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結論
- ESBL(基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ)に対しては、セルメタゾールかメロペネムの、ほぼ2択
- ピペラシリンタゾバクタムは、感受性ありでも、死亡率が増える
ESBLとは
一言で言えば、耐性菌です
耐性菌の代表は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)がとても有名です。
耐性菌の問題点は、使える抗菌薬が限られているということです。
抗菌薬が限られているだけで、特定の抗菌薬を使って良くなればよいのですが、実はそうでもありません。
例えば、MRSAの場合は、バンコマイシンという抗菌薬が第一選択となります。
「じゃあ、MRSAだからバンコマイシン使えば大丈夫だね」というわけにはいきません。
もちろん、抗菌薬の投与選択は抗MRSA薬のバンコマイシンになります。
しかし問題点は、MRSA感染症の場合は、死亡率が上昇するというところにあります。
このときに気をつけるべきは「感染」と「定着」は分ける必要があるということです。
「感染」と「定着」
感染:特定の細菌により、病気(感染症)を発症した状態
定着:特定の細菌が「いる(検出された)」だけで、病気(感染症)を発症していない状態
耐性菌あるある
耐性菌は、施設への退院のときにも問題になります。
医学的には問題無いのですが、クラシカルな風習が問題になります。
例えば、老健施設などへの退院が必要な状況では、施設から鼻腔培養や痰培養の提出を求められます。
当然、患者さんは退院できる状態なので、とても元気です。
このときの(監視)培養の結果、MRSAが検出されることはよくあります。
病院にはそこら中にいるのです。
おかしな風習としては、MRSAだけが目の敵にされている状況があります。
他にも耐性菌は、たくさんありその代表がESBLです。
ところが、ESBLが監視培養で検出されても、施設側からは(経験上)何も言われません。
つまり、この風習は単なる風習であり、監視培養により自施設に耐性菌を持ち込まないような対策ではありません。
あまり大きな声では言えませんが(言ってますけど)、施設から求められた培養検査も細菌が検出されないように採取しがちです。
検査には様々な弊害がある
当然ですが、本来不要な検査は、医療コストの増大に繋がります。
1検査あたりはポケットマネーで出せる程度だとしても、それが日本全国で行われていると、医療費の増大に繋がります。
患者さんの苦痛も増えます。
検査技師さんや、看護師さんの負担も増えます。
外注の場合、移送コストもかかります。
そして、検出された場合には、治療を求められますので、バクトロバン軟膏処方に伴う医療コストも増加します。
ICUでの監視培養は良いとしても、施設での監視培養には意味がないと言わざるを得ませんので不利益の方が多いといえます。
培養結果をみる
培養結果では、痰・尿・血液が一般的です。
これらの培養結果を見てみましょう。
最近は、ESBLとして書かれていることが多いと思います。
ESBLは、大腸菌(E.coli)、クレブシエラ(K.oxytoca, K.pneumoniae)、プロテウス(proteus)が多いです。
臨床上頻度がおおいのは、E.coliとK.pneumoniaeです。
通常の腸内細菌(大腸菌やクレブシエラなど)でしたら、セファゾリンという抗菌薬でも比較的効果を示します。
ちなみに、セファゾリンとは、第1世代セフェムと呼ばれており、カバーされる細菌は少なくなります。
カバーが少ないということは、例えばセファゾリンでは2つの細菌に効果を示すけど、メロペネムなどの広域抗菌薬の場合だと10の細菌に効く、そんなイメージです。
例えば、ショック状態で後がない、という状況下では、メロペネムがより多くの細菌をカバーしますので、広域抗菌薬が選択されます。
ESBLの感受性をみる
培養結果を見たら、次に感受性結果をみます。
通常、ピペラシリンタゾバクタムの感受性は、S(Sensitive)であり、抗菌活性があることが示されています。
そのため、ESBLに対しては効果があると認識されていました。
ところが、標準治療薬であるメロペネムとの比較を行った研究である、MERINO trialではメロペネムに劣っているという結果になりました。
より厳密に言えば、非劣勢研究という研究手法が用いられています。
非劣勢研究とは、標準治療薬と比較して劣っていないことを調べるための手法です。
なぜ、この様な事を行うのかというと、通常プラセボ対象比較試験が行われます。
ところが、感染症治療をプラセボ対象で行うと、プラセボ群で明らかに死亡率が増加するということは、確実です。
そのため、メロペネムとピペラシリンタゾバクタムとの比較研究が行われます。
そして、通常は比較研究が行われるのですが、同じ抗菌薬ですので、いわゆる有意差をもって差が出る結果になるとは思えません。
だから、差が無いことを検証するための試験が通常は行われます。
それが、非劣勢試験になります。
実は、詳しいことはわたしも知りませんが、通常の研究を行って、P値>0.05の場合は有意差なしということになります。
けれども、この場合はそもそも2群間の比較を行う研究ですので、差が無いということまでは証明できません。
MERINO トライアル
2018年に、JAMAというメジャージャーナルに掲載された研究です。
デザイン
研究デザインは、オープンラベル、非劣勢、多施設、多国籍、ランダム化比較試験になります。
対象者は391症例で、血液培養からセフトリアキソン耐性の、E.coliとK.pneumoniaeが検出された症例です。
オープンラベルとは、盲検化されていないということです。
つまり、どちらの薬剤を使用したか、わかってしまうという欠点があります。
ホーソン効果と盲検化
わかってしまえば、ホーソン効果といって、治療した医療者の心情などに左右される可能性が生じます。
本来は、盲検化された研究を行ったほうが、より完璧なデザインですが、お金や手間の問題が生じます。
主要評価項目
主要評価項目は、全ての原因による30日死亡率とされました。
非劣勢マージンは5%に設定されました。
介入
治療は、メロペネム1gを8時間毎とピペラシリンタゾバクタム4.5gを6時間毎に投与されています。
治療期間は、担当医の判断で、4−14日の治療が行われました。
最終的に379症例が解析対象となり、平均年齢は66%で、男女比はほとんど同じでした。
結果:30日死亡率
- ピペラシリンタゾバクタム群:23/183(12.3%)
- メロペネム群:7/191(3.7%)
risk difference, 8.6% [1-sided 97.5% CI, −∞ to 14.5%]; P = .90 for noninferiority
重篤な有害事象
- ピペラシリンタゾバクタム群:5/188(2.7%)
- メロペネム群:3/191(1.6%)
新人看護師向けとしていますので、非劣勢研究では片側検定でOK、通常は両側検定を使う程度でよろしいかと思います。
検定もper-protocol検定でOK、通常はITT解析を使う、程度でよろしいかと思います。
私見
- 対象が、ESBL菌血症ですので、重症患者に限らず、広く一般的です。
- そのため、外的妥当性はあると思われます。
- ピペラシリンタゾバクタムは、通常感受性ありですが、標準治療とは言えないという結論になりそうです。
- ただし、日本にはセフメタゾールという、抗ESBL薬とも言える薬剤があります。
- このセフメタゾールには、今後の試験を行っても良いのではないでしょうか。
- そもそも、ESBLの場合は、使える抗菌薬が限られていますし、広域抗菌薬は温存したいと考えます。
- 臨床的には、重症でなければセフメタゾールを選択しています