急性虫垂炎
急性虫垂炎は、とてもコモンな病気です。
腹痛といったら、まず虫垂炎を考えるほどです。
しかも、母数が多いだけに、非典型的なプレゼンテーションで病院にやってきます。
時には、胃腸炎と診断されたり、時には風邪と診断されたり、といった感じです。
虫垂炎を見る医師は、必ず1度は騙された経験を持つと思います。
しかも、虫垂炎の厄介なところは、見逃したら結構やばいというところです。
例えば、虫垂炎を見逃すと穿孔や膿瘍形成に至ります。
通常は手術療法が標準治療とされてきましたが、急性単純性虫垂炎の場合は、抗菌薬治療だけでも治療可能といわれています。
ただし、当然ですが一定の割合で外科手術と比較すると、再発が増加するといわれています。
単純性虫垂炎とは、糞石や膿瘍や穿孔が無いタイプの虫垂炎です。
単純に虫垂に炎症が起こっている状態です。
一方、複雑性とは糞石があったり、穿孔や膿瘍を伴うタイプのものです。
今回の研究
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2775227?guestAccessKey=136b5271-a0d0-4554-823a-fb0347d2c285&utm_content=weekly_highlights&utm_term=011721&utm_source=silverchair&utm_campaign=jama_network&cmp=1&utm_medium=email
今回の研究は、キノロン系の内服抗菌薬である、モキシフロキサシンを用いた研究です。
モキシフロキサシンの特徴は、嫌気性菌も多少カバーするというところと、バイオアベイラビリティがとても良いところです。
つまり、点滴と変わらない吸収率を持つ抗菌薬です。
わたしの知っている虫垂炎治療は、点滴後にはなりますが、キノロン系のレボフロキサシン+メトロニダゾールなどの治療レジメンが多い様に感じています。
トライアルの名前は、APPACと書かれています。
多施設、非盲検、非劣勢、ランダム化比較試験になります。
モキシフロキサシン400mgを7日間行う群で、295症例を対象にしました。
点滴のエルタペネム1gを2日間、その後レボフロキサシン500mg+メトロニダゾール500mg1日3回5日群が、288症例を対象にしました。
つまり、どちらも治療期間は7日間です。
違いと言えば、点滴の2日間と、内服抗菌薬1種類か2種類かの違い程度です。
結果としては、599症例が集積されています。
うち、581症例が1年後まで追跡されています。
1年後の治療成功率は、モキシフロキサシン群で約70.2%、点滴併用群で73.8%でした。
今回の研究は、非劣勢研究で非劣勢マージンを6%に設定しています。
結果的に、この約3.5%の少ない差でしたが、非劣勢は証明されませんでした。
つまり、この結果だけをみると、急性単純性虫垂炎には、モキシフロキサシン400mgの単独処方でも、ある程度の治療成功率が保証されます。
とはいえ非劣勢を示す事ができなかったということは、保存治療での標準治療がやはり推奨される結果となりました。
私見
この少ない治療成功率の差は、臨床的にも有意と言えるのかは疑問だが、母数が増えるほどその差は広がるため、この結果を信頼したほうがよさそうである。
そもそもモキシフロキサシンは、嫌気性菌のカバーはメトロニダゾールと比較すると弱めの印象がある。
日本では、多分入院になるので問題なさそうだが、少なくとも2日間点滴を行えばよいので、2日は頑張って入院でもよさそう。