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結論
- 乳酸菌を支持する研究はたくさんある
- 人工呼吸を要する重症患者への効果は、なさそう
- 軽症患者の場合は、わかりません
乳酸菌の効果
Lactobacillus rhamnosusと検索すると、トップページがこちらのサイトになりました。
https://www.sceti.co.jp/ingredients/functional/probiotics/detail06_product08.html
こちらには、1200を超える論文が報告されていていると書かれています。
乳酸菌に関しては、個人的には整腸作用を期待して服用していますが、その効果を実感できているわけではありません。
PubMedで ”Lactobacillus rhamnosus”と検索すると、3000を超える論文がHitします。
Limitで、ランダム化比較試験を選択すると、400件を超える論文がHitします。
Cochrane reviewでは、小児の抗菌薬関連性下痢症に対する効果が示されているようです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31039287/
NNTと呼ばれる、何人治療すれば効果を示すかというものも、9ですので限定されたシチュエーションでの効果は示されているようです。
PubMedで、”Lactobacillus rhamnosus”AND”ventilator associated pneumonia”と検索すると、Cochrane reviewがHitしました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25344083/
このReviewでは、人工呼吸器関連肺炎を予防するが、死亡率は変わらないといいった結果でした。
これらの結果のように、人工呼吸器関連肺炎を予防する可能性があるということで、今回の研究がデザインされたようです。
Effect of Probiotics on Incident Ventilator-Associated Pneumonia in Critically Ill Patients A Randomized Clinical Trial
この研究は、2021年のJAMAという雑誌に掲載されました。
JAMAは、米国の医師会雑誌であり、臨床系3大医学雑誌の1つです。
最も有名な雑誌が、NEJM、The Lancet、JAMAになります。
他には、BMJも入れると4大雑誌と昔は呼ばれていました(今はどうなのかわかりません)。
方法
集中治療室で人工呼吸管理を受ける患者さんに、経腸経路から L rhamnosus GGを 1 × 1010 colony-forming unitsという量を1日2回投与する群(n = 1321)とプラセボ群 (n = 1332)に分け介入されました。
補足
経腸とは、鼻や口からチューブを胃の中まで留置します。
そのチューブを経由して、胃の中に薬や栄養剤を入れる事を示します。
プラセボとは、通常ほとんど害が無く、外から見た形状は全く同じ形態に用意された研究用の偽薬になります。
けれども、投与する人や投与される人は通常、どちらの薬(乳酸菌か偽薬か)を投与されているのかはわかりません。
これは二重盲検と呼ばれる研究手法で、ブラインドとも呼ばれます。
盲検化は、研究において最も重要な事項の1つになります。
というのも、ホーソン効果といって、どちらの薬かわかってしまえば、知らず知らずのうちに、治療に有用な働きかけを行ってしまうことになるからです。
他には、対照群がプラセボであるというもの大事な事項になります。
対照群が、量を減らして投与する場合や、類似した乳酸菌を準備しておこなった場合だと、結果の解釈が難しくなります。
例えば、量を変えたらどうだったのか、違う乳酸菌だったらどうだったのか?といったようなことです。
そのため、最もわかりやすいのはなんの効果も示さない、プラセボを用いる事はとてもわかり易く、エビデンスとしての質も有用なものとなりがちです。
主要評価項目
主要評価項目は、人工呼吸器関連肺炎の発生に設定されました。
副次的評価項目は、クロストリジオイディスディフィシル感染症を含む感染症、下痢、抗菌薬の使用、集中治療室と病院の滞在期間、死亡率とされました。
補足
研究には、主要評価項目というものが設定されます。
通常1つの論文で述べたい事は、1つの目的になります。
その目的が、今回の研究では人工呼吸器関連肺炎の発生率に設定されました。
人工呼吸器関連肺炎の発生率という目的の場合、評価は多少難しくなります。
例えば、肺炎発生率は減少したけど、死亡率は変わらなかった、ということはよくあります。
そのため、ハードアウトカムと呼ばれる、死亡率を本来は主要評価項目に設定したいわけです。
ところが、死亡という事象は、人生一度きりの、極めて少ない事象になります。
人工呼吸器関連肺炎の場合は、人にもよりますが、人生で何回か起こす可能性があります。
じゃあ、死亡率を主要評価項目にすればいいのでは、と思います。
けれども、先に書いたように死亡という事象は、最も少ない事象になります。
そのため、差を出すためには、膨大な被験者の数が必要になります。
今回の研究では、人工呼吸器関連肺炎で有意差を出すために、約2600人が研究対象となりました。
これでも、膨大な数ですが、死亡率となると、おそらくとてつもない被験者が必要になるので、今回の研究は人工呼吸器関連肺炎の発生率をアウトカムにしています。
副次的評価項目も設定されており、死亡率についても検討されています。
この場合は、副次的評価項目の結果に関しては、あくまでも参考値程度にとどめておく必要があります。
副次的評価項目は、あくまでも副次的に検討したまでですので、その結果の解釈には慎重になる必要があります。
なぜ副次的評価項目の結果を鵜呑みにしてはダメなのかというと、パワー解析というものを行っているからです。
パワー解析とは、過去の研究や過去の研究がなければ、事前に小さな集団で研究を行い、その結果を基に必要な症例数を算出するといったものです。
つまり、これらのパワー解析なしに副次的評価項目の結果を鵜呑みにはできないということになります。
十分なパワー(症例数)を持った研究で、初めてその効果を有用と認識することができます。
例えば、数人の比較で”有意差”が出たからと言って、その結果が信頼性に足るものではないということは言えます。
とはいえ、単施設での検討ではパワーが不足することは仕方ない事です。
そのため、多施設での研究が行われることになります。
研究を行う上での症例数は、必要最小限で、短期間で行うのが理想です。
そして、多施設で行うということは、一般化も可能になります。
話はそれますが、単施設研究の結果も、このような理由から鵜呑みにはできないということになります。
結果
平均年齢は、59.8歳でした。
APACHE-IIと呼ばれる重症度スコアの平均は、22でした。
中央値で9日間、Lactobacillus rhamnosusを投与されました。
Lactobacillus rhamnosusを投与された、 1318 例中 289 例(21.9%)で人工呼吸器関連肺炎を発症しました。
プラセボ群では、1332 例中 284 例(21.3%)で人工呼吸器関連肺炎を発症しました。
ハザード比(HR)は 1.03(95% CI, 0.87-1.22; P = 0.73、絶対差は 0.6%、95% CI, -2.5%~3.7%)でした。
副次的評価項目で設定された項目においても、有意な差は実証されませんでした。
プロバイオティクスを投与された患者15名(1.1%)、プラセボ群で1名(0.1%)が、L rhamnosusが有意に多く検出されました(オッズ比、14.02、95%CI、1.79-109.58、P < 0.001)。
結論
人工呼吸器を要する重症患者において、Lactobacillus rhamnosusを用いた乳酸菌投与の有益性は認められませんでした。
私見
腸は第2の脳と言われ、乳酸菌は有益な結果を与えるとされています。
とはいえ、重症患者においては、その有用性は非常に限定的であり、ルーチンでの使用はむしろ謹んだ方が良さそうです。
その理由として、無菌部位からLactobacillus rhamnosusが検出されている事が挙げられます。
つまり、Lactobacillus rhamnosusの投与に伴う、有害事象になります。
免疫不全の場合では、Lactobacillus rhamnosusのような有益とされている菌ですら悪さをする事になります。
無菌部位には、いかなる細菌でも通常検出されてはいけません。
だからこそ、手術などに代表される侵襲的処置では、なるべく無菌的に行われます。
今回の結果を持って、臨床実践でのプラクティスが変わることはありませんが、重症患者の場合はLactobacillus rhamnosusのような、一見悪さをしなさそうな細菌ですら、時に問題になる可能性があるということはとどめておく必要があるかもしれません。
まとめ
- 重症患者に対する乳酸菌製剤は、人工呼吸器関連肺炎を減少させなかった
- 重症患者に対する利益は、この大規模研究の結果では、なさそう