日々の記録

Covid-19の治療戦略に関する感想

 

結論

  • 歴史は繰り返される
  • 基本的にやるべきことをやるだけ
  • 実験的治療を行う場合は、研究的な意味合いを必ず持たせる

はじめに

 

はじめに断っておきますが、なんの根拠も無いただの感想です。

わたし自身は、Covidに対する直接的な医療を提供しているわけではありません。

現場で勤務されている看護師を中心とした、医療スタッフには感謝です。

Covidが猛威をふるい始めて、2年弱でしょうか。

世界はいろいろ変わりました。

そして、医療系のトップジャーナルも変わりました。

当然ですが、世界的パンデミックを乗り切るために、日々新たな知見が積み重ねられ、患者さんに提供されます。

逆に言うと、トップジャーナルに掲載されるチャンスと言えるかもしれません。

トップジャーナルへの道のりは、かなり険しいものであり、一般的には膨大な費用もかかります。

ただしCovidの場合は実験的な治療であっても、有意な結果であれば、意義のある研究といえますし、逆に有意でない結果であったとしても、それはそれで次の研究に向けたメッセージになります。

看護研究でもよくありがちですが、有意差がでていないからどうこうといったものをよく目にします。

けれどもそれは本質ではなく、有意差は結果であるだけであり、統計学的な知識があれば多少の操作が可能になります。

つまり、研究とは基本的には目の前の患者さんに使えるようにする成果を提示させることが必要になります。

そのためには、臨床現場でも基礎研究の現場でも、クエスチョンが重要になります。

何が分かっていて、何が分かっていないのかというところです。

このあたりをわからず、議論をしてしまうと自分の主張だけで話があらぬ方向にいってしまう事になりかねません。

Covidの場合も同じく、何がどこまで分かっているのか。

そして、分かっていない部分に関してはどのようなアプローチが必要になるのか、というこれも一種の臨床的疑問の1つになります。

 

帰納法法と演繹法

 

これは一部、神戸大学の岩田健太郎先生の受け売りです。

要約すると生理学的に正しいことが必ずしも正義では無いということ、と言えるかもしれません。

簡単な例えでは、重症患者さんの血糖値目標を厳格に行うと死亡率が増加する傾向にあるということと似ています。

血糖値は正常値があります。

空腹時で126mg/dlというものです。

このあたりが一般的な目標になるはずです。

ところが、血糖値のコントロールを通常の血糖値の正常化を目標にしてしまうと、死亡率が上昇するというデータがあります。

これは、世界中で論争にもなりましたが、非糖尿病患者さんである重症患者を対象にした大規模研究でも同様の結果となっています。

血糖値を正常化することは演繹法の観点からは、通常正しい戦略ということになります。

一方、帰納法の観点からは、死亡率が増加するのであれば、間違った戦略ということになります。

医療の世界では分かっている事は少ないです。

そのため、解剖・生理学的アプローチも重要です。

とはいえ、ということです。

結局は、質の高い研究結果を参照して(帰納法的アプローチ)臨床実践に応用することになります。

Covidの場合は、帰納法的アプローチがデータが少なく、難しい点があります。

Covidの重症患者さんの場合は、デキサメタゾンというステロイドが治療の大きな柱になります。

ランドマーク研究は、RECOVERYトライアルです。

このトライアルでは、10日間の治療を行い死亡率改善効果を示しました。

ところが最近は、変異株の影響もあるのかもしれませんが、10日間の治療を終えて再度増悪するケースが比較的よくあるようです。

そうなると、RECOVERYトライアルのプロトコールを修正する必要が出てきます。

つまり、根拠のない治療を開始せざるを得ないということになります。

 

根拠のない治療を行うべきか

 

重症患者さんの場合、昔良く言われていた言葉があります。

「悪くなっている患者さんに何かしてあげられることは無いか?」という視点です。

気持ちはよくわかります。

過去の日本の集中治療は、このような感じであったと記憶しています。

例えば、IL-6の軽減目的に持続腎代替療法を行うなどの治療です。

これは以前よく行われていました。

たしかに、腎代替療法を行うとIL-6は減るようですが、この辺はよくわかりませんが、減るスピードよりも賛成されるスピードのほうが大きく、またその適応を否定するような研究結果が出されています。

そもそも、腎臓が悪くないので、腎代替療法ではないのですが。

Non-renal indicationなどとよく言われていました。

近年は、Covidに対するIL-6を指標とした治療戦略も取られているようですので、もしかしたら以前のような治療法が行われるようになるかもしれません。

実際、ナファモスタットなどではいくつかの研究結果も発表されているようです。

 

根拠のない治療を行う場合は研究ベースで行う

 

一般的に、ランダム化比較試験はどちらの治療を受けても、その結果はわからないから行われます。

ある程度、その結果が分かっているような場合は倫理的に行われません。

この例でよくあげられるのが、飛行機からパラシュート無しで飛び降りた場合とパラシュートありで飛び降りた場合の死亡率を比較する、といった研究が無いということが言われています。

当然ですが、倫理的に分かりきったことですので、研究の対象とはなりません。

けれども、この難題に立ち向かったという結果が、BMJクリスマス号に掲載されていました。

ただ、デザインは1mくらいの高さだったような気がします。

Covidもおなじく、なんとなく患者さんの具合が悪いからステロイドを追加する、では次に繋がりません。

行うのであれば、データとして集積できるようにして、過去を振り返れるようなデータは少なくとも集積しておくべきでしょう。

そして、一定のデータが蓄積されれば、観察研究として一定の仮設が生まれます。

例えば、ステロイドの投与期間の再考などです。

この仮設に対して、多施設研究などに発展して行くはずです。

繰り返しますが、目の前の患者さんが悪くなっていっているからといって、いろんな薬を足すのが妥当ではないということです。

わたしは看護師1年目の頃に、このような足し算の医療は間違っているということを、尊敬する医師から学びました。

その治療戦略の多くは、20年経過しても色あせていないように思います。

というか、時代がようやく追いついてきているようにも感じます。

肺動脈カテーテルや大動脈内バルーンパンピングなども同様に、死亡率改善効果は示されていません。

これらの結果から分かることは、通常利用はしなくて良いということかもしれません。

どうしても治療に難渋するような場合は検討してもよいですが、その効果が期待に添えるかはわかりません。

使う側の人間が、理解して使うことではじめて意味のある成果に結び付けられるような気がします。

 

まとめ

  • 根拠のない治療を行う場合は、データの蓄積が必要
  • 根拠のない治療でも必要な場合もある、それを決めるのが根拠に基づく医療(EBM)
  • 何がどこまで分かっててどこまで分かっていないかを、明確に

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