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はじめに
今日この論文を読むまで、小児の下痢症に対する治療薬としての亜鉛の効果があることは知りませんでした。
途上国では、下痢症はよく遭遇し、かつ死亡率の高い病気の1つです。
世界3大感染症
世界3大感染症というものがあります。
- 結核
- HIV/AIDS
- マラリア
結核
結核は、先進国である日本は中蔓延国であることは有名です。
日本の中でも、地域によって流行している地域があるとされています。
最近では、漫画喫茶やネットカフェを住まいにしている人の結核感染も問題となっているようです。
HIV/AIDS
一方HIV/AIDSに関しては、治療薬が確立したと言っても良いですが、主に同性パートナーを中心に流行しています。
近年の性感染症では、梅毒も社会問題視されています。
性感染症にかかるということは、HIV/AIDSに罹るリスクがあると言うことと同義であると言えます。
マラリア
マラリアは、日本では現在大きな問題となっていません。
実は、世界で最も凶暴なのは(人を多く殺している)百獣の王ライオンではなく、蚊だとされています。
近年の温暖化で、日本で流行しないとは言えませんので、蚊に噛まれる(Mosquito bite)事は極力避けるようにしています。
世界5大感染症
上記の3大感染症に、比較的新規の感染症2つを加えた5つの主要な感染症があります。
- 下痢症
- 肺炎
下痢症
下痢症の原因は、たくさんあります。
先進国では、点滴へのアクセスが良いので下痢症で死亡するということは、めったにありません。
しかし、途上国では先にも書いたように、主な死亡の原因とされています。
今回の研究は、途上国での研究です。
どうやら、亜鉛が少ないと腸管粘膜の不安定性との関連性があるようです。
亜鉛欠乏のガイドライン
日本には、亜鉛欠乏のガイドラインというものが存在します。
下痢に関しても、言及されていますがそれほど多くのページを割いているわけではないので、少なくとも日本での成人においては、下痢の原因としての亜鉛欠乏は、ポピュラーとは言えないような気がします。
臨床的な個人的所感
亜鉛欠乏は比較的多い
亜鉛欠乏は、特に高齢者の誤嚥性肺炎などのベースの身体機能が不良な方では比較的多く見られるような気がします。
食思不振の精査目的に、味覚障害の改善を目的に時々測定されることもありますが、ルーチンでの測定は行なわれていない事がほとんどだと思います。
最近は、Covid-19での味覚障害も有名ですので、考えることが増えてしまい厄介です。
成人の下痢症への効果はあるのか
さらに、原因がよくわからない下痢もあります。
慢性下痢の鑑別の中にも、おそらくですが亜鉛欠乏はなかったように思います。
途上国とはいえ小児では、よく使用されているのであれば、成人の栄養状態が不良な方でも、亜鉛を補充することで、症状が改善する可能性もあるのでしょうか。
成人で亜鉛を補充する場合
通常、亜鉛を単体で補充する方法がありませんので、ポラプレジンク(プロマック®)という胃薬を使用して亜鉛の補充を行っています。
亜鉛の補充は、銅欠乏のリスクとされていますので、銅欠乏のリスクがある方には、銅の低下にも注意が必要とされています。
ちなみに、銅はココアに沢山含まれています。
今回の研究
もともと急性下痢に対して亜鉛20mgというのが、標準治療なのだと思います。
しかし、この量では嘔吐の合併症が多くなるので、半分量の10mgでの効果はどうなのか?というクリニカルクエスチョンです。
普段の使用量と比較して、半分の量で急性下痢症への効果は非劣勢を示せるかということと、合併症としての嘔吐などの分析を行っています。
症例数は4500ですので、大規模研究であるといえます。
大規模研究とはいえ、比較的簡単に行えそうな研究でもこのようなメジャージャーナルに掲載されるというお手本のような気がします。
余談ですが、途上国で行なわれたFEAST trialでは、輸液を500ml行っただけで、死亡率が増加したという衝撃的な研究も存在します。
途上国であることは、差し引いて考慮すべきですが、途上国から教わることも沢山あります。
Lower-Dose Zinc for Childhood Diarrhea — A Randomized, Multicenter Trial
背景
世界保健機関は,急性下痢症を発症した小児に対して亜鉛 20 mg/日を 10~14 日間投与することを推奨している.しかし先行試験では,この用量で下痢は減少したが,嘔吐は増加した.
方法
急性下痢症を発症したインドとタンザニアの生後 6~59 ヵ月の小児 4,500 例を,硫酸亜鉛を 5 mg,10 mg,20 mg のいずれかの用量で 14 日間投与する群に無作為に割り付けた.主要転帰は,5 日を超える下痢,排便の回数(非劣性解析で評価),亜鉛投与後 30 分以内の嘔吐の発現(優越性解析で評価)の 3 つとした.
結果
下痢が 5 日を超えて持続した児の割合は,20 mg 群で 6.5%,10 mg 群で 7.7%,5 mg 群で 7.2%であった.20 mg 群と 10 mg 群の差は 1.2 パーセントポイント(98.75%信頼区間 [CI] 上限 3.3), 20 mg 群と 5 mg 群の差は 0.7 パーセントポイント(98.75% CI 上限 2.8)であり,いずれも非劣性マージンである 4 パーセントポイントを下回った.下痢便の平均回数は,20 mg 群で 10.7 回,10 mg 群で 10.9 回,5 mg 群で 10.8 回であった.20 mg 群と 10 mg 群の差は 0.3 回(98.75% CI 上限 1.0),20 mg 群と 5 mg 群の差は 0.1 回(98.75% CI 上限 0.8)であり,いずれも非劣性マージン(2 回)を下回った.投与後 30 分以内の嘔吐は,20 mg 群で 19.3%,10 mg 群で 15.6%,5 mg 群で 13.7%に発現し,10 mg 群のリスクは 20 mg 群と比較して有意に低く(相対リスク 0.81,97.5% CI 0.67~0.96),5 mg 群のリスクも 20 mg 群と比較して有意に低かった(相対リスク 0.71,97.5% CI 0.59~0.86).低用量は,投与後 30 分を過ぎて発現した嘔吐が少ないこととも関連していた
結論
低用量の亜鉛は,標準用量の 20 mg と比較して,小児の下痢の治療における有効性に関して非劣性を示し,嘔吐の発現が少ないことと関連していた.
https://www.nejm.jp/abstract/vol383.p1231