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はじめに
人工呼吸器の鉄則として、肺にとっては不利に作用するということです。
これは、人工呼吸に習熟しているほど、意識していることであると思います。
気管挿管を行い、人工呼吸管理を行うと、一気に行うことや考えることが増えます。
その代表が、鎮静や気道クリアランスなどの予防になります。
人工呼吸療法は、一般的に肺を良くすること困難ですので、基本戦略としては肺が悪くならないように様々な要因で生じた炎症がおさまるのを静かに待つという事になります。
とにかく、悪くしないように医療従事者は気を使いながら色んなことを行います。
そんな中、もうすでに20年前の衝撃的な研究ですが、通称ARMA研究というものがあります。
これは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の患者さんに、1回換気量を6ml/kgと12ml/kgで比較した研究で、はじめてARDS患者さんの生命予後を改善させた研究です。
ARMA研究が発表されて以降、6ml/kgというのが基本戦略になりました。
この人工呼吸戦略は、手術中の患者さんに対しても良いのではないかという報告もありました。
しかしこの研究にも、いくつかの欠点がありその欠点を補うための追試のような研究です。
わたしは麻酔の事は全くわかりませんが、手術中の人工呼吸管理が患者予後に与える影響があるという事は知っていました。
麻酔という比較的短い時間でも、人工呼吸管理の重要性を再認識したのを憶えています。
わたしの経験としては、手術とは疎遠ですので、実際の手術中の人工呼吸戦略がどのように行なわれているのかはわかりません。
結果としては、手術中の人工呼吸管理における1回換気量の設定は、今回の主要評価項目への影響はありませんでした。
この結果を受けて、手術中の1回換気量の戦略が変わる結果とは言えませんが、少なくとも1回換気の減少でも肺合併症は増えないため、これまで通り(なのかはわかりませんが)の戦略でも問題ないと言える結果なのかもしれません。
Effect of Intraoperative Low Tidal Volume vs Conventional Tidal Volume on Postoperative Pulmonary Complications in Patients Undergoing Major Surgery
背景
手術中に機械的換気を受ける患者では、適切な一回換気量は不明です。
目的
大手術中の低容積換気が従来の換気と比較して術後の肺合併症を減少させるかどうかを検討しました。
方法
オーストラリアのメルボルンの第三次病院で、2015年2月から2019年2月までの間に、全身麻酔下で2時間以上持続する40歳以上の大手術を受けた患者1236人を対象に、単施設、評価者盲検、無作為化臨床試験を実施しました。追跡調査の最終日は 2019 年 2 月 17 日でした。
患者は、予測体重6mL/kgの1回換気量(n = 614;低容量換気群)または予測体重10mL/kgの通常容積換気(n = 592;従来の容積換気群)の投与を受ける群に無作為に割り付けられました。すべての患者は5cm H2Oで呼気終末陽圧(PEEP)を受けました。
主要アウトカム
主要アウトカムは、肺炎、気管支痙攣、無気肺、肺うっ血、呼吸不全、胸水、気胸、または術後侵襲的または非侵襲的人工呼吸の計画外の必要性を含む術後7日以内の術後肺合併症を複合したものでした。副次的転帰は、肺塞栓症、急性呼吸窮迫症候群、全身性炎症反応症候群、敗血症、急性腎傷害、創部感染症(表在性および深在性)の発症を含む術後の肺合併症、術中の血管作動薬の必要率、計画外の集中治療室入院の発生率、迅速対応チームコールの必要率、集中治療室の滞在期間、病院の滞在期間、および院内死亡率でした。
結果
無作為化された1236人の患者のうち、1206人(98.9%)が試験を終了しました(平均年齢63.5歳、女性494人(40.9%)、腹部手術を受けた681人(56.4%))。主要転帰は、低容量換気群で608例中231例(38%)に発生し、従来容量換気群では590例中232例(39%)に発生しました。(差-1.3%[95%CI -6.8%~4.2%];リスク比0.97[95%CI 0.84~1.11];P=0.64)。副次アウトカムにはいずれも有意差は認められませんでした。
結論
大手術を受ける成人患者において、術中の従来容積換気と比較して低容積換気では、PEEPを群間で均等に適用しても、術後最初の7日以内の肺合併症を有意に減少させることはできませんでした。