はじめに
今回Lancet誌に、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)に対する高齢者の介入治療の検討が掲載されていました。
結論は、高齢者のNSTEMIであっても、インターベンション治療を行うことで、生命予後の改善効果があったというものになります。
特に日本は、高齢社会ですので高齢会においては、世界の一歩先を行っています。
通常の研究ですと、65歳以上が高齢者とされることが多いですが、実際の入院患者さんは90歳前後の患者さんが多いです。
すなわち、臨床的な感覚からは65歳はまだまだ若年者です。
研究論文を読むと、実際の臨床で使用可能なものかを検討する際に、ポピュレーションの検討を行います。
とくに問題となりがちなのが、超高齢者を対象とした研究が少ないということです。
研究が少ないということは、極論ですが日々の実践が正しいのかどうなのかわからない、ともいえます。
例えば、エビデンスとよばれる根拠の多くは、欧米で行なわれた研究が多くを占めています。
日本であれば、人種の差が問題となる可能性もあります。
明確な根拠があるにも関わらず、人種の差が問題となっているのかを検討するには、日本人を対象とした大規模な質の高い研究を行う必要があります。
今回の研究は英国が中心の研究ですが、この貴重な結果を日本人だからといって、応用しないのは非常にもったいないですし、それは人道的にに正しいとは言えません。
最も、最近は「人種の差が〜」と文句を言う人も少なくなってきたようには思います。
以前は、エビデンスとの話をすれば、二言目には「それはアメリカの話ね、日本人のデータじゃないでしょ」という方々が多かったように思います。
正しい在り処とは、文句を言うのであれば、根拠の創出のために、自ら大規模研究を主導する事であったり、代替案を提示することです。
米国のデータだといって、いるのは思考停止と同義であると言えます。
ということで、今回の研究です。
現在最も質の高い研究は、ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれるものです。
今回のデータは、RCTではありませんがRCTに似せたマッチングという方法を使用して、擬似的にRCTのようなデータを作り出して検討しています。
そのため、通常のコホート研究よりは質が高いといえます。
本来は、RCTを行い検討を行う必要がありますが、この結果を参照するなら、もともとの身体機能が良ければ、積極的にインターベンション治療を検討したほうが良いということになります。
つまり、今までと同じプラクティスです。
そもそも、NSTEMIは診断もSTEMIと異なり難しいですが、高齢化とともに増加しています。
特に術後や、高齢者を診る機会のある方は、NSTEMIを頭の片隅におき、必要時は診断し循環器医へコンサルテーションを繫げることが、患者さんの機能・生命予後改善に寄与する結果といえます。
SENIOR-NSTEMI研究
背景
これまでの試験では,非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者では非侵襲的管理よりも侵襲的管理の方が長期的な死亡リスクが低いことが示唆されていますが,これらの試験では超高齢者は除外されていました。80歳以上のNSTEMI患者を対象に,トロポニン濃度のピーク値から3日以内の侵襲的管理と非侵襲的管理の生存率への影響を推定することを目的としました。
方法
本研究のための定期的な臨床データは、英国のNIHRバイオメディカル研究センターをホストする5つの協力病院(すべて救急科を有する三次医療センター)から取得されました。対象患者は、トロポニン測定を受け、2010年(ユニバーシティ・カレッジ病院は2008年)から2017年の間にNSTEMIと診断された80歳以上の患者としました。治療前の変数に基づく傾向スコア(侵襲的管理を受ける患者の推定確率)をロジスティック回帰を用いて検討しました。侵襲的・非侵襲的治療を受ける確率が高い患者は除外されました。侵襲的管理を受けずにトロポニン濃度のピークから3日以内に死亡した患者を、不死時間の偏りを緩和するために、その傾向スコアに基づいて侵襲的管理群または非侵襲的管理群に割り付けました。侵襲的管理と非侵襲的管理を比較して死亡率ハザード比を推定し,心不全の入院率を比較しました。
結果
1976 例の NSTEMI 患者のうち,101 例はトロポニン濃度のピークから 3 日以内に死亡し,375 例は極端な傾向スコアのために除外されました。残りの1500人の患者の年齢中央値は86歳(IQR 82-89)であり、そのうち845人(56%)が非侵襲的管理を受けていました。追跡期間中央値3-0年(IQR 1.2-4.8年)の間に613人(41%)の患者が死亡しました。調整後の累積5年死亡率は、侵襲的管理群で36%、非侵襲的管理群で55%でした(調整後ハザード比0-68、95%CI 0.55-0.84)。侵襲的管理は心不全による入院の発生率の低下と関連していました(非侵襲的管理と比較した調整率比0.67、95%CI 0.48-0.93)。
結論
非侵襲的管理と比較した侵襲的管理の生存期間の優位性は、80歳以上のNSTEMI患者にも適用されます。