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アルブミン vs クリスタロイド論争
アルブミンと生理食塩水を中心とした、細胞外液(クリスタロイド)論争はずーっと続いています。
アルブミンとクリスタロイドの論争に終止符をうった研究が、SAFE研究です。
この研究は、集中治療をやっている人で知らない人はいないほど有名な研究になります。
2004年のNEJMに掲載され、ANZICSという団体が発表した2重盲検多施設無作為化比較試験になります。
症例数も確か4000症例ほどを集積した大規模な研究です。
通常輸液は、アルブミンと生理食塩水だと、見た目で明らかにわかります。
これを分わからなくする(ブラインド)してまで、このSAFE研究を進めたという熱意は、看護師ながら非常に感銘を受けたのを憶えています。
当然ですが、メタ解析などを行っても、SAFE研究のパワーが大きすぎてしまい、ほとんど同じような結論になってしまいます。
1つの無作為化比較試験が、ここまで大きなパワーを持つことへの妥当性はともかく、客観的に指摘できる部分が少ない研究デザインを組まれたのはさすがといえます。
外的妥当性
この客観的妥当性のことを、外的妥当性と呼ばれます。
ちなみに、外的妥当性とは一般化可能性も一部抱合されます。
一般化とは、この研究を他の施設で行っても同じような結果になるか、ということです。
研究の最もコアな部分です。
研究とはそもそも、誰のために行うかと言われると、臨床研究の場合は患者さんです。
どの患者さんにこの研究を当てはめても、概ね同じような結果が出るということです。
研究の場合は、再現性が担保できることが前提ですので、同じような対象患者さんに同じようなアプローチを行うと大抵同じ結果になるはずです。
無作為化比較試験の限界
とはいえ、無作為化比較試験の限界ですが、効く人と効かない人がいることは否めません。
例えば、特定の遺伝子の影響である薬が効きやすい人と効きづらい人がいたとします。
無作為化比較試験では、これらの遺伝子的背景を概ね無視して、集団として検討されます。
近代では、特にがんの領域では、遺伝子的背景まで踏み込んだ検討がなされています。
有名なのは、肺癌でのEGFR-TKIなどは臨床的にも応用され、多くの患者さんが恩恵を受けています。
SAFE研究では心臓外科は除外
話を輸液の話に戻しますと、実はSAFE研究では心臓外科の患者さんは対象外でした。
それは、心臓外科で働いた方はわかるかもしれませんが、予定手術の場合は大抵なんの問題もなく集中治療室を退室していきます。
つまり、重症度が高くないということです。
このあたりから、SAFE研究では心臓外科症例が除外されたと言われています。
今回の研究
タイトルは、Effect of 4% Albumin Solution vs Ringer Acetetate on Major Adverse Events in Patients Undergoing Cardiac Surgery With Cardiopulmonary Bypass A Randomized Clinical Trialです。
最近、心臓外科周術期において、酢酸リンゲルと4%アルブミンを比較した研究がJAMA誌に発表されています。
目的
目的は、心臓手術を受ける患者さんで、血管内容量補充目的に行われる輸液で比較しています。
デザイン
デザインは、3次大学病院で行われた、オンポンプでの冠動脈バイパス術、大動脈弁・僧帽弁・三尖弁の手術、低体温循環なしの上行大動脈手術などが対象とされました。
主要評価項目
主要評価項目は、死亡率・心筋損傷・急性心不全・再狭心症・脳卒中・不整脈・出血・感染・急性腎傷害などの有害事象を少なくとも1件発症した患者数とされました。
結果
ランダム化された患者さんは、1407人のうち1386人が試験終了しました。
平均年齢は65.4歳、男性1091人(79%)、女性295人(21%)でした。
輸液量の中央値は、アルブミン群で2150ml(1598-2700)、リンゲル液群3298ml(2669-3500)でした。
有害事象の件数は、アルブミン群で37%(357人)、リンゲル液群で33.8%(234人)で統計学的有意差はありませんでした。
結論
周術期4%アルブミンは、酢酸リンゲル液と比較して有害事象の減少に寄与しませんでした。
私見
まず気になるところは、単施設研究であるという点です。
単施設研究の場合、当該施設では良質な結果が得られても多施設研究結果はその反対だったというものは沢山あります。
例えば、集中治療室でのIntensive insulin therapyや早期目標思考型治療(EGDT)はその代表といえます。
この研究でも、二重盲検で試験がおこなわれていますので、大変だったと思います。
輸液を盲検化するのって、臨床家からすればとても大変なことだとわかると思います。
副次的評価項目で検討されている、輸液量や胸腔ドレーンからの流出などはアルブミン群で有意に減少しています。
輸液バランスは、記念はCLASSIC研究に代表されるように、なるべく少ない輸液が良いことがわかりつつあります。
とはいえ、明確な決着はついていません。
臨床的な肌感覚にはなりますが、臓器障害が起きないギリギリの輸液戦略は、集中治療医の腕の見せどころだと思います。
少しあふれる程度の輸液戦略であれば、だれでもできてしまいます。
そのギリギリを見極める能力こそが、集中治療医の強みであると思います。
以前は水を沢山入れて沢山引こう、という戦略が多く見られていました。
沢山入れたあとは、グリコカリックスなどの問題もあり、そうそう簡単に水は引けません。
となると、なるべく入れすぎない程度の輸液が好まれるのは、臨床的にも有用であることは異論のないところでは無いでしょうか。
この研究で言えることは、輸液の量を減らすということがわかります。
生理学的には
これは、他の敗血症で行われたALBIOS研究などでも同様の結果といえます。
生理学的には、アルブミン1gは約20mlの水を引き込むとされています。
日本で使用されるアルブミン製剤は、5%250mlか25%50mlです。
これは、どちらも12.5gのアルブミン量になります。
12.5gに20をかけると、250mlになります。
つまり、250mlの輸液が血管の中に入るイメージに近いといえます。
コンパートメントモデルでは、細胞外液の4分の1が血管に入るとされています。
1000mlのリンゲル液を入れると、理論的には250mlが血管の中に入ります。
ということは、あくまでも机上の空論ですが、12.5gのアルブミンは1000mlのリンゲル液と同じような輸液効果を伴うという事になります。