読書

【読書】みんな、かつては研修医だった

はじめに

この本は、全ての医療者にとって読むべき本だと思います。

著者の柳井先生は、救急・集中治療をメインフィールドとしている女性医師です。
女性医師と書くと、多少の偏見もあるかもしれませんが、女性は男性と異なり妊娠出産など、男性とは明らかに異なる生活を送る違いがあります。
最も、特に近年は結婚や妊娠を選択しない女性も増えてきていますので、その方々の選択も十全に”あり”だとは思います。

神戸市立医療センター中央市民病院は、日本で最も救急医療が充実している施設です。
余談ですが、近隣に住んでない私は、この病院の名前をいつまで経っても憶えられません。
救急の仕事において、何を指標とすべきかはたくさんの意見があると思います。

個人的には、救急と標榜しているからには、救急患者さんのほとんどを診療できるということが、1つの指標だと思っています。
救急のたらい回しなども叫ばれて久しいですが、救急とは困っているので救急受診するのであって、困っている度合いは、その人一人一人で全く異なります。

ある人は、自宅で我慢を続けた結果、死ぬ寸前まで悪くなって来院するケースもあります。
ある人は、医師に大丈夫といわれても、心配だから夜間救急を受診したというケースもあります。
ときには、寂しいから救急車を呼んだというケースも、ニュースではあります。

実に、様々な背景を持ちます。
そのなかには、ホントの重篤な病気が隠れているケースもあります。
だいたい、100人の軽症患者に1−2人程度は救急の場合は、重篤なケースが混在することになります。

つまり、救急受診した人の多くは、いわゆる救急に多い診断名がずらりと並びます。
しかし、受診者の数だけ物語(ナラティブ)はあり、診断と治療という一言では片付けることのできないケースがあります。

著者の柳井先生も、このような困難ケースをたくさん経験してきて、現在この様な本を執筆されたように思います。
一つは、たくさんの読書を行うことで、感性を養うこと。
そして、もっとも大事なのが、その結果、感性を生かして患者さんに対峙するということです。

これは、若い人には難しいケースもありますが、最初からきちんとした教育を受けていれば、身についていくはずです。
疾患ではなく、病気全体を見ることが重要ということにも繋がります。

少しだけ、本書の内容を紹介してみようと思います。

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看護師関連

わたしは看護師ですので「看護師が指示を聞いてくれません」という章も興味深く拝読しました。

このあたりは、医師は看護師の仕事内容を理解していないから、何でもかんでも指示を出してナースに頼むということを繰り返します。
普通のナースは、「わかりました」といって指示を受けてくれるのですが、ベテランの怖いナースは「自分でやって」と言った感じで受けてくれないケースも臨床現場ではたくさんあります。

これは、どちらにも問題はあります。
看護師は基本的に多忙です。
医師も基本的には多忙です。

けれども、看護師の多忙は医師の指示により、多忙となっているケースがたくさんあります。

例えば、不要な血糖指示をいつまでも継続しているケース。
いつでも退院できる自立した患者さんの、バイタルや尿量測定など様々な指示が、入院時よりそのまま。

などなど、挙げればキリが無いほどたくさん挙がります。
これは、医師側からみると難しい話で、看護師さんの手間をわかっていない事により起こります。
医療は、同じ目標に向かっているはずですので、お互いの業務内容や特に負担になる業務内容は不要になれば積極的に改変されなければいけません。

個人的には、良い医師の見分け方は入院時の包括指示が毎日のように改訂されている医師は良い医師だと思います。
そして、コピペ(コピーアンドペースト)ではなく、包括指示も患者さんの状態に応じた指示を最初から考えて出してくれる医師は良い医師だと思います。

例えば、パーキンソン病の患者さんに [不隠時ハロペリドール5mg(1A)+生食50ml 点滴、寝たら中止] ではパーキンソン病の悪化に繋がる可能性があります。
ルーチンになりがちな業務にこだわるということは、とても大事なことです。

ルーチンということは、毎日繰り返されます。
そのため、ルーチンの1つに1分しかかからないものであったとしても、1分x患者さんx看護師ですので、たくさんの時間を奪ってしまう、「時間泥棒」になる可能性があります。
ルーチンは必ず見直しましょう!

看護師側の問題

一方、看護師側も悪い点はたくさんあります。

たとえば、申し送り前後に確認の電話がたくさんかかってくるケースがあります。
これは、先輩看護師に色々いわれた結果の確認なのですが、医師側からすれば迷惑でしかないので、先輩看護師は気づいたのであれば、自分で確認してほしいと思います。

他にも、真夜中に全く緊急性のない電話がかかってきたりもします。
自分は起きているし、24時間営業なので何も考えずに電話しているのかもしれません。
しかし、そもそも医師は交代勤務でもないかもしれませんし、交代勤務だとしても過眠中かもしれません。

例えば、「普段使っている目薬を出してください」と夜中の3時に電話してくる方もいます。
ベテランのナースでも、その様な教育を受けて育って来た場合は、何も考えずに電話してきます。

お互い良い思いはしませんので、電話する前にホントに今必要な電話かを考えましょう。
そして、医師は病棟に頻繁に出向くことで、「あの先生は回ってくるからその時に聞こう」という視点になりますので、余計な電話も少なくなるはずです。

お互いの業務内容を知る、患者さんのこともそうですが、患者さんに興味を持つことから全ては始まります。
興味を持てば、この時間には何をしているのか、などいろんなことがわかってきます。
そして、適切なタイミングがわかってきます。

全体的な感想

この本は、研修医の悩みを中心に書かれています。
けれども、かつての研修医には向かない内容だと思います。
というのも、研修医とは今まで教わってきた病気を臨床で経験することになり、その結果臨床が面白い時期だからです。
そんなときに、哲学的な事言われても・・と思う人もいるかも知れません。

医師という職業は、相対的にインテリジェンスの高い職業であるはずです。
でも対峙している患者さんは、そうではありません。
むしろ、インテリジェンスの低い(というと語弊がありますが)人を対象にする場合もあります。

そんな、いろんな人に対峙するために必要なのは、医学的知識と併せてリベラルアーツと呼ばれるような、一般的な教養が必要です。

過去の研修医には向かないと書きましたが、現代の研修医には響く内容だと思います。
響かない場合は、1年後や2年後時間を開けて、自分の立場が変わった際に読み直して見てください。
必ず新たな発見があるはずです。

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