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せん妄のサブタイプ
- 過活動型
- 低活動型
- 混合型
上記3つがあります。
最近では、静かなせん妄(quiet delirium)と呼ばれるタイプのせん妄も周知されてきているように思いますが、一般病棟での認知度はまだまだ低いように思います。
そもそもせん妄のイメージとはどのようなものでしょうか。
おそらく、入院中の方が急に分けのわからないことを言い出し、しまいには怒り出し暴れてしまうような状況と捉えている方が割と多いように思います。
実は、入院中のせん妄で多いタイプは、静かなせん妄である、低活動型せん妄と言われています。
いわゆる傾眠に近く、話の途中で注意力が逸れ眠ってしまうような状況です。
なぜ、静かなせん妄は、いままで(とはいえ、ICUでの死亡率を上げるとされた報告が2004年です)注目されてこなかったのでしょうか。
低活動型せん妄が注目されて来なかったのは何故か
その要因の1つとして、医療者の負担の問題があります。
医療者は基本的に多忙です。
そんな多忙のなかで、突然わけのわからないことを言い出し暴れ出されてしまうと、他の仕事もできなくなりますし、多くは女性である看護師さんも恐怖に感じてしまいます。
そのような背景があり、暴れるせん妄である、過活動型せん妄ばかりが医療現場では注目され、対応されてきたといえるでしょう。
逆の言い方をすると、低活動性せん妄の場合は、入院前の状況と比べて明らかに様子がことなているけれども、医療スタッフの手を煩わせる事ではないため、気にしてこなかったとも言えるでしょう。
せん妄は、近年とても注目されています。
それは、先にも紹介したように、せん妄発症で死亡率が上がるとされた論文を契機に広まっていったように思います。
急性脳障害としてのせん妄
せん妄は、多臓器障害の亜型としての、急性脳障害と言われています。
医療界では、急性腎傷害、急性肝障害、急性肺傷害など、いくつかの傷害・障害がありますが、これらの障害に関しては、採血データでとてもわかり易いですので、誰でも診断できてしまいます。
けれども脳障害の場合は、意図的に患者さんの脳の機能を評価する必要性がありますので、せん妄は今まで見逃されてきたのだと思います。
せん妄の評価方法
では脳の機能を評価するには、どの様な方法があるかといいますと、精神科医による診断がゴールドスタンダートと言われています。
つまり、非精神科医以外の方は、そこに近づくために、スクリーニングツールがいくつか開発されました。
集中治療室(ICU)領域では、CAM-ICMやICDSCと呼ばれるものが多く使用されています。
CAM;confusion assessment method
CAMはconfusion assessment method for ICUの略ですが、CAMを構成する要素は、せん妄診断に用いられる、DSMと呼ばれるものです。
現在は、CAMが作られたのは、おそらくDSM4の時代でしたが、DSMも進化を遂げて現在DSM6まで改定されているようです。
基本的には、せん妄の特徴としては
- 急性の意識状態の変化
- 注意力欠如
- 支離滅裂な思考
- 変動性の意識状態
より構成されます。
この4項目は、CAMのスクリーニングそのままですが、DSM4と酷似しています。
認知症とせん妄の違い
例えば認知症の方でも、ベースラインの状態より変化があれば、せん妄の可能性が高いと判断されます。
せん妄かなと思った時に手短に評価可能なものとして、注意力テスト(attension screening exmination;ASE)と呼ばれるものがあります。
ASE;注意力テスト
このASEの方法の1つとして、CAM-ICUという気管挿管されている(喋れない)患者さんにでも使用可能な、アセスメントツールを用いる方法です。
- まず、患者さんと握手をして、「手を握ってください」と伝えます。
- 手を握れたら、離してくださいと言います。
- 離してくれたら、指示に従うことができると判断できますので、ASEを行います。
- 「これかか数字をランダムに数えます、1のときだけ私の手を握り返してください」と伝えます。
- 3秒に1回程度の速さで、テストを行います。
- 3つ上の間違いがあれば、注意力欠如と判断されます。
- そのため、10の数字のうち、1は3回入れる必要性があります。
- 時間にして、1分もかかりませんので、ぜひやってみることをおすすめします。
そして、注意力欠如があり、急性発症の意識状態であれば、器質的問題を除外した後せん妄と判断されます。
器質的問題の除外
この器質的問題を除外するという行為がとてもむずかしいのです。
例えば、がんの終末期の方はせん妄を起こしませんが、いよいよ死期が近づいてくるとせん妄を効率に起こすとされています。
これは、先に述べたように、急性脳障害ですので、例えば脳の血流が低下した、血圧が低下した、酸素の取り込みが悪く脳機能に影響を与えた、など様々な要員により起こります。
このように、癌の終末期の中でも最後の最後に起こすほど、脳の機能が低下した状態で、せん妄は起きるのでした。
ということは、臨床的にまずい状態の時にせん妄は起こるということになります。
代表的なものは、心不全による低酸素血症や敗血症に伴う多臓器障害などが挙げられます。
せん妄が起きたら、必ず身体的に器質的病気が隠れていないかという評価をすることはとても重要です。
特に敗血症の場合は、時間の猶予がありませんので、早期に発見して早期に治療を行う必要があります。
敗血症を見逃さない;qSOFA
敗血症の場合は、qSOFAという3つのバイタルサインを確認する必要があります。
- 呼吸≥24回/分
- 血圧≤100mmHg
- 意識≤GCS1point
です。
数値が決まっていますが、呼吸が早くて、血圧が低くて、意識の変化がある、ような状況では、敗血症の可能性を考慮する必要があります。
ちなみに、3つの項目のうち2つを満たすと陽性とされています。
意識の状態が悪い場合は、頭部CTも考慮する必要があるかもしれません。
通常、頭蓋内病変では麻痺などの局所巣症状がでますので、簡単なものでは上肢のBarreテストなどを行います。
Barreテストは、手のひらを上にした状態で両手を前にピンと伸ばし、目を瞑ってもらいます。10秒カウントを行い、回内や下垂が起これば陽性です。
もっと細かくみるには、第5指徴候などにも注目しますが、スクリーニングとしては最低限行っておいたほうがよい検査ではあります。
一方せん妄の患者さんでは、注意力の欠如や不穏が問題となりますので、Barreテスト自体が困難かもしれません。
せん妄のリスク因子
せん妄は脳障害ですので、元々の脳機能が悪い人に起きやすいです。
例えば、心臓が元々悪い心不全の患者さんに対しては、輸液の量を少なめにしたり、食事中の塩分量を少なめにしたり、と心不全が悪化しないように治療の経過を観察しているはずです。
せん妄も同じで、過去の入院でせん妄を起こしているような方はリスク因子と言われています。
他には、アルコール依存、認知症、高齢者なども多いとされています。
高齢者は、心臓と同じく長年脳を使ってきていますので、脳機能自体が低下しています。
高齢者では、認知症が多いのも、元々の脳機能が低下してきている影響が多く関連しているとされています。
高齢者では加えて、入院などの環境の要因や、肺炎など原疾患の悪化などで追い打ちをかけられた脳はパニック状態となり、せん妄として表現されます。
ですので、せん妄を来した場合は、原疾患の悪化や敗血症がないかなど、詳しく観察する必要があるのです。
せん妄の予防
薬剤での予防効果も小規模な研究では示されている薬剤もいくつかありますが、大規模研究で示された薬剤はありません。
ちなみに、治療効果が得られたとする薬剤もありません。
そのため、予防が重要になってきます。
どの様な予防方法かといいますと、
日常の生活に近づける、これにつきます。
例えば、補聴器・メガネ・義歯・腕時計など、本来身につけるべきものを身に着けさせる。
メガネや補聴器は認知を助けますし、義歯は食事、腕時計は見当識を補助します。
また、新聞やテレビも元々見ていた方には有用だと思います。
他には、自宅ではトイレにも自分で行っていたはずですので、早期のリハも重要です。
入院すると何故か自動的に安静度を制限する方がいらっしゃいます。
安静度の制限は、利益よりも不利益の方が大きくなります。
また、安全のための身体拘束は不穏やせん妄への原因となりますので、使用しないほうが良いでしょう。
とはいえ、安全具と呼ばれる拘束具を急にやめるのも難しいと思いますので、代替案をチーム内で見当し、実践へつなげていけると良いと思います。
自宅で抑制されている人は、多分いませんので、抑制は基本的に行うべきでありません。
倫理的に抑制を見当してもよいシチュエーションが3つあります
- 非代替性
- 切迫性
- 一時性
の3つです。
非代替性は、他に手段がない場合ですが、そんなことは多分ないとおもいます。
切迫性は、余程暴れて医療者が危険にさらされるような状況であると思います。
一次性は、例えば手技の時安静や安全のためなど、といったシチュエーションであると思います。
まとめ
- せん妄には種類が大きく2つあり、静かなせん妄は見逃されやすい
- せん妄は死亡率増加の可能性もあり、予防が重要
- せん妄予防には、日常の生活と原疾患の治療が重要
- せん妄の治療・予防が出来る薬剤は現時点で、ない
- 身体抑制を行う場合は、3原則に則れば、ほとんどが適応外になる
- 身体抑制は、せん妄を助長するので、3原則を除き使用しない