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結論
意識していない,クリープよ呼ばれるような輸液にはメインの輸液と同じく気をつける
今回の論文
https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-024-05155-z
敗血症を対象とした,パイロット研究になります.
対象は2群にランダムに,最初の7日間に極力輸液を減らす群(介入群)と,通常治療群に割り付けされました.
主要評価項目は,最初の5日間の体液バランス(ml/kg)とされました.
臨床医以外(統計学者,患者さん)は盲検化されました.
結果
50人の組入で,2人脱落し48人が解析対象となりました.
最初の5日間の水分投与量は,で介入群89.7(IQR 35,128)と通常治療群114(IQR 78,168)でした(P=0.05).
5日後の累積体液バランスの中央値は介入群6.9(IQR -13,52)と通常治療群 35(IQR -7.9,40)でした.
他に測定した評価項目は,28日後死亡率や生命維持装置なしの生存日数は,有意差なし.
主な有害事象は高Naと急性腎障害でしたが,それぞれ1人 vs 2人,4人 vs 7人でした.
結論
敗血症性ショックでは,水分投与量への介入は5日目で通常治療群と比較して減少しませんでした.
コメント
今回の研究では,ml/kgで表現しています.
たとえばわかりやすく50lkgの場合では,5日目での累積バランスは介入群で6.9ml/kgなので,+345mlで,通常治療群は35ml/kgなので,+1750mlということになります.
この研究の興味深い点は,"creep fluid" "hidden fluid intake"といった,蘇生の際に意識しない水分に介入している点になります.
Creep fluid
クリープとは,自然に入ってしまう点滴です.
車のオートマチック車では,最近の車ではわからないかもしれませんが,車種や古いクルマの場合はブレーキを話せば車はゆっくり進んでいきます.
このように意図せず進んでいく(車の場合は意図して進めているのですが)輸液の事です.
hidden fluid intakeも同じような意味で,意図せずに入っていく点滴(水分負荷)ということになります.
ルートの閉塞予防
たとえば,ルートの閉塞予防では,わたしの施設の場合は4ml/hrというのがデフォルトで,ルートが詰まりやすいとナースが感じたら勝手に6mlhrや8ml/hrに増量しています.
ナースの判断もなんとも感覚的ではあるのですが,その結果の有害事象という側面から輸液の量は調整してほしいように思います.
そして,メインの輸液は「メイン」負荷の輸液は「負荷」つまり予防の点滴は「キープ」などと書かれています.
それぞれのルートをわかりやすく表現しているだけではあるのですが,メインと負荷の違いもよくわかりません.
ICUではルートの数が多い
ICUでの点滴は中心静脈ルートが多いです.
いわゆるCICC(CVC)とPICCに分けられますが,近年はPICCが多く用いられています.
ICUの場合は,通常3ルーメンがデフォルトで,2ルーメンやシングルルーメンはそもそも在庫として置いていません.
そのため,自動的に4ml/hrのつまり予防を行う際には,300mlの塩水やブドウ糖が入ることになります.
食塩としてのIntakeにも注意
ちなみに,生食は0.9%なので100mlあたり0.9gのNaClが含まれています.
ざっくり100mlあたり1gのNaClだとした場合,この意図しないつまり予防の点滴だけで3g/dのNaclと300ml/dの水分が入ることになります.
そしてICUでは電解質の補整もよく行われます.
わたしの施設では,カリウムは生食80mlにカリウム20mEq(20ml)がデフォルトです.
たとえば,1日に3回補整した場合はそれだけで生食600ml/d入ります.
さらに,抗菌薬は種類にもよりますが,ペニシリン系のPIPC/TAZなどの薬剤は1日4回~3回は必要になります(腎機能に応じて).
生食50mlに希釈して使用しますが,4回投与で200mlになります.
この時点で,つまり予防で300ml,カリウム補整で300ml,抗菌薬で200mlの生食が入ることになります.
1日量として800mlになります.
これに加えて,50kgの場合30ml/kg/dとして,1500mlの輸液を行ったとします.
1500+800で2300mlになります.
メインの輸液とは?
血管内水分量次第だと思いますが,これだけ横から水分が入りますので,メインの輸液という概念自体なくしても良いように感じています.
ただ,血管内水分量が不足しており頻繁にボーラス投与が必要な場合は,メインの輸液として使用するのは良いと思います.
ちなみに看護師判断で,8ml/hrのつまり予防とした場合は,1日600mlの生食が入ることになります.
たとえばシチュエーションやポピュレーションは異なりますが,FEAST研究では500mlの輸液で死亡率というハードアウトカムが増加しています.
このあたりも懸念したうえで,詰まりやすいという曖昧な感覚ではなく,アセスメントしても良いように思います.
確かに,CVCが詰まってしまうと患者さんも入れ替えが必要になりますし,医療者側の負担の大きいので,エクスキューズされるとは思います.
FEAST研究
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1101549
輸液の名称
Creepは先ほど書いたように,意図せず自然に入ってしまう輸液です.
Resuscitation fluidは,たとえば敗血症などの初期蘇生で必要なボーラス輸液に近いイメージの輸液です.
Maintenance fluidは,電解質補整などに必要な輸液になります.
Replacement fluidは,消化器外科後の腸液や熱傷で喪失した分の輸液を補う目的で持続的にいれる(事が多い_輸液のことです.
かなりざっくりですが,このように分類されます.
繰り返しの話になりますが,Resuscitation fluid以外は,余分な水分として入りがちなので注意が必要です.
毎日の回診では,水分バランスの確認があります.
たとえば,6時ー6時の24時間で,Inが3400 Outが1900 バランスは,+1500mlです,といった具合です.
その時に指導医は「何がそんなに入っているの?」と聞いてきます.
たとえばノルアドレナリン10mg+生食(NS)90mlを10mlの場合は,240ml/dですし,ヒドロコルチゾン200mg+NS50ml 2ml/hr ピトレッシン40単位+NS40ml 2ml/hrの場合で100ml/dです.
敗血症蘇生としての昇圧系(ホルモン補充含む)だけでも,340ml/dが入ります.
他にニカルジピンやドブタミンなどの薬剤が増えれば増えるほど,いわゆるメインの輸液というものには注意が必要です.
さらに経腸栄養で水の投与が行われている場合があります.
通常は,水の投与を軽腸経路で行う場合は,メインの輸液は不要なはずです.
さっさとメインの輸液は止めて,軽腸からの水分量も適切に調整する必要があります.
今回の研究はパイロット研究
パイロット研究とは,研究の前段階の研究という立ち位置です.
ランダム化比較試験の場合は,どれだけの症例数を集めるとどれくらいの差が生じるので,このくらいの症例数を集積しましょうという解析が事前に行われます.
これをパワー解析と読んでいます.
パワー解析の場合は,過去の研究などの参考に行いますが,類似した研究が無い場合は,このように研究の前の研究を行います.
パイロット研究の利点は,研究に慣れるという点も大きな利点になります.
研究に慣れることで,たとえばプロコルパイオレーションで,研究自体にストップがかけられたりするのを防ぐ効果もあります.
いずれにせよ,この研究だけではなんとも言えないということです.
個人的には,余分な輸液は嫌いなので,興味深い結果になってくれることを期待しています.