論文

院外心停止後の血圧目標【2022 NEJM】

院内心停止と院外心停止

院外心停止と院内心停止では、行うことは同じですが分けて考える必要があります。

なぜ分けるのかというと、そもそもの前提が異なるからです。

 

院外心停止は不整脈が多い

院外心停止の多くは、心筋梗塞などによる重症不整脈が原因です。

一方、院内心停止の場合は、心筋梗塞による不整脈もありますが、全身状態が不良な結果起こる心停止が多いとされています。

 

小児の心停止は気道の問題が多い

小児の心停止の場合は、気道閉塞による心停止も多く、気道の開通が必要な場合もあります。

 

胸骨圧迫のみ(Hands only CPR)

心肺蘇生法も根拠が蓄積されるに伴い、胸骨圧迫のみ(Hands only CPR)の蘇生法の有用性も示されています。

胸骨圧迫のみの利点は、口対口による人工呼吸が不要な事で、市民による心停止への介入が用意になります。

また、30:2の割合で胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返すということは、胸骨圧迫を短時間とはいえ中止する必要があります。

短時間の循環停止とはいえ、脳機能を守るためには「絶え間ない」胸骨圧迫が必要です。

つまり、成人かつ院外での心停止の場合は、胸骨圧迫のみで良いと思われます。

 

AED(自動体外式除細動器)

院外心停止の場合、不整脈による心停止が多いということは、AED(自動体外式除細動器)を同時に装着する必要があります。

自由研究で、近くのAEDを探すという研究も話題になっていましたが、もしかしたら明日役に立つかもしれませんし、一生役にたたないかもしれません。

とはいえ、医療なんてそんなもので、いつか役に立つときのために準備をしておく必要があるのです。

 

今回の研究

今回の研究は、院外心停止後の血圧管理についての研究です

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2208687

 

心停止後症候群(PCAS)

蘇生後の意識障害に対しては、心停止後症候群(PCAS)として通常対応します。

PCAS管理のメインは、呼吸循環です。

 

平温療法(TTM)

平穏療法(TTM)と呼ばれる平熱の体温管理療法を行います。

ちなみに、以前は軽度低体温療法が行われていましたが、有用性が否定されてからは合併症による弊害のほうが強く出る可能性が高く、近年ではほとんど行われていません。

とはいえ、施設によっては軽度低体温療法を行っている施設も、まだあります。

 

心停止後不足する可能性のあるホルモン

心停止後症候群の場合、急性期にキーとなるホルモンは3つあります。

副腎ホルモン・バゾプレッシン・甲状腺ホルモンです。

これらのホルモンは、中枢である脳から司令が出ることで、作用します。

通常、フィードバック機構といって例えば副腎ホルモンが少なければ、脳にもっと司令を出すように働きかけるのですが、そもそも脳機能が低下していますので、ホルモンの不足が起こります。

つまり、急性期にこれらのホルモンが不足している場合は、補うことで血圧を上げる方向に作用します。

 

低血圧への対応

通常、低血圧に対してはノルアドレナリンが第一選択薬です、

心停止後症候群の低血圧は、分布異常がメイン病態ですのでノルアドレナリンを使用します。

前記したように、ノルアドレナリンの量が極端に増えてしまうような病態では、ホルモンの不足が疑われますので、ステロイドや抗利尿ホルモンの補充が行われます。

 

「Blood pressure Targets in Comatose Survivors of Cardiac Arrest」

この研究は、2022年のNEJMという雑誌に掲載されています。

 

デザイン

デザインは、2重盲検ランダム化比較試験です。

2重盲検とは、管理している医療者や患者さん・その家族は、どちらの群に割り付けられたのかはわかりません。

これは、ホーソン効果といって、意識しないうちに余計な介入がされていることを防ぐためです。

警察がいると、交通ルールを守るようになるのと似ているかもしれません。

2x2のデザインを使用しています。

2x2デザインはよく使用されるデザインで、今回は血圧を通常vs 高値、酸素目標を高値 vs 通常としたデザインになります。

今回の研究自体は、血圧管理に関しての報告になり、酸素目標に関しては別途研究として公表されているようです。

 

主要評価項目

主要評価項目は、複合死亡率もしくは90日以内の病院退院時の脳機能(CPC)3-4の割合です。

 

結果

789例が解析され、393例が血圧高値目標群、396例が通常血圧群でした。

主要評価項目では、血圧高値群で34%(133例)、通常血圧群で32%(127例)で有意差はありませんでした(95%信頼区間; 0.84-1.37)。

90日時点で、血圧高値群31%(122例)vs 通常血圧群29%(114例)がそれぞれ死亡し、有意差はありませんでした(95%信頼区間; 0.88-1.46)。

 

結論

院外心停止後の管理として、平均血圧の目標を77mmHgと63mmHgで検討しましたが、死亡率や重症度などに有意な差は認めませんでした。

 

私見

蘇生後の平均血圧目標を、77mmHgと63mmHgで比較した研究です。

 

一般的な集中治療セッティングでの血圧目標

集中治療を受ける患者さんの目標血圧は、65mmHg以上とされています。

しかし、高齢者などではもっと低くても良いのではないかとする研究もあります。

つまり、この研究では低血圧目標群としていますが、大むね通常の血圧目標と言えるでしょう。

 

血圧を上げるためには、ノルアドレナリンが第一選択

当然、血圧高値目標群では、ノルアドレナリンの使用量が増加しています。

増加していると言っても、0.3γもいかない程度ですので、極端な低血圧が問題となる症例は少なかったことが推測されます。

また、血圧はもともとの(普段の)血圧も重要になります。

 

普段の血圧

この研究では、約半数が元々高血圧に対して治療介入されていました。

降圧剤を服用しているということは2つの仮説が生じます。

降圧剤をきちんと内服して、その結果血圧が厳重に管理されていた。

もう一つの仮設は、降圧剤を服用しなければならないほどに血圧が高値で管理されていたという点です。

血圧がもともと高値の人に、一般的な指標を適用すると相対的に低血圧となり、臓器環流が減少する可能性も生じます。

よって、普段の血圧目標、降圧剤の種類などは気になるところです。

 

降圧剤の使用意図

降圧剤を使用するということに関しては、大きく2つの理由があります。

 

1つは、臓器保護(血管保護)としての降圧剤です。

例えば、ACE阻害薬などが代表です。

 

もう1つは、血圧が高い事による弊害(例えば高付加増大による心不全惹起)に対しての降圧です。

この場合は、単純に血圧を下げれば良いので、Caチャンネルブロッカー(CCB)が代表です。

入院中に血圧が高値となった場合に、とりあえず血圧を下げる場合には、臓器保護というよりは単純に血圧を下げるのが目標なので、使いやすいCCBが用いられることが多いです。

 

集中治療での血圧 ≒ 平均血圧

集中治療における血圧は、平均血圧1点にほぼ集約されます。

臓器環流の指標ですので、特に低血圧で傷害を生じやすい急性腎傷害の発生率は興味深いです。

 

急性腎傷害の発生

しかし、血液浄化を要する急性腎傷害(AKI)の発生に関しては、どちらも10%と有意差は認めませんでした。

 

年齢

他には、年齢が62-63歳は日本の状況と比較すると、若年のような気もします。

これは日本人は高齢者が多いというのが1つ、もう1つは日本人の血管リスクが低いから若年での心停止が少ないという仮設が成立します。

とはいえ、この年齢という点に関しては、わたしも明確な根拠があるわけではなく、肌感覚にすぎないので、きちんと調べる必要があります。

 

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