総合診療内科 診療科

「バールのようなもの」と診断推論

結論

  • 診断とは、その可能性が限りなく高いものが選択される
  • 診断とは、その他の可能性を限りなく除外されたものが選択される

診断推論


診断推論とは、看護師にとっては普通あまり聞き慣れない言葉です。

ということは、看護師にとっての弱みになります。

看護師は、診断が苦手です。

というか、診断しないように教わってきます。

個人的意見ですが、診断推論ができなければ看護はできません。

これは、イコール診断ができるようになりなさいということではありません。

診断の道筋を医師と共有しましょうということです。

例えば、感染性性心内膜炎

「感染性心内膜炎」という病気があります。


この病気は、簡単に診断がつく場合もありますが、診断がつかない場合もそれなりにあります。

つまり、「感染性心内膜炎疑い」ということで入院になります。

入院したら、感染性心内膜炎の可能性をあげるための検査を行います。

代表的なものが、血液培養と経食道心エコーです。

これらは、いわゆるDukeとか修正Duke基準と言ったものになります。

Duke基準は、大基準と少基準より構成されます。

大基準は、血液培養陽性、心エコーで疣贅などがあります。

つまり、この2つのうち少なくともどちらかは検索できなけば、診断にたどりつきません。

例えば、血液培養が陽性になりやすいタイミングを看護師が知っていたらどうでしょうか。

一般的に悪寒戦慄時に血液培養が陽性になりやすいとされています。

入院中に、発熱だけではなく、悪寒戦慄があったとします。

事前指示どおりに、解熱剤で経過をみるのか、血液培養を再検するのかでは、今後の方針に大きな影響を与える可能性があります。

この場合に、血液培養を更に追加することで、陽性となれば診断にたどり着けます。

他には、末梢サインと呼ばれるものがあります。

ジェーンウェイサインやオスラー結節などが有名です。

末梢の塞栓サインですが、「その眼」で見なければ見つかりません。

つまり、その眼で繰り返し診察を行うことで発見されます。

わたしもその様な経験は、何度も経験しています。

だからこそ、診断の道筋に看護師が関わってほしいと思っています。


心音も同様です。

エコーは施行者の能力に依存します。

心音も施行者の能力に依存しますが、音は聞こえるはずですし、経過中変化する可能性があります。

エコーは看護師が気軽に使えなかったとしても、心音ならいつでも聞けるはずです。

弁破壊が進行すれば、心雑音もどこかのタイミングで出現する可能性は十分にあります。

ある意味、この様な診断の道筋を共有する行為は、医師よりも難しいことをしているかもしれません。

臨床では、分野として得意・不得意分野があります。

看護師の得意領域は、数ある医療職の中で最も患者さんに近いということです。

これは、圧倒的な強みになります。

だからこそ、いろんなアプローチができます。

不明熱の場合でも、病歴が重要です。

ところが医師は、検査を重視したことで、重要な病歴の聴取がおろそかになっているかもしれません。

だからこそ、医師と共有してほしいのです。

バールのようなものはバールなのか

先日、食堂でニュースがついていました。

バールのようなもので脅された、という内容でした。

このときに、バール「のようなもの」とはどのようなものがあがるでしょうか。

つまり、バールのようなものというからには、バールに近い形のものである必要があるわけです。

そもそも、「バール」とは何でしょうか。

通常、釘を抜いたりするときにつかう道具です。


特徴は、90度に曲がっていて、片側が長く、それぞれの端は二股に分かれています。

わたしの場合、この「バールのようなもの」を見た際に他に何が想起されるか考えてみました。

わたしの知識では、他に想起されるものがありません

つまり、わたしのなかでは、バールのようなものは、バールになります。

この結論に至るには

この結論に至るには、2つの要因があります。

  • 1つは、わたしの知識不足
  • もう一つは、そもそもバールしか存在しない

知識不足とは、診断ではよくあることです。
鑑別診断のザルからふるい落とされて、最も可能性の高い診断に至ります。

けれども、そもそもそのザルから、鑑別診断が漏れていた場合は、その診断を想起できません。


このもれを防ぐには、知識をつけることと他人の経験から学ぶということです。

人の知識には、限界があります。

そして、知っていても忘れることもあります。

そもそも同じ病気でも、そのプレゼンテーションは個人によります。

この様な、診断エラーの領域でも、看護師も大きな力になりえます。

実際に、看護師の一言から診断にたどり着いたということもあると思います。

Pivot and cluster

Pivot and clusterという概念があります。


これは、総合診療で有名な志水太郎先生のメソッドです。

想起された診断の周囲の診断も並行して考えるというものです。


星には全く詳しくないのですが、北極星が想起されれば、近くにはこぐま座があるようなので、こぐま座も同時に想起されるといった概念です。

話をバールに戻しますと、Pivot and clusterの概念では、他に想起される「モノ」がありません。

ただ、これは知識不足の可能性はあります。

最終的には直接見にいく

わからないときは、最終的に実際に確かめる事が必要です。

たとえば、PET-CTとよばれるような検査です。

不明熱診療では、検査を沢山やっても結果的にわからないということがあります。

その時は、最終手段としてのPET-CTを用いることで、熱源を精査する事が可能になります。


そもそも、最初からPETを撮ればいいような気もしますが、そんな事していたら効率が悪いので、通常行いません。

今回の例では、あくまでもわからないときに、バールのようなものを直接見に行く必要があるということです。

病院の場合だと、それは内視鏡であったり、CT・MRIであったり、胸・腹腔鏡であったり、病理検査であったりということになります。

まとめ

  • 診断の場合、その診断である可能性が極めて高い場合は、その診断である場合が多いです。
  • 診断がよくわからない場合もあります、その様なときに初めて検査が必要になります。

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