Contents
- 1 フィジカルって何?
- 2 フィジカルイグザミネーションとフィジカルアセスメント
- 3 医療者は何を知りたいか
- 4 General appearanceについて
- 5 重要なバイタルサインについて
- 6 レバレッジ理論
- 7 血圧について
- 8 検査をやらないという選択と検査前確率について
- 9 呼吸音について
- 10 呼吸数はなぜ大事なのか?
- 11 急変って何ですか?
- 12 qSOFAについて
- 13 ダブルハンド法とは
- 14 意識状態の変化について
- 15 せん妄の評価について
- 16 握力について
- 17 「わかる」と「できる」と「実践できる」
- 18 院内の発熱について
- 19 肝胆道系のフィジカル
- 20 肺のフィジカル
- 21 尿路のフィジカル
- 22 皮膚軟部組織のフィジカル
- 23 院内の発熱で考える事
- 24 臨床は、予測と結果の乖離を埋めていく作業である?
- 25 まとめ
フィジカルって何?
一般的には、身体診察のことを示します。
では、「フィジカルやってください!」といわれて、できますか?
普通できません。できないのは、なぜですか?
考えてみてください。
フィジカルイグザミネーションとフィジカルアセスメント
フィジカルイグザミネーションは身体検査そのものの事です。
フィジカルアセスメントは、アセスしているので、身体検査をした上で総合的に判断した結果やプロセスになります。
アセスメントは結構、看護師さんは苦手な方が多い印象です。
アセスは間違っていて大丈夫です。
先輩看護師により修正されるだけなので。
なので、大いに間違ってください。
ただ、必ずリスクヘッジとして、先輩に相談して下さい。
医療者は何を知りたいか
たとえば、あなたは風邪症状で、病院を受診しました。
医療者は何を知りたいと思いますか?
まず、待合で待っている患者さんを、扉を開けて迎えに行きます。
この時、歩ける患者さんであれば、歩行様式などが目に映ると思います。
けれども、その歩き方は意図してみなければ、診察は診察室から始まることになります。
意図してみることで、診察室の前から診察が始まっているのです。
なので、フィジカルと一言で言っても、自分が何を見たいのかを明確にしなければ、フィジカルの目的の多くは意味をなさないものになります。
たとえば、下のCT写真をみてください。何も考えずに、みてもなにも見えてこないと思います。
https://radiopaedia.org/articles/appendicitisより引用
けれども、このCTを取る前に、心窩部痛から始まる嘔吐をきたし、発熱と右下腹部痛で受診し、フィジカルでは右下腹部の圧痛を認めた。
という所見と病歴があったとしましょう。
普通に考えると、虫垂炎を疑いますよね。
自ずと、CT撮影の理由も虫垂炎の疑いとかになると思います。
そうすると、CTで最も見たいものは、虫垂になるわけです。
見えてきたでしょうか?
虫垂が、腫大して周囲の脂肪識濃度の上昇を認めます。
このように、検査は目的を持って、意図して行なわれます。
なんとなく行う検査は、基本的にありません。
身体検査も同様です。
ある程度、どういう病気か、という想定がなければ、その身体検査(フィジカル)は意味のないものとなってしまう可能性が高くなります。
General appearanceについて
ずばり、見た目です。
それが、ジェネラルと我々が呼んでいるものになります。
ジェネラルはGeneral appearanceのことです。
つまり、ぱっと見で「具合が悪そうなのか」「そうでもなさそうなのか」「元気そうなのか」に、ざっくり分類します。
この、ジェネラルは、実はとても重要です。
つまり重要なフィジカルの一所になります。
看護師さんがみて、具合が悪そうなのであれば、それは正しい場合が多いと思います。ぱっと見で、感じた所感をGeneral impressionとも言います。
ジェネラルは、第一印象ですので、ぱっと見で医療者であるあなたが、どのような印象をもったのか?ということです。
まれに、第一印象が良くて結婚しました、という人がいますが、その人のどこが、どのように良かったのか、というのと似ているかもしれません。
たとえば、顔がタイブとか、優しさが素敵だったとか、いろいろあると思います。なんとなく、という答えもあると思います。
医療系のジェネラルも最初は、なんとなくでよいのです。
しかし、看護は科学なので、なんで悪そうに見えたのかを分析する必要があります。
例えば、苦悶様の表情とか、冷や汗をかいているとか、顔色が悪いとか、いろいろあると思います。
特に、重要な所見には何があると思いますか?
重要なバイタルサインについて
話は、飛びますが、バイタルサインには、どのような種類がありますか?
また、そのバイタルサインの中で最も重要な、バイタルサインは何だと思いますか?
バイタルサインは、体温・呼吸・血圧・脈に加えて、酸素飽和度の5つをバイタルサインとしている事が多いように思います。
5つ目のバイタルサインである、酸素飽和度は以前は、広く普及していませんでしたが、現在は普及しており、とても重要な医療機器として位置づけられています。
たとえば、わたしが看護師になった頃は、麻酔のガイドラインにも、麻酔中のモニタリングとして、酸素飽和度を持続モニターすることと、書かれていました。
なので、酸素飽和度測定は、割と最近の医療機器なのです。
ちなみに日本光電の、青柳さんという方が開発しました。
2020年4月にお亡くなりになられました。
酸素飽和度の測定は、医療を変えたと思います。
話を戻しますと、最も重要なバイタルサインは、『呼吸数』だと言われています。
もちろん、酸素飽和度が極端に下がっていたり、血圧が下がっていたり、脈拍が極端に増加したり、発熱したりしていれば、だれでも気づきます。
そして、その状態に気付いた時には、だいたいやばい状態になっています。
やばい状態とは、いわゆる「急変」というやつで、蘇生を要するような状態ということですね。
では、そのやばい状態にならないように、早期発見できないか、と検討されたバイタルサインが呼吸数になります。
でも、この呼吸数という、バイタルサインだけは、意図的に測定しないと測定誤差があるとも言われています。
学生の頃は、もしかすると1分間測定すると教わった方もいらっしゃるかもしれません。
けれども全員1分間測定しても、大変なわりに、得えられる利益が少ないという事があげあれます。
レバレッジ理論
働くうえで、必ず考えなければいけないことは、「いかに楽をして、最大の功績を残すか?」ということです。
楽をしてというのは、少し、表現の仕方が悪いですが、「少ない労力で、成果を示す」ということです。
よく投資の世界では、レバレッジという言葉が使われます。
レバレッジとは、船のオールの作用のことです。
オールは手元は少ししか動いていませんが、オールの先は、たくさん動いていると思います。
フランクスターリングの曲線って、知っていますか?下図の曲線です。
縦軸を心拍出量・横軸を、前負荷(ボリューム)になります。
左側では、輸液を入れることで心拍出量が増加していますが、右側では、輸液を入れても心拍出量はほとんど変化していない事を示しています。
少ない労力で最大の功績を発揮するのは、何においても基本ですね
http://gomerpedia.org/wiki/Frank-Starling_Curves より引用
血圧について
そもそも、血圧ってわかりますか?
心拍出量x末梢血管抵抗により規定されています。
じゃあ、心拍出量ってわかりますか?
1回拍出量x心拍数輸液をするのは、血圧をあげることも目的の1つですが、より正確に言えば、心拍出量を上げるために輸液をしているということになります。
重要なバイタルサインは呼吸数だという話でした。
1分間呼吸数を測定するのが大変なので、10秒x6とか、15秒x4とかいろいろだと思います。
個人的におすすめは、20秒x3です。
x3なので奇数になるので、ちゃんと測定しているんだな、と思われるからです。
というのは、半分冗談ですが、半分本気です。
そもそも、呼吸数は12回とかなので、それなりに時間をかけて測定しないとわかりにくいことが多いです。
では、きちんと呼吸数を測定する以外に、早い呼吸だと気づく方法はないでしょうか?
患者さんの呼吸を真似してみましょう!
あなたは、健康な人であると仮定します。
入院したての肺炎の患者さんのところにいって、呼吸を真似してください。
多分、苦しいはずです。
肺炎の患者さんに、医師が、抗菌薬治療を始めました。
入院2日目にも真似してください。
1日目より、楽になっているはずです。
3日目にも真似してください。
そんなに普段と変わらない呼吸をしているはずです。
そのように感じることができれば、抗菌薬による治療は奏功していると判断できます。
抗菌薬治療後の評価はいつ行うか知っていますか?
通常3日目(72時間後)です。
なので、3日目に血液検査などをオーダーしている医師は多いと思います。
では、この肺炎の患者さんの肺炎が良くなってきているのを知る、フィジカルは他にありますか?
どういう状態になれば肺炎らしいとあなたは思いますか?
痰が増えて膿性になり、呼吸数が早くなり、咳が出て、酸素の取り込みが悪くなり、食事がとれなくなり、熱がでて、呼吸副雑音を聴取して、血液炎症データは上昇して、胸部X線では浸潤影を認めて・・・といった感じでしょうか。
結構、看護師さんも、血液検査の特にCRPの上がり下がりにより、評価している方を見受けることがあります。
もちろん、CRPの値も見ますが、CRPよりも大事な所見はたくさんあります。
先ほどから言っている、呼吸数の減少・酸素の離脱・痰の減少・膿性痰の改善・呼吸音の改善・咳の改善・食事摂取量の改善などです。
一応血液検査をしていますが、ほんとはやらなくてもよい場合がたくさんあります。
肺炎の看護計画に、CRPの低下と書いているのを、ほかの病院ですが、見たこともあります。
こうなると、CRPに踊らされているだけです。
つかうなら、上手に使うことが必要になります。
ときには、見ないほうが良かったという場合もあります。
笑い話のようですが、ある施設では、CRP≦0.5とならないと、施設へ入所できないという決まりがあります。
実は、多くの施設では、そのような決まりを持っていて、感染症をCRPだけで判断しているという、なんだかおかしな状況が、いまだに散見されます。
ほかには、MRSAの鼻腔スクリーニングとか、もよく行われています。
その際は、バクトロバン軟膏を鼻腔に塗布して、除菌するのですが、病院側もなるべく出ないように採取したりとか、CRPで査定されるので、あえて検査しなかったり、なんだかよくわからない状態であります。
MRSAはダメだけど、ESBLとかは知らないのか、何も言われない事がほとんどです。
検査をやらないという選択と検査前確率について
たとえば、若年者の乳がん検診や、リスクのない人のHIV検査などは、ある一定の確率で、偽陽性になります。
偽陽性とは、本当は陰性なのだけど、検査結果は陽性になってしまったというやつです。
ときどき、乳がん検診をメディアは大々的に取り上げていますが、その裏には、偽陽性で悲しむ女性がたくさんいるのも事実です。
もちろん、それで本当のがん(真の陽性)がみつかることもありますが、統計学的に考察するなら、やらないほうが賢い選択だと言われています。
あくまでも統計学的な話です。
呼吸音について
呼吸音のフィジカルに戻ります。
先ほど、肺炎のところで、呼吸音という、キーワードが出たので、呼吸音について話します。
一部の看護師さんは、擬音を多用します。
たとえば、ヒュー音とかギュー音とか。
受け手に同じように伝わればそれでよいのかもしれませんが、この擬音の表現では表現しきれていない呼吸音が多数含まれています。
たとえば、日本では、鶏のなく音は「コケコッコー」ですが、英語では「クックドゥードゥルドゥ」なのだそうです。
つまり、擬音を用いると聞いた人により、その表現が異なる可能性があるということかもしれません。
そこで、医療者である、あなたは、どのように表現すれば、より多くの人に伝わるかを考えなければなりません。
デカルトという哲学者は、困難は分割せよと言いました。
ビルゲイツは困難は切り分けろと言ったそうです。
ということで、呼吸音は難しそうなので分割します。
● 吸気 か 呼気 か
● 高い(高音) か 低い(低音) か
● 連続性 か 断続性 か
● 吸/呼気の、初期/中期/終末か
だいたい、この4つくらいの表現の組み合わせで表現すればよいと思います。
肺炎で典型的な、呼吸音は、吸気中~終末に断続性の低音性ラ音、でわかりますか?
喘息発作だと、呼気中~終末に連続性高音性ラ音、になります。
それぞれ、肺炎だとCoarse crackle、喘息だとWheezeと書いたりもします。
最初のうちは、なるべく「困難は分割せよ」の精神のほうが良いと思います。
おなじ肺炎でも、間質性肺炎だと、吸気終末に高音性の断続性ラ音、になるので呼吸音の表現だけで、病態の推測が可能になります。
4つくらいの表現にもう一つ、足すべきところがありました。
どの部位で聞こえるのかというもの重要です。
これも、ざっくりと分けます。
●前胸部
●側胸部
●背側
●上/中/下 肺野
こんな感じです。
これも、看護師さんが間違いの多いトップ10に入ると思いますが、呼吸音を、上葉とか下葉とかで記載している場合が良くあります。
基本的には、上葉とか下葉とかは、CTを取らなければわかりません。
胸部X線でも同じく、上/中/下葉ではなく、上/中/下肺野という表現を用いるのが、正しい表現です。
言葉は伝われば、適切に伝わればそれでよいのですが、時に適切に伝わらない事があるので、それは問題です。
例えば、「抗菌薬」「抗生剤」「抗生物質」であれば、どれも同じく通じるはずです。ほんとは、Antibioticsを日本語で表現するのであれば、抗菌薬が正しいようですが、その辺りは、きちんと伝わっているので、さしたる問題ではありません。
実は、言葉の問題は医療ミスという観点からは重要です。
「言語ゲーム」を提唱した、ヴィトゲンシュタインという哲学者がいます。
簡単にいうと、「聴診器」という言葉だけでは、受け手によって捉え方は様々であるということです。
あるひとは、「この聴診器は高かった」と受け取るかもしれないし、ある人は「この聴診器をもらえる」と思うかもしれない。
なので、すべては文脈依存性になります。
そういった観点からは、「診断」というのは、極限まで神の領域にせまった、言語ゲームであるといえます。
呼吸数はなぜ大事なのか?
大事なので、呼吸数が記載してある病院は、教育されている病院という人もいます。
いろんな研究が行われて、呼吸数の増加は院内の死亡率と相関するといったデータもあります。
割と最近では、敗血症を疑う入り口として「qSOFA」の重要性が示されています。
[qSOFA]
●収縮期血圧≦100mmg
●意識低下(GCS1ポイント以上低下)
●呼吸数≧22回
ほかにも災害時のトリアージで使用する、START法にも、呼吸数は組み込まれています。
生理学的には、体の不調を来すとアシドーシスになります。
そのアシドーシスを、正常に戻そうとする現象が呼吸数の増加ということになります。もしくは、酸素需要の増加した状態です。
たとえば、qSOFAでは呼吸回数22回以上とされていますが、21回ならいいのか?というわけではありません。
このような研究では、何百万というデータより、これらの変数を導き出して、22回が最も妥当な数値であったということより、この数値になっているだけです。
ほんとは違いますが、悪くなる人の平均くらいに思っておけばよいと思います。
個人的には、20回を超えると要注意、25回を超えると原因を検索したほうがよい、30回を超えると数時間以内に急変する可能性が高い、といった感じで普段は対応しています。
ただ、入院患者さんでは、ずっと呼吸数が22回の人もいますので、トレンド(推移)が大事になります。
常に意識して対応すれば、習慣化します。
習慣化するということは、食事の間に手を洗わないと気持ち悪い、といった感覚と同じです。
呼吸数を測定しないと、なんだか後ろめたい気持ちになるようであれば、あなたの勤務では、急変が起きる可能性はグッと低くなります。
急変って何ですか?
急に状態が変化することです。
私の勤務では急変が多い、という人がいたとします。
けれども、裏を返せば急変を予知できなかったということと、ニアリーイコールだと思います。
わたしがいぜんおこなった研究では、急変の起こる6時間前には、何らかのバイタルサインの変化や看護師さんの懸念等がみられました。
つまり、呼吸数を測定し、普段より早い呼吸数をアセスメントすることで、その急変は予期し、予定通り起きた状態の変化ということになりうるのです。
あまりかっこよくないかもしれませんが、悪ものが地球に乗り込んできたけど、うまく諭して何事もなく平穏に過ごせたのか、悪者が地球で暴れだしてから、総力戦で戦うのか、そんな感じのイメージです(わかりづらいか)。
qSOFAについて
qSOFAは、先ほど述べましたが、この3つの所見は、何もなくてもわかるということがポイントです。
以前は、全身性炎症反応症候群(SIRS)という4つの項目が、現在のqSOFAの位置づけだったのですが、この項目は血液検査で、白血球の値を調べなければならないので、面倒でした。
けれども、qSOFAになってからは、看護師さんが、極端に言えば、身一つで評価することができるのは大きなポイントです。
実際にどのように評価するのかというと、呼吸を真似しながら患者さんに近づいていき、声をかけて意識レベルの評価をしつつ、ダブルハンド法で血圧を測定します。多分、評価を終えるまでに、1分もかからないと思います。
ダブルハンド法とは
完全に筆者の以前のボスの受け売りですが、上腕動脈と橈骨動脈を同時に触れてみてください。
その状態で、上腕動脈を圧迫していきます。
軽く押しただけで、橈骨動脈の拍動が消失するようであれば、収縮期血圧は80位、もう少し押して消失するなら100位、やや強く押しても消失しなければ120以上、かなり強く推しても消失しなければ、140以上ということになります。
一般的に、脈が触れれば橈骨80-大腿70-総頸60といわれています。
けれども、臨床的には、これよりもマイナス20mmHg程度にならなければ、それぞれの脈拍は消失しないように思います。
なので、qSOFAの基準に該当する場合は、橈骨動脈が振れないか、上腕動脈を軽く押しただけで橈骨動脈の脈拍が消失するようであれば、可能性が高いと思います。この辺りは、経験や感覚によるものが大きいですが、数回意識して行えば、できるようになると思います。
意識状態の変化について
呼吸の重要性は、いろんなところで協調されるのですが、もう一つ重要な指標があります。
せん妄です。
せん妄は、変動性の意識状態ととらえることができます。
1日のうちで、変動があるようなら、せん妄の可能性が高いと判断できると思います。
せん妄の種類には、主に3種類あります。
- 低活動型
- 過活動型
- 混合型
です。
一般的に、せん妄は、暴れるせん妄の場合に、医療者を困らせるのですが、実は静かなせん妄のほうが、多いと言われています。
また、静かなせん妄は、生命予後が悪いのではないか、といった報告もあります。
静かなせん妄は、あまり医療者を困らせることがないので、見逃されやすいせん妄として、ここ15年程トピックとされています。
せん妄の特徴として、意識状態の変動があると言いました。
もう一つの特徴が、注意力障害です。
例えば、こちらが話しているのに、注意がすぐにそれたりします。
なので、せん妄の人に対して、胃チューブや気管チューブを抜かないでね!と伝えても、振り返った時には、抜いていることが良くあります。
せん妄の評価も、一般的にはフィジカルの範疇を超えているかもしれませんが、個人的には、積極的に取りに行ってほしいフィジカルであると思います。
特に高齢者・認知症・全身状態が悪い人・アルコール多飲している人なんかが、リスク因子を保有していると言われています。け
れども、予防的に身体抑制を行ったとしても、「はさみできってくださーい」と叫び続けている方は、よく見かけるような気がします。
個人的には、抑制されるのが嫌なので、するのも嫌です。
わたしの以前の職場では、入職してまず教わったのが、身体抑制をいかに外れないように行うか、ということでした。
患者さんの腕を抑制帯で巻いて、2重に縛って、ベッドの下の届かないところに、真結びで2回結んで、それから、もう1箇所真結びで2回結んで!!といった感じです。
医療者はプロフェッショナルですので、身体拘束が必要かどうかを、高い確率をもって推測することができる人であるべきだと思います。
リスクのある人だから、ぐるぐる巻きに外れないように、縛るのであれば、医療者でなくても、できます。
医療者=専門家である、あなたにはそのようなアセスメントを行ってほしいと思っています。
治療でもそうですが、始めたものは、いつ辞めるか、明確に決めてから始めるべきです。
例えば、抗菌薬を始める際には、どのような臓器のどのような細菌にたいして、どのような抗菌薬をどのような量でどのくらいの期間治療するかを、前もって決めてから始めます。
このあたりの推定を行わずに、抗菌薬を開始すると、いつやめようか、わからなくなってしまいます。
身体拘束も同様に、どういう状態になったら外すのか、という決まりを明確に決めてから開始すべきであると思います。
なかなか、難しいんですけど、専門家にしかできない事だと思っています。
せん妄の評価について
せん妄とは、急性の脳障害とも言われています。
全身状態が悪いと、1つの臓器だけでなく、ほかの臓器も障害されます。
それが、肝障害や腎障害と同様に、脳に障害が起きていると判断するので、せん妄は、ほっとけない存在なのです。
ICUでよく用いられているのが、CAM-ICUというものです。
興味のある方は、個別に勉強していただければよいのですが、評価としては比較的簡単なものです。
そのため、ICUだけでなく、病棟でも利用していただきたいと思っています。
ICU領域において、国際的には、最も標準的な評価方法となっています。
なんで標準的になっているのかというと、バンダービルド大学のEly先生らのグループが、この領域の論文を量産しているから、標準になっているのだと思います。
CAM-ICUの主要なものが、ASEと呼ばれるものです。
日本語だと、注意力テストみたいな感じです。
まず、握手をして離握手をしてもらいます。
できるのであれば、2−3秒に1回程度のペースで、「数字をランダムに言っていくので、1と言った時だけ握り返してください」といって、10のランダムな数字を言っていきます。
その中に、1を3回入れるのがポイントです。
エラーが3回以上だと、せん妄の可能性が高いと判断します。
ほかにも、いくつかせん妄のスクリーニングには、種類がありますが、ASEが最も簡便ですので、ぜひ行ってみてください。
握力について
先ほど、ASEで離握手の話が出ました。
この時に、ついでに、思いっきり握り返してください、と言って握ってもらうのも、おすすめです。
特に高齢者ですと、サルコペニアやフレイルといった状態の方が多いです。
簡単に言えば、サルコペニアは筋力低下で、フレイルはいろんな要因で衰えてきた前介護状態といったニュアンスです。
実は、握力は全身の筋力を反映すると言われています。
握力は、男性で30未満、女性で20未満が、サルコペニアの可能性が高いと判断されます。
入院当初は元気だった人も、フレイルの状態ですと、誤嚥性肺炎などを契機に、一気に衰弱が進行してしまいます。
そのあたりの判断として、握力を簡便に測定するのは、おすすめです。
「わかる」と「できる」と「実践できる」
よく、KAPのGAPといわれます。
「Knowledge」「Attitude」「Practice」のことです。
何のために、勉強するのか、という問いを立てることは重要だと思います。
例えば、学生時代であれば、○○大学に合格するため、であったり、看護学生であれば、国家試験に合格するため、という問いというか目標が必然的に設定されています。
けれども、これらの目標は、自分自身の意図とは、異なり周囲がある程度設定しているものである場合が少なからずあると思います。
看護師国家試験に合格し、あなたは臨床現場で働いています。
これからの問いは、あなた事自身が立てなければなりません。
看護師といっても、病院以外にも活躍の場はたくさんあります。
それを決めるのもあなたです。
けれども、病院で勤務する以上は、患者さんにとって良いことをしなさいとは言いませんが、少なくとも悪いことはしないほうが、賢い選択ということになります。
「First do not harm」が有名ですね。
臨床系で最も権威のある雑誌である、ニューイングランドジャーナルオブメディシンの以前の編集長である、インジェルフィンガーさんは、以下のような格言を残しました。
「医療でよくなる人は10%、医療で悪くなる人は10%、そのほかの人は良くも悪くもならない」と。
で、何のために勉強するのか?少なくとも、病院で勤務する以上は、患者さんに悪いことをしないということと、今よりももっと良いことをするために、勉強するのだと思います。
たとえば、多くの人は、利き手以外に箸を持ちご飯を食べる方法はよくわかると思います。
けれども、左手に箸を持ち、ご飯を食べようとしても、練習しなければ、できないと思います。
これは、わかってはいるが、できないという状態です。
カンファレンスもよく行われますが、実際に患者さんに実践することで、はじめてそのカンファレンスは意味のあるものになります。
だから、医療者であるあなたは、患者さんを悪くしないという知識を持つということと、話し合われた内容の実現可能性(feasibility)がどのくらいあるのか、ということを検討すべきなのだと思います。
できることを増やすには、最もよく遭遇するものを中心に、覚えて、実践することが近道だと思います。
院内の発熱について
発熱は、病院で勤務していれば、毎日のように遭遇します。
発熱時、血液培養という指示もあると思います。
先ほど、臨床でよく遭遇するものから、と言いましたが、そのような領域だからこそ、意外に根拠が明確でなかったり、慣例的に行われている処置が多かったり、一定のコンセンサスが得られていない事もよくあることだと思います。
たとえば、発熱に対して、クーリングを行うことは、ホントによいことなのか?
解熱剤を使用して、熱を下げる事は良いことなのか?
とか、答えはわかりますか?
答えは、ある・なしの二元論ではなく、どのくらいの確率で、あなたが行おうとしているケアは、支持されるのか?という、確率問題とすべきです。
だから、発熱時にクーリングを行うことは、一律に良い、わけがありません。
患者さんは、患者さんの数だけ、検討されるべきなので、ある患者さんにはクーリングを行う事は支持されるかもしれません。
わかりやすい例だと、悪寒戦慄を来している人に発熱があるからと言って、クーリングは行いません、よね。
よく出てきていますが、看護は科学なのです!
院内の発熱の話に戻ると、わたしが良く利用しているもので、6Dとか7Dとかいうものがあります。
このDは、頭文字をとっただけで、とある人気漫画のように、深い意味はありません。
なので、院内での発熱の時に、何を考えるかというお話をしたいと思います。
まず、ほっといたら死んでしまうもの、は考えましょう。
そして、よくあるものを考えましょう。
よくあって、ほっといたら死んでしまうものは、何だ?
ずはり、感染症です。
感染症でよくおこるものは、肺炎・尿路感染・肝胆道系感染・皮膚軟部組織感染が4大感染症とでもいいましょうか。
とにかく、このあたりの感染症はよく起きます。
症例のほうがわかりやすいと思いますので、症例を提示します。
【症例】
あなたは、先輩看護師と3名で夜勤中です。朝の3時に、80歳女性が肺炎で抗菌薬治療中7日目に発熱しました。
症例というほどのものではなかったですが、どうしましょうか。
セオリーとしては、よく起きて、ほっといたら死ぬものから考えます。
ずばり、「敗血症」かどうか?をアセスします。
敗血症の入り口は、qSOFAでしたね。
そうすると、何が知りたいですか?
意識・血圧・呼吸数ですね。
では、意識は普段と同じだけどやや混乱があり、血圧は102/60、呼吸数は24回でした。
qSOFAは、いくつ以上が敗血症の入り口でしたか?
2/3以上ですね。
この患者さんでは、呼吸と、血圧はぎりぎり該当しなくて、意識も微妙なところです。
なので、qSOFAを純粋に評価すると、1/3しか該当しないので、安心、できますか?ということになります
これからのAI時代では、このような微妙な判断こそが、人間がの得意分野となってきます。
得意なものは、どんどん伸ばしましょう!
判断に迷う微妙なものは、経験とかも必要かもしれません。
qSOFAは評価しました、では見た目はどうでしょうか?
悪そうなら、その患者さんの状態は悪いと判断すべきです。
Dr.callしようかどうしようか、迷っているうちに、血圧が90/50に下がってきて、意識もここの場所がわからなくなってきました。
qSOFA陽性です。
先ほど挙げた、4大感染症をフィジカルで評価していきましょう。
肝胆道系のフィジカル
この人が、肝胆道系感染である可能性はどうでしょうか?
看護ケアからの観察では、黄疸や、便の色を確認していると思います。
黄疸は実際は、ある程度ビリルビンが上昇しなければ、わかるものではないので、意図してその所見を見に行く必要性があります。
どこを見ますか?
ぱっと見で黄色い場合もあると思います。
体表からの観察で最も、白い部分は眼球なので、眼球結膜の黄染があるかどうかを確認します。
胆嚢炎と考えるのであれば、この患者さんでは、どのくらい胆嚢炎のリスクがありそうですか?
一般的に胆嚢炎は、国家試験で勉強したと思いますが、5Fが特徴といわれていると思います。
5Fは中年、女性、小太り、色白、経産婦でしたね。
この患者さんに5Fはあまり当てはまりそうにないですね。
胆嚢炎にも種類があります。
重症患者でよくみられる、無石性胆嚢炎や、セフトリアキソンという抗菌薬で起こるものもあります。
この患者さんは、セフトリアキソンを使用していました。
一般的に、セフトリアキソンを使用する前には、胆石・胆泥がない事を確認してから使用しています。
この患者さんのCT検査をみなおすと、胆石が写っていました。
胆嚢炎の診断基準を覚えていますか?
ざっくり3つでした、腹痛・検査データ・画像のうち2/3以上を満たす場合、だったと思います。
看護師さんは、画像や血液検査の解釈はできても、オーダーはできないので、どのくらい胆嚢炎らしさがあるかを、フィジカルでみつけにいく事が必要です。
正直、画像検査とかと比べると精度は劣る割に、労力はかかります。
けど、とても重要な所見です。
腹痛を問うと、右季肋部に少し痛みがありそうです。
痛みの時は、OPQRSTという、聞くべき問診事項があるのですが、フィジカルですので、省略します。
どんな身体所見を知っていますか?
有名なのは、マーフィー徴候だと思います。
マーフィー 徴候 を正しく実施できますか?
Murphy 徴候 は、みぎ肋骨の下に手を滑り込ませて、深呼吸をしてもらいます。
コツは、みぎ肋骨の下あたりに手を当てて、「息を吸ってくださーい」といって、つぎに「はいてくださーい、吐いてはいてー吐ききってください」といってあなたの右手を患者さんのみぎ肋骨下縁に滑り込ませていきます。
その後、あなたの右手が全部入ったら、次に「息を吸ってくださーい」と言って、息が止まるかどうかを見ます。
痛みを見るのではないのが、ポイントです。
間接的に痛みを見ていますので、横隔膜が下がってきて、同時に胆のうが下がってきて押されたことにより、痛みが誘発され、その結果息が吸えない状態になります。
ところが、Murphy徴候は、被験者によりその検査の精度に差がでる事が知られています。
多分、胆のうの場所が個人で異なる事などもあるのだと思います。
そこで、Murphy徴候をより確実に取るために、エコーを使ったMurphy徴候が一般的に行われています。
USマーフィーであったり、Songraphicマーフィーと言われる検査です。
USマーフィーは、直接胆のうをエコープローベで描出して、その部位を押すので、胆のうが押されているのが、よくわかります。
けれども、エコーも看護師さんは、使いづらい(ほんとは、使ったほうがいろいろわかるし、便利だと思います)ですよね。
そこで、もう一つ有用な検査の方法があります。
肝叩打痛という検査になります。
この検査は、肝臓のあたりに左手をあてて、その上から右手をグーにして叩打する、といういたってシンプルな検査です。
ある研究では、マーフィサインよりも、有用な検査(感度が高い)という結果も得られています。
また、人間には右と左でそれぞれ異なる臓器が存在しますので、左右差を見る事が大事です。
ちなみに、肝叩打痛が陽性で、脾叩打痛が陰性の場合は、肝臓周辺に何かあるかもしれないと考える事ができます。
そこから、肝腫大はないかとか、打診や聴診(スクラッチテスト)などである程度臓器の大きさを推定する事は可能です。
このあたりの身体所見の、限界になるのですが、上手な人がやればちゃんとした所見が取れます。
けれども、あまり上手でない人がやった場合に、その所見が陰性だったとはいいがたいという事が、問題です。
そういう観点からは、肝叩打痛やUSマーフィ検査は、だれがやっても大体同じ結果になりますので、有用な検査ということになります。
これを、一般化可能性といいます。
一般化可能性のある検査は、簡単ですが、その病気の可能性を考えるうえで重要になります。
肺のフィジカル
肺の場合は、肺炎のところで述べたとおりです。
視診で、左右の胸郭の動きなどをみる事は、重要です。
左右差がある場合は、何か原因がある場合があります。
例えば、右肺の無気肺になれば、右胸郭の動きは悪くなります。
聴診をすぐしがちなのですが、その前に視診や触診を行うことで、ある程度呼吸音の推定も可能です。
触診の多くは、痰が貯留しているかどうか、というところが入院中の患者さんであれば、大事な所見になると思います。
痰が貯留していて、気道が開通している場合は、胸郭を伝わって振動が手のひらに伝わります。
ぜひ、触診での評価も行ってみてください。
肺というか、呼吸になりますが、呼吸筋にはいくつか種類があります。
そして、吸気と呼気があります。
吸気と呼気では、それぞれ使用している筋肉が異なります。
ほとんどの場合は、吸気の筋肉が発達します。
覚えておくべき筋肉は、胸鎖乳突筋は覚えておきましょう。
あなたの胸鎖乳突筋を触ってみてください。
緊張していないと思います。
頑張って息を吸ってみてください。
胸鎖乳突筋が張るはずです。
呼吸状態の悪くなった患者さんは、あなたががんぱって呼吸をするときに使う筋肉を常に使っています。
例えば、酸素を組織に運ぶには3つの重要な要素がありました。
酸素飽和度・ヘモグロビン・心拍出量でしたね。
なので、酸素化が悪い場合は、一般に酸素飽和度しか見ないことも多いかもしれませんが、ヘモグロビンと心拍出量にも注意を向ける事で、ほんとの意味で酸素化の評価が行える事になります。
例えば、呼吸数が30回で酸素飽和度95%と、呼吸数が20回で酸素飽和度95%では、前者のほうが、酸素をより取り込んでいるのに、酸素化は悪いという状態になります。 呼吸の時の筋肉で、逆に吐くときには、どの筋肉を使用しているでしょうか。
頑張って、おなかに手を当てながらやってみてください。
どうでしょうか、腹筋に力が入っているのではないでしょうか。
普通、呼吸というのは呼と吸に分けられます。
吸の時に筋肉を使い、呼の時には筋肉は使用していません。
けれども、がんぱって吐いているということは、呼気障害があるという事になります。
呼気障害は、必要な空気が通る道が狭い場合(気管支喘息)や、相対的に狭くなる場合(CPOD)があります。
COPDの口すぼめ呼吸は有名ですね。
また、慢性心不全の方でも、体液量過剰になってきた場合などは、心不全となりますので、自分自身で上咽頭を狭窄させて呼吸をして、対応能力を身に着けている方もいらっしゃいます。
あと、臨床的に重要なのは、聴診器をベッドと患者さんの背中の間に滑り込ませて、背中側の音を聞く事は大事な所見です。
通常、肺はスポンジのような構造なので、仰臥位で寝ている患者さんは、背中側に傷害がでることがほとんどです。
例えば、無気肺なら呼吸音は対側と比べて弱くなりますし、下肺野(下葉)の肺炎なら前胸部と比較して、明らかな副雑音を聴取できるはずです。
ちなみに、インターネットでも解剖学の教科書でも何でもよいのですが、背中側の肺のほとんどは、下葉になります。
また、下葉は肺全体で考えても、多くのウエイトを占めます。
肺の問題は、よくあるだけに、ほかにも見るべき所見はたくさんありますが、この辺の事を念頭にできれば、ひとまずよいと思います。
尿路のフィジカル
臨床でよくあるのが、尿道カテーテル抜去後に尿が出ませんというシチュエーションです。
特に高齢者だと、男女問わず比較的よくみる光景だと思います。
この時、エコーを当てて、膀胱の体積を測定する事で、どの程度尿が貯留しているのかが、わかります。
ちなみに、体積の出し方は、「(縦x横x高さ)/2」になります。
脳出血の場合も、この方法でCTを見ながら出血量の推定が行えます。
けれども、エコーだと看護師さんが自由に使えるものは多分ありません。
ですから、エコーに代用できる、身体所見をとる必要性があります。
それが、聴性打診です。
恥骨結合上に、聴診器を当てて音を聞きながら、指1本分づつ皮膚をこするか、軽く打診をして恥骨結合上からの音が変わる高さを計測します。
この時に音が変わるときの高さが、8-9cm以上だと残尿による膀胱尿貯留と考える事ができます。
意外に使えるので、ぜひやってみてください。
聴性打診をついでに紹介すると、大腿骨頸部骨折等の下肢の骨折もよくわかります。
同じく恥骨結合上に聴診器を当てて、膝をポンと叩くと明らかに音が違う場合(伝わりづらい側)は、骨折の可能性が極めて高いと言えます。
病院内でも転倒して、足を痛がる方がいると思いますので、下肢長差等の所見と併せてアセスしてみるのもよいかもしれません。
尿路でもう一つ重要な身体所見がありました。
CVA叩打痛です。腎臓を、背中から軽く叩くやつです。
ベッド上だと、横向きになってもらって、どちらかの手を腎臓のあたり(だいたい肘の高さ)において、その手の上からグーで軽く叩きます。
明らかな左右差がある場合は、腎盂腎炎で発熱している可能性も考えてもよいかもしれません。
横向きになれない人は、ベッドの下に手を滑り込ませて、腎臓を挟み込むように上と下から圧迫します。
これも左右差を見ます。
左右見るときは、痛くないほうからみる、が原則です。
皮膚軟部組織のフィジカル
皮膚軟部組織の場合は、冒頭に「皮膚」と銘打っているので、見た目がすごく重要です。
とにかく、見ないことには始まりません。
全身を裸にして観察できるのは、看護師さんのいわば特権のようなものですので、フィジカルでも大きな強みになります。
熱が出た場合は、褥瘡が多いですので、褥瘡ができやすい部位(仙骨周辺)をくまなく観察します。
また、触ってみて握雪感等を確認します。
握雪感がある場合はやばい事が多いです。
ガスを産生する菌の関与等も示唆されますので、急いで対応したほうがよいです。
対応は、バイタルサイン、そしてqSOFAでしたね。
また、よくあるのが蜂窩織炎です。
下肢が多いですが、下肢以外にも起こります。
いわゆる炎症の4徴(発赤・腫脹・疼痛・発熱)ですね。
糖尿病のある方などは、神経障害のによる、糖尿病性壊疽、いわゆるDM footということもあります。
ばい菌には、空気の好きな好気性菌と、空気のないところが好きな嫌気性菌がいます。
変なにおい(腐ったようなにおい)の場合は、嫌気性菌が関与している場合が多いですので、においもフィジカルの1つですね。
靴下は面倒でも、必ず脱がせて確認しましょう。
ちなみに、糖尿病性神経障害があるということは、腎障害と網膜症はあるでしょうか?
キーワードは、「しめじ」です。神経→眼→腎臓の順に、障害されていきますので、腎障害があるということは、網膜症と神経障害は、
たぶんあるだろうという推定ができます。
皮膚の所見は、随伴症状を見ます。
触っていたいのか、押していたいのかなど。
あとは、境界と範囲です。
見た目なので、写真にとる事をお勧めします。
そして、局所の炎症所見の場合は、マジックでマーキングをしましょう。
マーキングをしたのに、後で見直したら皮疹の範囲が増加しているかもしれません。
また、医師に拡大を報告しても、ホントに?と言われる可能性もあるので、写真にとりましょう。
写真にとることで、評価できますし、共有もできます。
院内の発熱で考える事
院内で起きるとやばい発熱、4つのフィジカルのあとは、その他の熱の原因に移りたいと思います。
よく、6Dとか7Dとか頭文字で、表現されるものです。
日本語ですと、
- 薬剤
- 静脈血栓塞栓症
- 偽痛風(結晶誘発性関節炎)
- 褥瘡
- クロストリディオイディスディフィシル感染症(下痢)
- デバイス(静脈ラインや尿カテなど)
の6Dに、深部膿瘍を加え7Dなどと言われます。
この7Dのうち、感染症は、
- 褥瘡
- クリストリディオイディスディフィシル感染症
- デバイス
- 深部膿瘍
の4つがあります。
残3つの、
- 静脈血栓塞栓症(VTE)
- 偽痛風
- 薬剤
は、非感染症です。
感染症は、先ほどから述べていますように、ほっといたら死ぬ病気です。
そのため、qSOFAで敗血症なのか?と常に疑いながら、観察する事が必要になります。
ある格言で、「感染症はよくなるかくなるかのどちらかしかない」と言われます。
つまり、良くも悪くもならない感染症は、基本的にないと思っていただいて大丈夫です。
例外としては、感染性心内膜炎や膿瘍や結核など、緩徐に進行する感染症もありますが、いずれにせよ、悪くなるスパンが長くなるだけであって、治療しなければ悪くなります。
褥瘡のフィジカルは、先ほど述べましたので割愛します。
クロストリディオイディスディフィシル感染症
CDIと略されます。
最近は、クロストリジウムではなく、もう少し広義のクロストリディオイディスディフィシル感染症といわれています。
略語で表記する場合は、CDIになります。
下痢をしている人には、常に疑う姿勢が必要です。
以前は、クロストリジウムディフィシルに関連した下痢ということで、CDADという表現もなされていましたが、最近は使用されません。
ここでも、看護師さんが最初に気づく事が多いです。
まずは、CDIの事前確立が高いかどうかを、確認します。
事前確立を高めるものは、なんといっても、抗菌薬の使用歴です。
特に、2か月以内の抗菌薬使用歴があって、下痢や発熱を来す場合は、CDIの可能性が高まります。
「臭い」に関する、さまざまな研究もなされており、経験のある看護師さんなら、高い確率でわかるといった研究もあります。
また、訓練された犬がにおいを嗅いで、高い確率で判断できたといった研究もあります。
そのため、下痢のある人で、抗菌薬、特に広域の抗菌薬を使用していた場合は、変な臭いがしないかどうか、観察してください。
これも、立派なフィジカルだと思います。
広域の抗菌薬と言われても、よくわからないと思いますので、具体的に商品名を挙げますと、メロペンとかゾシンとかセフトリアキソンとか、たくさんのばい菌に効くやつです。
特定の抗菌薬を使用することで、CDIのリスクが高まると成書を見れば書いてありますが、そんなことよりも、とにかく内服薬含めて抗菌薬使用歴があるかないかを、確認するとよいと思います。
経験的には、CDIにかかると、食事が食べられなくなり、下痢をして、脱水になって、血液の白血球の値が著増することが多いです。
治療薬は、CDIに効く抗菌薬になります。
可能なら、今使っている抗菌薬を中止します。
CDIに効く抗菌薬は、メトロニダゾール・バンコマイシン・フィダキソマイシンの3つが、主に使用されます。
ちなみに、メトロニダゾールは、経口内服薬ですが、驚くほど吸収(バイオアベイラビリティ)が良い薬です。
欠点としては、脳に作用して、脳症を来すことや、重症のCDIには一般的に使えない、最近効かなくなってきている事などが、挙げられます。
ちなみに、バンコマイシンは、ほとんど経口で投与しますが、点滴では絶対に投与しません。
点滴で治療しても、腸管内には作用せず、内服で治療しても腸管のみに作用し、体内には吸収されません。
バンコマイシンの内服薬は1日4回ですが、経口で飲める患者さんにとっては、とても苦いようです。
場合によっては、甘いブドウ糖液のようなものを使用する場合もあります
デバイス
デバイスにも種類がいくつもあります。
最も多いのは、末梢点滴と尿カテでしょう。
以前は、中心静脈カテーテルのみが、主要なカテーテル関連血流感染の原因とされていました。
しかし、最近では末梢静脈でも、同じようにCRBSIを来すことがわかってきました。
CRBSIとは、シーアールビーエスアイと呼びます。
カテーテルに関連した血流感染ですので、末梢静脈や動脈カテーテルなどを全て含む概念です。
中心静脈カテーテルの場合は特別扱いで、CLABSI(シーエルエービーエスアイと呼びます)と分けて考えられています。
とにかく、清潔に操作することと、なにより、不要なカテーテルは早期抜去が、デバイス管理のポイントです。
ちなみに、中心静脈カテーテルの場合は、1%以上のクロルヘキシジンアルコールでの消毒・マキシマルバリアプリコーションなどが、バンドル(束)アプローチとして推奨されています。
フィジカルとは、話がそれますが、以前TIME誌の100人にも選ばれたことのある、Pronovost先生は、中心静脈カテーテルの手順に疑義があった場合は、看護師に中止の権限を与えました。
この研究は、ニューイングランドジャーナルオブメディシン(NEJM)という、臨床系で最も権威のある雑誌へアクセプトされています。
看護師により、死亡率低下などへ寄与する事もできるのです。
次に尿カテですが、尿カテ留置では1日で3%のカテーテル関連尿路感染症(CA-UTI:シーエーユーティアイとかカウチと呼びます)のリスクといわれています。
ということは、1か月で100%CAUTIは起きてしまうのは必然ということになります。
尿カテも、不要な留置が多いので、積極的に尿カテ抜去ができないか、医師に相談してみてください。
基本的に尿カテ留置の適応は、周囲の創部汚染予防や、急性期で厳密な尿量モニタリングが必要な場合に限られます。
よく、「尿カテが入っているので、陰部洗浄しないと感染起こします」と言っている方もいますが、その根拠を提示できるでしょうか?
実は、このような根拠に乏しい実践が、あたかもベストエビデンスがあるような表現を看護師さんは時々されます。
ですので、あなたの病院にそんな看護師さんはいないと思いますが、特に強く言う場合は、その根拠(多くは論文)を提示する必要性があります。
何度も言いますが、看護は科学なのです。
最も根拠のあるプラクティスは、早期抜去に限ります!
最近は、クロルヘキシジンによる清拭で、予防できるのではないかといった、研究も散見されます。
深部膿瘍
通常、抗菌薬の治療効果判定は、72時間後に行います。
前にも出てきましたね。
3日目で評価ですね。
3日を超えても、効果が乏しい場合は、抗菌薬が間違っていたり、抗菌薬の量が少なかったり、組織移行性が悪かったり、といったことを考えます。
その他に考慮すべきものが、膿瘍になります。
膿瘍は、組織移行性の問題があります。
感染症の治療は、抗菌薬だと思っている人がいますが、実はこの答えは、半分しか合っていません。
最も大事なのは、ソースコントロールといって、ドレナージやデブリードメントなどの、感染症の原因となっているものを除去する事です。
肺炎なら排痰、膿瘍ならドレナージ、褥瘡なら、必要に応じて、デブリということになります。
ついでに敗血症の3本柱
- 「抗菌薬」
- 「ソースコントロール」
- 「輸液などの支持療法」
です。
抗菌薬だけで、感染症の多くには、対峙できないのです。
膿瘍の話だと、深部膿瘍で、ドレナージやデブリードメントができない場合は、抗菌薬を長期間使用する事もあります。
膿瘍の可能性を考慮せずに、抗菌薬治療を熱が下がってきたからと言って、例えば10日とかで終了してしまうと、膿瘍は再び成長してしまいます。
大事なのは、その可能性を考慮する事です。
意図して観察する事で、普段の経過と異なる「違和感」を抱くことができるようになるのだと思います。
膿瘍のフィジカルにこれと言って、特別なものはありません。
例えば、肝膿瘍であれば、肝叩打痛などが陽性になると思います。
腸腰筋という、足を伸ばすための筋肉にもときに膿瘍を作る事があります。
腸腰に膿瘍ができると、足を伸ばせなくなるので、片足は常に曲げた状態となります。
腸腰筋サイン(Psoars sign)という、足を後ろに反らせて確認するサインなどもあります。
蜂窩織炎と皮下膿瘍なども、見た目では区別がつかないとも言われています。
静脈血栓塞栓症
日本人には比較的少ないと言われていましたが、近年の診断技術の発展に伴い、診断される症例が増加しています。
入院中は、リスクの層別化を行います。
ウェルズスコアという、検査前確率を出すスコアリングがあります。
どういうものかというと、頻脈、胸痛や血痰、片側下肢の浮腫、担癌患者、不動化などをスコアリングしていくものです。
要は、このスコアに該当するような患者さんは、リスクが高い患者さんということになります。
ある格言で、「左足が太いのは普通かもしれないが、右足が太いのは異常だ」というものがありました。
麻痺等を伴う患者さんには、該当しませんが、日常で清拭等を行うついでに、両下肢の差に着目することは、不動化が起こりやすい入院患者では、深部静脈血栓症の早期発見に寄与する可能性があります。
ちなみに、血痰と喀血は使い分けてくださいね。
血痰は、痰に血が混ざったくらいの感覚。
喀血は、やばいキーワードですので、気管から血が出続けているようなイメージです。喀血と聞くと、気管挿管して、動脈塞栓の準備をして、場合によっては人工心肺なども考慮する必要性があります。
下血と血便も同様に使い分けが必要です。
下血はやばいキーワードですので、すぐに内視鏡が必要なワードを示唆します。
偽痛風
高齢者では、よくあります。
実は、わたしは一般病棟をやるまで見たことがありませんでした。
でも、こんなに多いとは、思いませんでした。
逆に、今までは見逃していたのかもしれません。
多いのは、大関節に関節炎所見を示します。
関節炎も炎症ですので、いわゆる4徴の、発赤・腫脹・疼痛・熱感がおきます。
だいたい、膝関節におきます。
バルジングサインといって、膝の上部を全体的に押して、膝の下部に液体貯留を認めれば、その可能性は高くなります。
脳梗塞の既往があると、リスクがあがるという報告もあります。
スクリーニングでは、両手関節、両膝、両股関節の5枚のレントゲン撮影とされているので、このあたりには偽痛風は起きやすいといえます。
全身の関節なら、脊椎や頚椎などどこにでも起きます。
入院中に、熱が出た場合は、関節を一通り確認すると良いと思います。
薬剤
これも、割とよくあります。
比較3原則というものがあります。
比較的「元気」「徐脈」「微熱」です。
熱の割に、割と元気なのが特徴です。
デルタ(⊿)20ルールというものがあります。
これは、1℃熱が上昇するたびに、脈拍が20(細かく言えば18くらい)上昇するというものです。
薬剤熱の場合は、熱の上昇の割に、脈拍の増加が無いのが特徴です。
また、薬剤熱単独だと、いわゆるCRP陰性の発熱というくくりの鑑別で、我々は考えます。
治療は、被疑薬の中止です。
通常72時間以内に、薬剤中止後に下がってきます。
薬剤の半減期に応じては、1周間ほど継続する場合もあるようです
陽性尤度比;Likelihood ratio(LR+)について
※ライクリフッドレイシオと読みます
身体検査は、そもそも上手な人がやることでその検査の意義があります。
一般的にその身体検査を行う事ができるようになれば、その身体検査がどの程度、診断に寄与する事が可能か?といったものが、LR+というものになります。
例えば、肺炎の身体所見は、先に述べましたね。
肺炎らしい所見とは、呼吸数の増加や痰や咳の増加を伴い、酸素化が悪ければ、疑うのでした。
ここでは、もう少し詳しく検討してみましょう。
マクギーの身体診断学という本があります。
現在、第2版を翻の日本語版が出ています。
筆者は、第1版しか持ち合わせていないので、その中に記載してあるものを転記します。
LR+の高いものから順に記載していくと、ヤギ声4.1、悪液質4.0、打診濁音3.0、気管支性呼吸音3.3、呼吸音の減弱2.3などがあります。
ちなみに、ヤギ声とは「イー」と言ってもらって、聴診すると「エー」と聞こえる所見の事です。
看護師さんで、ヤギ声ありとか、書いている人を見たこと無いです。
ちなみに、医師でもそんなのやっている人は、筆者の経験上ごくごくごく一部の人だけだと思います。
医師は、レントゲンなどの検査が多用できるので、いいなーと思いますが、このような検査特異性の高い所見は、本来は積極的にとっていきたいですね。
ちなみに、肺炎のときに、呼吸音で「クラックルあり」と多くは記載されていますが、クラックルのLR+は1.8しか無いので、クラックルがあるからといって、肺炎を示唆する可能性は、それほど高くないことがわかります。
Likelihoodの考え方は、最初は難しいと思いますが、使うことで慣れてくると思います。日常でよく用いている、フィジカルのLRは知っておくと、看護がサイエンスだということに少しでも寄与できるものであると思います。
もう少し、LRの紹介をすると、死亡の予測因子のLR+が高いものは、収縮期血圧LR+10.0、低体温LR+3.5、精神状態の異常LR+2.8となっています。
つまり、日常で、「またせん妄だ」思った患者さんが、院内で死亡する可能性が高くなるということです
臨床は、予測と結果の乖離を埋めていく作業である?
【症例】例えば、「臓器特異的所見」を取りに行こう症例
87歳男性、ADL車いす、普段の食形態はペーストとろみ付き、受診前日に発熱を生じ、その後に嘔吐、嘔吐後より酸素飽和度の低下を認め、喀痰と咳の増加を認めたたため、当院受診
予測される、バイタルサインは?予測される、呼吸音は?予測される、喀痰培養結果は?予測される、血液検査所見は?予測される、レントゲン所見は?
予測される、バイタルサインは?
▷発熱はあるだろう、血圧は低いかもしれない、呼吸数は早いだろう、脈拍も早いかもしれない、酸素飽和度は低いだろう
予測される、呼吸音は?
▷みぎ下肺野に、副雑音があるかもしれない、咳をしているので痰でむせているかもしれない
予測される、喀痰培養結果は?
▷嘔吐後の酸素化低下なので、口腔内常在菌だろう、しかし発熱後の嘔吐なので他に原因があるかもしれない
予測される、血液検査所見は?
▷何を見たいのか?
▷発熱後の嘔吐であれば、胆嚢炎や尿路感染症かもしれない
予測される、レントゲン所見は?
▷嘔吐後で酸素化も低下しているため、みぎ下肺野に浸潤影があるかもしれない
一通り、漏れの無いように、頭から足先まで見たほうがよいです。
けれども、ある程度あたりをつけないと、自分が「何を見に行っているのか」が分からなくなります。
フィジカルで最も大事なのは、「自分が何を見に行っているのか?」という部分を明確にすることが重要です。
例えば、何気なく心音を聴取しても、何も聞こえてきません。
心音は、眼を閉じて、耳を澄ませて、4つあるどの弁の音を聞きに行っているのか、を明確にする事で、初めて心雑音が聴取できます。そんなものなのです。
人のつけた診断は、常に疑ってみる姿勢が大事です。
雑念を取り払って、フィジカルを取りに行く事で、前の人が記載していた記録と異なる事に気づく場合があります。
普通看護師さんの記録だと、だいたい横並びで呼吸音等は記載されていますが、「ちゃんと」自分が、フィジカルを取りに行くことで、おかしいな、という事に時々気づくはずです。
前勤務者の記録を見て、例えば呼吸音を聞くのもよいですが、自分なりの評価を必ず行ってください。
例えば、わたしはCTなどの画像をみるときには、画像を自分なりに評価してから、読影所見に目を通します。
読影を見てからだと、指摘された所見にばかり眼がいきがちです。
そのような、バイアスを除去するためには、工夫も必要です。
今までの勉強の方法は、たぶんですけど、虫垂炎であれば、虫垂炎という診断名があって、その病気は、○○な症状を示す、という事をひたすら勉強してきたと思います。
けれども、実際の臨床現場では、逆で、症状から診断名を考えていく必要があります。
教科書 : 診断名 ⇒ 症状臨床 : 症状 ⇒ 診断を推論
例えば、普通の患者さんは、虫垂炎の腹痛です、とは言いません。「おなかが痛いから来ました」といって、来ます。
あなたは、この後どうしますか?
痛みで聞くべき、最も大事なポイント★発症様式★
「慢性の増悪」「急性の痛み」「突然の痛み」
どの痛みが一番、重要かつ急ぐべき痛みですか?
答え:突然の痛み
突然って、わかりますか?
痛みを生じた時間でいえば、何時何分まで、場合によっては何秒までわかるということです。
よくたとえに出されるのが、水戸黄門(そもそもわからないか…)の印籠を出した瞬間とか、野球のホームランを打った瞬間とか、TVのCMが変わった瞬間とか、そのくらい具体的に言える場合は、危ない痛みの可能性があります。
ちなみに、突然の痛みは、Red flagサインと呼ばれる、危険な病気である可能性を示します。
突然発症の病気は、「つまる」「ねじれる」「やぶれる」「さける」の4つに分類されます。
尿管結石も、比較的突然発症の激痛を生じますが、尿管結石以外では、生命にかかわる病気だとまずは認識することが必要です。
逆に、突然の痛みを知るためには、どのような質問をすればよいと思いますか?
「痛みを自覚したとき、何をしていましたか?」 という聞き方がよくおすすめされています。
その瞬間に何をしていたか、よくわからない場合は、突然ではなく、急性発症の痛みの可能性が高いです。
あと、OPQRSTといった、語呂合わせで聞くべき症状の抜けをなくす、という方法もあります。
Onset:いつ、どのような状態で始まったか?
Palliative/Provocative:増悪寛解因子
▷痛みが緩和されるシチュエーションと増悪するシチュエーション。
▷例えば、動くと痛いけどじっとしていると痛くないとか。
Quality:痛みの質
▷波があるとか
Radiation:放散
▷心筋梗塞でよくあるものは、胸が痛いけど右/左肩に放散する痛み、とかSymptom/Severlity:症状/重症度
▷重症度は10とか100のうちどのくらい痛いか
Time course:時間経過
▷時間経過ででよくなっているのか、悪くなっているのか、変わらないのか
といった感じです。
わたしは、これらの語呂は憶えていますが、なかなか憶えるのは難しいので、「キーワード」で憶えることが大事です。
最近は、スマートフォンに、膨大なテキストが入る時代になりました。
また、検索もスムーズにできます。
病院によっては、職員のスマートフォンを禁止している病院もあると思いますが、臨床的に重要な判断をする場合には、きわめて便利なものであると思います。
確かな根拠をもって、看護を行うためには、このような便利グッズを使いこなすことが求められていると思います。
例えば、痛みの人に出会って、「OPQRST」という、キーワードを憶えていれば、スマートフォンで検索すれば、自分の欲しい情報にたどり着けますよね。
このあたりで、終わりにしようと思います。
まとめ
●フィジカルは何を目的として取りに行っているのか、を明確にする。
●フィジカルよりも、病歴のほうが大事。
●経過観察をしてはいけない状態を、判断できる。
●看護は科学ですので、科学的根拠を臨床現場に応用するための、労力を惜しまない。