論文

ゾシンとバンコマイシンの併用による急性腎傷害発生率

結論

  • 急性腎傷害バンドルに、バンコマイシンに加えて、ピペラシリンタゾバクタム(ゾシン®)も加える
  • つまり、安易にゾシンを使わないということ
 

急性腎傷害


KDIGOガイドラインより引用

 

急性腎傷害とは、2004年にRIFLEという定義ができて以来、現在ではKDIGOというものが使用されています。

急性腎傷害は、「傷害」なのか「障害」なのか決着はついていません。

個人的には「傷害」を推奨しています。

以前、診療録に急性腎傷害と記載していたら、書き直されていたこともあります。

ということで敢えて、書くようにしています。

英語の場合だと、傷害はInjuryです、障害はFailureやDysfunctionでしょうか。

急性腎傷害は、Acute Kidney Injuryが正式な名称です。

通常、AKIとみんな読んでいます。

以前は、Acute Renal Failure(ARF)と呼ばれていました。

ARFの場合は、Renal(腎臓)という名称が、一般人には分かりづらいなどの理由もあり、AKIという名称に落ち着いたようです。

BMWという車がありますが、BMWのグリルはキドニーグリルと呼ばれています。

そのくらい、一般的な名称にしたということですね。

 

AKIのステージ


https://kdigo.org/wp-content/uploads/2016/10/2013KDIGO_AKI_ES_Japanese.pdfより引用

 

AKIには、大きく分けて2つのクライテリア(基準)があります。

1つは、クレアチニン(Scr)による分類です。

もう一つは、尿量による基準になります。

これら2つの基準より、ステージングがなされています。

ステージは、I〜IIIまでの3段階です。

ステージIは、例えば48時間以内にScrが0.3以上上昇した場合に、診断されます。

なんで、ステージ分類をしているのかというと、単純に死亡率が増加するからです。

わかりやすい診断基準と、死亡率上昇の観点から作成されているといえます。

 

診断基準の作成

 

2004年までは、AKIという概念はありませんでした。

ということは、国際的に共通の概念で診断できていなかったということになります。

そうなると、各研究によりいろんな定義が使われることになります。

AKIを予防しなければならないのに、ある研究では現在のステージIIIを見ている場合もあれば、ステージIを見ている場合もあるということになります。

このように、同じ事象を同じ視点から捉えることができないと、画期的な研究が発表されたとしても、その研究を適用できるかはわからないということになります。

そういったことで、急性腎傷害に詳しい有志が集い、AKIの診断基準が作成されました。

当然ですが、AKIの研究は爆発的に増加しています。

とはいえ、死亡率を確実に改善したりする、画期的な研究はないというのが現状だと思います。

 

AKIにはバンドルで対応

 

バンドルとは、束の事です。

AKIを改善しうる研究を寄せ集めて、全て実践できそうなものは介入しましょう、といった考え方になります。

例えば、正常の体液量の維持、腎毒性のある薬剤を避ける、平均血圧を維持する、バランスドクリスタロイドを使用する、毎日クレアチニンをチェックなどでしょうか。

バンドルに関しては、推奨がこれといったものはないかもしれませんが、これらのうち1つだけを介入するのではなく、全てにおいて介入するということが重要になります。

腎毒性のある薬剤の代表は、バンコマイシンと呼ばれる抗菌薬の1つです。

平均血圧に関しては、通常65以上ですが、バンドルとしての積極的介入の場合は平均血圧80以上を目指します。

輸液は、以前は生理食塩水が使用されていましたが、クロールが多く含まれているため、腎傷害の発生率を増加させるとされています。

一言でAKIバンドルを表すと、適正体液量を維持し、血圧は高めに、薬剤を見直し、必要最小限の輸液を行う場合は細胞外液、ということになります。

 

バンコマイシンとピペラシリンタゾバクタムの併用は腎傷害発生率を増加させる


こちらより引用

こちらより引用

 

今回の研究は、メタ解析になります。

メタ解析とは、いくつかの研究を集積し1つの研究として発表したものになります。

エビデンスレベルでいうと、最も質の高い研究という位置づけです。

臨床的には、ピペラシリンタゾバクタムの商品名は「ゾシン®」というものです。

現在は、後発品がありますので、タゾピペなどいくつかあります。

臨床的には、ゾシンが言いやすいので、ついゾシンゾシンとみんな言っています。

バンコマイシンは「バンコ」とよく言われます。

重症患者さんには、通称「ゾシン・バンコ」と呼ばれる組み合わせで抗菌薬が処方されます。

もっと略して、「ゾシ・バン」と呼ばれることもあります。

もう1段階上がれば、メロペネムと呼ばれる抗菌薬が処方されます。

この場合は、「メロペン・バンコ」と呼ばれています。

こちらももっと略して、「メロバン」と呼ばれることもあります。

 

略語について

日本では抗菌薬は、略語で記載されることが多いです。

標準的なものでは、化学療法学会より出されているものが標準的に使用されています。

ちなみに、ピペラシリンタゾバクタムは、PIPC/TAZと略されます。

これも書くのがめんどくさいので、頭文字をとってP/Tと記載することも多いです。

バンコマイシンは、VCMです。

メロペネムは、MEPMになります。

このあたりの略語は、薬剤感受性結果にも略語で記載されているので、憶える必要があります。

Vancomycin Plus Piperacillin-Tazobactam and Acute Kidney Injury in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis

 

参照した研究は、Critical Care Medicine: January 2018 - Volume 46 - Issue 1 - p 12-20 です。

https://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/2018/01000/Vancomycin_Plus_Piperacillin_Tazobactam_and_Acute.2.aspx

 

結果

15の研究より、24799症例が集積されました。

16.7%にAKIが発生しました。

うち22%はバンコマイシン+ピペラシリンタゾバクタムの併用でした。

比較群では、12.9%にAKIが発生しました。

NNHは11でした。

NNHとは、何人治療して何人に有害性が確認されたか、というものになります。

つまり、11人治療して、一人はAKIが発生したということですので、相当なリスクといえます。

AKI発生までの時間は、VCM+P/Tでは、VCM+CFPM もしくは カルバペネムと比較して、差はありませんでした。

平均差-1.3; 95%信頼区間 -3~0.41日でした。

AKIのオッズは、VCM+P/Tでは、VCM単剤と比較して、増加しました。

オッズ比3.4; 95%信頼区間, 1.8~3.91でした。

P/T単剤では、オッズ比2.7; 95%信頼区間 1.97~3.69でした。

小規模分析では、968の重症患者が検討されました。

VCM単剤では、オッズ比9.62; 95%信頼区間 4.48~20.68でした。

VCM+P/TCFPMもしくはカルバペネムでは有意差はありませんでした。

オッズ比1.43; 95%信頼区間 0.86~2.11

 

まとめると

P/T+VCMのNNHは11とかなり高頻度。

そのオッズ比は、3.4。

AKI発生までの時間は変わらない。

VCM単剤でも、オッズ比9.6とリスク。

私見

 

この結果の解釈はかなり難しいものといえます。

というのも、P/Tは重症患者さんには、頻用される薬剤です。

それも、カルバペネム系の温存という観点からよく使用されます。

つまり、重症患者に対しカルバペネム温存の目的で、VCM+P/Tを使用したとします。

その結果、腎傷害のため多臓器障害となり、死亡率へ寄与する可能性が高くなるということです。

AKIはなぜ、3段階のClassificationを設けたのかというと、過去の研究より死亡率が増加するからです。

例えば、今までは48時間で0.3程度のSCrの上昇は、無視できたのかもしれませんが、ちゃんと検討すると死亡率が上昇するからということになります。

これ以上は、現場の医師の判断になりますが、このような結果は非常に悩ましいといえます。

わたしは看護師ですが、恐る恐る毎日モニタリングしながら、P/T+VCMを使うかもしれません。。

 

まとめ

ピペラシリンタゾバクタムとバンコマイシンの併用は、急性腎傷害のリスクということを念頭に使いましょう。



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