総合診療内科 診療科

多剤併用時には抗菌薬をどのように変更するのか

結論

  • 1対1対応の感染症であれば、培養結果に応じた抗菌薬を規定された期間使う
  • 2剤以上使っている場合で、特に重症患者さんの場合は、1剤づつ変更する

感染症の原則

感染症には、良くなるか悪くなるかのどちらかしかない、という格言があります。

これは、治療すれば良くなるし、治療しなければ悪くなるという、一見当たり前の原則です。

この当たり前の原則ですが、時に忘れがちになります。

例えば、抗菌薬治療をしているのに良くも悪くもならない、という状況などです。

こんなときは、感染症以外の原因を考えてみることが必要です。

そしてもう一つ重要なことは、感染症の治療は抗菌薬ではなく、感染源のコントロールであるということです。

抗菌薬ではなく、というのは大げさな言い方で半分ウソですが、半分ほんとです。

感染源のコントロールができれば、抗菌薬は不要であるシチュエーションもそれなりに存在します。

抗菌薬の投与期間

抗菌薬には、投与期間が設定されています。

いちばん有名なのは、肺炎の場合は5-7日などです。

他には、尿路感染症の場合だと14日間ですが、最近は短くなってきています。

抗菌薬を使う際には、培養検査を提出します。

そして、培養結果に応じて抗菌薬でカバー可能な範囲が少ない抗菌薬に変更していきます。

これを、De-escalationとかTargeted therapyとかって呼んでいます。

感染症は通常1対1対応です

例えば、肺炎球菌による肺炎の場合は、肺炎球菌に活性を持つ抗菌薬を使用します。

具体的には、ペニシリンGです。

ところが、重症患者さんの場合は複合菌による感染症も生じます。

肺炎の患者さんに、エンピリカルに、メロペネムとバンコマイシンという選択をしたとします。

数日後、肺炎の原因菌がMRSAとEnterobacterが検出されたとします。

この場合は、どちらもカバーする必要がありますので、MRSAはバンコマイシンでカバーして、EnterobacterはAmpCなどの感受性結果にもよりますが、セフェピムに変更できるかもしれません。

懸念事項としては、セフェピムは嫌気性菌の活性が弱いので、嫌気性菌のカバーは外しているということになります。

その際に変更すべきは、抗菌薬は1剤づつ変更していくということです。

あまりにも患者さんが絶好調の場合は、一度に変更することもあるかもしれませんが、基本的には1剤づつの変更になります。

これは、どの抗菌薬が効いていたのかを明らかにするためです。

例えば、MRSA肺炎の可能性をそれほど疑っていない場合だと、バンコマイシンは腎傷害のリスクや血中濃度測定など、煩雑になりますのでできれば切りたい薬の代表です。

その場合は、バンコマイシンからOFFにしていくという戦略もありだと思います。

痰からMRSAが検出されたとしても、MRSA肺炎でない場合にはバンコマイシンを使う必要性はありません。

臨床的にはこのような感じで1つづつ、抗菌薬を変更していきます。

そして、最終的には抗菌薬を終了します。

逆に、抗菌薬を終了してから悪くなる場合はわかりやすく、治療期間が不足していた可能性や膿瘍などの可能性が示唆されます。

感染性心内膜炎の場合にありうるプレゼンテーションです。

近医で内服抗菌薬を処方され服用しているうちは熱が下がるけど、しばらくするとまた熱がでるというのを繰り返す場合は、細菌が原因である可能性が高いと言えます。

抗菌薬が効果的な不明熱は、感染症である可能性を逆説的に示しています。

多剤併用時の変更方法

このあたりは、抗菌薬に限らず日常的に行っているプラクティスと同じです。

例えば、ダイエットを行うときには、色々どんな方法が良いのか調べると思います。

そのなかで、これとこれとこれとこれを試してみよう、ということになったとします。

結果的に、ダイエットに成功したとします。

その結果、何がどのくらい効いていたのかわからなくなってしまいます。

つまり、ダイエットを行う際には、1つづつ追加していくほうが何が効いていたのかがわかりやすくなります。

例えば、糖質制限と運動とサプリメントと同時に組み合わせたら、何が効いていたのかわかりません。

この場合は、簡単にできるものから試していくのが定石ということになります。

運動と食事は、どちらが得意なのかは人それぞれです。

運動が得意な人であれば、帰りの1駅分を歩くようにしてみたというのは割と導入としては簡単です。

例えば、3週間試してみたけど1駅歩いた効果がなかったとします。

その場合には、習慣化しつつある運動に食事制限を追加して組み合わせます

その結果、減量に成功したのであれば運動と食事制限が効果的であった、という結論になります。

しかし、最初の運動の効果はわかりません。

運動の苦手な人の場合は、一度運動を止めて食事制限だけで経過をフォローする、という戦略もあります。

その結果、体重が増加傾向となる場合には、運動と食事の組み合わせこそが効果的であった、ということになります。

抗菌薬を多剤併用している場合も、基本的にはこのような考え方と同じです。

培養結果は、あくまでもその時にその場所から検出された菌に過ぎません

実は、検出されなかっただけで、悪さをしている可能性ということもあるかもしれません。

だからこそ、臨床経過での抗菌薬の効果判定は、患者さんを見ることが大事だと言えます。

ダイエットの話しに戻りますと、体重は減少したけど、シワが増えたという結果では本末転倒です。

抗菌薬も同じく、培養結果を参考に、患者さんを毎日観察し評価することが抗菌薬の効果判定に役立ちます。

まとめ

  • 抗菌薬多剤併用時は、(特に患者さんの状態が不安定な場合)基本的には1剤づつ変更する
  • 抗菌薬の効果判定を行う際に、血液データ以外の患者さんから得られた所見を大事にする
  • この考え方は、日常生活でのDecision makeと同じ

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