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骨髄増殖性疾患:診断から治療まで

 

骨髄増殖性疾患

骨髄増殖性疾患(Myeloproliferative Neoplasms: MPNs)は、造血幹細胞のクローン性異常により、一つ以上の血球系統の過剰増殖を特徴とする血液疾患群です。これらの疾患では、骨髄内で血球の産生が亢進し、末梢血中の血球数が増加します。主な骨髄増殖性疾患には以下のものがあります

  • 真性多血症(Polycythemia Vera: PV)
  • 本態性血小板血症(Essential Thrombocythemia: ET)
  • 原発性骨髄線維症(Primary Myelofibrosis: PMF)
  • 慢性骨髄性白血病(Chronic Myeloid Leukemia: CML)

 

疫学

骨髄増殖性疾患は比較的まれな疾患ですが、高齢者に多く発症します。年間発症率は10万人あたり約2〜3人程度と推定されています。性別による発症率の差はわずかですが、真性多血症は男性にやや多く、本態性血小板血症は女性にやや多い傾向があります。発症年齢は50〜70歳代が中心ですが、若年者でも発症することがあります。

 

病因・病態生理

骨髄増殖性疾患の多くは、造血幹細胞における遺伝子変異によって引き起こされます。特に重要な遺伝子変異には以下のものがあります。

 

JAK2遺伝子変異

JAK2(Janus Kinase 2)遺伝子のV617F変異は、真性多血症の約95%、本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の約50〜60%で認められます。この変異により、JAK-STAT経路の恒常的活性化が起こり、サイトカイン非依存性の細胞増殖が促進されます。

 

CALR遺伝子変異

カルレティキュリン(CALR)遺伝子のエクソン9における変異は、JAK2変異陰性の本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の約25〜35%で認められます。この変異もJAK-STAT経路の活性化につながります。

 

MPL遺伝子変異

トロンボポエチン受容体をコードするMPL遺伝子の変異は、本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の約5〜10%で認められます。

 

BCR-ABL融合遺伝子

慢性骨髄性白血病では、9番染色体と22番染色体の相互転座によりBCR-ABL融合遺伝子(フィラデルフィア染色体)が形成されます。この融合遺伝子はチロシンキナーゼ活性を持ち、細胞増殖を促進します。

 

臨床症状と診断

真性多血症(PV)

主な特徴は赤血球増加による血液粘稠度の上昇です。症状には以下のものがあります

  • 頭痛、めまい、視覚異常
  • 顔面紅潮、掻痒感(特に入浴後)
  • 脾腫大
  • 血栓症リスクの上昇(脳梗塞、心筋梗塞、深部静脈血栓症など)

 

診断基準(WHO 2016年改訂版):

【大基準】

  1. ヘモグロビン値 > 16.5 g/dL(男性)または > 16.0 g/dL(女性)、またはヘマトクリット値 > 49%(男性)または > 48%(女性)、または赤血球量の増加
  2. 骨髄生検でのパンミエロシス、赤芽球系および巨核球系の増殖
  3. JAK2 V617F変異またはJAK2エクソン12変異の存在

【小基準】

  1. 血清エリスロポエチン値の低下

診断には大基準3つ、または大基準1つ・2つと小基準が必要です。

 

本態性血小板血症(ET)

血小板数の持続的な増加が特徴です。症状には以下のものがあります

  • 微小循環障害(頭痛、視覚異常、肢端紅痛症など)
  • 出血傾向(血小板機能異常による)
  • 血栓症

 

診断基準(WHO 2016年改訂版)

  1. 血小板数 ≥ 450 × 10^9/L
  2. 骨髄生検での巨核球系の増殖、赤芽球系・顆粒球系の増殖なし
  3. WHO基準による他の骨髄性腫瘍の除外
  4. JAK2、CALR、またはMPL遺伝子変異の存在

診断にはすべての基準を満たす必要があります。

原発性骨髄線維症(PMF)

骨髄の線維化と髄外造血が特徴です。症状には以下のものがあります

  • 脾腫大(しばしば著明)
  • 全身倦怠感、体重減少、発熱、盗汗などの全身症状
  • 貧血症状
  • 骨痛

診断基準(WHO 2016年改訂版)には前線維化期と明らかな線維化期の2段階があり、骨髄生検所見と遺伝子変異検査が重要です。

 

慢性骨髄性白血病(CML)

BCR-ABL融合遺伝子を持つ白血球の異常増殖が特徴です。症状には以下のものがあります:

  • 脾腫大
  • 全身倦怠感、体重減少
  • 発熱、盗汗
  • 白血球増加に伴う症状(白血球過多による血栓症など)

診断には末梢血液検査、骨髄検査、およびBCR-ABL融合遺伝子の検出が必要です。

 

骨髄生検の役割

骨髄増殖性疾患の診断において、骨髄生検は非常に重要な役割を果たします。特に本態性血小板血症と原発性骨髄線維症の鑑別には必須です。骨髄生検では以下の点を評価します:

  • 全体的な細胞密度(過形成、正形成、低形成)
  • 巨核球の数、大きさ、形態、分布パターン
  • 赤芽球系、顆粒球系の増殖状態
  • 網線維、膠原線維の増加(線維化の程度)
  • 異常細胞の浸潤

骨髄生検は通常、後上腸骨棘から採取されます。患者は側臥位または腹臥位で行われ、局所麻酔下で実施されます。合併症は比較的少なく、主に出血、感染、疼痛などがあります。

 

治療目標

骨髄増殖性疾患の治療目標は以下の通りです

  • 血栓症リスクの低減
  • 出血リスクの低減
  • 症状の緩和
  • 疾患進行の抑制
  • 白血病への移行リスクの低減

 

真性多血症(PV)の治療

治療は血栓症リスクに基づいて選択されます:

低リスク患者(60歳未満かつ血栓症の既往なし)

  • 瀉血療法:ヘマトクリット値を45%未満に維持
  • 低用量アスピリン(禁忌がなければ)

高リスク患者(60歳以上または血栓症の既往あり)

  • 瀉血療法
  • 低用量アスピリン
  • 細胞減少療法:ヒドロキシウレア(第一選択)またはインターフェロンα(特に若年患者)

難治例

  • JAK阻害薬(ルキソリチニブ)

本態性血小板血症(ET)の治療

治療は血栓症リスクに基づいて選択されます

 

低リスク患者

  • 低用量アスピリン(出血リスクが高くなければ)
  • 経過観察

 

高リスク患者

  • 細胞減少療法:ヒドロキシウレア(第一選択)またはアナグレリド
  • 低用量アスピリン
  • インターフェロンα(特に若年患者や妊娠可能な女性)

 

原発性骨髄線維症(PMF)の治療

治療は予後リスク分類(DIPSS-plusなど)に基づいて選択されます

 

低・中間-1リスク患者(無症状)

  • 経過観察

 

低・中間-1リスク患者(有症状)

  • JAK阻害薬(ルキソリチニブ)
  • 貧血に対する治療:エリスロポエチン、ダナゾール、サリドマイドなど
  • 脾腫に対する治療:ヒドロキシウレア、JAK阻害薬

 

中間-2・高リスク患者

  • 同種造血幹細胞移植(適応があれば)
  • JAK阻害薬
  • 臨床試験
  • 支持療法

 

慢性骨髄性白血病(CML)の治療

CMLの治療は他の骨髄増殖性疾患とは異なり、標的治療が確立されています:

  • チロシンキナーゼ阻害薬(TKI):イマチニブ(第一世代)、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、ポナチニブ(第二・三世代)
  • インターフェロンα(特定の状況で)
  • 同種造血幹細胞移植(TKI抵抗性または不耐容例)

 

疾患別予後

骨髄増殖性疾患の予後は疾患によって大きく異なります

  • 真性多血症と本態性血小板血症:適切な治療を受ければ、生存期間は一般人口とほぼ変わらない場合が多い
  • 原発性骨髄線維症:予後は不良で、中央生存期間は約5〜7年(リスク分類により異なる)
  • 慢性骨髄性白血病:TKI治療の導入により予後は劇的に改善し、多くの患者で正常に近い生存期間が期待できる

 

疾患転化と合併症

骨髄増殖性疾患には以下のような転化や合併症のリスクがあります

  • 急性白血病への転化:PVで約10%、ETで約5%、PMFで約20%(10年以内)
  • 骨髄線維症への進行:PVで約10〜20%、ETで約5%(15年以内)
  • 血栓症:全ての骨髄増殖性疾患で発症リスクが上昇
  • 出血:特に血小板数が極めて高値の場合や血小板機能異常がある場合

 

経過観察のポイント

骨髄増殖性疾患患者の経過観察では以下の点が重要です

  • 定期的な血球計数(3〜6ヶ月ごと)
  • 脾臓サイズの評価
  • 血栓症や出血の徴候・症状の監視
  • 治療関連副作用のモニタリング
  • 疾患進行の徴候(骨髄線維症や白血病転化)の評価

 

最新の研究と今後の展望

骨髄増殖性疾患の分野では、以下のような研究が進行しています

  • 新規JAK阻害薬の開発
  • 疾患修飾薬の探索(線維化抑制、白血病転化予防)
  • 遺伝子変異に基づく予後予測モデルの改良
  • 免疫療法の応用
  • TKI治療中断後の治療自由生存(CML)

 

まとめ

骨髄増殖性疾患は、造血幹細胞の遺伝子変異による血球産生の亢進を特徴とする疾患群です。診断には詳細な臨床評価、血液検査、骨髄検査、および遺伝子変異検査が必要です。

治療はリスク層別化に基づいて個別化され、瀉血、抗血小板薬、細胞減少薬、JAK阻害薬、およびTKIなどが用いられます。

適切な治療と経過観察により、多くの患者で良好な長期転帰が得られるようになってきています。

今後も分子病態の解明と新規治療法の開発により、さらなる予後の改善が期待されます。

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