結論
- モードは慣れたものを選択
- 守るべきは、1回換気量6ml/kgと⊿P ≤ 15cmH2O以下
- 自発呼吸がある場合は、従圧式の方が管理しやすいかも
- 自発呼吸がない場合は、従量式の方が管理しやすいかも
Covid-19の人工呼吸管理における特徴
covidの場合は、いろんな意味で鎮静剤の量が増加しがちです。
例えば、突然Covid患者さんのいるレッドゾーンに行くことができません。
そのため、急な対応は困難です。
急な対応が困難ということは、突発的な事象に対応できないということですので、鎮静を深めに管理することが多いです。
とはいえ、鎮静を深めに管理するという戦略は時代錯誤と言わざるを得ません。
CovidのPhaseにもよりますが、鎮静はなるべく少ないに越したことはありません。
不要な薬は、毒という認識で、極力使わない努力が必要になります。
鎮静剤が増加するもう一つの理由は、自発呼吸を抑えたいという目的があります。
自発呼吸は、P-SILIとって、強い自発呼吸は陰圧を生じます。
強い陰圧呼吸の結果、肺実質に水分が分布し肺水腫を助長することになります。
肺水腫があれば、強い自発呼吸はさらに強くなり呼吸をしようとします。
これらの負のサイクルを止めるのが、鎮静の1つの役割とされています。
以前は自発呼吸こそが最も良い呼吸とされていた時代もありました。
現在はもっと複雑な事情も含めて、自発呼吸は肺傷害の急性期はある程度抑えたほうがよいとされています。
人工呼吸の基本
人工呼吸は陽圧換気。
自発呼吸は陰圧換気。
これは、人工呼吸を勉強し始めた人が最初に学ぶ事です。
陽圧換気は、基本的には寝ている状態だと、上側(腹側)に空気を押し込もうとします。
一方自発呼吸は、横隔膜を使用した呼吸になりますので、背中側に空気を取り込もうとします。
Covid急性期の人工呼吸管理は、これらの自発呼吸と機械換気の利点と欠点をのせめぎ合いにより設定されます。
ホントの急性期は、自発呼吸を消すために筋弛緩を使うことが多いです。
筋弛緩を使うということは自分で呼吸することができなくなりますので、人工呼吸との同調性は極めて良好になります。
極めて良好な換気は、非生理的な陽圧換気である人工呼吸であっても、利点の方が大きいとされています。
繰り返しになりますが、人工呼吸は上側(腹側)の換気を促進しますので、背中側の換気は極めて抑制されます。
背中側の換気が悪くなるということは、背中側の肺がつぶれます。
言わゆる、下重側肺障害といわれるもので、無気肺はその代表です。
つまり、筋弛緩薬は諸刃の剣であり、利点を最大限に活かすことが必要になります。
背中側の換気が悪いのであれば、筋弛緩薬を使用中は逆向き(腹臥位)にすることで、人工呼吸療法に伴うデメリットがある程度相殺されます。
腹臥位にすることで、背中側の換気が増え、筋弛緩薬を使用することにより強い自発呼吸を消すことで、肺の安静(Rest lung)の状態を作ることが重要になります。
筋弛緩薬の使用時間は、通常連続して48時間を超えて使用されることはありません。
Covidの場合は、筋弛緩薬を中止後も強い自発呼吸努力に伴い、肺傷害が進行してしまう可能性を考慮して、やむなく筋弛緩薬を再開する患者さんもいらっしゃいます。
難渋する人工呼吸管理は、相対的に機能予後も不良となることが多い印象です。
機能予後の代表は、肺の線維化による生涯に渡る肺の機能低下などです。
人工呼吸モード
急性期は、極限まで炎症が燃え盛っている時期です。
燃え盛っている時期に最も重要なことは、台風と同じく嵐がすぎるのを「じっと待つ」ことです。
この燃え盛る時期に、油を注ぐようなことをすると肺の状態が悪くなります。
台風の例えだと、増水した川を覗きに行くようなリスクのある行動を避け、自宅もしくは状況に応じて避難所への退避を行う、ということになります。
悪さをしないための人工呼吸で守るべきは、3つです。
- 6ml/kg以下の1回換気量を遵守する
- ⊿Pは15cmH2O以下を遵守する
- プラトー圧は30cmH2O以下を遵守する
- (適切なPEEPを設定する)
6ml/kgの体重は、身長により決まります。
当然ですが、肺は縦に長いので太っている人でも肺の大きさは身長が同じ場合は、変わりません。
まずは、身長から理想体重を算出します。
これは、アプリを使っても良いですし、インターネット上に換算表がありますので、簡便な方法を利用すれば良いでしょう。
理想体重が算出できれば、1回換気量の設定を行うことができます。
理想体重60kgの方であれば、360ml未満になるように設定します。
普通の人は、理想体重1kgあたり10ml程度の換気量とされています。
60kgの人では、600mlの1回換気量ということになります。
なぜ、肺傷害のある人の場合は1回換気量を制限する必要があるのでしょうか。
これは、良い肺と悪い肺が混在しているためです。
悪い肺をなるべく悪くしないように、良い肺を最大限に利用する戦略が必要になります。
良い肺のエリアは減少していますので、Baby lungと言われています。
赤ちゃんの肺くらいの容量になっているという例えです。
1回換気量を制限すると、炭酸ガス(CO2)が貯留します。
ある程度までは呼吸回数を上げることで対応しますが、それでもコントロールできない場合は許容します。
目安としては、pH7.2(もしくは7.15)を下回るような状況では、是正する必要があるとされています。
Co2を見るべきは、CO2の値ではなくpHということになります。
従量式か従圧式か
これは、どちらでも良いとされています。
従量式とは、1回換気量が規定されている換気様式の事です。
例えば、1回換気量を360mlに設定すると、360mlの換気が得られます。
従圧式の場合は、規定された圧を送るだけですので、1回換気量にはばらつきが多少出てしまいます。
筋弛緩薬を使用している状況下では、従量式の方が使いやすいです。
自発呼吸がでてくると、従圧式の方が使いやすいです。
これは、自発呼吸により空気を吸いたいのに吸えないという状況が、従量式では生じる可能性があるからです。
従圧式では、規定された圧まで一気に空気を送り込みますので、自発呼吸との同調性は良い傾向にあると思います。
従圧式の場合は、ピークの圧とPEEPの差(⊿P)を15cmH2O以内にしたほうがよいとされています。
従量式は、1回換気量。
従圧式は、⊿P。
これらの設定における、利点と欠点がありますので、患者さんの呼吸状態に応じて使い慣れたモードを中心に設定してくことが望ましいと思います。
PEEPの決め方に関しては、まず覚えるのはPEEP/FIO2 Tableというものになります。
ざっくりですが、FIO2の倍程度のPEEPをかけることになります。
FIO2が0.4の場合で酸素化が不良の場合は、PEEPを8に上げます。
それでも酸素化が不良な場合は、FIO2を0.5にあげます。
その次にPEEPを10に上げて、FIO2を0.6に上げるといった具合にPEEPを調整します。
アドバンスドなPEEPの設定だと、いろいろな方法がありますが、経肺圧を用いた方法が良いのではないかとされています。
呼気終末経肺圧が0以上になるように設定することで、肺が潰れるのを防ぐとされています。
過度な自発呼吸がある場合も、PEEPを上げることで対応可能な場合もあります。
PEEPの目的の1つは、リクルータビリティといって肺が広がることによる酸素化の改善と肺傷害の改善です。
そのため、PEEPを上げて酸素化が改善するような場合は、リクルータビリティがあると判断することもできます。
まとめ
- Covidにおける人工呼吸管理は、極めて難しい
- 極めて難しいので、専門家が行うべき
- パンデミックの状況ではそんなことも言っていられないので、基本に忠実に行う