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はじめに
巨細胞性動脈炎(GCA)は不明熱の原因として、時に話題に上がります。
以前は、側頭動脈炎と呼ばれていましたが、側頭動脈以外にも血管炎をおこすため、巨細胞性動脈炎と名称が変更されています。
GCAの他にも、ホートン病、頭蓋動脈炎などの名称で呼ばれることもあるようです。GCAが全身性血管炎の中で最も一般的な疾患とされています。
GCAは高齢者の古典的な全身性リウマチ性疾患とされ、一般的に50歳以上で発症するとされています。
発症のピークは70歳程度です。
GCAの名称が変更されたのは、全身の血管に炎症が起きるためですので、全身性疾患であるという認識が重要です。
臨床的にGCAを疑うシチュエーション
50歳以上の患者さんが、新たな頭痛、視力障害(一過性単眼性視覚障害)、顎跛行、原因不明の発熱、貧血などの体質的な症状や兆候などの症状があることは、GCAを臨床的に示唆する所見となります。
顎跛行とは、食事中に顎が疲れて休まないと食べられない状態のことを言います。
血管に炎症が起きていますので、対象血管が細くなる=血液のめぐりが悪くなる症状であると言えます。
一般的な検査では、炎症マーカーと呼ばれる赤血球沈降速度(ESR)と、血清C反応性蛋白(CRP)が高いのが特徴です。
とくにESRの場合は、炎症が起きた後2週間程度遅れて上昇するとされていますので、慢性炎症の指標とされています。
ほかには、リウマチ性多発性筋痛症(PMR)のとの合併も多いとされていますので、上肢の挙上が困難であったり、全身の筋痛がある場合は、PMRの可能性を考慮しつつ、GCAの合併も精査する必要があります。
PMRだけの症状を呈している場合は、GCAに関する十分な病歴聴取は必須ですが、GCAを診断するための検査は不要とされています。
GCAの症状は必ずしもテキスト通りではなく、患者さんによって異なり、一過性や変動性であるともされています。
GCAの診断がつき、後々振り返ると「GCAの症状だったんだなー」と思うことはありますが、時に診断に難渋する場合もあるようです。
GCAを疑えば、両側の血圧測定をおこないます。
鎖骨下動脈のGCAであれば、左右差が出る場合があります。
ほかにも動脈硬化の指標にもなる可能性も示唆されており、簡単な検査ですので、とくにGCAを疑うような状況の場合には、簡単な検査ですので看護師さんが気を利かせて是非とも行いましょう。
GCAの診断
病理組織学的検査や画像検査に基づいて行われます。
GCAの病理組織学的検査は、側頭動脈生検が最も多いです。
カラードップラー超音波(CDUS)は、経験豊富な術者が行うことで、側頭動脈生検の代わりになる可能性があるとも言われています。
側頭動脈生検には、比較的大きな侵襲ともなりますので、エコーで診断できるのであれば、低侵襲であることに越したことはないと思います。
とはいえ、エコーで診断がはっきりしない場合は、生検がやはりゴールドスタンダードですので、生検を考慮する必要があります。
一般的に生検は、施設により形成外科や脳神経外科で行っていただけるようです。
GCAの最も一般的な症状は頭蓋動脈とされていますが、一部の患者さんでは、動脈炎が大血管侵す場合もあります。
そのような場合には、画像診断が不可欠です。
血液沈降速度:ESR
一般的にGCAではESRが亢進するのが特徴的で、ESR>50mm/hrというのが、診断基準の1つに組み込まれていますが、約10%の患者さんではESR<50mm/hrだったとする報告もあります。
側頭動脈生検
生検では、1~2cmの片側頭動脈生検が推奨されています。
側頭動脈を生検する理由は、炎症が起きているのもありますが、単純に生検しやすい為とされています。
生検の欠点は、採取部位に病変が無いとわからないということが挙げられます。
例えば、採取した5mm隣が病変だった場合(スキップ病変)は、生検結果は正常という事になります。
そのため、事前の検査でどちらの動脈を生検するのかなどを決める必要があります。
また、少なからずとも侵襲の高い検査となりますので、可能な限り診断に結びつく検査となるのが理想です。
一般的には、きちんと評価した適切な長さの生検であれば、感度は高いといわれていますが報告により様々なようです。
例えば、陰性率30−44%であったり、片側側頭動脈生検での感度は87%とする報告などがあります。
また、手技に関するリスクも低いと言われています。
グルココルチコイドによる治療と生検
例えば、視力障害など治療を優先すべき状況では、生検より先に臨床診断での治療を開始すべきです。
治療が送れると、失明に繋がりますので、極めて重要であると思います。
また、GCAの炎症性浸潤の消失には、1か月程度かかるとされていますので、治療後1ヶ月程度は生検に猶予があるとも捉えることもできます。
場合によっては、数ヶ月経過後も生検による診断が可能とされています。
とはいえ、時間的に余裕のがある場合には、ステロイド導入前の生検が望ましいとは思います。
ドップラーを用いた超音波検査(CDUS)
頭部、頸部、上肢のカラードップラー超音波検査(CDUS)は、側頭動脈生検の診断の代替手段として提案されています。
CDUSの分解能は0.1mmであるため、側頭動脈および他の小径頭蓋外動脈を画像化することができるとされています。
GCAでは、側頭動脈は血管内腔の周囲に円周方向の暗部を示し、ハローサインと呼ばれる壁状浮腫を示します。
側頭動脈の両側ハローサインの存在はGCAに特異的とされています。
当然ですがほかの検査と比較し、侵襲度でいえば、ほとんど侵襲なく検査が可能です。
ほかの動脈(顔面動脈、後頭動脈、椎骨動脈、腋窩動脈、鎖骨下動脈)でも評価が可能で、大血管の血管炎の可能性も検査可能です。
MRアンギオグラフィー(MRA)
側頭動脈を可視化することができ、造影剤を用いた場合には、壁膜浮腫を示すことができるとされています。
MRIによる頭蓋GCAの感度は73%、特異度88%という報告もあります。
生検と異なり、5日程度のステロイド治療で、感度が低下するとされています。
血管炎の範囲
側頭動脈を含む、頭蓋領域に限局したGCAである、Cranial-GCAが、一般的な側頭動脈炎の典型例とされてきました。
しかし、診断名にも表現されているように、側頭動脈以外にも血管炎を来すため、巨細胞性動脈炎と呼ばれています。
Cranial-GCAに対して、頭蓋領域以外の部位にも血管炎が波及しているものを、大血管型GCA(Large vessel-GCA:LV-GCA)に分けられる場合もあります。
つまり、頭蓋領域以外の血管炎であれば、典型的な症状を呈さない場合があります。
当然ですが、そのような場合に側頭動脈生検を行っても、結果は陰性となる可能性がたかくなります。
LV-GCAは大動脈とその一次枝、特に鎖骨下動脈の病変を侵すとされています。
重要なことは、側頭動脈生検が陰性の場合、LV-GCA患者では、側頭動脈生検で陽性となる確率は50%以下とされています。
しかし、大動脈の生検はさすがにできませんので、LV-GCAの場合は、画像診断がスタンダードになります。
LV-GCAの症状としては、四肢跛行、非対称血圧、または血管雑音があります。
LV-GCAは、感染症や悪性腫瘍などにおける診断の過程で行われる画像検査で偶発的に発見される場合もあります。
ほかには、外科手術での病理組織検体で偶発的に指摘される事もあります。
頭蓋GCAの特徴は、LV-GCAと比べて、患者は診断時の年齢が若く(68歳 vs 76歳)、頭蓋症状(例えば、頭痛や顎の跛行)が少なく、上肢血管の跛行の症状が多いとされています。
画像診断の方法
LV-GCAを診断するための画像診断
- CDUS(超音波)
- 血管造影CT(もしくはCT-Angiography)
- MRI(MR-Angiography)
- PET-CT
があります。
一般的にCTの台数は、とくに日本は国際的にダントツで多いとされています。
そのため、CTへのアクセスが最も良好です。
CTの次にMRIへのアクセスが良いですが、MRIだと金属に代表されるように、いくつかの制限がありますので敷居は上がってしまいます。
PETーCTは特殊な薬剤を使用することで、ブドウ糖代謝異常などを伴う特性を使用し、血管炎を診断します。
CTやMRIで診断出来ない場合の最後の砦とも言える、PET-CTは診断の精度が高いとも言えます。
また、不明熱といわれる原因のよくわからない不明熱でも最終的にはPETーCTとなり、熱源を示唆してくれる可能性があります。
その結果、血管が炎症を起こしていれば、血管炎の可能性が示唆されます。
PET-CTでも、グルココルチコイド治療の影響を受ける可能性があるとされています。
結局はPETを使えば、何でもわかるのかもしれませんが、診断とは検査前確率に依存します。
取り敢えずPETを施行しても、予想と異なる所見ですと、また色々考えることが増えます。
またいろいろ考えることで、更に検査を追加して・・ということが、患者さんの役に立つのであれば良いのでしょうが、そうでない場合もあります。
やはり、最終兵器としてPETは使用すべきと言えます。
大動脈瘤
大動脈炎では、GCAにおける大動脈瘤の発生のリスク因子とされています。
胸部大動脈瘤はGCA患者の2~8%に検出されたいう報告もあります。
GCA患者は対照群と比較し約17倍、胸部大動脈瘤を発症する可能性があります。
喫煙と男性は大動脈瘤の独立した予測因子とされています。
大動脈瘤や大動脈解離をみたら、大血管型GCAの可能性は一度振り返ってもよいと思います。
診断:Diagnosis
生検または画像検査で陽性の患者
巨細胞性動脈炎(GCA)の診断は、臨床症状、病理組織学的検査、画像検査を前提とすべきです。
側頭動脈生検は最も重要な診断法です。
典型的な病理所見は非壊死性汎動脈炎(non-necrotizing panarteritis)とされています。
鑑別診断:Differential diagnosis
他の全身性血管障害
GCA以外の血管障害は、原因不明の発熱、貧血や急性期反応物質(ESRやCRP)の上昇を一般的には呈します。
しかし、他の血管炎のほとんどは他の特徴を持っています。
高安動脈炎
GCAと高安動脈炎の病理組織学的所見とX線写真所見は区別がつかないことがあります。GCAは50歳未満ではほとんど発症しませんが、高安動脈炎は典型的には40歳以前に発症するとされています(そして、それよりもずっと若い年齢で発症することが多い)。
また、両疾患の臨床的表現も異なっています。
例として、腎動脈狭窄による血管拡張性高血圧はGCAではみられないし、高安動脈炎では虚血性視神経症による視力低下はまれであり、高安動脈炎では、腎動脈狭窄による血管拡張性高血圧はGCAではみられないとされています。
小・中血管性血管結節体
ある種の小・中血管性血管結節体は、全身症状を引き起こす傾向が共通していることから、GCAを模倣することがあります。
しかし、これらの疾患の血管分布の違い、通常は特徴的な病理組織学、および臓器病変のパターンの違いから、GCAを顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎を伴う肉芽腫症、結節性多発動脈炎と区別することは一般的にはそれほど難しいとはされていません。
しかし、時折これらの壊死性血管炎が側頭動脈を侵すことがあるので、注意が必要です。
巨大細胞性動脈炎(GCA)の鑑別診断
他の全身性血管障害
GCA以外の血管障害は、原因不明の発熱、貧血、またはその他の体質的な症状や徴候、急性期反応物質(ESR/CRPなど)の上昇を呈します。
高安動脈炎
鑑別は困難ですが、高安動脈炎の場合は比較的若年の40歳未満での発症が多いのに対し、GCAは50歳以降と、年齢の分布が多少異なります。
ほかには、腎動脈狭窄による血管拡張性高血圧はGCAでは生じないとされています。
また、高安動脈炎では、腎動脈狭窄による血管拡張性高血圧はGCAではみられず、虚血性視神経症による視力低下は稀とされています。
特発性大動脈炎
原因不明の大動脈炎は、GCAや高安動脈炎に類似した病理組織学的特徴を持つとされ、上行大動脈の病変を来すことがあるとされています。
大動脈炎は他に、様々な感染症、サルコイドーシス、コーガン症候群、高安動脈炎、再発性多発性軟骨炎、脊椎関節症、ベーチェット症候群を含む他の全身性リウマチ性疾患の合併症としても起こりえます。
また、免疫グロブリンG4(IgG4)疾患に特徴的なリンパ形質細胞性大動脈炎も報告されています。
非動脈炎性虚血性視神経症:NAION
非動脈炎性虚血性視神経症(NAION)は、突然の単眼視力低下を呈し、高齢者に発症すると、基礎疾患であるGCAの可能性を考慮する必要があります。
危険因子には、高血圧、糖尿病、シルデナフィルなどの薬物の使用が含まれます。
GCAの一般的特徴や、ESRやCRPの上昇などの炎症の検査マーカーは、NAIONでは一般的に上昇しないとされています。
感染症
発熱の発生は常に感染症を考慮すべきです。
不明な発熱は、取り敢えず血液培養2セット以上の採取が原則です。
Mimicとされる、心内膜炎や他の感染症では、筋痛、関節痛、頭痛、ESRとCRPの上昇を伴うことがあり、GCAとして騙されている可能性を常に考慮すべきです。
まとめ
感染症にしては少し長い経過での、発熱や倦怠感では、色んな病気の可能性を考える必要があります。
巨細胞性動脈炎(GCA)はその中の1つと言える病気です。
問診では、動脈の虚血性変化、頭蓋病変なら顎跛行や視力障害など、頭蓋外では両上肢の血圧左右差やしびれなどの可能性も、GCAを示唆する所見となります。
とくに視力障害は、緊急事態ですので、眼科コンサルトを行い、ステロイドパルスと呼ばれる集中治療がひつようになります。
血液検査では、慢性炎症としての血沈やCRPの上昇、その結果としての貧血などで疑います。
症状から、目的とすべき血管の造影CTやMR-angiographyを行い診断となる可能性もありますが、はっきりしなければPET-CTで炎症血管に集積がみられます。
とはいえ、除外のMimicとされる疾患の除外が重要ですので、血液培養を始めとした検査を沢山行う必要があります。
ほかに、リウマチ性多発筋痛症(PMR)との合併例もあります。
PMRと鑑別を行うのは、治療方針が異なるためです。
最終的には、病理診断で側頭動脈の生検が一般的に行われます。