総合診療内科 診療科 集中治療科

血球貪食性リンパ組織球症(HLH)

結論

 

今回の論文

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra2314005

 

はじめに

血球貪食性リンパ組織球症(HLH)は、顕著な炎症を特徴とする重篤な症候群です。

適切治療につなげるためにも、適切な診断が重要です。

HLHは原発性(遺伝性、メンデル遺伝性)型と続発性(後天性、非メンデル型)に分類されます。

最も一般的な、家族性HLHを含む原発性HLHは、通常子ども、主に乳児に影響を及ぼします。

続発性型は成人に多く見られます。

 

 

二次性HLHの最も一般的な誘引は以下の3つ

  • 感染症
  • がん
  • 自己免疫疾患

自己免疫誘引によるHLHは、マクロファージ活性化症候群(MAS‐HLH)と呼ばれます。

家族性HLHは現代医学による成功例とされています。

致命的な病気でしたが、分子レベルで解明され治療が可能となっています。

HLHは過剰炎症の典型であり、血液腫瘍学、感染症、小児科、リウマチ学、集中治療、神経学、消化器学、遺伝学、免疫学などの多くの医師が認識すべき、生命を脅かす顕著な炎症状態です。

 

歴史

1939年にスコットとロブ・スミスは,発熱・衰弱・血球減少・肝脾腫および活発な貪食を特徴とする成人の致命的な疾患について記述しました.

1999年に,家族性HLHに関連する遺伝子(PRF1)が報告され大きな進歩となりました.

現在では4つの特定の遺伝子(PRF1,UNX13D,STX11,STXBP2)により引き起こされることがわかっています.

 

血球貪食性リンパ組織球症(HLH)

  • HLHは多臓器不全や死亡を引き起こす,過剰炎症の症候群であり,迅速かつ適切な治療が不可欠
  • 原発性(メンデル性)HLHは,主に小児にみられる免疫ダウンレギュレーションの遺伝性欠損症
  • 二次性(非メンデル性)HLHは,主に成人に見られる後天性疾患であり,感染症・がん・または自己免疫疾患により引き起こされることが多い
  • HLH症候群の全てで,根本的な誘引(誘引群)の探索と治療が極めて重要
  • 成人で誘引を見つけるのが難しい場合は,がんが誘引となっていることが多い
  • HLHは治療可能な病気ですが,診断が不十分であり認識を高めることで救命できるケースは存在する
  • 適切な経験的治療に反応しない敗血症のような重篤な疾患の患者では,HLHを考慮しフェリチンをチェックする

 

疫学

HLHの有病率は国により異なります.

スウェーデンの小児では,原発性HLHの発生率は出生児50,000人あたり約1例と推定されています.

重症複合免疫不全症の発生率は出生児38,500人に1例です.

これら2つの疾患は,おそらく人における最も一般的な遺伝子で急速な致命的免疫不全症です.

家族性HLHは常染色体劣性症候群であり,血縁関係が一般的である地域で最も多く発生します.

発症時の平均年齢は3−6ヶ月です.

 

臨床及び検査の特徴

 

 

家族性HLH

発熱を伴う小児(多くは乳児)における血球減少症および肝脾腫を伴う敗血症様疾患です.

血小板減少,貧血に加え頻度は低いものの好中球減少症がよく見られます.

血球貪食性は常に存在するわけではなく,特に病気の初期段階では存在せず,また血球貪食症はHLHに特異的なものでもありません.

 

家族性HLHでは,肝脾腫およびASTとフェリチンの上昇がほぼ常に見られます.

主に直接ビリルビン(抱合型ビリルビン)の上昇,γGTP,LDHの上昇がよく見られます.

診断時には,患者の約3分の1に発作,意識低下,髄膜炎兆候など,重篤な神経学的変化がみられます.

運動失調や精神運動遅滞が現れる場合もあります.

最も一般的なのは,運動失調または歩行障害と発作で,特に年長児や青年では家族性HLHの最初の兆候となる場合があります.

罹患した小児の約半数で,脳脊髄液中のリンパ球数または,タンパク質含有量が中程度に増加しています.

MRIでは,びまん性で多巣性の白質病異変と小脳障害がよくみられます.

まれにHLHに伴い,可逆性の後頭葉白質脳症(PRES)がみられます.

 

その他の所見として,点状出血,紫斑,一過性の斑状丘疹,リンパ節腫大など.

アルブミンとナトリウム濃度が低下し,トリグリセリド濃度が上昇することがあります.

IL2-Rは顕著に上昇することが多く,フェリチン濃度とともにHLH疾患活動性を監視するバイオマーカーとして使用されています.

 

二次性HLH

一次性と二次性は類似しており,厳密に区別することが困難なケースが多いです.

一次性は乳児に多く,二次性は年長児と成人に多く見られます.

二次性HLHは敗血症治療に反応しない,敗血症様症状を伴う重篤な疾患として現れることが多いです.

この形態の疾患は,他の炎症性疾患と特徴が重複するために,認識が難しい場合があります.

 

HLHの重症成人661人を対象とした調査では,感染症が最も一般的な誘因(50%)でした.

次いでがん(28%)自己免疫疾患(12%)と続きます.

最も一般的な感染誘因は,EBウイルス(25%)細菌(20%)サイトメガロウイルス(7%)でした.

悪性誘因はリンパ腫(76%),次いで白血病(8%)でした.

自己免疫誘因では,全身性エリテマトーデス成人発症スチル病が最も一般的でした.

小児では感染関連HLHが最も一般的で,次いで自己免疫HLHが続きます.

これは,全身性若年性特発性関節炎の小児(このような小児の10%が罹患)および,全身性エリテマトーデスの小児に最も多く見られます.

悪性腫瘍関連HLHは小児では,あまり一般的ではありません.

 

神経症状は多様で,家族性HLHよりも二次性HLHで発生する頻度は低いです.

大規模研究では,二次性HLH患者の10−25%に影響を及ぼしています.

これらの患者の半数はMRIで異常所見が見られます.

 

病態生理学

 

 

原発性HLHの遺伝的欠損

原発性(メンデル遺伝性)HLHを引き起こす遺伝子変異の頻度は,民族グループにより異なります.

PRF1,UNC13D,STXBP2の変異が最も一般的とされています.

ほとんどの変異は重篤な疾患と早期発見に関連していますが,一部の変異はより遅い発症でより軽度の表現性を引き起こす可能性があります.

 

家族性HLHを引き起こすリンパ球細胞傷害性の欠損

家族性HLHおよびGS2では,免疫応答の開始は適切ですが,問題は応答を終了できないことにあります.

その結果,炎症細胞の大規模な過剰活性化が起こり,インターフェロンγ,インターロイキン4β,インターロイキン6,インターロイキン10,インターロイキン18および,腫瘍壊死因子などの炎症性サイトカインのレベルが著しく上昇します.

インターフェロンγは,原発性HLHと二次性HLHの療法で極めて重要な役割を果たしています.

インターフェロンγの代理マーカーとして機能する,インターフェロンγ誘発性ケモカインであるCXCL-9の血性レベルも上昇します.

CXCL-9を測定するアッセイは,循環インターフェロンγを検査するための好ましい手段です.

家族性HLHの兆候と症状は,高サイトカイン血症を反映しています.

最終的には過剰な免疫反応を終了させることができないため,複数の臓器で過剰炎症とそれに続く組織破壊の悪循環に陥り多臓器不全となります.

 

二次性HLHを引き起こすメカニズム

多くの場合,1つの根本的な原因が優勢ですが,病態生理学的メカニズムはまだ完全には解明されていません.

様々な要因(遺伝的欠損,背景炎症,根本的な免疫抑制,感染誘因)が組み合わさり,最終的な閾値に達し炎症が制御不能となり,激症HLHが発症します.

二次性HLHの患者は,免疫応答を集結させる能力を担うが,完全には排除しない二遺伝子変異などの遺伝子変異を持っている可能性があります.

多様な経路と原因が同じ過剰炎症の最終段階につながる可能性があり,その時点で根本的な原因を特定することが困難になる可能性があります.

 

二次性では家族性とは異なり,循環NK細胞と細胞障害性T細胞の数が減少することがよくあります.

リンパ球の細胞傷害性の質的欠損も報告されています.

EBVやインフルエンザウイルスなどの感染因子は,細胞傷害性を抑制する可能性があります.

二次性HLHの細胞傷害性欠損のほとんどは,一時的かつ可逆的とされています.

 

MAS-HLHの病態生理学的メカニズムは,他の形態のHLHのメカニズムとは部分的に異なります.

IL18の過剰産生がMAS-HLHの特徴的な病因メカニズムであると考えられています.

 

診断

HLHの治療を速やかに開始することは,死亡率と罹患率,特に神経学的合併症を減らすために不可欠です.

フェリチン値はほぼ常に上昇しています.

フェリチンは顕著に上昇していることも多く,スクリーニングの目的でモニタリングすることが推奨されています.

ただし,高フェリチン血症は他のいくつかの疾患も関連するため,成人HLHへの特異性は小児よりも低くなります.

家族性HLHの早期診断には,臨床診断基準が策定されています.

基準の大部分は簡単に測定できるものです.

HLH2004試験

  1. 発熱
  2. 脾腫
  3. 2血球減少(Hb,Plt,好中球)
  4. 高TG血症または低フィブリノーゲン血症
  5. 血球貪食症
  6. 高フェリチン血症
  7. NK細胞活性の低下または欠如
  8. SCD25レベルの上昇

上記,8つの項目のうち5つを満たす必要がありました.

最近の改訂版では,遺伝子検査とリンパ球細胞傷害性検査を2つの別々の診断戦略としています.

残りの7つの基準のうち5つ(NK細胞活性を除く)を3番目の診断戦略としています.

 

二次性HLHの診断は困難であり,この疾患を正確に診断する検査はない

よく用いられるものはHLH-2004基準です.

  1. 発熱
  2. 臓器腫大
  3. 既知の免疫抑制
  4. 血球貪食
  5. 血球減少の数
  6. フェリチン
  7. トリグリセリド
  8. フィブリノーゲン
  9. ASTのレベル

という9つの変数にもとづく成人の加重スコアリングシステムです.

HLH2004基準とHscoreはどちらも重篤な成人の診断精度が良好であると報告されています.

HLH診断の最高の予測精度は,HLH2004の4つを満たすことで(感度95%,特異度93.6%),Hsocre168(感度100%,特異度94.1%)とされています.

 

治療

過大な炎症や誘発因子への介入が主な治療とされています.

原発性HLHへの介入としては,HLH-2004プロトコルとして,エトポシド,デキサメタゾン,シクロスポリンなどがあります.

家族性,遺伝性の小児ではこれらの治療で,73-81%の移植前生存率が得られています.

全体では小児の89-92%が2ヶ月時点で生存しているか,造血幹細胞移植を受けていました.

全体的な5年生存率は50-59%でした.

最近の国際レジストリでは,エトポシドによる治療を受けると,原発性HLHの57人中,造血幹細胞移植前の生存率が91%でした

造血幹細胞移植後の生存率は95%で,3年生存率は77%でした.

エトポシドは,活性化T細胞を協力に選択的に減少させます.

そしてHLH患者の活性化リンパ球のアポトーシスを促進します.

その結果全体的に,炎症性サイトカインの先生が効率的に抑制されます.

MAS-HLHでは,HMGB1の上昇は,エトポシドで大幅に減少します.

エトポシドの副作用は,容量依存性の骨髄抑制(好中球減少)と,治療関連急性骨髄性白血病の低いリスク(<0.5%)のリスクがあります.

 

造血幹細胞移植

経験豊富な施設での,造血幹細胞移植後の生存率は,85-100%まで改善しています.

登録研究では,無症状の患者10名に造血幹細胞移植を行った結果,100%の生存率が得られています.

これは,新生児スクリーニングのメリットを強調する結果ともいえます.

 

二次性HLH

治療は基礎疾患とHLHの重症度に応じて,検討されます.

エトポシドとグルココルチコイドに加え,インターロイキン1阻害薬,インターフェロンγ阻害薬,ヤヌスキナーゼ阻害薬,免疫グロブリンなどがあります.

中等度の二次性HLHの場合は,免疫グロブリンの有無にかかわらず,グルココルチコイドで十分な場合があります.

アナキンラ(2-10mg/kg/day)の追加も検討されます.

シクロスポリンは,MAS-HLHを除き成人にはあまり使用されません.

重症,治療抵抗性の場合は,特に中枢神経障害,切迫した臓器障害などを伴う場合,週1回のエトポシド使用は推奨されることが多いとされています.

治療期間は,治療反応性を評価しながら,毎週決定すべきとされています.

 

感染症関連HLH

日本の研究では,重症EBVの死亡リスクは,エトポシドとグルココルチコイドを用いたHLH標的療法により大幅に減少しました.

慢性活動性EBウイルス感染症は,臓器不全,高サイトカイン血症,HLHおよび明らかなリンパ腫または白血病化を特徴とする進行性で致命的な疾患で,同種造血幹細胞移植が推奨されています.

 

二次性HLHは,重症デング熱の約10%で発症し,死亡率も高いとされています.

特定の症例では,HLHを標的とした治療を検討する価値があるとされています.

新生児単純ヘルペスウイルス,エンテロウイルス,ヒト免疫不全ウイルスによって引き起こされるウイルス関連HLHでは,広範囲にわたるHLHを標的とした治療が必要になることは稀とされています.

重症インフルエンザ関連HLHの治療は十分に研究されていません.

重症コロナウイルス感染症では,全身性HLHが誘発されることは稀とされています.

結核,リーシュマニア症,リケッチアなどの細胞内寄生菌によるHLHは,通常特定の抗菌薬治療にへの反応性は通常良好です.

そのため,HLH-94,HLH-2004プロトコルでの治療は不要であり,避けるべきとされています.

 

悪性腫瘍関連HLH

がん関連HLHには2種類あります.

がんの診断や再発時の悪性腫瘍誘発性HLHと,化学療法HLHの2種類です.

化学療法関連のものは,主に感染症が誘引となることが多いとされています.

一方で,化学療法後数年経過してから発症することもあります.

悪性腫瘍関連HLHは二次性HLHで最も予後不良で,2年生存率は20-30%です.

これは,基礎にあるがん関連の生存率の低さが影響しているとされています.

若年男性に最も多く,血液がんの若年男性の約2.5%とされています.

悪性腫瘍関連HLHのよる臓器障害では,2段階の治療アプローチがコンセンサスレビューで提唱されています.

中等度のエトポシド,グルココルチコイドに加え免疫グロブリンを使用し,サイトカインストームとT細胞増殖を標的としています.

臓器障害が十分に改善後には,腫瘍性疾患を標的とします,アナキンラなどその他のHLH標的免疫調整剤も有用である可能性ががあります.

 

マクロファージ活性化症候群関連HLH

マクロファージ活性化症候群(MAS)は,リウマチ性疾患やその他自己免疫疾患の生命を脅かす炎症性合併症です.

HLHと多くの臨床的特徴や検査所見を共有するため,二次性HLHに分類されています.

 

全身性若年性特発性関節炎の患者では,発熱,フェリチン>684に加え,以下のうち2つの存在でMAS-HLHと定義されます.

  1. 血小板18.1万以下
  2. AST48以上
  3. 空腹時トリグリセリド156以上
  4. フィブリノーゲン3.6g/L以下
  5. MAS-HLHでは,他の型のHLHよりもフィブリノーゲンと血小板が多い傾向にあります.

MAS-HLHに関連する死亡率は,小児で5-10%,成人で10-15%です.

中枢神経障害では,不可逆的な神経損傷に繋がる可能性があります.

一般的な第一選択薬は,高用量グルココルチコイド療法で,たとえばメチルプレドニゾロン30mg/kg(max1g)を1日1回を3-5日投与し漸減します.

シクロスポリン2-7mg/kg/day(トラフ100-150mcg/L)投与も可能です.

 

移植関連HLHと免疫フェクター細胞関連HLH

二次性HLHの他の原因としては,移植特に腎移植と同種造血幹細胞移植,キメラ抗原受容体(CAR)T細胞,二重特異性細胞エンゲージャ‐,チェックポイント阻害薬などの新しいタイプの治療法があります.

CAR-T細胞療法は,他の免疫エフェクター細胞ベースの治療と同様に,二次性HLHに類似した合併症を引き起こす可能性があります.

これはサイトカイン放出症候群とは異なり,CAR-T細胞注入後に通常より遅延して発生します.

 

 

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