結論
- 病歴 > 身体所見 > 検査といった感じ
- 病歴 > 現在の症状といった感じ
病歴
病歴は、診断において極めて重要とされています。
とくに初診の救急外来や、外来診療では診断(代替診断)を挙げるという事が必要になります。
当然難しい診断は、時間軸を有効に利用することが必要になります。
救急外来の場合は、絶対に除外しておきたい重大疾患の除外と、代替診断の立案ということになるでしょうか。
救急外来の場合は、診断 ≒ 判断ということにもなります。
つまり、救急の場合は極論すると、診断というよりはその患者さんのこれからの方針をどうするか、というプランの立案が重要になります。
例えば、歩いて帰れるのか?
入院が必要なのか?
といった感じです。
歩いて帰れるけど、菌血症の懸念がある場合は、血液培養の結果を持って連絡しますので、電話をするかもしれませんということになります。
そして、やっぱり体調がすぐれない場合は、病院を受診するか電話で相談してください、ということになります。
その方針を決定するのは、血液検査や画像検査が主です。
とはいえ、これらの検査の弱点である菌血症の場合は原因が無い限りは検索困難ということになります。
画像診断医も、画像をもって診断しているだけであり、病歴は基本的に知らない状態で画像診断を行うことになります。
つまり、臨床医にとっては病歴こそが最強のツールといえます。
検査
検査の場合は、一通り血液検査が提出されることが多いです。
本来は、病歴聴取を行い疑っている病気の可能性を考慮して、血液検査が提出されます。
診断とは、そういう順番であるはずです。
この順番を誤ってしまうと、検査前確率の誤謬ともいえる自体になりかねません。
とはいえ、忙しい臨床業務の中ではなかなか困難です。
特に救急の場合は、検査をとりあえず提出しがちになりますし、検査に頼るしかないともいえます。
その経過中に病歴を聴取し、その検査の妥当性を吟味するという方法もありだと思います。
例えば、Dダイマー問題があります。
Dダイマーとは、血栓形成の可能性を示唆する検査所見の1つになります。
例えば、肺塞栓や大動脈解離などです。
何も考えずに、Dダイマー検査を提出すると、予想に反して高値である場合があります。
この順番が逆で、病歴で肺塞栓の可能性が高く、その結果Dダイマー検査を提出した場合であれば、その結果が陽性の場合は、高い確率で肺塞栓です。
そもそも、Dダイマーも不要かもしれません。
Dダイマーの検査は、肺塞栓などを否定する目的で使います。
つまり感度が高い検査ということになります。
一方、特異度は低いので、検査が陽性の場合でも肺塞栓以外の可能性もたくさんあるということになります。
予想もしなかった結果が帰ってくると、通常びっくりします。
その場合は、病歴聴取の不足があるか、余計な検査をしていた可能性があります。
当然検査結果とは、客観的にわかりやすい指標なのですが、ベイズの定理から導かれる検査前確率を無視していますので、効率的ではありません。
先に書いたように、D-ダイマー検査が陽性なら、全例造影CTを行うのか?という暴論になってしまいます。
極論ですが、全例に全ての検査を行えば何かしらの「異常値」が出ます。
それらの異常値が「悪」であるとするならば、健診で全ての検査を行えばよいということになります、
健診異常で来院される方の多くは、問題なく経過観察になります。
そもそも、全例に検査を行っていれば、病院は儲かるかもしれませんが検査待ちの行列ができてしまいます。
何事も、どこに重きを置くのかということになるでしょう。
身体所見
身体所見は、極めて重要な所見を与えてくれます。
ところが、最近はあまり行われない傾向にあるような気がします。
そもそも、身体診察はエコーやCT検査で行われる結果を予想するためのプロセスとも言えます。
例えば腹痛の場合だと、腹膜炎が有名ですが身体所見で腹膜炎があると判断して、その原因検索と程度の検索のために、CTを行うといった感じです。
時に、身体所見と病歴の整合性が合わない場合があります。
例えば、風邪症状で来た人の肋骨脊柱角叩打痛(CVA叩打痛)などです。
風邪症状なのに、なんでCVA叩打痛が出るのか?ということになります。
身体所見は、病歴の漏れをカバーしてくれる可能性もあります。
例えば、病歴で尿路感染症様症状(例えば、排尿時痛・頻尿・残尿感など)をもう一度詳しく効くと、実はありますということにもなります。
実は、転倒歴があり肋骨骨折だったかもしれませんし、帯状疱疹かもしれません。
身体所見と病歴は、相互に作用しあっているものと言えます。
ただしあくまでも身体所見は身体所見ですので、双方の整合性が合わない状況では、病歴をさらに深く聴取し、その確からしさを検討します。
例えばST非上昇型心筋梗塞
心筋梗塞の場合は、とにかく検査のイメージがある人もいるかもしれません。
心筋梗塞こそ、病歴が重要になります。
心筋梗塞の診断は3つの軸より成立します。
胸痛・心電図・バイオマーカーです。
この3つの項目中2つ以上を満たせば、心筋梗塞の診断になります。
確定診断には、カテーテル検査が必要になりますが、そこは専門科の領域ですので省きます。
胸痛はより確からしさを確認します。
例えば、指1本で指せる痛みは、心筋梗塞らしくありません。
関連した症状として、冷感や嘔吐を伴う場合はよりそれらしいですし、放散痛がある場合もそれらしいです。
あとは、発症様式はどんな病気でも極めて重要です。
突然発症は「避ける・破れる・捻れる・詰まる」のキーワードが想起されます。
救急疾患の代表です。
これらの病態は、緊急で対応が必要になります。
その代表の1つとして、心筋梗塞があります。
このように急ぐ必要のある病態が想起される場合は、12誘導心電図をとりつつ病歴を聴取します。
心電図でST上昇があれば、即スイッチを切り替える必要があります。
ST上昇があれば、冠動脈の再灌流をとにかく急ぎます。
ST非上昇型(NSTE-ACS)の場合は、順緊急でのカテーテル検査が必要になります。
ST上昇型は心電図で分かるのですが、ST非上昇型に関しては病歴こそが重要です。
心電図以上が無いということは、バイオマーカーが陽性でも、胸痛の有無や性状を確認する必要があります。
胸痛を生じない代表3つは、「高齢・女性・糖尿病」があります。
他にもあるのでしょうが、胸痛を生じない心筋梗塞もあるということは念頭に置くべきでしょう。
そのような場合は、専門科にバイオマーカー陽性ということで丸投げにするのではなく、病歴を詳しく聴取すべきでしょう。
そして、血管リスク(TIMIなど)を評価します。
例えば、65歳以上の高齢者というだけでTIMIスコアは陽性となってしまいますので、きちんとリスクの層別化を行う必要があるということになります。
まとめ
- 病歴と身体所見が合わない場合は、病歴を再度詳しく再聴取する
- それでも、合わないときは、病歴を優先する