのは頑張って働いても差がでない可能性のほうが高いでしょう。

逆説的には、差が出ないので医師の代わりに診療看護師を用いるという戦略もあり、ということになります。

今後は専門的な診療看護師の場合は、医師と比較して「有意差なし」ではなく優越性や非劣勢といった形で提示していくことが望まれるでしょう。

給与への反映ということは反面、組織の歯車のなかでも、比較的重要な部分の歯車と認めてもらっているという評価ということです。

まとめ

医師が多ければ、診療看護師(NP)はいらない

ただし、看護の底上げや仕事の効率化など、診療看護師だからこそ介入可能な部分も大きい

そして、コスパが良い

これらの利点を持って、診療看護師を導入するかしないかは現時点では組織の考え方次第

つまり、今以上に成果を提示できれば、採用に積極的な施設も出てくるだろうし、給与への反映も見直される可能性はある

医療の未来として、現行以上にコストを割くことは難しいので、診療看護師という政策が必ずしも間違っているとは思わない

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