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著者について
この本は、Kindle Unlimitedで読みました。
わたしの場合、紙の本でしたら著者はどんな人なのかを、最終ページをめくって確認します。
けれども、電子書籍であるKindleの場合は、最終ページを簡単にめくることができません。
特に途中で、さっとどんな経歴の方が書いた本なのかを確認したい場合は、電子書籍は個人的に面倒だと感じてしまいます。
このあたりの、行ったり来たりしながら読む読み方に関しては、圧倒的に紙の書籍の利点であると感じています。
最終的に、著者がどんな人なのかを確認すると、山本健人という方が書かれていました。
あまりピンときませんでしたが、外科医けいゆうのペンネームで有名な方でした。
何で著者が気になったのかというと、あまりにまともなことを書いていたからです。
結構普通の書籍では、突拍子も無いことを書きたがる方が割といらっしゃる様な気がしています。
悪く言えば普通、嘘のない現実を淡々と書かれている、そんな本です。
個人的に、この様な書き方の本には非常に共感を得ます。
少しだけ紹介したいと思います。
検査したがりの患者さん
例えば第1症では、検査をしたがる患者さんについて書かれています。
これは、新型コロナウイルスやインフルエンザにも代表される概念ですが、検査には検査前確率というものがあります。
この検査前確率こそが、検査で最も大きなウエイトを占める概念です。
検査前確率
例えば、コロナウイルス感染症を例に挙げると、なんの症状もない人にPCR検査を行っても、おそらく陰性です。
これが、コロナウイルス感染症の人と2日前に食事をした、となると検査が陽性になる確率がグッとあがります。
通常、検査前確率が低い人に検査を行って、陽性だとしても、それは偽陽性の可能性を考えます。
ところが、検査前確率が高い場合に、検査が陰性だった場合であっても、特定の疾患の可能性が高いと考えます。
実は検査を行う前の時点で、症状なども聞いています。
例えば、味覚障害や嗅覚障害に加え、発熱や強い倦怠感といった具合に、例にあげたコロナウイルス感染症の場合は、その病気らしさを聞いていくことになります。
その対話のなかで、自分が考えている病気とは全く関係ない症状が出た場合は、違う病気の可能性や同じ病気が2つ同時に起こっている可能性も考えます。
ところが、2つ同時に異なる病気が起こる可能性は通常低くなります。
よって、1つの病気で可能な限り説明できる病気を探っていきます。
これを、オッカムの剃刀と通称呼んでいます。
オッカムの剃刀とヒッカムの格言
無駄なものは削ぎ落とすということです。
オッカムの剃刀は、比較的若い世代の人で説明可能な概念とされています。
一方、セオリーとしては1つの病気の影響で様々な症状を呈している可能性を考えますが、説明できない場合もあります。
この場合は、ヒッカムの格言を使います。
つまり、異なる病気が同時に起こっているということです。
これは、高齢者で該当する概念です。
高齢者ですと、いろんな臓器に傷害が起きやすくなりますので、ヒッカムの格言を利用することも必要になります。
※ちなみに、ここでは傷害は障害よりも多少軽微な損傷という意味で使っています。
患者さんの要求の多くは間違っている
これら、疾患の事前確率がわかれば検査の特性もわかります。
そのため、CTをとってくださいというのは、いろんな意味で間違っています。
どのように色んな意味で間違っているのかというと、まずは先程から書いている検査前確率を踏襲していないということ。
他には、医療的コストや被ばくに伴う長期的視点での健康障害の影響(確率的影響)。
偶発的に、何かが見つかる影響などです。
無症状の早期発見は良いことなのか
偶発的に何かが見つかれば、よいのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それが手術可能な早期癌であれば話は別です。
例えば、脳動脈瘤が見つかったけど、現時点では3mmだから手術の適応はありませんと言われたとします。
そうした場合、人によりますがいつ破裂するかわからない動脈瘤を抱えた生活が不安で仕方なくなる場合もあるかもしれません。
乳癌の場合も同様に、メディアは若年者の乳癌を騒ぎ立てて、一過性に検診を推奨したりしますが、これも同じです。
時には乳癌が見つかるかもしれませんが、その費用対効果は遥かに低いものとなりますし、検査の件数が増えるほど偽陽性も増加します。
偽陽性になるということは、追加の検査も必要になりますし、その間乳癌かもしれないという暗い気持ちと向き合うことが必要になる人もいるかも知れません。
処方薬の多くは渋々処方している
あの医者は言えば検査をやってくれるし、薬も出してくれるという場合もあるかもしれません。
それは、悪いことだとわかっていながら、めんどくさいので渋々出していることもあります。
本来は、その検査や処方は必要ないということを、時間をかけて説明すべきです。
ところが、多忙な外来の場合は、言われたとおりに検査や処方を出した方が、スムーズに事が運びます。
本来、この様な愚行は避けるべきなのでしょうが、現在の日本の医療システム上は仕方ありません。
ある程度の数を外来ではこなさなければ、収益には結びつきません。
本当は正しくないとわかっている事でも、そうせざるを得ない事情があります。
風邪に抗菌薬などはそれらの代表といえます。
現在は、新型コロナウイルスの重傷者に対しては、比較的ルーチンで抗菌薬を使用しています。
けれども、本来の使い方として正しいかと言われると、正しいとは言い切れません。
世の中には、論理と結果が異なる研究は沢山あります。
機能法と演繹法とも言われます。
帰納と演繹
例えば、STRIVE studyというARDSを対象に行われた研究があります。
これは好中球エラスターゼ阻害薬と言われる薬です。
エラスターゼは肺で炎症を起こしますので、その炎症部分を阻害すれば、ARDSの治療になると考えて作られた薬剤です。
現在でも、施設によっては使用されている薬剤だと思います。
この研究結果としては、薬剤を使用した群の死亡率が高いこともあり、途中で打ち切りとなっています。
理論と実際は違うということを示す研究であるように思います。
これらの根拠に基づく推奨を、一般の方にもわかりやすく書かれています。
一般の方が読んでどのくらい理解できるかは、疑問ですが、少なくとも看護師であれば十分に納得できる内容です。
とはいえ、このようにあってほしいというのは理想論に過ぎません。
つまりは、幻想です。
この幻想から逃れるためには、例えば地道に風邪に抗菌薬は出さないなどの活動を繰り返していくしかありません。
医療現場に限りませんが、最も大変なのがいわゆるクレーマーのような方です。
重症患者を100人見るよりも労力を使います。
本来は、その様な人たちはクレーム担当係りのような部署で処理してもらうのが良いのでしょうが、医療者がそこに介入せざるを得ないことにより、他の患者さんにまで被害が及んでしまい兼ねません。
他にも、いろいろな医療者や患者にまつわるTipsが書かれています。
とても参考になる内容ですので、医療者にも患者さんにもおすすめできる本でした。