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はじめに
著者の三上治先生は、がんの患者さんを1万人以上診て来られた、がんのエキスパートのようです。
著者の意見が多数反映されているとは言え、エキスパートオピニオンとして読むには、医療者にとってもとても参考になる事が多数書かれています。
また、医療者以外の方にとっても、会話形式で読みやすいです。
がん患者さんにとっても、がんの情報の多くはいわゆる「うそ」が多いですが、この本の場合はある程度は参考にしてもよいかと思います。
医師や医学博士という肩書を持つ方の著書では、ときにトンデモ本があります。
そして、なぜかその本がベストセラーになりますので、医療者は困っています。
しかしこの本の著者は、医療現場で真摯に医療を実践・提供していますので、がん患者さんにとっても勇気をもらえる本になる可能性もあるかと思います。
そもそも「がん」とは
通常の細胞は、50回程細胞分裂をすると、ある時点で細胞死の状態となり、細胞は活動できなくなります。
しかし、がんの場合は細胞分裂しても、死滅しないのでどんどん大きくなってしまいます。
最終的には、もともとも臓器よりも大きくなることで臓器不全に至ることになります。
腫瘍の種類
腫瘍には、良性と悪性があります。
がんは、通常悪性の腫瘍のことを指します。
がんと癌
血液がんの様な非固形がんのことを、「がん」
胃癌や大腸癌などの固形がんのことを「癌」と呼んでいます。
他にも、肉腫などの悪性腫瘍もあります。
これらの総称を「がん」と呼んでいます。
腫瘍の場所によっては慣例的にがんと呼ぶことも
一方良性の腫瘍の場合でも、脳のように限られたスペースにできることで、慣例的に悪性腫瘍と呼ぶこともあります。
病理学的に悪性と呼ぶのは、通常「がん」細胞によるものだけです。
がんと免疫
癌と免疫は、シーソーのように釣り合いの関係にあります。
癌ができたとしても、通常はヒトの免疫によりがん細胞をやっつけます。
けれども、がん細胞が勢力を強めると、ヒトの免疫では太刀打ちできなくなり、最終的に進行がんという形になります。
がんができるまで
約20〜30年かかるようです。
これも、免疫との兼ね合いなど癌ができるためには、それなりに長い年月が必要とされているようです。
つまり、予防戦略を取ることで、がんを予防することが可能となるかもしれません。
がんは自分自身
がん細胞はあくまでも、「他者」ではなく「自己」ですので、ワクチンの開発も困難とされています。
最大のがん対策は正しい知識
日本人男性の62%が、がんに罹患する
女性は46%
がんの最大の原因は「加齢」
がんは、基本的に遺伝しない(家系の影響は約5%)
親兄弟の大腸・乳・卵巣・前立腺・皮膚がんへの罹患は、罹患の可能性を上げるけど、食生活などの生活習慣の影響の方が大きい可能性がある。
タバコと食事と肥満と運動不足の解消で、6割位はがんの罹患を減らせる
日本は喫煙に対する法整備が諸外国と比較して遅れている無農薬が良いわけでななく、むしろカビの発生に伴い、発がん性のリスクが増加する
肉と塩は摂取量を抑える(例えば、肉は週2−3回)
加工肉は日本人はそもそも摂取量が少ないので気にしなくて良い
和食の問題点は塩分が多いこと
WHOの目標は、塩分は1日5g未満を推奨
ちなみに魚のこげは1トンくらい摂取すれば、がんの原因になりうる
にんにくはがんの予防に良さそう
キノコもよさそう
コーヒーは良い
アルコールは缶ビール1.5本程度ならOK
日本のがん検診受診率は欧米の半分以下
日本人に多いのは、肺・胃・大腸のがん
これらを検査することで、4−5割のがんを検査できる
バリウム検査では初期のがんは見つからない
乳癌は家系の要素があるため、リスクのある方は1年に1回のマンモグラフィーとエコーの組み合わせがおすすめ
がんの告知はなるべく家族と聞くようにする
余命はほとんど嘘
医者は余命を伝えられた患者さんの事も考える
だから筆者は余命を言わない
医者も人間なので、共同してがんの治療に取り組む
病気で死ぬならがんは悪くない
困ったらナースのボスに相談
手術後の再発防止目的の抗がん剤による、大きな効果はないのであまりオススメはしていない
抗がん剤の評価は、奏効率なので、がんが治る確率ではないので注意
奏効率は、がんが半分の大きさになる率
生存率のほうが大事
3大治療に加えて、免疫細胞療法が注目されいている(現時点で保険適応外)
著書の中には、ごく一部ですが、これらのような事が書かれていました。
少し気になったものについて、書いてみようと思います。
タバコはよくない
タバコが良くないという認識は、喫煙者もよくわかっていることだと思います。
しかし、喫煙者は現時点では何も困っておらず、タバコが無いと生きていけない状態となっています。
最終的には、がんや呼吸器疾患などで苦しむことになるのですが、今が大事なので、タバコが辞められなくなります。
個人的には、喫煙の自由は担保されるべきだと思いますが、マナーが悪い方が多いのでタバコに良い印象はありません。
ナースでも、集団でタバコを吸いに行っては、臭い匂いを撒き散らしています。
結構、非喫煙者にとっては、若い女子でも体臭と相まって臭いので苦痛なのです。
他にも副流煙でのアレルギーの直接的な被害の他にも、火事・ポイ捨てなど、挙げれば喫煙に伴う弊害は沢山あります。
結論としては「可能なら禁煙を」ということと「他者への配慮を」ということでしょうか。
コーヒーはがん罹患率を下げる
コーヒはわたしも嗜好品ですので、興味深く新たな研究があればみるようにしています。
がんの減少効果までは憶えていませんが、いろんな観点からもコーヒーの利点は示されています。
わたしの結論としては、コーヒーは有害性よりも利益の方がありそうということです。
バリウム検査
わたしの周辺では、バリウム検査の利点は不明ということである程度一致しています。
本書では、スキルス性胃癌には良さそうと記載してありました。
とはいえ、初期の胃癌ではバリウム検査では見つけるのが難しいとされています。
検査の結果で、怪しい結果となれば結局内視鏡を行います。
だったら、最初から内視鏡を行ったほうがよいという意見もあると思います。
また、バリウム検査は負担が大きく、高齢者では(嘔吐)誤嚥して気管に入ることで生涯バリウムが肺にとどまることにもなります。
ほかにも、バリウム検査に伴う虫垂炎やひどい場合は腸穿孔を来します。
これらの合併症は、めったに起きませんが、起きたらかなり厄介です。
私の結論としては、バリウム検査は受けないと決めています。
余命はほとんど嘘
余命を図るスケールのようなものもあります。
この本にも書かれているように、一律に余命を決めることは非常に難しいです。
医療者は、過去の経験とこれらのスケール上スコアリングに基づいて、余命が必要な患者さんにはお伝えする場合があります。
本書の著者の水上先生は、余命は伝えないと書かれています。
余命をお伝えすることで、残された人生を有意義に過ごす方もいらっしゃるとは思います。
とはいえ、余命を伝えることがわたしとしても必ずしも良いとは思いません。
がんの末期でも、希望を持って生きて欲しいというのは、がん患者さんと多数対峙して来られた著者がたどり着いた方法なのだと感じます。
病気で死ぬならがんは悪くない
これも言い得て妙だと思います。
以前の3大死因の、心血管疾患、脳卒中などの血管疾患は、突然です。
現代の3大死因の肺炎も、血管疾患ほどではありませんが、比較的突然です。
がんも、宣告されてからは、突然ですがいくら短くても数週間程度の余命があることがほとんどです。
がん宣告を景気に家族がまとまることもあるようですが、自分が最期を迎えるための時間を与えられているようで、がんで最期を遂げるものありだな、と思います。