総合診療内科 診療科

軸性脊椎関節炎 レビュー

今回の論文

Axial Spondyloarthritis A Review

2024 JAMA Dec. 4

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2827540?guestAccessKey=45129266-25e4-4375-b7cd-40996a61fd58&utm_source=silverchair&utm_medium=email&utm_campaign=article_alert-jama&utm_content=etoc&utm_term=020425&utm_adv=000002536902

今回は軸性脊椎関節炎についてのレビューになります.

日本の救急外来でお多い疾患の上位である腰痛ですが,病歴や身体所見を丁寧に聴取することで想起されるケースがあるかもしれません.

 

軸性脊椎関節炎

仙腸関節,脊椎関節,末梢関節に起こる免疫介在性の炎症性疾患です.

米国の成人の約1%の罹患率になります.

45歳未満で緩徐に発症し,あさのこわばり,運動で改善,安静で改善しない,などが特徴的な症状です.

左右非対称で膝などの大関節に起こす関節炎,腱付着部炎,ぶどう膜炎などの炎症性眼疾患,乾癬に加え炎症性腸疾患(IBD)を有する場合もあります.

病因としては,遺伝性の要素,腸内細菌の以上,仙腸関節と脊椎夫役部への免疫細胞浸潤を伴う付着部炎症が関与している可能性が示唆されています.

診断基準として確立されたものはありません.

診断は症状発症から6-8年遅れることが多いとされています.

 

 

病歴

炎症性腰痛(感度74-81%,特異度25-44%)

白血球抗原B27陽性(感度50$,特異度90%)

CRPの上昇(感度35%,特異度91%)

単純X線での仙腸関節炎(感度66%,特異度68%)

MRI(感度78%,特異度88%)

 

 

治療法

理学療法とNSAIDsが第一選択

NSAIDsのみで症状を完全にコントロールできる場合は,25%未満です.

患者の約75%は,症状を敬遠し,構造的損傷を防ぎ,生活の質を改善するために,生物学的製剤(抗TNF製剤,抗IL-17製剤),標的合成疾患修飾抗リウマチ薬(JAK阻害薬)

臨床試験では,抗TNF製剤に58-64%で,プラセボと比較し痛み・機能・炎症指標が有意に改善しました.

JAK阻害薬でも同様の結果が得られました.

 

軸性脊椎関節炎は,仙腸関節や脊椎を含む軸骨格の炎症を特徴とした多系統炎症性疾患です.

軸性脊椎関節炎は,皮膚・眼・消化管・末梢関節や臓器にも影響を及ぼす可能性があります.

X線画像による診断(強直性脊椎炎; AS)と非X線画像による疾患があります.

両者とも類似しており,単純X線で明らかな仙腸関節炎(硬化・びらん・仙腸関節の狭窄・強直)が認められるかの違いがあります.

 

臨床的に脊椎関節炎の可能性を高める所見

炎症性腰痛

炎症性関節炎(典型的には小関節炎で4関節以下,大関節が侵され非対称性,上肢より下肢に多い)

かかと付着部炎(アキレス腱,足底筋膜が踵骨に付着する部位の炎症)

指炎(ソーセージ指)

急性前ぶどう膜炎(虹彩炎)

乾癬

炎症性腸疾患(IBD)

ヒト白血球抗原B27陽性

CRPの上昇

脊椎関節炎(軸性脊椎関節炎,感染性脊椎炎,炎症性腸疾患関連関節炎,または反応性関節炎)の家族歴

NSAIDsによる良好な反応

 

疫学

男女比3:1で,男性に多い

MRIを用いた早期診断では,男女比はおなじになる.

米国では2006年から2014年の間に有病率が増加し,これは臨床医による認識が高まったものと推定されています.

軸性脊椎関節炎の症状発言から診断までは,システマティックレビューでは6.7年とされています.

診断の遅れは治療の遅れに繋がります.

治療の遅れは脊椎の構造的損傷に繋がる可能性があり,進行後に脊椎固定術を受けると可動域制限の結果,身体機能が低下しQOLは低下します.

 

 

臨床症状

炎症性腰痛と呼ばれる症状を呈することが多いです.

この用語は客観的な炎症の腰痛に用いられており,誤った呼称です.

しかしながら,炎症を伴う腰痛の場合は,免疫介在性腰痛の可能性が考慮されるべきです.

朝のこわばりが長時間(30分以上)続く

運動で改善するが,安静で改善しないという一般的な腰痛とは異なる症状を呈します.

炎症性腰痛の存在だけでは,軸性脊椎関節炎を診断するには不十分とされています(感度74-81%,特異度25-44%).

 

軸性脊椎関節炎の約20%は,末梢関節炎,付着部炎,ぶどう膜炎など軸骨格に加え,関節や臓器に影響を及ぼす症状を有します.

炎症性関節炎は通常,膝や肩などの大関節に非対称性にきたします(4関節未満).

主に下肢(20-40%)に生じ,付着部炎は30-40%,指炎は5-7%とされています.

軸性脊椎関節炎の最大45%に急性前部ぶどう膜炎を生じます.

ぶどう膜炎は眼痛・紅斑・かすみ目・羞明を呈する事が多いとされており,飛蚊症や視力障害を伴うこともあります.

感染性関節炎と炎症性腸疾患関連関節炎の両方で,仙腸関節炎または脊椎炎が観察される可能性があります.

これらは,疾患が軸性脊椎関節炎で乾癬・IBD合併なのか,乾癬・IBDに軸性脊椎関節炎が合併しているのか識別は困難なケースが多いとされています.

 

 

診断

軸性脊椎関節炎の診断基準はありません.

ちなみに分類基準は,研究が主な目的とされています.

すなわち,適切なタイミングでリウマチ内科医に紹介・相談する必要があります.

炎症性腰痛が入口になり,先に書いた症状があれば疑い症例として精査を進めていくと思われます.

HLA-B27陽性患者の27-30%に軸性関節炎の家族歴があるため,家族歴の聴取も重要です.

 

 

軸性脊椎関節炎の診断をいつ考慮すべきか

45再未満で始まった慢性腰痛で,炎症性腰痛(活動で改善,休息で改善しない,朝のこわばりが長く続き,NSAIDsで改善する緩徐発症の痛み),末梢関節炎,付着部炎,指炎,乾癬,ぶどう膜炎,炎症性腸疾患などから診断を考慮されるべきとされています.

 

 

軸性脊椎関節炎の第一選択薬

選択的および非選択性シクロオキシゲナーゼ阻害薬などのNSAIDsになります.

理学療法は,身体機能・可動域・可動性を維持するのに役立ちます.

NSAIDsの効果が乏しい場合は,オプションとして抗TNF阻害薬,IL-17阻害薬,JAC阻害薬などの生物学的および標的合成修飾抗リウマチ薬が含まれます.

 

 

軸性脊椎関節炎の評価を受ける患者さんで,どのような初期診断検査を実施すべきか

CRPとヒト白血球抗原B27の検査,仙腸関節のX線検査を行うべきとされています.

先にも書いたように,明確な診断基準が無いため最終的にはリウマチ内科医に紹介する必要があります.

 

 

除外すべき疾患

びまん性特発性骨増殖症,回腸凝血性骨炎,変性脊椎疾患などの鑑別疾患における病態を除外するため,病歴,身体検査,診療検査などの対象を絞った検査を実施する必要があります.

身体検査では,脊椎の圧痛と可動域の評価を含める必要があります.

脊椎の柔軟性と可動性を評価する手技は,軸性脊椎関節炎の診断において感度68-79%,特異度36-49%とされています.

末梢関節,付着部,指を検査し,圧痛・晴れ・熱感などの炎症所見を確認します.

境界明瞭な鱗状の皮膚発疹(乾癬)や眼の紅斑,疼痛,羞明(ぶどう膜炎)などの筋骨格外所見に注意する必要があります.

ぶどう膜炎が疑われる症例の場合は,眼科医に緊急紹介が必要です.

細隙灯顕微鏡検査で評価の必要があります.

 

HLA-B27(感度50%,特異度90%)は,米国人の6%が陽性で,そのうち6%が軸性脊椎関節炎

CRP(軸性脊椎関節炎の30%で上昇)(感度35%,特異度91%)は,肥満,感染症,関節リウマチ,結晶誘発性関節炎など多くの免疫介在性疾患など多彩な疾患で上昇するので,単独では役に立ちません.

 

 

画像検査

重要な役割を果たします

単純X線で明らかな仙腸関節炎が存在します.

X線での仙腸関節炎は,仙腸関節の効果,びらん,狭窄・拡張,または癒合の組み合わせで定義されます.

仙腸関節炎がX線画像に現れるまでには,再度10年かかる事があり,X線が陰性だからといって除外ができるわけではありません.

単純X線での仙腸関節炎の所見は,読影者間一致率はκ0.36‐0.55と低い結果とされています.

X線ではっきりしない場合は,MRI検査を行います.

悪性腫瘍や乾癬の疑いがなければ通常造影検査は不要です.

骨髄浮腫は炎症過程を示唆しますが,健康なランナーなどの運動選手(23%)や非特異的腰痛(23%)にもみられるため,この所見だけでの診断は困難です.

MRIが困難な場合は,仙腸関節CTでの骨びらんなどの構造的破壊など所見が手がかりとなる可能性があります.

 

 

薬剤治療の第一選択はNSAIDs

NSAIDs単独で症状の完全なコントロールができたのは,842人を対象とした調査で19.1%のみでした.

ジクロフェナクの継続投与が画像所見に与える影響は,近年ではなさそうです.

 

 

理学療法

脊椎固定術が進んだ患者を除き,軸性脊椎炎のすべての患者に理学療法を推奨すべきとされています(ACR/EULARガイドライン).

理学療法は,筋肉を強化し良好な可動域と適切な姿勢を維持するために重要です.

 

 

ステロイドは推奨されない

ステロイドや従来の抗リウマチ薬(スルファサラジン,メトトレキサート)の使用は推奨されません

併発するぶどう膜炎や末梢関節炎などへの治療を目的として使用されるても,軸性脊椎炎の治療には使用は推奨されません.

軸性脊椎関節炎の場合は,先に書いたようにNSAIDsで効果が乏しい場合は,TNF阻害薬,抗IK-17,JAK阻害薬などが使用されます.

 

 

まとめ

腰痛の場合,通常はRed flagを確認する.

Red flagの1つに,安静時でも痛みがあるというものがあり,軸性脊椎関節炎は安静で改善せず入り口の1つとして病歴を聴取されるべきです.

また,症状発言から診断までは数年かかるケースも稀ではなく,明確な診断基準も無いことから診断が難しい部類に入ると思います.

まずは基本通り病歴の聴取として,基本的な項目を聴取すべきです.

基本的な聴取項目の中には,家族歴という項目があるので血縁関係にある方の軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎など)の診断・治療歴は聴取されるべき.

加えて通常の腰痛は運動で悪化しますが,運動で改善し,あさの30分を超える比較的長時間のこわばりも特徴的です.

鑑別診断に含まれるようであれば,脊椎関節の診察や指炎,ソーセージ指,乾癬などを診察します.

乾癬の場合は,髪のはえ際を超えて,関節の伸側に鱗状の所見を呈し,かつ指爪は一見白癬様の所見になるので,このあたりも合わせて聴取すべきでしょう.

他に眼の症状は緊急性を要する可能性もあり診断への情報を集めるという観点に加え,QOLの観点からもぶどう膜炎などの確認は眼科へ見ていただくべきでしょう.

ぶどう膜炎はベーチェットやサルコイドーシスなど,多彩な内科疾患が隠れている可能性があるので,ぶどう膜炎をみつけたら逆にこれらの病気が無いか病歴を聴取すべき.

血液検査は補足的なもので,CRP上昇は有用な所見である一方,診断特異性(Low yeald)に乏しい所見になります.

炎症がある,ということしかわかりませんので,身体所見や病歴に加え,画像所見と併せて評価されるべきでしょう.

画像検査も疑う場合は,読影一致率の低さからも示唆されるように,読影依頼要旨にきちんと記載すべきでしょう.

このあたりのCRPの使い方は肺炎でも同じで,CRPを指標に治療するわけではなく(そのような研究もありますが)あくまでも臓器特異的所見の改善が指標になります.

治療反応性と診断的治療という観点からは,NSAIDsへの反応性が良好というものがありますので,反応性の確認を行うのも良いと思われます.

NSAIDsの場合は,特に高齢者の場合は長期使用はしづらく,若年者でも胃十二指腸瘻のリスクとなるので注意が必要な薬剤であるという点を常に意識して使用されるべき薬(市販薬)でしょう.

MSADsへの効果が乏しい場合は,この先はリウマチ内科医に診断を含め紹介になると思われます.

抗TNF,IL-17,JAK阻害薬については,一般的には診断してから使う薬剤なので,こちらもリウマチ内科が処方するような薬剤になると思われます.

 

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