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発熱患者さんの診療
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する前までは、発熱はありきたりの症候でした。
しかし、COVID−19の流行に伴い発熱患者さんは敬遠されるようになりました。
たとえば、救急受診の際にも発熱があるというだけで、診療を拒否されるという場面も多く見られるようになりました。
その結果、きちんと診療を行っている医療機関では、発熱の患者さんを恐る恐る診療する事になりました。
誰しもCOVID-19にはかかりたくありませんので、かからないような装備で診療を行います。
けれども、たくさんの装備をつけて望む診療は、通常の診療ではありませんので、診断ミスは増加する懸念が生じます。
COVID-19の診療は診療の力が試されるのか
COVID-19が流行後、ある医療機関の公式Facebookを通じて、新型コロナウイルスの診療は診療能力が試される、発熱があるというだけで診療を拒否する医療機関は、よろしくないといったニュアンスでの投稿が、いわゆるプチ炎上し、投稿を削除されました。
個人的には、何が炎上の原因なのかはさっぱりわからなかったのですが、快く思わない医療従事者がたくさんいたのでしょう。
実際に、このような発熱に対し真摯に向き合う医療機関が、発熱があるというだけで診療しなくなるような自体となれば、医療はまさしく崩壊の一途をたどることになります。
つまりこのような医療機関は過去、感冒をただの風邪ではなく、感冒に対する代替診断等をきちんと立案し、診療を行っていた医療機関なのだと思います。
発熱というだけで診療を拒否するのはありなのか
発熱というだけで、診療を行わず実際は、尿路感染症や蜂窩織炎であったということはよく聞く話です。
COVID-19のいない世界であった、以前の環境でもインフルエンザの流行期には、次から次に迅速検査を行い、検査陽性であればインフルエンザ、検査陰性であれば検査するのが早すぎたね、という医療機関は、割と多くあったように記憶しています。
診断は医師が行うものであり、検査が行うものではありません。
検査は検査を行う前に、どの程度自分が考えている疾患の確率があるのか、という前提で検査後の診断の確率が決まります。
ベイズの定理
主観と客観の掛け算により導き出す診断過程を、ベイズの定理と呼んでいます。
検査前の診断の確率は、主観も多く入ります。
けれども、主観も含めて診断に影響を与えます。
例えばサイコロを6回振って6回1が出た場合、頻度論者である方々はそんなのは確率論的にありえないと言います。
サイコロで1がでる確率は、1/6(約16%)なのだからといいます。
ベイズの定理では、サイコロを振り6回連続で1が出た場合、サイコロに細工がしてあるのではないか、と考えるといったものです。
病院にインフルエンザの患者さんが来院する確率は、同じなのかと言われると、そうではありません。
インフルエンザの流行状況や、接触歴、症状などからインフルエンザの確率が高い(事前確率が高い)と判断します、これが主観になります。
その主観を基に、客観的に揺るがない検査である、迅速検査を行います。
その結果、インフルエンザであれば、インフルエンザの診断になります。
事前確率でインフルエンザの可能性が、極めて高いと判断した場合は、通常検査を行いません。
検査後確率(事後確率)は、事前確率に左右されるからです。
では、検査が役に立つ場合というのはどのようなときでしょうか。
事前確率が、どちらとも言えないという場面で、検査の威力は発揮されます。
事前確率が50%の場合は、検査の結果により、診断が左右される場面は増えます。
さらに、検査をおこなうのであれば、検査の感度や特異度といった特性は理解しておくべきです。
例えば、インフルエンザ迅速検査の場合は、感度は約60%、特異度はほぼ100%とされています。
これは、検査陽性の場合は、インフルエンザとほぼいえるけど、陰性の場合は10人のうち4人は、ほんとはインフルエンザだけど、検査が陰性になるという事を示しています。
COVID-19における検査
COVID-19における検査も、インフルエンザの場合と基本的には同じだと思います。
病気の可能性が高い場合は、検査が行われます。
しかし、世界的に問題となっているこのウイルスは、見逃すわけには行きませんので、医療者の検査の閾値はインフルエンザとは比較にならないほど神経質になっています。
また、画像検査や他の血液検査などに加え、症状などから判断してきます。
インフルエンザでは、通常肺のCTまで撮影することは余程のことが無い限りありません。
現時点では、仕方のない戦略ですが、今後集団免疫や、ワクチンや治療薬の開発に伴い、少しづつ落ち着いて来てくれることを願います。
COVID-19の場合は、人に病気を移す可能性がありますので、そのような観点からも検査が行われます。
けれども、検査を行い診断をつけた結果、適切な治療法は現時点ではありません。
また無症状の方も多くいらしゃいます。
無症状で元気な人が、感染を拡大させていることがわかってきました。
その対策として、ソーシャルディスタンシングをおこない、感染をこれ以上広げないための努力が行われました。
病院内でのアウトブレイク
多くの病院内でアウトブレイクが起きています。
1つは、積極的に救急患者さんを受け入れた結果、COVID-19だったということもあるかもしれません。
メディアはそのような病院を、取り上げ、揚げ足を取るかのごとく、ここがダメだったなどと騒ぎ立てます。
頑張って、COVID-19患者さんを受け入れている病院に対して、そのような不親切な記事を書くのは、どうかと思います。
一方で、医療従事者はプロです。
プロということは、感染予防対策も一般の方とは比較にならないほど、周知され、適切な知識を持って実践されているはずです。
その甲斐もなく、院内でアウトブレイクしたということは、一方で感染対策が十分に末端の医療者まで周知されていなかったとも言えます。
実際に、食事の場面でも椅子や机の配置を変えたとしても、マスクなしでしゃべるなと言っても、喋る人は喋っています。
また、感染に対して自覚がないと、うるさく言っている人に限り、はたから見ると感染対策ができていません。
その代表者が、感染管理認定看護師などです。
これは、一部かもしれませんが、そのような方は目立つので、目に付きやすいのだと思います。
人である以上、全ての感染を100%防ぐのは無理です。
無理ですが、その可能性を1%でも上げるために、医療者は努力しているはずです。
一般の方も正しい知識を持っていただくのも大切ですが、病院内での感染拡大は、リスク因子を保有している方が多く、一気に多数の死亡者が発生してもおかしくありません。
最後まで、気を抜かずにこの危機を乗り越えて行きたいものです。