Contents
結論
- MOVESは、人工呼吸装着患者の抜管の評価に使う
- 抜管前は、最低限この5項目はチェック
- 意識、酸素化、換気、痰の喀出・臨床経過、ショック
はじめに
人工呼吸管理は、難しいようで簡単です。
でも、簡単だと思っていたら難しくなります。
要は、最初は分かったつもりでもそのうち、学び続けるうちに「何も分かっていなかった」ということが分かればOKです。
医療に限らず、全ての人に必要なことは「無知の知」です。
自分が知らないことを知る、ということは極めて重要です。
無知の知を知ることで、謙虚さが生まれます。
謙虚さは、医療を生業とする人にとっては重要で、見方を変えれば他者の良い面を見ようと努力することであるのかもしれません。
今回は、人工呼吸管理の中でも大きなイベントの1つである「抜管」前の評価についてです。
抜管前には、MOVESという語呂合わせが憶えやすく臨床的にもよく使われています。
MOVESはムーブスと通称呼んでいます。
Mental status
まずは、意識の状態からです。
重度の意識障害では、酸素化が良くても気管挿管の適応です。
具体的には、GCSという意識レベルの評価スコアが8点未満の場合は、気管挿管とされています。
臨床的には、意識レベルによりクリアカットに気管挿管の適応を決めているわけではありませんが、意識が悪い人は基本的に気管挿管の適応になります。
なぜ、気管挿管の適応になるのでしょうか?
睡眠中に呼吸が止まってしまう、睡眠時無呼吸症候群という病気があります。
通称OSAと呼ばれています。
OSAはいろんな原因がありますが、単純に太りすぎて寝ている時 ニアリーイコール、意識状態が不良の時と、同じ様に呼吸が止まってしまいます。
OSAの場合は、覚醒と昏睡の間のような状態で、通常呼吸しないと苦しくてどうしようもない値まで、酸素化が不良になります。
寝ているときは息が苦しければ通常覚醒しますし、分泌物が気管に流れ込むことで咳反射も出ます。
この、いつでも覚醒できるという反射があるかどうかが、睡眠と意識障害の分かれ目で、それは気管挿管の適応とも換言可能です。
意識が悪ければ、上気道の問題がまず生じます。
呼吸をしていても、舌根沈下すると呼吸を行うことはできません。
嘔吐をしても、意識が良ければ反射的に吐物を外に吐き出すことができますが、意識が悪ければそのまま窒息する可能性があります。
通常「M6とれた」状態であれば、クリアと判断していることが多いです。
M6とは、従命が入るということです。
従命は、じゅうめいと呼びます。
パソコンで変換しても、変換できないのでジャーゴンなのだと思います。
離握手やグーチョキパーや開閉眼や挺舌などで確認します。
だだ手を握っただけでは、反射的に握っている可能性もありますので、離してくださいと言って離せば確実です。
実際は、それでも微妙なときがありますので、じゃんけんのチョキや挺舌などを組み合わせて確認していきます。
Oxygenation
Oxygenationは日本語では、酸素化になります。
低酸素血症の主な原因は4つあります。
肺胞低換気、シャント、換気血流比不均等分布、拡散障害です。
肺胞低換気は、MOVESのMが該当する場合、つまり意識が悪い状況では問題になります。
酸素化を規定する因子は、吸入気酸素濃度(FIO2)と平均気道内圧です。
FIO2はそのまま、酸素の濃度ですので人工呼吸を行っているシチュエーションでは、機械の酸素濃度を確認します。
酸素化は、P/F ratioが評価しやすいとされています。
P/FのPはPaO2でFはFiO2です。
例えば、PaO2が80でFio2が0.21の場合だと、380になります。
P/Fは300を下回ると、肺傷害とされています。
人工呼吸器の場合は、だいたいFiO2が40%以下であれば抜管に伴う酸素化はクリアできたといえます。
酸素化を規定する因子には、もう一つ平均気道内圧がありました。
概ねPEEPと認識してもらえると、初学者には良いでしょう。
血圧と同じで、上の値である収縮期と下の値である拡張期があります。
人工呼吸器の場合も同じで、上の圧と下の圧で規定されます。
この下の圧を上げることで、圧の平均値が上がります。
この圧を含めた酸素化を測定する場合は、Oxygenation indexというものを使用する場合もありますが、P/Fのほうが一般的です。
この酸素化をざっくり評価出来るのが、自発呼吸トライアルです。
通称、SBTと呼ばれています。
SBTにはいろんな方法がありますが、最も簡単なSBTは人工呼吸器の設定をPSVというプレッシャーサポートモードという自発呼吸モードにします。
このサポートを、PSV 5cmH20、下の圧であるPEEPを5cmH2Oにして、FIO2は0.4以下にします。
SBTの最中に、酸素化が悪くなるようでしたら、その原因を探ります。
SBT失敗の原因に、単純に酸素化だけの要因では無いかもしれませんが、酸素化も同時に評価できます。
抜管したら、酸素マスクなどの酸素投与デバイスを用いることになります。
例えば、酸素5LマスクだとFIO2は0.4くらいになるはずです。
SBTの際のP/Fが300を超えていれば、酸素化はクリアしているはずです。
P/F>300というのは、絶対条件ではなくあくまでも、指標の1つです。
ここでの評価に必要なのは、酸素投与だけで酸素化が保持できるかどうかを評価します。
そのため、P/F>300あれば酸素化に関しては、概ね大丈夫といえるでしょう。
Ventilation
Ventilationは換気です。
換気は、血液ガスのCO2で測定されます。
動脈ラインが挿入されていれば容易に測定できますが、静脈血でもある程度は代用できるとされています。
人工呼吸中の場合は、ETCO2というものが測定可能です。
血液ガスでのCO2とETCO2の乖離がどの程度あるのかを確認して、指標にすると良いでしょう。
ちなみに、ETCO2の波形は4つの相で構成されますが、第3相が右肩上がりの場合は呼気障害になりますので、ETCO2の値は正確な値ではありません。
CO2も、酸素化と同じくSBTで評価します。
自分の力だけで呼吸が出来るかどうかを判断することになります。
例えば、呼吸する筋力が弱っている場合は、SBTを行うとCO2が貯留することになります。
PSV5cmH2Oというのは、通常の呼吸よりも多少抵抗を増やしています。
チューブの太さにもよりますが、概ね7cmH2OのPSVで呼吸の抵抗は相殺されるようです。
PSV5cmH2Oに耐えられるということは、呼吸をする筋力に問題ないということがわかります。
相互作用なので、呼吸筋力に問題はなくても、上気道の問題でCO2が貯留することもありますが、その場合は著明な吸気努力が生じますので通常気づきます。
低換気は、呼吸中枢や呼吸筋力の問題がほとんどです。
原因は肺以外の場合が多いので、そのような場合は長期人工呼吸管理が検討されます。
Expected course/ expectration
MOVESのEは2つあります。
まず、Expected courseですが、これは臨床的に人工呼吸が必要なシチュエーションである場合のことです。
呼吸や循環も安定していて、意識レベルも良好の場合、通常抜管可能と判断できます。
例えば、明日再手術を控えている場合は気管挿管のまま手術を迎えるという選択肢もあります。
大まかには、このような臨床的に人工呼吸が必要な状況のことです。
手術後に例えば5日間安静が必要な場合、などもここのEに入ります。
もう一つのEは、Expectrationです。
これは、喀痰の喀出が十分にあるかということです。
特に高齢者など、フレイル状態の場合は、人工呼吸からの離脱はできたけど、痰が出せなくなり再挿管ということもありえます。
そのため、抜管前には咳の評価や分泌物の量などをアセスメントします。
客観的に十分な咳反射がある場合は、通常大丈夫です。
とはいえ、十分とはどのくらいかという疑問も生じます。
大まかな指標としては、呼気時のPeak flowg60Lを超えると痰の喀出で困ることは少ないという指標もあります。
あくまでも絶対的な指標ではなく、指標の一部として使います。
なんとなく咳も弱いし、痰も多いという状況では、利尿を行って肺を軽くしたりなどの、総合的アセスメントを行い抜管を行います。
その結果、痰の喀出がやっぱりできないということもありますが、その場合は再挿管して気管切開となることが多いかもしれません。
ここでのポイントは、人工呼吸と気管挿管は必ずしも1対1対応では無いということです。
気道プロテクションが目的であれば、気管挿管が主な目的です。
けれども、肺機能を含めた全身状態が悪い場合は、人工呼吸を行うために気管挿管が必要になります。
Eで評価すべきは、人工呼吸の必要性というよりは人工気道の必要性(気道プロテクション)の評価が主になります。
Shock
最後、MOVESのSはShockのことです。
新人看護師さんなどは以外に知らないかもしれませんが、呼吸が悪くなくてもショックの場合は一般的に気管挿管ならびに人工呼吸の適応になります。
ショックとは、酸素需給バランスの破綻によるものです。
つまり、酸素消費量が多ければショックは遷延します。
酸素消費量を少なくするには、鎮静が必要になります。
鎮静を行うということは、一部の鎮静を除いて気管挿管と人工呼吸管理が必要になります。
人工呼吸の止め時は、人工呼吸が適応となった状況が解決しているということです。
この場合は、ショックのSと書いていますが、もちろんショック以外の原疾患の改善という事です。
ショックに限っては、乳酸上昇がないとか、血圧を上げる薬を使っていない、ボーラスでの輸液が不要などです。
まとめ
- 抜管前は、MOVESを確認することで網羅的にチェックできる
- MOVESとは、意識、酸素化、換気、痰の喀出・臨床経過、ショックの5つ