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消化性潰瘍の予防戦略
PPIとは、プロトンポンプインヒビターの略です。
難しい機序はわかりませんが、消化性潰瘍(PUD)の治療を変えた薬剤として有名です。
PPIが消化性潰瘍の治療に使われる前は、ヒスタミン受容体遮断薬(H2-RAs)という薬剤が使用されてきました。
効果が無いわけではないのですが、ことさらPUDの”治療”となると、PPIの方が治療効果は良好とされています。
医療において、消化性潰瘍は長い間問題でした。
例えば、全く関係ない病気で入院していたら、急に吐血・下血を来してショック状態になってしまうような場合です。
消化性潰瘍はストレスとの関連性が指摘されています。
ストレスがかかると、胃が痛くなった経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
医療現場で最も侵襲が長時間に渡り加わるのが、重症患者さんです。
重症患者さんは、英語ではCritically illと呼ばれます。
そんな重症患者さんのなかでも、人工呼吸を使用している患者さんの消化性潰瘍発生率が高いことが明らかとなっています。
人工呼吸を48時間以上使用する場合には、消化性潰瘍(PUD)の予防が必要と言われています。
重症患者さんは、集中治療室(ICU)に入室します。
ICUに入室した患者さんのPUD予防の代表的な薬剤が2つあります。
ヒスタミン受容体遮断薬
それが、ヒスタミン受容体遮断薬とよばれる、通称H2ブロッカーと呼ばれる薬剤です。
ヒスタミンには、主に2種類あります。
ヒスタミン1(H1)は、主にアレルギーの薬でかゆみなどを取るための薬剤です。
ヒスタミン2(H2)は、胃酸分泌を弱めるための薬剤です。
ヒスタミン受容体には、H3もあります。
H3は主に脳に作用します。
H1とかH2とかは、あくまでも比率の問題ですので、H2ブロッカーでも多少はH1作用もありますし、H3作用もあります。
入院患者さんでは、不穏という一時的な脳機能の低下に伴い興奮してしまうことがありますが、ヒスタミン受容体遮断薬は、脳にも作用しますので不穏を助長してしまうこともあります。
アレルギーの薬は眠くなるとよく言われますが、H3に作用している影響といえます。
プロトンポンプインヒビター(PPI)
PPIも同じく胃酸を抑制するための薬剤です。
先にも述べたように、H2-RAsに比べるとその作用が強力とされています。
その名のごとくプロトンポンプという場所に作用して、胃酸分泌を強力に抑制するとされています。
ヒスタミン受容体遮断薬やPPIがない時代は、迷走神経切除術なども行われていたようです。
近年ではそもそも胃潰瘍で手術することは稀で、穿孔した時くらいだと思います。
ガイドラインへの記載がないことからも、標準治療ではありません。
COX作用
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、COXという作用部位を阻害しますので、消化性潰瘍の原因として代表的な薬剤です。
COXにも2種類あり、COX1とCOX2です。
COX1は、血小板凝集、消化管粘膜血流維持などの作用があります。
COX2は、炎症作用を持つため、COX2を選択的に阻害したほうが、合併症は少ないとおされています。
NSAIDsの合併症
NSAIDsの合併症はたくさんあります。
安易に使用されがちな薬剤ですが、特に高齢者の使用は慎重になった方が良いです。
合併症で有名なのは、消化性潰瘍と腎機能障害が有名です。
ほかには、血小板凝集作用を阻害しますので、出血傾向のある方、例えば肝硬変などには基本的に使用を避けた方が良いです。
ナトリウム貯留作用もありますので、心不全の増悪因子としても注意すべき薬剤です。
使い方を間違えなければ、非常に効果的な薬剤です。
効果的な薬剤は、諸刃の剣ですので、上手に使用することが必要です。
有名な合併症としての、NSAIDsによる消化性潰瘍ですが、長期投与では予防が必要になります。
消化性潰瘍の機序
- 局所粘膜への直接障害
- COX阻害によるプロスタグランジン合成阻害
があります。
つまり、NSAIDsによる消化性潰瘍を予防するためには、これらのどちらかの要因をシャットアウトすることが必要です。
NSAIDs潰瘍のリスク
長期にNSAIDsを使用することで、25%に消化性潰瘍が発生するとされています。
NSAIDsは使用しない場合と比較し、消化管出血は5−6倍多いとされています。
つまり、何も予防しなければ4人に1人は消化性潰瘍を発症してしまうということです。
ここまで高頻度ですと、もはや絶対に予防しなければなりません。
さらにそのうち、2−4%に出血や穿孔が起こるとされています。
消化管出血は、緊急内視鏡での止血が必要になりますし、最悪窒息の可能性もあります。
さらに、消化管穿孔となれば、手術も高い頻度で選択されるため、一度発症してしまうと、患者さんには多大な負担がかかることはもちろん、余計な医療費の増大にも繋がります。
さらにさらに、比較的マイナーではありますが、時に大腸や小腸に消化性潰瘍が起こるともされています。
下部の消化管出血は、胃や十二指腸と比較して、大量出血で緊急止血が必要な状況には比較的なりづらいとはされています。
小腸は特殊なので、置いといて、大腸の場合は内視鏡での止血も行うことが可能です。
大腸の内視鏡は上部と異なり、合併症も多く手技も難しいとされています。
また、超緊急時は別ですが、前処置といって、腸管内をきれいにする処置が必要になるため、高齢者の場合はその前処置に絶えられない可能性もあります。
NSAIDs潰瘍リスクの層別化
- 年齢
- 消化性潰瘍の既往
- NSAIDsの投与量
- 併用薬の有無
- ほかに、H.pylory感染
年齢が高齢となれば、それだけでリスクになります。
高齢者は、長年使ってきた血管が脆くなっていますので、高齢というだけで出血や梗塞をきたしやすい状況になっています。
そこに、出血しやすい薬剤を使用することで、そのリスクは増大します。
当然ですが、リスクのある薬剤は用量依存性に増加します。
同じNSAIDsでもいくつか種類がありますが、いわゆる胃に優しいのは、セレコキシブなどのCOX2選択的阻害薬です。
セレコキシブは胃に優しいですが、併用薬の種類によってはリスクが増加します。
併用薬の代表は、抗血小板剤と言われる類の薬剤です。
いわゆるピロリ菌もリスクになるとされていますので、胃潰瘍を繰り返す方や、有症候性の場合は除菌を行った方が良いと思われます。
COX2阻害薬
先にも書きましたように、非選択的NSAIDと比較し、明らかに消化性潰瘍の合併は少ないとされています。
しかし、低用量アスピリンとの併用では、非選択式NSAIDsと同等リスクになるとされています。
アスピリンとの併用においても、COX2阻害薬の方がリスクは低いようです。
消化性潰瘍のリスク;NSAIDs+アスピリンの併用
非選択的NSAIDs > COX2阻害薬
非選択的NSAIDs = COX2阻害薬+低用量アスピリン
非選択的NSAIDs+アスピリン > COX2阻害薬+低用量アスピリン
抗血小板剤と消化性潰瘍
アスピリン:用量依存性にリスクが上昇(低用量でもリスクは約3倍)
クロピドグレル:COXの代謝経路に関与しないが、高リスク群ではリスクになる
抗血小板薬にもいくつか種類があります。
比較的古典的な抗血小板剤は、アスピリンとクロピドグレルです。
アスピリンは用量依存性に消化性潰瘍のリスクが増大すると言われています。
日本人で使用する場合は、維持量100mg、初期量で200mgが多いと思います。
アスピリンは比較的リスクのすくない薬とされていますが、併用薬には注意が必要な薬剤です。
一方クロピドグレルに関しては、COXの代謝経路を阻害しないため、アスピリンよりは消化性潰瘍のリスクが少ないとされています。
同じ抗血小板剤ですが、その効果はクロピドグレルの方が強いとされています。
例えば、術前の休薬の場合アスピリンは7日ですが、クロピドグレルは14日とされています。
クロピドグレルは出血のリスクはアスピリンよりも高いですが、消化性潰瘍についてのリスクはアスピリンよりは低いと言えるでしょう。
リスクが低いとはいえ、同じ抗血小板剤ですので高リスクの方への使用はアスピリン同様消化性潰瘍を発症してしまいますので注意が必要です。
抗血小板剤2剤併用(DAPT)
抗血小板剤を2つ使用する場合を、DAPTと言います。
そのまま、ダプトと呼んでいます。
循環器内科で使用する抗菌薬で、ダプトマイシンという抗菌薬がありますが、DAPと略します。
ダプトマイシンのことも通称ダプトと呼んでいますので、文脈から推測することが必要です。
例えば、心筋梗塞に伴うステント留置後は血栓形成しない為に、DAPTが必要とされています。
1年ほど経過すれば、血栓のリスクも低下してくるとされますので、その場合は1剤に減らします。
抗血小板剤1剤の場合を、SAPTと言います。
DAPTのリスクは、アスピリン+クロピドグレルでは、最初の30日で1.3%の出血リスクとされています。
アスピリンと併用するDAPTの場合も、出血リスクが増大しますので、予防が必要となる薬剤です。
抗血小板剤と消化性潰瘍アスピリンが粘膜障害をきたす機序;3つ
- COX1阻害による、プロスタグランジン合成障害からの粘膜血流低下、粘液・重炭酸分泌低下
- COX2阻害による血管新生阻害からの潰瘍治癒過程の阻害、血管内皮への白血球接着増加による粘膜血流低下
- アスピリン自体による粘膜直接障害
抗血小板剤の種類
チエノピリジン系
- クロピドグレル(プラビックス):単剤でも用量依存性にPUD増加
- プラスグレル(エフィエント)
- チカグレロル(ブリリンタ)
チエノピリジン系の抗血小板剤は、COXとは関係ないため、消化性潰瘍の発症リスクはアスピリンと比較し少ないとされていますが、消化性潰瘍の治癒過程を阻害するとされています。
同じチエノピリジン系でも、プラスグレル・チカグレロルの方が出血リスクは高いとされています。
出血リスクを考慮するのであれば、クロピドグレルの方が好ましいと言えるでしょうか。
ステロイドと消化性潰瘍
- 容量とは無関係で、単独ではリスクとはならない
- NSAIDsと併用すると相対リスク4.4と上昇
- PSL<10mg リスク2.4倍
- PSL>10mg リスク7.4倍
- 糖質コルチコイド(GC)とアセトアミノフェン≥2g/d併用で、リスク4.8倍
ステロイドも長期投与で多岐にわたる合併症をきたしうる薬剤です。
その代表が、ステロイド潰瘍と言われる消化性潰瘍です。
通常のステロイド使用では、単独でのリスクにはならないとされています。
そのため、ステロイドだけを内服している患者さんに対しては、基本的に消化性潰瘍予防薬の投与は不要です。
注意すべきは、併用薬があるときです。
併用薬がなくても、抗血小板剤の場合は効果が7日程度残存することを考慮する必要があります。
例えば脳梗塞に対しアスピリン100mg+副腎不全に対しコートリル15mgを内服していた場合、状態が悪化したのでアスピリンを中止し、プレドニン15mg/日をはじめた場合なども、単独投与にはなりますが、アスピリンの効果は残存していますので、予防を行った方が良いと思います。
アセトアミノフェンもリスク
また、意外な盲点なのがアセトアミノフェンも消化性潰瘍のリスクになるということです。
アセトアミノフェンは安全な薬剤で、消化性潰瘍の発生が基本的にほとんど無い認識されがちですが、添付文書にも書かれているようにリスクにはなるようです。
そのリスクをかけ合わせると、ステロイド+アセトアミノフェン1日2g以上の場合は、消化性潰瘍のリスクが有意に上昇しますので、注意が必要です。
ステロイド+アセトアミノフェンは、慢性疾患患者にありがちな処方ですので、漫然と投与するのではなく、時々処方内容を見直し、不要な薬剤は一度中止し、その効果を評価するというのは、色んな意味でリスクを下げることに繋がります。
抗凝固薬と抗血小板剤
同じように血液をサラサラにする作用のある薬剤です。
けれども、根本的にこれら2つの薬剤は使い分けられています。
ざっくりと、静脈系は抗凝固薬、動脈系は抗血小板剤と使い分けられています。
抗凝固薬を使用する代表は、心房細動です。
心房細動は、血液が淀むことで血液のかたまりである血栓を生じます。
左心房内で血栓が形成されてしまうと、脳梗塞を生じます。
脳梗塞は、QOL(生活の質)が極端に低下しますので、予防が必要になります。
一方、抗血小板剤を使用する代表は、冠動脈ステント後、脳梗塞後です。
先程述べた脳梗塞は、心房細動が原因の脳梗塞(心原性脳塞栓症)ですので、抗血小板剤の効果は無いと言われています。
心原性脳塞栓症以外のタイプの脳梗塞(ラクナ梗塞や動脈系から飛んできた血栓による脳梗塞;A to Aタイプ、アテローム血栓症)に使用されます。
動脈の場合は、ステントや動脈の傷(プラークラプチャーなど)など、血小板凝集による血栓症が問題となります。
そのため、抗血小板剤が必要になります。
抗血小板剤の欠点は、その作用期間が7−14日程度と長期であるということです。
これは、血小板の寿命に依存してしまうからです。
そのため一度使用した抗血小板作用を元に戻すには、血小板輸血ということになります。
しかし、理論と実際(演繹法と帰納法)は異なり、血小板輸血に有益な結果は得られていないようです。
当然、手術をおこなうと、出血しやすい状態になると言われています。
手術が上手な術者であれば、抗血小板剤(アスピリン単剤の場合)の使用中であっても問題なく手術出来ると言われています。
抗凝固薬の種類
抗凝固薬には大きく分けて2種類あります。
古典的かつ膨大なエビデンスが揃っているのが、ワルファリンです。
ワルファリンは元々殺鼠剤だったようですが、現代では副作用プロファイルの観点からは最も安全に使用される抗凝固薬という位置づけです。
まさに、King of 抗凝固薬といえる存在です。
欠点は、数日効いてしまうことや、PT-INRと言われる凝固系のモニタリングが必要な事、ビタミンKなどの食生活への影響がでること、食生活と同じく抗菌薬使用により凝固機能の過延長、導入時の一時的過凝固などあるとされています。
DOAC
一方、DOAC(NOAC)と言われる抗凝固薬が最近よく使用されるようになってきました。
元々NOAC(ノアック)と呼ばれていました。
NOACのNはNovelのNです。
つまり、新しいという事です。
名称変更のきちんとした理由は知らないのですが、現在では新しくはありませんので、DOAC(ドアック)と呼ばれます。
DOACのDはDirectのDです。
つまり、直接という意味です。
そのため、DOACは直接経口抗凝固薬と呼ばれています。
経口抗凝固薬
- 抗凝固薬の場合の機序は、止血系の阻害による
- ダビガトランはトレアル酸による粘膜直接障害作用がある
- ダビガトラン以外では、直接障害作用はないとされている
- 長期内服で、1-3%の消化性潰瘍
- DOAC使用で有意な消化管出血は、2%/年
- ワルファリンとDOACでの消化性潰瘍発生は、未決着問題
- DOACではリバーロキサバンが最もPUD発生率が高く、アピキサバンが最も低い
ここまで書いたアスピリンやNSAIDsによる、消化性潰瘍の原因はCOX阻害に伴い消化管を直接的に傷害することが原因でした。
抗凝固薬には、そのような直接的な傷害作用はありませんので、一般的には予防は不要とされています。
ただし、一度消化管に傷がついてしまうと、出血量が多大となってしまいます。
例えば、ストレス性胃潰瘍であっても、通常であればジワジワした出血でおさまるはずが、大量の出血を来してしまう可能性があります。
DOACの中でもダビガトランは粘膜直接傷害作用がありますので、胃薬による予防を検討する必要があります。
また、古典的なワルファリンとDOACでも、現時点ではどちらが有益ということも無いようです。
DOAC単剤でのPPI
DOAC使用中の100万人を超える、観察研究ではPPI併用と非併用で、入院を必要とする上部消化管出血イベント発生率の罹患率比は0.66という結果があります。
予防をしなければ10人に起きたイベントを、6人にまで抑制できたということは、抗凝固薬を使用する際には、何らかの予防が検討される結果とも言えます。
また、この研究は膨大ですが、あくまでも観察研究であり、多因子の影響が排除が難しい中での研究であるという事は、そのあたりの影響を差し引いた検討が必要だと思います。
H2RA(H2受容体遮断薬)
H2RAであるファモチジン(ガスター)は20mg=25円と安価です。
PPIであるランソプラゾール(タケプロン)は30mg1錠=100円で、約4倍のコストが罹ります。
効果が同じであれば、安価で安全な薬剤がよいですが、PPIとH2RAsではどちらが良いのでしょうか。
2017年のあるメタ解析では、アスピリン投与時の消化管出血のオッズ比(OR);2.102、潰瘍形成のOR;2.257でした。
イベント発生率が約2倍に上昇する、ということですので、この結果を採用するのであれば、不耐でない限りはPPIを選択ということになります。
PPIと代謝経路
オメプラゾールやランソプラゾールは、その代謝経路であるCYP2C19とCYP3A4に影響を与えるとされています。
CYPで有名なのは、喫煙での影響とされるCYP1A2やCP3A4でのグレープフルーツなどがあります。
ちなみにCYPはシップと呼ばれます。
これらの代謝経路を有する薬剤では、相互作用でその薬剤の影響が強くなったり弱くなったりします。
薬剤師さんは、例えば喫煙者のテオフィリンなどがあれば、CYPの問題提起をしてくださいます。
PPIの中でも、ラベプラゾールはYP2C19のみに影響し、その作用も弱いとされています。
PPIによる腸炎(Collagenes colitis)
さらに、ラベプラゾールは、慢性下痢の原因とされる腸炎の1つである、Collagenes colitisを起こさないとされています。
そのため、私の周りでは、使用するならラベプラゾールがオススメされています。
ラベプラゾール(パリエット)の薬価は、20mg=162円ですが、後発薬であれば45円位ですので、薬価としても比較的耐えられる価格と言えます。
ちなみに後発薬であれば、ランソプラゾールも同じくらいの値段です。
PPIに伴う副作用
- Clostridioides difficile感染症(主に下痢)
- Collagenes colitis(慢性下痢)
- 高ガストリン血症
- 萎縮性胃炎
- 多剤耐性腸内細菌叢の形成
- マグネシウム吸収不良に伴う低Mg血症
- カルシウム吸収不良に伴う骨折リスク増加
- ビタミンB12・鉄吸収不良に伴う貧血
- 急性間質性腎炎に伴う腎臓病
- 薬剤誘発性ループス
その他、認知症、肺炎、死亡率の増加との関連性も指摘されています。
下部消化管出血
国際的にPPIやH2RAsによる上部消化性潰瘍の予防法が確率された影響もあり、相対的に小腸・大腸の消化性潰瘍は増加傾向と言われています。
その要因は、PPI自体による下部消化管出血のリスク因子の可能性もあると言われています。
小腸出血は臨床的に検出するのが大変ですが、近年未開の地であった小腸疾患の検出がダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡の発達に伴い明らかとなりつつあります。
なんの意味もないと揶揄される、レバミピドで小腸出血が抑制されたという日本初の結果もあります。
大腸出血
低用量アスピリン、NSAIDsはリスクとされています。
憩室出血の既往などあれば、慎重に使用したほうがよいと言われています。
重症患者でのストレス潰瘍予防
過去最大の研究が最近オーストラリアを中心としたグループにより発表されました。
ICUに入室後24時間以内人工呼吸を行った、26,828症例を対象としました。
PPIで潰瘍予防か、H2RBsで潰瘍予防を行うかを検討した無作為化比較試験です。
主要評価項目の全死亡率は(PPI 18.3% vs H2RAs 17.5% P=0.054)とギリギリ有意差はありませんでした。
副次的評価項目の、上部消化管出血は(PPI 1.3% vs H2RAs1.8% P=0.009),CDI(有意差なし)、ICU/Hospital滞在(有意差なし)でした。
この研究の手法は、クラスターランダム化比較試験でクロスオーバーという、少し特殊な方法を用いていますが、過去最大の研究でありこの結果を覆すことは困難であると思っています。
結果は、H2RAsの方がPPIより死亡率は少なかったが、統計学的有意差はなし。
上部消化管出血はPPIの方が有意に(と言っても0.5%)減少させる。
ほかの評価項目は有意差なしという結果でした。
この結果を臨床的にどのように応用するかは、臨床家次第だと思います。
それほどリスクのない方には、H2RAsでも良いのかもしれません。
PPI擁護派はより積極的に推奨する結果とも捉えられます。
まとめ
48時間以上の人工呼吸や抗血小板剤を使用する際には、予防を行う。
消化性潰瘍のリスクの高い症例では、PPIが良さそう。
抗凝固薬やステロイド単独仕様の場合は、基本的には予防は不要だが、リスク層別化により予防を検討する。
とりあえずPPIを使うなら、ラベプラゾールがおすすめ。
PPIには沢山の副作用があるので、副作用を上回る効果がある場合のみPPIを使用する。