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慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)

はじめに

最近伝染性単核症をみる機会がありましのたので、そのついでに慢性活動性EBウイルス感染症も調べてみました。

とてもわかり易いレビューが「内科 Vo.126 No3(2020)」に掲載されていました。

聖マリアンナ医科大学血液内科の、新井先生という方が書かれたレビューになります。

結論

  • 不明熱の原因として、慢性活動性EBウイルス感染症の可能性も考慮する
  • 致死的な病気であるため、早期診断が重要
  • 皮膚症状と発熱があれば、一応疑って病歴聴取を追加する

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)とは

  • EBウイルスに感染したT細胞もしくは、NK細胞がクロ−ナルに増殖する疾患。
  • その結果、全身臓器への浸潤と炎症を来す疾患。

よくわかりませんが、全身臓器への浸潤と炎症という、2つの側面を持つ病気のようです。

本邦2009年の報告では、年間発症23.9人と希少疾患ですが、見逃されている症例も多いと推測されます。

どの病気でもありますが、日本人は〇〇の病気が少ないと言われることがあります。
これは、病気が少ないということと、病気が診断されていないということが、同義に扱われている可能性があります。

岩田健太郎先生という、感染症医がいます。
その方の著書で書かれていたことで、「岩田がきてから感染性心内膜炎が増えた」と言われたそうです。

つまり、病気が増えたということは、突然増えるということは考えづらく単純に診断される数が増えただけ、という考察が最もしっくりきます。

CAEBVも同じく、希少疾患で不明熱の病態を取りやすく、致死的な疾患ですので、不明熱という観点より一度は可能性を考慮しても良いかもしれません。

臨床症状の特徴

  • 炎症の持続
  • EBVの増殖と浸潤、臓器障害

この2つに極論されます。
炎症と腫瘍の2つの側面ということになります。

最も多い症状は、発熱とされています。

腫瘍ですが、腫瘤形成は少ないとされています。

発熱は、極めて多い症候ですので、鑑別される疾患が膨大な数になります。
この様な症候のことを、Low yieldな症候と呼ばれています。

入り口としては良いですが、発熱というだけでは診断には到底たどり着きません。

発熱というLow yieldな主訴からどのように診断にたどり着くか

例えば、発熱に加えて、新型コロナウイルス感染症(Covid)患者との接触があった。
この場合は、極めてCovidの可能性が高くなります。

時間を味方につけるのも重要で、Covid患者との接触後何日目なのかという疑問がわきます。
通常感染から発症までは長くて14日間と言われていますので、接触から14日以内であれば、可能性が高くなります。

他には、Covidを疑うのであれば症状を聞きます。
肺炎などの咳症状、味覚嗅覚異常などあれば、さらにCovidの可能性をあげます。

検査をして陽性、CTで特徴的な肺炎像があればCovidということになります。

診断にあたっては、もう1つ重要なことがあります
それは、代替診断の可能性を下げることができたかということです。

今回の例に挙げた症例では、Covid以外に考える疾患が難しいですが、例えば胸痛であれば、急性冠症候群や胃食道逆流・胸骨痛症候群など多数の代替診断が上がります。

受け売りですが、ライプニッツの有名な提言があります。
Aというためには、代替されたB・C・D・・・といったものを除外できて、初めてAということができるということです。

T細胞・NK細胞への浸潤

T細胞・NK細胞に浸潤するということは、リンパ造血組織以外にも、皮膚・肺・心筋・腸管・中枢・末梢神経などあらゆる臓器が標的となるようです。

血管炎も生じるということですので、非常に厄介です。
血管炎の観点からの精査も必要になりそうです。

通常血管炎は、リウマチ膠原病内科疾患で、大・中・小血管のいずれかが傷害されるタイプに分かれます。
日本語で簡単に調べた限りでは、CAEBVに伴う血管炎は、臓器障害やぶどう膜炎合併程度しか書かれていないので、特異的なマーカーなども無いのかもしれません。

この様な全身的な症状から、受診する診療科も多岐にわたるとされています。

進行すると、高熱、汎血球減少、凝固異常を示す、血球貪食性リンパ組織球症、治療抵抗性リンパ腫となります。
この様な、リンパ腫や血球貪食症候群の合併は、致死的とされています。

繰り返しますが、だからこそ早期診断が重要になります。

CAEBVの2つの特徴的皮膚症状

  • 蚊刺過敏症(Severe mosquito bite allergy: sMBA)
  • 種痘様水疱症様リンパ増殖症(Hydroa vaccininformelike lymphoproliferative disorder: HV-LPD)

多くはヒトスジシマカ(それ以外の蚊でもあるようです)に刺された後、刺部の強い炎症とともに高熱を来します。
刺された部位は、皮下組織が壊死・潰瘍化し、約1ヶ月かけて瘢痕を残し治癒するとされています。

sMBAは、ヒトスジシマカの唾液成分による、EBV感染細胞の高度な反応が原因とされているようです。
ときどき、蚊刺後に驚くほど腫れる方がいるようですが、もしかしたらCAEBVかも、と病歴を追加聴取するのもありかもしれません。

もう一つの皮膚所見の特徴は、種痘様水疱症様リンパ増殖症です。
日光に当たる皮膚に、炎症や水疱を繰り返すようです。
インターネット上には写真がありますので、一度見てみると良いでしょう。

CAEBV診断基準(以下4項目を満たすこと)

1)伝染性単核症様症状が3ヶ月以上持続(連続・断続的)
2)末梢血または病変組織におけるEBウイルスゲノム量の増加
3)T細胞あるいはNK細胞にEBウイルス感染を認める
4)既知の疾患とは異なること

診断

原因不明の炎症の上昇や血球貪食性リンパ組織球症(HLH)が疑うきっかけとなるようです。
とはいえ、HLHの状態となれば致死的と書かれていますので、炎症を伴う不明熱症状があれば、鑑別に抱合しても良いかもしれません。

抗体検査

  • 既感染パターン(抗VCA−IgG抗体陽性)

通常、伝染性単核球症の検査は、IgG、IgM、EBNAを提出します。
成人の多くは、既感染パターンを示し、IgGとEBNAが陽性になります。

初感染の場合は、IgMが陽性になります。

EBウイルス検査について

このサイトをみると、CAEBVの場合は、EA-DR-IgGが陽性になると書かれています。

EBウイルスに感染すると、VCA−IgM、EA-IgGの順に陽性となり、回復すると落ち着いてきます。
その後、既感染パターンとなり、EBNAが陽性になります。

CAEBVの場合は、通常低下するはずのEA-IgGが持続的に陽性になります。
このあたりは、症状も類似していますので、通常の伝染性単核球症との区別が難しい(回復期を見ている可能性)様な気がします。

EBウイルスの抗体推移は、以下のサイトの表がとてもわかり易いです。

EBウイルス検査の推移

  • EBV-DNA定量検査

既感染を確認後、末梢血中EBV-DNA量を測定し、10の2.5乗(316)コピー以上が目安のようです。

  • 感染細胞の同定

B細胞、T細胞、NK細胞のいづれかに起こります。

組織があればよいですが、実際には組織が得られることは少ないとされています。

末梢血リンパ球を各分画に分けて、それぞれのEBV-DNA量を解析し感染臓器を特定するとされています。

鑑別疾患

  • 症状の類似している、伝染性単核症との鑑別は重要
  • VCA-IgM抗体が陽性の場合は、初感染を示唆
  • EIA法は偽陽性が多い、FA法での測定が推奨
  • EBV初感染は30歳以上でもある

治療

ステロイドを含む化学療法が行われるが、有効な化学療法はないようです。

治療に関しては、血液内科で行われると思います。

まとめ

  • 慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は見逃してはいけない疾患
  • 疫学的には、宝くじなみの診断陽性率ですが、鑑別診断に挙げる事も必要な病気
  • 皮膚症状と炎症を伴う不明熱様症状があれば、疑う

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