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はじめに
今回の研究は、世界で最も権威のある臨床系医学雑誌であるNEJMに掲載されたものです。
一言で言えば、夜間低酸素を有するCOPDには夜間のみの酸素療法の効果、を検証した研究です。
結果は、思っていたほどリクルートされずに、有意差なしという結果になっています。
そもそも、この研究の発端は日中の低酸素血症に対しては、酸素療法による長期死亡率改善効果を有しています。
しかし、夜間の低酸素血症に対して、夜間のみ酸素療法を行うことの有用性は明らかではありませんでした。
そのため、今回の研究が行なわれました。
この研究がなぜ、このようなメジャージャーナルに掲載されたのかは、わかりません。
というもの、思っていたほどリクルートもされてません。
当初600症例を収集目標としていましたが、最終的には243名収集した時点で研究が終了しています。
Early terminationと呼ばれるものです。
Early termination(早期中断)の問題点は沢山あります。
そもそも、いろいろ計算されつくして目標症例数が検討されます。
しかし、結果的に目標症例まで届きませんでしたので、いわゆるパワー(検出力)不足といえます。
Early terminationでも、結果の差がつきすぎる事で、早期中断となるケースもあります。
最近の研究では、Covid-19に対するデキサメタゾンの研究も早期中断となっています。
最終的に予定症例数までリクルートを続ければ結果は変わった可能性もあります。
けれども、中間解析で偶然では説明できないほどに有意差がついてしまうと、さすがに研究を中断せざるを得ません。
このあたりの、中断基準もそもそも事前に設定されています。
この研究が、その中断基準に該当したのかはわかりませんが、おそらく研究を続けるにあたって、色んな問題が生じたのだと推測されます。
この研究のすごいところは、といっても最近のメジャージャーナルでは当たり前になってきていますが、ブラインド(盲検化)されている所です。
この研究では、在宅酸素を使用していますので、片方には酸素がでる通常の機器が設定されます。
一方、片方には空気しかでない、外見からは見分けのつかない機器が用いられます。
これを当初600症例に行う予定としていたため、この機器を揃えるだけでも、多大なコストが生じる事がわかります。
と、書きながら気づいたのですが、2010年〜2015年の5年間で243症例しかリクルートできなかったのは、4年間のフォローアップが必要だったからなのかもしれません。
そもそも、コホート研究でしたら、数十年に渡る追跡が行えますが、ランダム化比較試験の場合は基準が厳格に決められますので、追跡するだけでも大変だったのかもしれません。
とはいえ、脱落したケースも各群7例ですので、良質にフォローアップされていると言えるのでは無いでしょうか。
結果的に未解決問題が、また1つ増えたといって良さそうです。
まとめ
症例数の少ない、それほどインパクトがあるとは一見思えない研究だと思ったのですが、読んでいくうちに研究者たちの苦労が垣間見えた気がします。
研究はホントに大変ですし、ましてや死亡率を改善するという事は、ちゃんと研究を行えばなかなか難しいことなのだと思います。
INOX trial
背景:慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有し,慢性的に日中に重度の低酸素血症を生じる患者では,長期酸素療法によって生存が改善する.しかし,夜間のみの低酸素血症の管理における酸素療法の有効性は明らかにされていない.
方法:夜間の動脈血酸素飽和度低下を認めるが,長期酸素療法の適応がない COPD 患者に夜間酸素療法を 3~4 年間行うことで,死亡または COPD の増悪,すなわち長期酸素療法の現在の適応基準を満たす状態になることが減少するかどうかを明らかにする目的で,二重盲検プラセボ対照無作為化試験をデザインした.夜間パルスオキシメトリーでの記録時間の 30%以上が酸素飽和度 90%未満であった患者を,夜間酸素投与を受ける群と,偽酸素濃縮器で室内気を吸入する群(プラセボ群)に 1:1 の割合で割り付けた.主要評価項目は,intention-to-treat 集団における全死因死亡または Nocturnal Oxygen Therapy Trial(NOTT)基準に示されている長期酸素療法の必要性の複合とした.
結果:28 施設で,計画していた 600 例のうち 243 例が無作為化された時点で,患者の募集と参加の継続が困難であったことから,募集は早期に中止された.追跡 3 年の時点で,夜間酸素投与群に割り付けられた患者の 39.0%(123 例中 48 例)とプラセボ群に割り付けられた患者の 42.0%(119 例中 50 例)が,NOTT の長期酸素療法の適応基準を満たすか,死亡していた(差 -3.0 パーセントポイント,95%信頼区間 -15.1~9.1).
結論:この試験は検出力が不十分であり,COPD 患者に対する夜間酸素投与が,生存または長期酸素療法を必要とする状態への進行に正の効果をもたらすのか,負の効果をもたらすのかは示さない.
https://www.nejm.jp/abstract/vol383.p1129