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結論
急性膵炎の診断は,血液検査,身体所見,画像検査より決まる
アルコールと胆石は2大原因
代表的な,非感染症疾患での全身性炎症反応症候群(SIRS)である
予防的抗菌薬は推奨されていない
慢性期や亜急性期では,仮性動脈瘤や被包化膵臓壊死などの合併症が問題となる
急性膵炎をどのように疑うか?
急性膵炎は,画像検査,身体所見,血液検査により診断されるということを先に書きました.
どのように疑うか,ですが腹痛の際は鑑別の一つに入ると思います.
鑑別の1つといっても,腹痛の原因は沢山あるので闇雲に膵炎と決めることは当然できません.
医師が診断を行う際には,検査前確率というベイジアン的思考が重要視されます.
極論すると,検査前確立が高ければその後の診断に関連した検査は不要と言えるほどの考え方です.
とはえ,疑えばモダリティさえあれば,通常その後の検査は行うのですが..
急性膵炎の検査前確率
まず,膵炎の2大原因がありました.
胆石性とアルコール性ですね.
アルコール性の場合は,アルコールを比較的多量に飲酒している病歴で,急性のそれなりに強い腹痛があれば疑われます.
この時点で検査前確率は腹痛の中でも,それなりに上位に来ることになります.
そして,膵炎は代表的なSIRSと先に書きました.
バイタルサイン
バイタルサインを測定することで,白血球以外のSIRSは評価できます.
呼吸数の増加,発熱,頻脈等あれば,膵炎らしさが増えることになります.
身体所見
腹痛があれば,身体所見をとります.
普通の圧痛も確認しますが,高山の圧痛点というのが膵炎の場合は有名です.
診察の仕方は成書を参照いただくとして,腹痛や膵臓を意識した圧痛を確認することが重要です.
超音波?
胆嚢炎の際は超音波でも,US murphyという所見をとりますが,超音波でも膵臓は確認できます.
超音波で膵臓を押すような,Murphyのような所見も"あり"なのではないかと思っている次第です.
膵炎を疑う際のまとめ
まとめると,アルコールの病歴があり,急性発症でバイタルサインはそれなりに悪い全身性炎症反応症候群で,身体所見では膵臓(と思われる周囲)に圧痛を認めます.
圧痛に関しては,膵炎の場合は炎症の広さ次第のため,膵炎の重症度が高ければ腹部の疼痛範囲も広くなるものと思われます.
胆石性に関しては,事前に胆石があることがわかっていれば事前確率は上がるかもしれませんが,画像検査を行うということになると思います.
特発性に関しては,検査を進めていき最終的に特発性という診断に至るのだと思います.
血液検査
血液検査では,特異性の高い検査が診断特性の高い検査となります.
例えば,アミラーゼやリパーゼは沢山の原因で上昇します.
ただ,先に書いたように検査前確率が高い状態で測定することで効果を発揮します.
膵炎に特異的な酵素は,膵臓アミラーゼ(P-amy)やリパーゼ・リィペース(Lypase)があります.
施設によっては,どちらかしか測定できない場合もあると思います.
当院では,Lypaseは測定できません.
画像検査
超音波を使う場合もありますが,ゴールドスタンダードは造影CT検査になります.
造影CTで炎症の範囲を確認します.
膵臓が浮腫の状態や膵臓の周りだけ炎症がある状態が,最も軽症になります.
炎症の範囲が拡大するに従い,膵炎の重症度が上昇します.
具体的には前腎傍腔,結腸間膜根部,腎下極以遠の3つで炎症の範囲を調べます.
炎症の範囲と,もう1つは造影不領域で決まります.
すなわち,膵臓の造影不良があるかどうかも,重症度判定を行う際には重要になります.
造影不良があるということは,膵壊死ということになります.
感染の可能性が上がるということで,古典的に抗菌薬が使用されてきた経緯があります.
とはいえ,予防的抗菌薬はガイドラインでも推奨されていないのが現状です.
具体的な読影は,画像診断まとめサイトなどを参照いただくと良いかと思います.
重症度判定
膵炎をみたら,原因の検索とともに,重症度判定を行います.
重症度判定は様々なものがありますが,基本的にはガイドラインに提示してあるものを使用すれば良いと思います.
厚生労働省急性膵炎重症度判定基準(2008)というものです.
Base Excess≤-3 OR ショック,PaO2≤60,BUN≥40,LDH≥基準値x2,血小板≤10万,総Ca≤7.5,CRP≥15,SIRS≥3,年齢≥70と造影CTで決まります.
アプリを使用するのが,現代的で間違いも少なく効率的かと思います.
ご存知で使用されていると思いますが,ガイドラインのアプリがあります.
治療
胆石性の場合は,胆石の除去が優先されます.
ERCPなどで,胆石の排出を行います.
高脂血症の場合は,値によってはアフェレーシスという透析のような機械で,中性脂肪を除去することも行われます.
膵炎全体で見た際に,高脂血症が原因であることは非常に少なく,かつアフェレーシスを要するような病態は極めて少なと思います.
わたしも経験はありますが,採血管が油のようになり,アフェレーシスをすると排出されるバッグが油のようになります.
最も多い,アルコール性と特発性に関しては,輸液が基本戦略になります.
以前は膵炎は大量輸液というのが定番でしたが,昨今は以前よりは少ない輸液量でも良さそうです.
ただ,勘違いしていただきたくないのは,膵炎の炎症が特に強い場合は当然それなりの補液が必要になります.
病態の如何によらず,常にEu volemiaを保つのは,膵炎でも高血糖高浸透圧状態などでも同じです.
WATERFALL研究
ある有名なWATERFALL研究では,膵炎への積極的輸液と適量輸液の比較を行いました.
積極的輸液では,20 mL/kg 体重をボーラス投与し,その後 3 mL/kg/時を投与されました.
適量輸液では,血液量減少を認める患者には 10 mL/kg をボーラス投与し,正常血液量の患者にはボーラス投与を行わず,その後,全例に 1.5 mL/kg/時を投与されました
主要評価項目は,入院中の中等症または重症の膵炎の発生とされました.
結果としては,有意差はなく,積極的輸液群で体液量増加を認めました.
通常は,1ml/kg/hrがMeintenanceとしての輸液の目安になります.
60kgの場合は,60ml/hrですね.
上記の研究では,3ml/hr/kgなので,60kgだと3倍の180ml/hrということになります.
適量群ではその半分なので,90ml/hrです.
実際の臨床では,適量群程度の輸液が多く使用されるかと思います.
そのため,輸液を少なくしてもよいのではなく,通常通り輸液は行う姿勢は重要な点かと思います.