Lancet2020年8月8日掲載の、通称SWIFFT試験です。
そもそも、整形外科領域に関しては不案内なのでわかりません。
舟状骨は骨折に関しては、救急領域でも一般的ですので少し興味を持ちました。
救急での骨折でなんで特別視されているのかと言うと、上腕骨顆上折などと同様に、専門家による手術療法の適応となる可能性があるからです。
とはいえ、手の専門家にコンサルトすると、必ずしも緊急手術の適応とはならないこともあります。
この論文がでたとはいえ、非専門家にとってはこれまでと同様に、緊急コンサルトと言う姿勢に変わりはないと思いますが、保存的加療の可能性を知っておくこともまた重要に思います。
Contents
舟状骨とは
手関節にある8つの手根骨の1つで、母子(親指側)にある骨です。
船のような形をしているので、舟状骨(英語ではScaphoid)と呼ばれているそうです。
舟状骨の血管
舟状骨が、骨折の中でも救急で見逃したくない理由として血管が乏しいことが挙げられます。
今回のSWIFFT試験の対象患者さんは、舟状骨腰部骨折を対象としています。
この絵を診る限りでは、血流に乏しいことががわかります。
当然ですが、血流がないということは骨折の治癒が促進されず壊死に陥る可能性があるということです。
舟状骨骨折に対する基本加療
基本的には、手術というのが非専門家の間では、一般的コンセンサスだと思います。
というのも、解剖学的に血行が悪くなるので骨壊死の可能性があるからです。
PRWEスコア
PRWEスコアとは、手を痛みと機能(特定の機能と通常の機能)で評価する国際的な手法のようです。
今回のTWIFFT試験でも、評価項目として使用されています。
舟状骨骨折の外科コンサルト
Up to dateという電子教科書には以下のように記載されています。
- 近位端骨折(舟状骨5分の1)
- 1mm以上偏位した骨折
- 偏位のない腰部骨折で、早期に仕事復帰する必要がある場合
- 約3週間以上の骨癒合遅延の場合
- 舟状靱帯断裂に関連した骨折
- 手根の不安定性(例;X線での月状骨の傾き)
SWIFFT試験
背景
舟状骨骨折は手根骨折の90%を占め、主に若い男性に発生します。この種の骨折を管理するために、非外科的管理に比べて治療成績が改善されたという十分な証拠がないにもかかわらず、即時外科的固定の使用が増加しています。SWIFFT試験では、2mm以下のずれがある成人の舟状骨腰部骨折を対象に、ギプス固定と早期固定の外科的固定の臨床的有効性を比較しました。
方法
この実用的な並行群間、多施設、非盲検、2群間無作為化比較試験で、31病院の整形外科に、レントゲン写真で明らかな舟状骨腰部の両皮質骨折が認められた成人(16歳以上)が参加しました。
独立した遠隔無作為化サービスが、ブロックサイズを無作為に変化させたコンピュータ作成の割り付けシーケンスを使用して、参加者を早期の外科的固定(手術群)または肘下ギプス固定のいずれかを受けるか(手術群)、骨折の非接合が確認された場合は即時固定を受けるか(ギプス固定群)に無作為に割り付けられました(1:1)。ランダム化は、いずれのレントゲン写真でも段差または1~2mmの隙間の偏位の有無で層別化されましたた。主要アウトカムは、無作為化後52週目の患者評価手首評価(PRWE)スコアであり、使用可能な症例のintention-to-treatベースで分析されました。この試験はI現在も、長期フォローアップを継続中です。
結果
2013年7月23日〜2016年7月26日までの間に、1047人の評価患者(平均年齢33歳、男性363人[83%])のうち439人(42%)が、手術群(n=219人)またはギプス固定群(n=220人)に無作為に割り付けられました。このうち408人(93%)が一次解析に含まれました(手術群203人、ギプス固定群205人)。手術群では16人、ギプス固定群では15人が、離脱、反応なし、または6、12、26、52週目のフォローアップデータがないために除外されました。
52週目の平均PRWEスコアは、手術群(調整後平均11-9 [95%CI 9-2-14-5])とギプス固定群(14-0 [11-3~16-6]、調整後平均差-2-1 [95%CI -5-8~1-6]、p=0-27)の間に有意な差はありませんでした。手術群(219人中31人[14%])では、ギプス固定群(220人中3人[1%])よりも手術による重篤な合併症の可能性がありましたが、ギプス固定群(40人[18%])よりも手術群(5人[2%])の方がギプス関連の合併症を発症した参加者は少数でした。医学的合併症を起こした参加者の数は、両群間で同程度でした(手術群では4人[2%]、ギプス固定群では5人[2%])。
結論
舟状骨腰部骨折が2mm以下の成人患者では、初期にギプス固定を行い、癒合不全が疑われる場合は確認し、直ちに手術で固定する必要があります。この治療法は、手術のリスクを回避するのに役立ち、ほとんどの場合、骨癒合に失敗した骨折の固定目的に手術が行われることになります。
私見
筆頭著者は、Leicester大学整形外科の教授であり、一般的に外科医であれば外科的治療の有用性示すための研究を行いたいように思います。
しかし、本研究の結果としては、保存加療も外科治療もPRWEスコアでの有意差がなかったということは、外科的治療介入は安静固定と比較して初期選択には至らないと結論することも出来ます。
著者らも結論で、保存加療中の骨癒合が悪い場合には、外科的介入が検討されると言っています。
とはいえ、整形外科は機能予後改善のための診療科でもあります。
多くの骨折は、手術を選択することで、早期の離床など受傷部位の機能回復が有意に回復する可能性があると思います(特に高齢者など)。
しかし、安静に伴い機能的にも有意差がないのであれば、手術の選択は整形外科医に一任するということになるのかもしれません。
本研究は、現在もフォローアップが継続しているようですので、今後の報告にも注目すべきかと思います。
冒頭にも書きましたが、この研究結果により整形外科へのコンサルトが不要になるわけでもありませんので、基本的には早期のコンサルトで方針を決定していただくことが必要といえます。
救急で必要なのは、舟状骨骨折を病歴から診断することと、正しいシーネ固定方法の習得は必要かと思いました。