診療科 集中治療科

敗血症性ショックへの早期ノルアドレナリンの開始

今回の論文

Crit Care 27 , 322 (2023). https://doi.org/10.1186/s13054-023-04593-5

 

タイトル

Evidence for a personalized early start of norepinephrine in septic shock

 

はじめに

以前は敗血症イコール大量輸液,という施設が多かったかもしれません.

大量輸液を行うと,回収するのも大変です.

加えて,敗血症に加えて大量輸液を行うことで,グリコカリックスの破綻などをきたすと,輸液をしても水分が漏れてしまい,浮腫が顕著に出てしまいます.

 

浮腫があるということは,臓器の浮腫も懸念されるわけで,臓器うっ血は臓器障害を当然来たします.

そのため,利尿戦略が取られることが多いのですが,利尿したいが血管の中のVolumeは少ないということがしばし起こります.

2週間を超えても改善しない場合は,慢性的な炎症としてPICSと呼ばれる状態になります.

こうなると,生存したとしても長期的な入院管理が必要になることが多く,身体・精神面でのPICS(こちらはICU退室後症候群)を来たします.

昨今の輸液戦略としては,入れないに越したことはない,ということです.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33961058/

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212663

 

ノルアドレナリンの作用部位

一般的には,α作用の目的で使用されます.

どの血管を占めるかと言うと,おもに動脈の収縮を狙って使用されます.

動脈の血管を占めることで,血圧が上昇します.

血圧が上昇するということは,逆に後負荷としては増加するので,こちらは心機能が悪い方には過度の昇圧は避けるべきです.

もう1つ重要なのは,静脈の血管も締めるということです.

 

Stressed volumeとUnstressed volume

一般的に動脈はStressed volume,静脈はUnstressed volumeと言われます.

血液のほとんどは静脈にプールされていますので,静脈を締めることで右心の前負荷は増加します.

前負荷が増えるということは,輸液をしているのと同じ状況になります.

輸液を行わずに輸液反応性を見るには,PLRとよばれる足上げテストを行い,その結果心拍出量が増加するかどうかを確認します.

いわゆるCS1と呼ばれる心不全の場合は,血液の量自体は正常で,後負荷の増大が問題とされています.

そのため,ニトログリセリンを使用し,静脈も動脈も拡張することで,後負荷も前負荷も軽減させることができます.

言葉としては正しくないとされていますが,Fluid re distributionで,血液の分布を正常化させるという意味です.

血液自体は同じ量で,分布を静脈に多くプールさせてあげることが,いわゆるCS1心不全の治療になります.

ノルアドレナリンの使用はその逆で,静脈を締めることで前負荷を増やすということになります.

Distributive shockには輸液は少なくてもよいのか

逆に敗血症の場合は,純粋な病態生理学的アプローチでは,Distributive shockなので,輸液は不要なはずです.

またノルアドを増量することで,心拍出量の増加が起これば,前負荷を増やしているということにもなると思います.

一方でノルアドレナリンには,少量ですがβ作用があります.

ベータ作用は,心収縮を増大させます.

ノルアドレナリンの使用は,心収縮を増大させるので,その結果心拍出量が増大する可能性もあります.

どちら(前負荷・心収縮)が効いているのかは,臨床判断になると思います.

たとえば,エコーで左室内腔がKissingしている場合は,心収縮を増大させたとしてもそれ以上心拍出量の増加は起こりづらいはずです.

そのため,輸液が一般的には行われます.

すなわち前負荷が必要になります.

前負荷の増大は,充満圧(Pmsf: mean systemic filling pressure)を増大させます.

 

コメント

今回の論文は,モネ先生という大変有名な先生書かれたものになります.

トライアル論文というよりは,考え方を提示されています.

そこで,ノルアドレナリン早期投与の条件をいくつか提示されています.

  • 拡張期血圧が低い(dBP≤40mmHg)
  • 拡張期ショックインデックス(心拍数/拡張期血圧)が高い(≥3)
  • 輸液による害を来しやすい

これらの条件に合致した場合は,早期のノルアドレナリン戦略が望ましと言われています.

つまり,個別化戦略(Personalized strategy)ということです.

 

まとめ

敗血症性ショックに対して,

  • dBP≤40
  • HR/dBP≥3
  • 輸液が害になる場合

これらの状況では,早期ノルアドレナリン戦略が望ましい.

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