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はじめに
発熱は、非常にコモンな症状です。
病院を受診する際の多くの主訴となる症状の1つです。
バイタルサイン
バイタルサインと言うものがあります。
直訳すると生命の徴候といわれています。
すなわち、生命の徴候である、バイタルサインが破綻してしまうことで生命維持が困難となる数値であるとも言えます。
バイタルサインは、血圧・呼吸数・体温・脈拍といった値の事を一般的に示します。
近年(とはいっても数十年前)ではこれに、酸素飽和度を加えた5つの項目のことを示します。
患者さんは発熱があることをとても重大なこととして捉えています。
たしかに、重大であることが多いのですが、生命の徴候として最も重要なバイタルサインは、呼吸数の増加であるといわれています。
「熱が38℃あって、昼には37.9℃で、病院に来る前は38.4℃でした」といわれても、熱があったんだなくらいにしか医療者は認識していません。
というのも、発熱の際に熱があるというだけでは、大した情報になりえないためです。
大した情報というのは、少し語弊があると思いますが、熱に加えてぐったりしているとか、呼吸数が早いとか言った全ての情報より総合的に判断して、この発熱は危険な発熱であると判断することになります。
そんなコモンな発熱をどのように評価していくのかを書いてみようと思います。
検査前確率
通常、発熱で病院を受診する場合の母数としては、圧倒的に風邪(感冒)が多いです。
そのため、風邪かどうかを判断する必要があります。
風邪の症状は、鼻汁・咽頭痛・咳などの上気道症状がそろっている事より始まります。
これらの症状がそろっていないのに、風邪と判断してしまうと、あとあと重大な病気であった、という可能性も高まります。
風邪は万病のもとといわれるように、風邪症状は母数が多いだけに色んな重篤な病気が隠れている場合があります。
急性細菌性咽頭炎などとの鑑別にも、感冒症状がそろっているのかは重要な所見です。
細菌性咽頭炎の場合は、一般的に風邪症状が揃いませんので、違和感を持つことになります。
他にも外来セッティングだと発熱の原因は沢山ありますが、まずは風邪かそうでないかで分けると良いと思います。
風邪ではないと判断した場合は、症状に応じて臓器特異的な疾患が検討されます。
4大感染症
4大感染症とは、覚えやすいので、わたしが勝手にそう呼んでいるだけです。
肺炎・尿路・皮膚軟部組織・肝胆道系の4つの感染症です。
肺炎
肺炎であれば、臓器特異的所見として、呼吸数増加・喀痰増加・胸痛・酸素飽和度低下・呼吸副雑音などの症状が出現します。
これらの情報に加え、画像や喀痰グラム染色より診断されます。
血液データでは、肺炎であるかどうかは一切わかりません。
ただし、最近はCRPというデータが治療反応性の指標になるのではないかという結果が報告されていますので、CRPなどの炎症データは全身状態とともに評価が行なわれることが増えてきました。
尿路感染症
尿路感染症は、最も診断が難しい感染症の1つです。
というのも、尿路以外の感染症をすべて除外して初めて、尿路感染症ということができるからです。
ライプニッツ氏が言うように、Aというためには、A以外の可能性をすべて除外してはじめてAということができるというものです。
コモンな感染症であるだけに、奥深く診断能力が問われる感染症であると言えます。
因みに尿路感染症は、複雑性と単純性に分けられます。
複雑性は、尿路閉塞などの症状がある場合で、一般的に泌尿器科医による処置が必要です。
皮膚軟部組織感染症
SSTIと略される事が多いです。
以外に多い発熱の原因です。
皮膚なので基本的には、炎症所見が見て取れますので、わかりやすいです。
見逃しやすいのは、見えない部分の皮膚所見です。
靴下の中やズボンの中などです。
そのため、熱源がわからない発熱は全身をくまなく観察することが重要です。
全身観察の際には、最近は医療者が罪に問われることも多くなってきましたので、性別の異なる複数での診察を行うなど、何らかの対策が必要かもしれません。
肝胆道系感染症
肝胆道系感染症も、発熱の原因として多いです。
これは、身体所見が診断基準にも含まれていますので、Murphy徴候や肝叩打痛などの所見が非常に重要になります。
所見が曖昧な場合は、体幹の反対側にも同じく所見をとる事で左右差が分かる場合があります。
あとは、エコーも非常に簡便に使用できますので、大きな診断の武器となります。
エコーの場合は、胆嚢壁の肥厚や胆石・胆泥、胆嚢の腫大などが参考になります。
4大感染症でなかった場合
通常、急性熱性疾患とよばれる、急性の発熱の多くは感染症であることが多いです。
いわゆる、4大感染症でなかった場合は、もう少し詳しく病歴を徴収する必要があります。
STSTAE
これは、徳田安春先生が提唱する語呂合わせです。
詳細はリンク先を参照していただき、陽性所見があれば更に詳しく聞いていきます。
たとえば、食事摂取歴であればよりスペシフィックに「ここ1週間で焼き鳥食べませんでしたか」「鶏肉食べませんでしたか」「鶏肉の調理をしませんでしたか」「焼き肉い生きませんでしたか」「一緒に住んでいる人で同じ症状の人はいないですか」といった具合です。
これで、4日前に主人と焼き鳥を食べに行きました。
主人は下痢しているそうです、といった場合は細菌性腸炎の1つである、キャンピロバクター腸炎の可能性がぐっと高まります。
森林散策歴などでは、虫さされも含めて聴取します。
デング熱も以前一時的に、日本でも流行したように日本だから考えなくて良い疾患ではなくなってきました。
とくに温暖化の影響もあり、熱帯特有の感染症などが今後増加してくる可能性も考える必要があります。
ダニに噛まれた場合は、特に重症場合はSFTFという非常に致死率の高い感染症となる可能性もあります。
日常の生活は、患者さんにとってはただの日常ですが、医療者は病気を見つけに行くために、鑑別疾患を想起し、スペシフィックに問診を行う必要があります。
このあたりは、特に侵襲的な処置を行うわけでもありませんので、看護師さんでも聴取することはできますし、看護師さんでも知っていればその病気の可能性を考慮することはできます。
つまり、勉強すれば医師と同じような思考で論理が展開できる可能性があるということです。
STSTAEに加えて
それでもよくわからない場合は、さらに家族歴(3世代遡って)を聴取します。
家族歴は、遺伝性の疾患の可能性を考慮する場合に参考にされます。
さらに、出身地も疾患特異的地域があります。
有名なのは、南九州での成人T細胞白血病が有名です。
みたことはありませんが、山梨では日本住血吸虫症、沖縄では糞線虫なども有名です。
ほかには、一般的な飲酒・喫煙・職業歴などです。
呼吸器症状でしたら、住居の築年数と木造か否か、24時間風呂の有無、自宅でカビがあるような場所はないか、特定の場所にいくと咳が止まらなくなる事はないか、などを聴取します。
まとめ
看護師さんでも、このくらいであれば病歴聴取はできます。
あとは、どのような病気の場合に熱の原因となりうるのか、最も多い熱の原因から探っていくことと、臓器特異的所見がないかという事は、発熱のヒントになりえると思います。