行動経済学
医療とは、提供する側も需要する側も人が行います。
人が行う以上、一定の法則が生じます。
医療に限ったことではないのですが、医療は多少特殊ですので、医療現場における行動経済学という学問があります。
それが、本書になります。
医療従事者であれば、是非とも読まれることをオススメします。
今回は、本書の冒頭にありますサンクコストバイアスについて検討してみたいと思います。
サンクコスト効果
サンクコスト効果とは、過去につぎ込んだ労力を回収するために、無駄と思われるような行動をやめないことの例えとして使用されます。
埋没した費用という意味で、過去に支払った費用や努力のうち戻ってこないもののことを言います。
コンコルド効果
別名”コンコルド効果”とも呼ばれています。
コンコルドは、膨大な開発資金をつぎ込んでようやく完成しました。
結局完成したコンコルドはわずか20機で、納入されたのは14機だったそうです。
けれども完成したコンコルドは、騒音もひどく、運べる人数が極めて少なく(約100席)、燃費も悪かったそうです。
そのため、1回の搭乗で通常の旅客機の約10倍のコストがかかり、一部のお金持ちしか乗ることができなかったといわれています。
つまり、コストの回収を行うことができませんでした。
コンコルドの不採算
結局コンコルドは、途中で採算が合わないことが示されましたが、世の中に登場することになりました。
通常、採算が合わない場合はプロジェクトを途中で打ち切る必要があります。
けれども、コンコルドはこれまでに膨大なコストがかけられていました。
膨大なコストをかけてここまできたのだから引き下がれない。
ということでコンコルドは世の中に登場することになりました。
大規模事業の場合
これはコンコルドに限らず、例えば大規模事業などでも同様ですが、膨大なコストを賭けた場合、それを途中で打ち切るということは、今までかけたコストはすべて捨てることと同義です。
ただし、今までかけたコスト以上に、これからの事業継続の結果これまで以上のコストがかかってしまうようであれば、結果的により膨大なコストが捨てられることとなります。
ギャンブルの場合
ほかの例では、パチンコなどの遊戯でも同様です。
これまでに○万円も費やしたのだから、このコストを回収するために、借金してまでもギャンプルに打ち込むことも、サンクコスト効果の一部と言えます。
医療の場合
医療の場合は、たとえば肝切除後の肝不全になったと仮定します。
この場合、血漿交換という一時的に肝臓の機能を代替する特殊な装置を使用します。
血漿交換も膨大なコストがかかる治療とされています。
目安としては、7回程度とされています。
それ以上行うと、医療保険としての算定を行えませんので、自費ということになります。
例えば、自費で血漿交換を1回追加で行ったとします。
効果が得られない場合は、さらにもう1回自費追加で行います。
さらに効果が得られない場合は、もう1回自費で行うことになります。
そうなると、これまで賭けたコストを回収するために、いつまでも続ける必要性が出てきます。
患者さんに根拠の乏しい希望をもたせると、コストをかけることで生存できるかもしれないということで、借金してまでも患者さんは希望するかもしれません。
医療の場合は、すべての患者さんを救うために、医療者は全力で目の前の患者さんに対峙しています。
医療資源は有限ですし、生命の存続が困難である可能性が高くなった時点で、現代の医療では打ち切らなければなりません。
代替臓器がある以上は、その臓器に頼りたくなります。
けれども、代替臓器にも限界があります。
その限界を超えたときが、医療の限界とされています。
ここまでやってきたんだから、といって特殊な治療を続けることが必ずしもよいこととは言えません。
医療とは、科学的妥当性を持つからこそ正当性を担保します。
例えば、特殊な治療法を患者さんの希望で行い続けたとしても、その患者さんが良くなる可能性が高くなければ、その費用はサンクコスト(埋没費用)となります。
医療者は奇跡を信じつつも、科学的妥当性を持つ集団ですので、目の前の患者さんが今後どうなるのかは、文献的にも経験的にもある程度理解しています。
つまり、奇跡は起こり得ないという認識です。
奇跡的に助かったということは、医療のプロフェッショナル集団においては、ありえないに等しいと言えます。
それでも、奇跡的に助かるケースが出てきてほしいと、特に患者さんを救えない状況になると皆さん痛感しています。
まとめ
サンクコスト効果とは、埋没費用のことであり、これまでかけたコストの回収が困難となることを恐れて、途中で止める事ができなくなるような行動の事です。
コンコルド効果ともいわれ、世代にもよりますがインパクトのある憶え方だと思います。
医療者はサンクコストバイアスの事を念頭に、特に比較的長期に患者さんと関わりを持つケースでは、意識することで、患者さんへの有用なアドバイスに繫げることが期待される。