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結論
敗血症において,気管挿管が早いほうが良いのかはわかりません.
ただ,気管挿管は必要性が生じた際に行うものであり,一律に敗血症や敗血症性ショックだからといって行うものではありません.
今回の論文
https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-024-05247-w
敗血症の患者さんを夜中前に挿管するか,もしくはその時が来てから挿管するかと言ったものです.
↓こちらの論文に対するコメントです.
https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-024-05064-1
この論文では,敗血症の症例を傾向スコアマッチングを行っています.
その結果,早期に人工呼吸を行ったほうが,院内 mortalityが低く,ICU滞在が短く,気管切開が少ない,というものでした.
ちなみに早期群が36.3%,遅延群が46.4%でした.
敗血症ガイドライン
敗血症で最も有名なSSCGでは蘇生のことは書かれていました.
が,気管挿管のタイミングについてはたぶん書かれていないように思われました.
日本版敗血症ガイドラインでは,小児については言及
" 初期蘇生に不応と判断された時点 "と書かれています.
基本的には成人も同様の判断で良いように思います.
気管挿管の適応についても,表に記載されています.
大きく,気道・ガス交換・酸素供給量の観点から記載されています.
敗血症国際ガイドライン(SSCG2021)
https://www.sccm.org/SCCM/media/SCCM/PDFs/Surviving-Sepsis-Campaign-2021-Japanese-Translation.pdf
日本版敗血症ガイドライン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/31/Supplement/31_2400001/_pdf/-char/ja
早期挿管の問題点
人工呼吸器関連の合併症発生率が増加します.
アタリマエのことですが,人工呼吸器を装着しなければ,人工呼吸器関連肺炎(VAP)は起こりません.
ただ,こちらもアタリマエですが,院内肺炎(HAP)や誤嚥性肺炎を来す可能性はあります.
すなわち,肺炎という観点からは(どのような意思決定も同じですが)リスクベネフィットを考慮し,気管挿管の適応を判断するしか無いように思います.
ただ,気管挿管は肺炎の観点から議論されていはいません.
MOVES
一般的な語呂合わせとして使われています.
Mental status(意識の状態)
Oxygenation(酸素化)
Ventilation(換気能力)
Expected course/ Expectoration(予想される経過・痰の喀出・気道の問題)
Shock(ショックや気管挿管に至った原疾患)
これらのMOVESが改善していれば,逆に言えばMOVESに該当しなければ気管挿管の必要性は乏しいと言えます.
敗血症の場合は,ショックが最も大きい気管挿管の要素
ショックになれば,多臓器障害の表現型として意識障害,酸素化障害,気道の問題などを生じます.
以前は敗血症は,感染症に伴う全身性炎症反応症候群と定義されていました.
これは,今でも認識としては同じです.
敗血症に伴い全身性の炎症をきたします.
その結果,多臓器に障害を来すものが,敗血症です.
そのため,多臓器に障害を来す前や臓器障害を来していた場合でも,早期に介入する事が重要です.
全身性に炎症反応をきたした場合は,臓器が傷害をより増悪しやすい状態となっています.
肺傷害はその典型で,敗血症でアシドーシスだからといって,過大な自発呼吸を容認していては肺傷害の顕在化と悪化を辿ることとなります.
これらの臓器保護やショックへの介入の観点から,気管挿管や鎮静が必要になります.
Early goal directed therapyとの比較
これは,先に書いたように初期蘇生に不応なケースという回答になると思っています.
先の研究では,敗血症で気管挿管が遅くなるケースというのはあまり,臨床的にはピンときません.
敗血症の場合は,救急外来にきた時点でそれなりの介入が必要になります.
2001年には一世を風靡した早期目標思考型治療(EGDT)が全盛の時代でした.
EGDTではGoalを6時間以内設定としていました.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa010307
つまり,6時間程度あれば敗血症の場合はある程度安定するのが通常のコースになります.
初期蘇生後に崩れる場合は,初期蘇生がうまく行っていない,ドレナージやデブリードメントが不足している,新たに敗血症性脳症や心筋症などを合併した,全身性炎症反応症候群に伴い多臓器の障害が顕在化した,などが想起されます.
死亡率が46%と高値であることからも,そもそもの標準治療に問題があった可能性もあるかもしれません.
先のEGDTの研究では,MortalityはEGDT群で30%,通常群で46%でした.
すなわち,Kimらの研究結果は傾向スコアマッチングを用いた研究とはいえ,死亡率が現代においては高すぎると言えます.
そもそも,Reverseらの研究も通常群の死亡率が高すぎるのは問題となっていました.
それから20年以上経過した現代でも同じ数値というのは,違和感があります.
Kimらの研究から言えること
当該リンクより
敗血症であれば,適応があり迷ったら挿管するというのが日常的に行っているプラクティスだと思います.
そのような観点からは,早期に挿管するというのは妥当な選択といえます.
気管挿管は夜間帯を意識しているのか
コメントから興味深いのは,夜に向けて挿管を行うというニュアンスもあるように思いました.
これは,個人的な組織のプラクティスからもとても興味深く感じました.
わたしが当初勤務していた施設では,昼夜関係なく抜管も行っていました.
それが当然の環境で育ったものとしては,現在の施設は夜は基本的には抜管などリスクのある処置は行わないという認識なので,ギャップを感じています.
とはいえ,これはこれで安全を考慮すると,当然なのかもしれません.
ただ,安全をどのように捉えるか次第だと思います.
気管挿管の期間が延長した場合,人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生率は上昇し,人工呼吸器関連事象(VAE)の発生率が上昇するのは自明です.
ただ夕方になったので抜管しないと選択した場合,朝一10時抜管だとしても15時間程度は人工呼吸期間が延長します.
特に,Clinical dataとして人工呼吸期間などを常日頃眺めていると,臨床的に人工呼吸期間を短縮させたり,VAPの発生率を意識したり,コストを意識したりします.
つまり,世界一の集中治療室を目指している場合は,世界のデータと常に比較することになるので,エビデンスの実践が大事になります.
繰り返しになりますが,実現可能性も重要なので,エビデンスとフィージビリティの狭間で意思決定することが必要なのだと感じました.