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はじめに
低ナトリウム血症は、比較的よく見る病気の1つです。
病気の1つとはいえ、何らかの病気に関連した、症候で有ることの方が多いです。
低ナトリウム血症の原因で多いのは、SIADHと呼ばれる抗利尿ホルモン不適合分泌症候群という病態が多いです。
SIADHは、病名ではありますが、症候とも言えます。
SIADHの原因
SIADHの原因は通常3つです。
肺・脳・薬です。
たとえば、肺炎になってナトリウムが減少した。
脳の術後でナトリウムが低下した。
薬を始めてから、ナトリウムが低下した。
などの場合があります。
痛みは可能な限りとる
他にも原因は何でもありといったくらい多彩です。
痛みで発生する場合も多いです。
だから、痛み止めはキードラッグといえますし、痛みを止めないということはそもそも、人道的に違和感を感じる必要があります。
痛み止めという手段を持っていながら、その使用を躊躇することは、あってはなりません。
虐待と同じとも言えます。
「知りながら害をなすな」といわれます。
痛みの場合は適切な鎮痛剤を適切な量で使用することが重要です。
多くの場合は、痛み止めの量が不足している場合です。
塩分摂取量不足
他には、摂取量不足でもおこります。
例えば、塩分摂取の目標は6gといわれています。
体調不良で、塩分摂取量が減少すると、ナトリウムが減少します。
ナトリウムは、水とナトリウムのバランスにより成立します。
水分量が多いと、ナトリウムは下がります。
水分量が少ないと、ナトリウム量は上がります。
高ナトリウム
ナトリウムが高い場合は、強い喉の乾きを生じますので、通常水を飲むように体が反応します。
けれども、水を飲めないような状況(例えば意識が悪い)では、水を飲めませんので、ナトリウムは上昇することになります。
医原性
病院に入院すると、点滴をされます。
経口摂取ができない状況では、特にナトリウムの量には注意が必要になります。
点滴の種類にもよりますが、ナトリウム含有量が少ない輸液を漫然と継続している場合は、血清ナトリウムが低下することがあります。
点滴中のナトリウム含有用
細胞外液の場合は、500mlで約4gの塩分が入っています。
生理食塩水は、500mlで5g程度です。
ざっくり憶えるためには、生食100mlで約1gの塩分と記憶します。
細胞内液の場合は、500mlで約1gの塩分含有です。
例えば、維持輸液の大まかな目標として、体重(kg)あたり、30mlとします。
50kgの場合は、1500ml程度が目標になります。
このとき、細胞内液の輸液を3本行うと、塩分換算では約3gです。
1日6g程度の塩分摂取が目標でした。
ということは、細胞内液の輸液だけでは、不足することになります。
血清ナトリウムは、体液量とのバランスですので、体液量は増えますが塩分摂取量が少ないことで、血清ナトリウムが減少することになります。
大まかに、塩分摂取量は1日6gと憶えましょう。
低ナトリウム血症の治療
原因と程度にもよりますが、SIADHでしたら水分制限と、塩分負荷になります。
重症の場合は、意識障害や時には痙攣などの重篤な状態になります。
通常、血清ナトリウムが120を下回るような状況では、高率に痙攣などの症状を呈します。
この様な場合は、内科的な緊急事態です。
血清ナトリウムの緊急補正が必要になります。
Rules of 6
通常低ナトリウム血症の場合は「Rules of 6」といって、1日に6mEqまでの補正を目標に行います。
テキストには、0.5mEq/hr = 12mEq/dayまでの記載もありますが、最近はこれは過補正の可能性が示されています。
例えば、1時間でNaが1上昇した場合は、上がりすぎですので、経過をみて5%ブドウ糖などでの「逆補正」もおこなわれます。
つまり、このような場合は、Naを下げる治療を行うことになります。
Rules of 6は、基本的には症状が消失するまでは、緊急補正の適応になります。
一般的には、血清Naが120mEqを超えるまでというのが、目安になります。
例えば、血清Naが110の場合は、数時間で10mEq程度の補正が必要になりますが、その場合は仕方ありません。
症状消失からは、1日6mEq以内を目標に行います。
そんな緊急事態を呈する低ナトリウム血症は、なかなかみる状態ではありません。
けれども、髄膜炎などと同様に内科の緊急状態ですので、その対応には留意しておく必要があります。
高張食塩水
低Naの補正には、3%食塩水を使用することがあります。
作り方は、生食400ml + 10%NaCl 120mlで作成します。
生食500mlから、100mlを引いて作成します。
より厳密に作成するには、120ml引く必要があります。
輸液ボトルには、規定された量よりも多めの製剤が入っています。
この理由に関しては、詳しくないのですが、ルートの分などともいわれています。
偽性低ナトリウム血症
ちなみに、低Na血症をみたら一応、偽性低Na血症の除外は必要になります。
例えば、高トリグリセリド血症や、高血糖などです。
内科緊急状態に対するボーラスか持続か
そんな内科緊急状態に対して、3%食塩水はボーラスか持続どちらが良いのかははっきりしていませんでした。
通常ボーラスで使用しますが、慣れていない場合は過補正にもなりますので、持続で投与されている場合もあります。
SALSA trial
今回の研究では、低ナトリウム血症に対して、3%食塩水のボーラスと持続を比較した研究になります。
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2772353
結論としては、有害事象もなく変わらなかったという結果です。
ただし、ボーラス投与の方が、Na目標達成も早く、再治療も少ないですので、これまでどおりボーラスで使用することが良さそうです。
通常は、3%食塩水150を20分でボーラス投与し、採血しつつ症状消失までを目処に行います。
目安としては、5mEq/hrを目安に補正を行います。
今回の研究では、6時間毎に2ml/kgのボーラス投与と、0.5ml/kg/hrの持続投与が比較されました。
50kg換算では、100mlのボーラスと、150ml/6hrですので、持続投与群の方が時間をかけて補正する場合は、投与量が多くなってしまいます。
とはいえ、3%食塩水が必要なシチュエーションは少なく、臨床的には6時間程度である程度の治療の目処は付くことが多い様な印象です。
背景
症候性の重症低ナトリウム血症に対して、高張性生理食塩水を緩徐持続注入療法(SCI)として投与するか、急速間欠ボーラス(RIB)療法として投与するかを明らかにした質の高い研究はほとんどない。
目的
症候性低ナトリウム血症患者におけるRIBおよびSCIと高張性生理食塩水の過矯正のリスクを比較する。
デザイン
多施設、非盲検、無作為化臨床試験には、中等度から重度の低ナトリウム血症で、グルコース補正血清ナトリウム(sNa)値が125mmol/L以下の18歳以上の患者178人が登録された。募集は、2016年8月24日から2019年8月21日まで、韓国の3つの総合病院の救急科と病棟で実施した。
介入
臨床症状の重症度で層別化した高張性生理食塩水3%のRIBまたはSCIのいずれかを24~48時間投与。
主要評価項目
24時間以内にsNa値が12mmol/L以上、48時間以内に18mmol/L以上上昇したと定義された任意の期間における過補正であった。副次的転帰として、治療アプローチの有効性と安全性を評価した。sNa濃度は2日間、6時間ごとに測定した。
結果
178名(平均年齢73.1[12.2]歳、男性80名(44.9%)、平均sNa濃度118.2[5.0]mmol/L)をRIB群(n=87)またはSCI群(n=91)に無作為に割り付けた。RIB群とSCI群では、87人中15人(17.2%)、91人中22人(24.2%)の患者で過矯正が発生した(絶対リスク差、-6.9%[95%CI、-18.8%~4.9%];P=0.26)。RIB群はSCI群よりも再寛解治療の発生率が低かった(87人中36人[41.4%]対91人中52人[57.1%]、それぞれ;絶対リスク差、-15.8%[95%CI、-30.3%~-1.3%];P = 0.04;治療に必要な人数、6.3人)。sNa濃度の上昇や症状の改善効果には両群間で差はなかったが,SCIと比較してRIBの方が1時間以内に目標補正率を達成する効果が高かった(intention-to-treat解析:87例中28例(32.2%)対91例中16例(17.6%))。 6%の患者ではそれぞれ14.6% [95% CI, 2%-27.2%]; P = 0.02; 治療に必要な数, 6.8; 1プロトコールあたりの解析では72人中21人(29.2%)対73人中12人(16.4%)の患者ではそれぞれ12.7% [95% CI, -0.8%-26.2%]; P = 0.07)であった。意図-治療間解析とプロトコルごとの解析の統計的有意性は、1時間以内に目標補正率を達成したことを除いて、すべての転帰について同様であった。
結論
この無作為化臨床試験では,低ナトリウム血症治療のための高張性生理食塩水の RIB と SIC の両方の治療法が有効で安全であり,過矯正リスクに差がないことが明らかになった.しかし、RIBは治療的再灌流治療の発生率が低く、1時間以内にsNaを達成する効果はSCIよりも高い傾向にあった。RIBは症候性低ナトリウム血症の好ましい治療法として示唆される可能性があり、これは現在のコンセンサスガイドラインと一致している。