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心原性ショック

心臓の機能が急激に低下し、全身の組織に十分な血液を送り出せなくなる極めて重篤な状態、それが心原性ショック (Cardiogenic Shock; CS) です。

新しい定義やステージング、詳細な表現型分類の導入といった進歩が見られるにもかかわらず、心原性ショックは依然として医学界における「主要な未解決の問題」であり続けています。

発症から30日後の死亡率は40%~50%にも達しており、この高い死亡率を低下させるためのエビデンスに基づく治療戦略は限られています。

本記事では、最新のレビューに基づき、心原性ショックの定義、診断、複雑な病態生理、そして進展する治療戦略について詳しく解説します。


1. 心原性ショックの定義と診断基準

心原性ショックの管理と研究を進める上で、まずその「定義」を明確にすることは不可欠です。

専門組織による定義

Shock Academic Research Consortium (SHARC) は、心原性ショックを「持続的な組織灌流低下を示す臨床的および生化学的証拠をもたらす心臓の障害」と定義しています。

この定義の中核となる要素は以下の通りです:

  1. 持続的な低血圧: 収縮期血圧が90 mmHg未満で30分以上持続するか、または昇圧薬や機械的循環補助(MCS)を必要とすることによって、収縮期血圧を90 mmHg以上に維持している状態。
  2. 全身性灌流不全の証拠: 全身の組織に酸素が十分に供給されていない証拠があること。

注意すべき点として、Normotensive cardiogenic shockというサブセットも存在します。

これは、臓器灌流不全の証拠があるにもかかわらず、収縮期血圧が90 mmHgを超えている状態を指します。

また、心原性ショックと敗血症性ショックや低容量性ショックが同時に存在する混合ショックも発生します。

 

臨床現場での診断

臨床現場では、心原性ショックの診断は、輸液補充に適切に反応しない持続的な低血圧と、末梢臓器の灌流不全の徴候(四肢の冷感や灌流不良、乏尿、意識変容など)に基づいて行われます。

確立された心原性ショックの生化学的マーカーとして、組織灌流不全を示す動脈乳酸値の上昇が重要です。

診断を確定するためには、心エコー検査で心機能障害が示される必要があります。

さらに、右心カテーテル検査によって測定される特定の血行動態学的特徴も診断に利用されます。

これには、低心係数(2.2L/min/m2と、しばしば組み合わされる高全身血管抵抗指数(>2200 dynes/cm/sec)が含まれます。

これらの血行動態的特徴は、他の種類のショックや混合ショックとの鑑別診断にも役立ちます。


2. SCAIショック・ステージング:ショックの重症度分類

心原性ショックの重症度を客観的に評価するため、Society for Cardiovascular Angiography and Interventions (SCAI) および Heart Failure Society of America は、ショックの重症度に基づいたステージングシステムを提案しています。

このシステムは現在、研究および臨床実務で一般的に使用されています。

このステージングは、ショックの重症度に応じて以下の5つのカテゴリーに分類されます。

ステージ 名称 概要と特徴
A At risk(リスクあり) ショックの兆候や症状はないが、発症リスクが高い状態(乳酸値 < 2 mmol/L)。
B Preshock(前ショック) 低血圧または頻脈の臨床的証拠があるが、組織灌流不全はない状態(乳酸値 < 2 mmol/L)。
C Classic Shock(古典的ショック) 乳酸値 2 >mmol/L、心係数 2.2 L/min/m2、肺動脈楔入圧 > 15mmHgの血行動態的証拠を伴う心原性ショック。
D Deteriorating Shock(悪化ショック) 乳酸値が上昇または持続的 > 2 mmol/L超で、昇圧薬の増量や機械的循環補助の追加が必要な血行動態的徴候が見られる状態。
E Extreme Shock(極限ショック) 乳酸値 > 8mmol/L超で、最大限の血行動態的支持にもかかわらず著しい低血圧が持続する状態。

このグレーディングシステムは予後を決定するのに有用ですが、心原性ショックの動的な性質により、少なくとも2回の臨床評価が必要であり、ショック段階の決定にはある程度の主観性が伴うという限界もあります。


3. 複雑な病態生理と多臓器不全の連鎖

心原性ショックは、心機能と心係数の深刻な低下によって特徴づけられます。

この低下が、低血圧と冠動脈虚血を引き起こし、心臓の収縮性をさらに低下させ、心係数を一層減少させるという有害な悪循環を引き起こします。

心係数の低下は重度の組織低酸素症を引き起こし、動脈乳酸値の増加を招きます。

 

多臓器不全(MOF)

心原性ショックは、心臓自体の不全に加えて、腎臓、肝臓、肺、腸管、免疫系、凝固系など、多臓器の不全を招く可能性があります。

これらの臓器不全の徴候は予後不良と関連しており、乳酸値に加えて、炎症や臓器機能障害を示すバイオマーカー(アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST)、クレアチニン、BNP、CRPなど)のレベルも重要です。

 

心原性ショックに伴う多臓器障害の例

  • 心臓: 心筋虚血、ポンプ機能のさらなる低下(BNP、心筋トロポニン上昇)。
  • 腎臓: 灌流低下による乏尿、尿細管壊死による無尿(クレアチニン、シスタチンC上昇)。
  • 肝臓: 低酸素性肝炎、急性肝不全(AST、ALT、ビリルビン上昇)。
  • : 灌流低下による意識変容。
  • 微小循環: 内皮腫脹、血管収縮、微小血栓(乳酸値上昇)。

初期には代償性の全身性血管収縮が見られる場合がありますが、ショックの後期段階では、炎症反応による病的な血管拡張によって打ち消されることがあります。


4. 病因:変化するショックの原因

心原性ショックの原因は、大きく以下のカテゴリーに分類されます:

  1. 急性心筋梗塞関連ショック (AMI-CS)
  2. 非心筋梗塞関連ショック (Non–infarction-related CS): 新規または急性増悪した慢性心不全、心筋炎、たこつぼ症候群、弁膜症、心膜疾患など。
  3. 二次的非心筋原因
  4. 心臓術後ショック (Postcardiotomy shock)

数十年間、急性心筋梗塞後の心室不全が心原性ショックの最も一般的な原因でしたが、心筋梗塞の治療戦略が進歩した結果、現在では非梗塞関連心原性ショックが梗塞関連ショックを上回るようになっています。

死亡率は原因によって異なり、レジストリデータによると、院内死亡率は混合原因心原性ショックで48%と最も高く、梗塞関連心原性ショックで41%でした。

 

ショックの表現型

心原性ショックの表現型(フェノタイプ)は、心室不全のタイプに基づいて分類できます。

  • 左心室不全: 最も優位な形態です。
  • 両心室不全: 一般的です。
  • 右心室の関与: 梗塞関連心原性ショックの44%、非梗塞関連心原性ショックではさらに頻繁に観察されます。
  • 機械的合併症: 梗塞関連心原性ショックにおける急性心室破裂や急性僧帽弁閉鎖不全症など。これらは流体管理、薬物療法、外科的介入、機械的循環補助装置(MCS)の選択に関して、特定の治療戦略を必要とします。

また、心停止蘇生後に昏睡状態にある患者も特有のショック表現型を示します。

これらの患者は心臓スタニングによる心機能低下を呈することがありますが、長期の無血流・低血流時間による高乳酸値が見られるため、初期の乳酸値は心係数とあまり相関しません。

さらに、蘇生後の昏睡患者の約20〜30%は、循環不全ではなく脳損傷によって死亡する可能性があります。


5. 治療戦略:システムと支持療法

心原性ショック患者の治療は、予後改善のための鍵となります。

 

専門的ケアシステム

心原性ショック患者は、機械的循環補助の開始とエスカレーション、心臓介入、心臓集中治療室(CICU)、および心臓外科施設を備えた専門的な三次医療センターで治療されるべきです。

観察研究では、年間症例数が最も多い四分位数(≥107症例/年)のセンターでは、死亡率が低いことが示されています。

また、集中治療医、介入専門医、灌流医、心臓胸部外科医などで構成される専門的な集学的ショックチームの連携も、予後改善のための独立した要因である可能性があります。

 

一般的な集中治療

集中治療室(ICU)での治療は、ガイドラインで推奨される支持的アプローチに従うべきです。

  • モニタリング: 安定化まで高頻度(毎時間)で乳酸値を測定する。尿量測定とクレアチニン値の連続評価も実施する。
  • 代謝管理: 血糖値のコントロール。
  • 予防: 血栓塞栓症予防、ストレス潰瘍予防。
  • 栄養: 初期安定化後の早期経腸栄養。
  • 呼吸管理: 機械的人工換気を使用する場合、可能であれば肺保護戦略(予測体重あたり6〜8 mlの換気量)を実施する。
  • 腎代替療法 (RRT): 尿毒症の臨床徴候、治療困難な容量過負荷、代謝性アシドーシス、または難治性高カリウム血症を伴う急性腎不全の患者に開始されます。従来の緊急適応がない状況で早期にRRTを開始しても、予後に影響がないことが示されています。

血行動態モニタリング

心原性ショックの原因を特定し、表現型を分類するための第一の方法は、心エコー検査または少なくともポイントオブケア超音波検査です。

侵襲的血行動態モニタリングの適切な方法についてはコンセンサスがありませんが、ガイドラインや科学的声明では、初期治療に反応しない選択された患者や、混合ショックなど診断や治療が不確実な症例において、肺動脈カテーテル(PAC)を早期に使用することが提案されています。


6. 薬物療法:強心薬と昇圧薬の選択

輸液管理

中心性低容量血症がなく、下肢挙上テスト後に血行動態が改善する患者には、晶質液の投与が血行動態を改善させる可能性があります。

容量過負荷の場合には、静脈内ループ利尿薬が体液貯留と肺水腫を軽減するかもしれません。

低容量血症の回避は極めて重要です

 

強心薬とinodilators

強心薬療法によって心収縮性を高めることができますが、これらの薬剤が予後に与える影響は十分に確立されていません。

  • ドブタミン: 左心室不全患者の第一選択として一般的に使用されます。
  • ミルリノン、レボシメンダン: ドブタミンが無効な場合の代替または追加の選択肢となり得ます。ミルリノンとドブタミンを比較したランダム化試験では、アウトカムに差は観察されませんでした。

コクラン分析では、死亡率に関して特定の強心薬の優位性を確立する十分なエビデンスは見つかっていません。

 

昇圧薬

昇圧薬による治療で血圧が低い場合や組織灌流圧が不十分な場合、ノルエピネフリンが血管収縮薬として選択される可能性が高いです。

さまざまな原因によるショック患者1679人を対象としたランダム化比較では、ドーパミンによる治療はノルエピネフリンによる治療よりも不整脈イベントが著しく多かったものの、死亡率に差はありませんでした。

エピネフリンは心係数に同様の効果を持ちますが、心拍数や乳酸アシドーシスを含む代謝変化において不利な影響がありました。

昇圧薬療法の目標平均動脈圧は明確に定義されていませんが、通常は65 mmHg超が適切と見なされています。


7. 機械的循環補助装置 (MCS)

一時的な経皮的MCSは、心原性ショックの血行動態を安定させ、末梢臓器の灌流を改善することができます。

MCSの使用コンセプトには、Bridge to decision、Bridge to recovery、Bridge to LVAD(左心室補助装置)、またはBridge to transplantationなどがあります。

MCSの選択は、有効性、施設経験、およびデバイス関連の合併症のバランスに基づいて、患者とデバイスの適切な選択が不可欠です。

 

大動脈内バルーンパンピング (IABP)

挿入の容易さ、コスト、および有害事象プロファイルが良好なため、IABPは依然として広く使用されています。

しかし、梗塞関連心原性ショックを対象とした大規模なランダム化試験(IABP-SHOCK II)では、内科的治療と比較して生存率の改善は示されませんでした

このデータに基づき、米国ガイドラインでは梗塞関連心原性ショックにおけるIABPのルーチン使用は推奨されていませんが、欧州ガイドラインでは梗塞関連機械的合併症を有する患者には推奨されています。

 

経皮的微小軸流ポンプ (Microaxial Flow Pumps) [Impella] 

このデバイスは、主に左心室機能不全を伴う心原性ショックの治療に使用され、経皮的カテーテルで最大約 4.3L/min の流量サポートを提供します。

大規模な傾向スコアマッチング研究では一貫して生存率の改善は示されず、合併症率が高いことが示されていましたが、最近のDanGer Shock試験(ST上昇型心筋梗塞関連心原性ショック患者360名を対象)では、低酸素性脳損傷のリスクがない選択された患者群において、微小軸流ポンプの使用が180日後の全死因死亡率を低下させることが示されました。

ただし、この試験では、微小軸流ポンプ群で出血、下肢虚血、および腎代替療法の発生率が高いことも報告されています。

現在の米国ガイドラインでは、選択された患者における微小軸流ポンプの使用がクラスIIa適応として推奨されています。

 

経皮的心肺補助装置 (VA-ECMO)

VA-ECMOは、最大 6 L/minの流量サポートを提供し、右心室と左心室の完全な呼吸および循環補助を提供できます。

心原性ショック患者での使用が増加していますが、重度の梗塞関連心原性ショック患者を対象としたECLS-SHOCK試験では、早期のルーチンVA-ECMO使用と標準治療の間で30日後の死亡率に差はありませんでした(VA-ECMO群 47.8%、対照群 49.0%)。

VA-ECMOデバイス自体は、大動脈内で逆行性の血流を生成することによる後負荷の増加によって、心臓に害を与える可能性さえあります。

この有害な血行動態効果を軽減するために、微小軸流ポンプやIABPを用いた左心室の能動的なアンローディング(負荷軽減)が行われることがあり、観察研究ではこれが死亡率の低下と関連していることが示唆されています。

しかし、経中隔左心房カニューレを用いたルーチンな左心室アンローディングとVA-ECMO単独を比較したランダム化試験では、死亡率に対する効果は示されませんでした。

 

MCSの一般的な洞察

現在、梗塞関連心原性ショック患者の約50〜60%は、MCSを使用しなくても生存しています。

これらの患者にデバイスを使用すると、デバイス関連の合併症によって死亡につながる可能性があります。

一方で、MCSなしでは生存しない40〜50%の患者群においても、重度のショック、高齢、フレイル、または無酸素性脳損傷といった状況下では、MCSを用いても予後を改善できない場合があります。

ランダム化試験のメタアナリシス(1059例、9試験)では、全体として一時的なMCSと対照介入の間で死亡率に差はありませんでしたが、左心室機能不全優位の表現型を持ち、低酸素性脳損傷のリスクが低い患者群(DanGer Shock試験の適格基準に基づくと、心原性ショック患者全体の約32%に相当)においては、一時的なMCSによる死亡率の便益が示されました。

ただし、デバイスの種類にかかわらず、MCS群では合併症率が一貫して高いことが示されています。


8. 原因に対する特異的な治療:再灌流療法の進展

急性心筋梗塞における再灌流療法

急性心筋梗塞に伴う心原性ショックでは、早期の再灌流療法が死亡率を低下させるため、ガイドラインで強く推奨されています。

再灌流の遅延は臨床的アウトカムの悪化と関連しているため、ファーストメディカルコンタクトからバルーン拡張までの時間(Door to aballn time)を短縮するための努力が求められています。

 

PCI戦略:原因病変のみ vs. 多枝病変

梗塞関連心原性ショック患者の大多数(70〜80%)は多枝冠動脈疾患を抱えています。

CULPRIT-SHOCK試験では、原因病変のみのPCI(Culprit-lesion-only PCI)が、即時の多枝病変PCIと比較して臨床的便益を示すことが判明しました。

これは主に死亡率の有意な低下によってもたらされました。

この試験に基づき、現在の推奨される再灌流戦略は、急性期には原因病変のみのPCIを実施し、臨床的安定化後に段階的な再灌流を行うというものです。

PCIが困難な冠動脈解剖の場合には、冠動脈バイパスグラフト術(CABG)が検討されることがあります。

 

機械的および弁の合併症

急性心筋梗塞後の乳頭筋断裂や心室中隔壁/自由壁の破裂などの機械的合併症は稀ですが、発生した場合の予後は悲惨です。生存のためには、外科的または経皮的な修正が必須とされています。


9. まとめと今後の展望

心原性ショックは、診断、ステージング、病態生理の理解が進んでいるものの、30日死亡率が40〜50%と依然として非常に高く、主要な公衆衛生上の課題です。

現時点でエビデンスに基づき推奨される主要戦略は以下の通りです

  • 梗塞関連心原性ショックにおける即時の再灌流療法は死亡率を低下させる
  • 多枝冠動脈疾患患者では、急性期には原因病変のみを再灌流すべきである
  • 特定の患者群では、機械的循環補助が死亡率を低下させる(特に左心室優位の機能不全を持ち、低酸素性脳損傷のリスクが低い患者群において、微小軸流ポンプが生存率改善を示したDanGer Shock試験の結果がある)。

ランダム化試験の実施は、状態の急性度と重症度、そして心原性ショック表現型の多様性によって困難を伴います。

治療反応のばらつきを減らすため、特定の標的治療戦略から利益を得る可能性のある患者を特定するための高度な表現型分類(フェノタイピング)を考慮に入れた試験設計が今後必要とされています。

国際的な連携による大規模なショック研究ネットワークの構築が、残された多くの疑問に答えるために緊急に求められています。

心原性ショックの管理は、適切な診断、迅速な再灌流、専門的な集中治療、そして慎重な患者選択に基づいた薬物療法とMCSの適用を通じて、この壊滅的な疾患の予後を改善するための戦いと言えます。


心原性ショックの病態は、心臓のポンプ機能の破綻が全身の臓器システムへと連鎖するドミノ倒しのようなものです。治療の目的は、単にドミノの最初の一枚(心臓)を立て直すだけでなく、連鎖反応で倒れていく全身のドミノ(腎臓、肝臓、肺など)を同時に支え、全体の破綻を防ぎ、最終的な回復へと導くことです。

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