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虫垂炎には抗菌薬療法か外科療法か

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2014320

虫垂炎

虫垂炎は、いわゆる盲腸のことです。
最近は、虫垂炎でも通じるのかもしれませんが、盲腸と言ったほうが通じる場合の方がまだ多いのかもしれません。

虫垂炎のタイプ

虫垂炎は、単純性複雑性に別れます。

単純性とは、膿瘍・穿孔・免疫不全・高齢・妊婦などを除く状態のようです。
また、虫垂結石(糞石)がある場合は基本的に手術の適応になりますので、複雑性に分類されるようです。

日本では、3種類に分類されることが多いのかもしれません。
カタル性(炎症が粘膜内)、カタル性(炎症が壁の全層)、壊疽性(虫垂壁の壊死)のようです。

https://www.dojinkai.com/kujohp/cases/appendicitis.html

虫垂炎の治療方針

長らく、手術療法がメインでした。
しかし、近年は抗菌薬療法での治療も可能とされています。
ただし、単純性虫垂炎という前提です。

内科的加療(抗菌薬加療)が可能になったとはいえ、長期的には再発での手術を要する症例や経過中に悪化する可能性もあります。
そのため、基本的には外科医にコンサルテーションを行う必要のある疾患です。
一般的には、複雑性の場合はドレナージを含む手術が選択されます。

抗菌薬

今回のCODA trialでの抗菌薬は、24時間以内の静脈注射では、エルタペネム、セフォキシチン、もしくはメトロニダゾールとセフトリアキソン・セファゾリン・レボフロキサシンが使用されています。

経口の場合は、合計10日間の使用です。
メトロニダゾールとシプロフロキサシンかセフジニルが使用されています。

何れにせよ、腹腔内感染ですので、この様なレジメンになります。
ちなみに、ほかの研究ではエルタペネム3日間静注で使用後、レボフロキサシンとメトロニダゾールを5日間の合計7日間の研究が多いように思いますが、色々あります。

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2320315

虫垂炎の診断は難しい

簡単といえば簡単な場合もありますが、母数が多いだけに非典型的な病歴で来院することがあります。
また、CTでの診断精度は高いといわれていますが、そもそもCTでの読影も結構難しいです。

放射線科医も人間ですので、見逃す場合もあります。
後々見返すと、虫垂がバッチリ腫れていることもあります。

このようにテキストには、CTの感度や特異度はかなり高いと書かれていますが、その画像をみて診断することは臨床現場ではよくあります。
とにかく、腹痛や消化器症状の場合は必ず鑑別に入れておくことが重要です。

胃腸炎と判断して帰宅させる場合も、Mcburney圧痛点に印をつけて「ここを押して痛くなったら病院に来てください」と伝えておくとよいと書いてある本もあります。
そのくらい、常に念頭におく姿勢が見逃しを防ぐことに繋がります。

一方、何でもかんでもCTを撮っても、逆に判断に悩むことも増えます。
CTを撮る場合は、基本的に自分で読影できる能力がある場合が前提でせす。
CTを撮れば、虫垂炎が分かるわけではなく読影能力が相まって初めて虫垂炎と判断できます。

今回の研究:CODA trial

非盲検研究

外科系の研究では、盲検化することが困難です。
そのため、介入群か通常群かがすぐに分かってしまいます。
けれども、これは研究の限界でこれ以上質の高い研究は困難です。

非劣勢試験

基本的には虫垂切除術がスタンダードです。
そのスタンダードと比較して、劣っていないことを確認する目的の研究です。
そのため、抗菌薬療法の方が優れているということを目的とした研究ではありません。

通常群は虫垂切除、介入群は抗菌薬療法10日間を比較した研究です。
EQ-5Dという生活の質を、それぞれ比較検討しています。
このEQ-5Dによる30日間の生活の質が、主要評価項目になります。

副次的評価項目(セカンダリアウトカム)は、90日以内の合併症率を比較検討しています。

結果

合計1552症例が集積されています。
776症例が抗菌薬療法を受けています。
そのうち、47%は入院せず抗菌薬療法を受けています。

776症例は外科手術を受けています。
そのうち、96%が腹腔鏡下で行われています。

合併症

合併症発生率は、抗菌薬群が8.1%、外科治療群が3.5%でした。
これは、虫垂結石保有群で20.2%、虫垂切除群で3.6%でした。
統計学的検定結果も、抗菌薬群が有意に増加していました。

90日時点で抗菌薬群の29%が手術を受けました。
虫垂結石(糞石)を持つ41%と、虫垂結石を持たない25%が手術を受けました。

重篤な有害事象に関しては、抗菌薬群4%、手術群3%で有意差はありませんでした。

結論

抗菌薬は虫垂切除に対して、非劣勢を示しました。
しかし、抗菌薬群では10例中約3例が90日時点までに、虫垂切除術を受けました。
虫垂結石(糞石)保有者は、手術への移行と合併症リスクが高い結果となりました。

私見

いろんな研究で、虫垂炎に対する抗菌薬療法の非劣勢が示されています。
今回の研究でも、結果自体は非劣勢が示されていますが、結果的に約3割が手術へ移行しています。
そうなると、この研究を読む立場によってプラクティスが変わる可能性があるように感じました。

例えば、外科医の解釈では手術に移行するのであれば、最初から手術を勧めるかもしれません。
内科医であれば、抗菌薬を推すかもしれません。

少なくとも、抗菌薬療法という選択肢が拡大したということは良いことだと思います。
ただし、手術への移行は常に考慮しておく必要があることは変わりないように感じます。
また、日常のプラクティスでもある虫垂結石(糞石)がある場合は、手術を選択した方がよさそうです。

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