Contents
糖尿病の診断
以下のいずれかが確認された場合は糖尿病型と判定します
- 早朝空腹時血糖≥126mg/dl
- 75gOGTT負荷後2時間血糖≥200mg/dl
- 随時血糖≥200mg/dl
- HbA1c≥6.5%
以下のどちらかが確認された場合は、正常型と判定します
- 早朝空腹時血糖<110mg/dl
- 75gOGTT2時間値<140mg/dl
OGTTとは
OGTTとはOral glucose tolerance testのことで、経口ブドウ糖負荷試験のことです。
一般的には、75gのブドウ糖を服用し30・60・120分後の血糖値を測定することが多いようです。
ただし、ブドウ糖を負荷するということは、それだけ血糖値が上昇する危険性がありますので、その施行にあたっては、検査対象者を厳密に設定する必要があります。
OGTTが推奨されるケースとしては、正常型にも糖尿病型にも判定されないグループに行なわれます。
つまり、耐糖能異常がありそうだが、糖尿病と判断できないようなケースです。
ほかには、将来糖尿病発症のりすくが高いグループに対して行なわれます。
具体的には、空腹時血糖値が100−109mg/dl, HbA1c5.6-5.9%の場合です。
これらのグループは多様な集団として認識されていて、OGTTが推奨されているようです。
糖尿病の代表的な合併症;しめじえのき
しめじえのきとは、その名の通りそれぞれの頭文字です。
- し:神経(糖尿病性神経障害)
- め:眼(糖尿病性眼障害)
- じ:腎臓(糖尿病性腎症)
- え:壊疽(糖尿病性足壊疽、DM foot)
- の:脳梗塞
- き:狭心症
しめじは有名な糖尿病の3大障害です。
えのきは、重大な3大合併症です。
つまり、糖尿病の治療目標は、これら「しめじ」を予防することで、「えのき」の発症予防に務めるということが必要です。
経口糖尿病薬による治療目標
糖尿病での薬物療法の治療目標は、合併症の予防です。
合併症とは、具体的には血管障害です。
すべては血管障害により、神経も眼も腎臓も障害が起こります。
血糖値を下げるだけで合併症が減るか
血糖値を薬剤で下げるだけでは、合併症の減少には寄与しないといわれています。
むしろ、死亡率の増加が問題となっています。
2008年の有名なACCORD研究とADVANCE研究という2つの研究があります。
ACCORD研究は、厳格に血糖値を管理した群での死亡率が有意に上昇した結果となっています。
一方ADVANCE研究では、死亡率や合併症にも影響はありませんでしたが改善もありませんでした。
これら2つの衝撃的な研究は、10年以上経過した今でも論争の的となっています。
治療薬の選択
治療薬は、血糖値を下げる効果だけでは判断できません。
これは、沢山の研究に支持されるものです。
先にも書いたように、血糖値の値を下げると心血管死亡率が減少するというのは、理論的には正しい戦略です。
けれども糖尿病の治療目標は、合併症と死亡率の抑制です。
帰納法と演繹法
このような議論を帰納法と演繹法と言います。
理論的に正しい治療(演繹法)を行っても、実際に研究を行うと(帰納法)理論的に予測された結果とは異なることはよくあります。
糖尿病治療においては、帰納法と演繹法の乖離がみられた、有名な結果であると言えます。
たとえば、使いやすい薬剤の代表として、DPP-4阻害薬というものがあります。
DPP-4阻害薬は、1日1回で良いですし、低血糖の副作用もほとんど起きないといわれています。
けれども、合併症の予防効果が示されていませんので、血糖値の管理がよくなったと喜んでいたとしても、心血管合併症の予防効果は乏しいので、長期的にはあまり意味のない介入になる可能性があります。
もちろん、血糖値は正常値に近い程良いはずですので、合併症予防効果に加えて血糖値の管理を行うなどの使用方法が好ましい様に思います。
治療の第一選択はメトフォルミン
メトフォルミンの歴史は古く、インスリン、スルホニルウレア剤に次いで3番目に古い薬剤のようです。
古くて現在も使用され続けている薬剤というのは、根拠のある薬剤かつ、副作用プロファイルが充実した薬剤が多くなっています。
つまり、安心安全な薬剤です。
たとえば、メトフォルミンの場合は、造影CTの前後に中止、乳酸アシドーシスなどの有名な副作用が有名です。
加えて、古い薬剤の利点はコストが安価であるということも挙げられます。
これは、大きなベネフィットであると言えます。
特に糖尿病の場合は、生涯に渡って飲み続ける必要がありますので、安価であるということは大きな利点です。
新薬の弊害
少し話がそれますが、製薬会社は新薬を売りたがります。
新薬は単純に儲けになるからです。
根拠のある古典的な薬剤を使用している医師は、よく勉強している医師であるともいわれています。
処方内容をみれば、処方医の能力がわかるともいわれますので、製薬会社の話を聞きつつも、根拠に基づく医療の実践(EBM)はいろんな観点から重要であると言えます。
その他の経口糖尿病薬
最近は、SGLT-2阻害薬やGLP-1阻害薬といった新薬のエビデンスが蓄積してきた結果、これらの薬剤の推奨度が上がってきているようです。
とはいえ、まだ非糖尿病医にとっては、2nd lineの治療と言えるのではないでしょうか。
ほかには、αーGIやグリニドと呼ばれる、食直前に使用する薬剤を使用することもあります。
チアゾリジンもありますね。
1日3回の食直前で、合併症予防効果もはっきりしていませんので、積極的に使用される薬剤とは言い難いと言えます。
スルホニルウレア:SU剤
SU剤はインスリン分泌を長時間に渡り促します。
その結果、血糖値は下がりますが低血糖も増加します。
SU剤にも種類は様々で、低血糖が起きやすいタイプの薬剤もあるようです。
SU剤同士の比較
この研究では、ネットワークメタアナリシスという複雑な方法を用いて、いくつもの研究が統合された結果が示されています。
- 12,970人/167,327人(9%)が観察期間中に死亡
- 841人/19,334人(4%)がグリクラジド(グリミクロン®)を使用し死亡
- 5,482人/49,389人(11%)がグリメピリド(アマリール®)を使用し死亡
- 2,106人/14,464人(15%)がグリピチドを使用し死亡
- 5,296人/77,169人(7%)がグリベンクラミド(オイグルコン®)を使用し死亡
- 1,066人/6,187人(17%)がトルブタミドを使用し死亡
グリベンクラミドと比較した死亡の相対リスク
- グリクラジド:RR 0.65(95%信頼区間[CI] 0.53-0.79)
- グリメピリド:RR 0.83(95%CI 0.68-1.00)
- グリピジド:RR 0.98(95%CI 0.8-1.19)
- トルブタミン:RR 1.13(95%CI 0.9-1.42)
- クロルプロパミド:RR 1.34(95%CI 0.98-1.86)
グリベンクラミドと比較した心血管関連死亡率
- グリクラジド:0·60 (95%CI 0·45–0·84)
- グリメピリド:0·79 (95%CI 0·57–1·11)
- トルブタミド:1·11 (95%CI 0·79–1·55)
- クロルプロパミド:1·45 (95%CI 0·88–2·44)
とはいえ、SU剤服用による低血糖は原則入院の適応です。
入院しても、低血糖が継続しますので、血糖の管理が必要になります。
余談ですが、SU剤を服用していたからと言ってSU剤による低血糖と決めつけるのはよくありません。
感染症など、ほかの低血糖になる原因がないかをよく検討する必要があります。
ここでもライプニッツがいう、低血糖の原因がSU剤というには、その他の原因を全て除外して初めて、SU剤による低血糖といえるのだと思います。
SU剤の世代
ちなみにSU剤にも世代があります。
第一世代
- トルブタミド(ジアベン®)
- アセトヘキサミド(ジメリン®)
- クロルプロパミド(アベマイド®)
- グリクロピラミド(デアメリン®)
第2世代
- グリベンクラミド(オイグルコン®)
- グリクラジド(グリミクロン®)
第3世代
- グリメピリド(アマリール®)
SU剤の世代による特徴
第一世代
腎排泄なので脱水などで腎機能が悪くなることで、低血糖をきたしやすいといわれています。
とくに高齢者は、脱水➜腎機能悪化等のイベントは臨床的にも多いので、高齢者には特に使用しづらい薬剤であると言えます。
第2世代
胆汁排泄の比率が増加しているものの、腎排泄も50−70%程度あるとされているため、腎機能悪化の影響を受けにくいとは言え、第一世代と同様に使用しづらいと言えます。
第3世代
第3世代のグリメピリドも、同様に腎排泄は60%ですが半減期が1.5時間と短いのが特徴かもしれません。
しかし、作用時間は他の世代と同様ですので、低血糖の遷延時間は同様に24時間程度は継続するものと思われます。
また、グリメピリドはインスリン分泌作用が弱いですが、血糖値を下げる作用は他の世代よりも強いようです。
高齢者の治療目標
繰り返しになりますが、低血糖は死亡率をあげます。
さらに、低血糖を繰り返す毎に認知症が進行することもわかっています。
ということは、治療目標を設定するうえで、高血糖のほうが高齢者にとっては利益が大きいと言えます。
高血糖緊急症
高血糖の重大な合併症(緊急症)は、高血糖高浸透圧状態(HHS)と糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)です。
糖尿病性ケトアシドーシスは基本的には、1型糖尿病でインスリン依存が必要が人が対象ですので、多くはHHSの方が問題になります。
極論ですが、超高齢者で認知症のある方での治療目標は、HHSを起こさない程度に血糖を管理するという場合もあります。
服薬アドヒアランス
認知症があれば、当然ですが服薬アドヒアランスは不良になります。
服薬アドヒアランスとは、自分の病気に対して必要性を理解したうえで、正しい服薬が行えているという事です。
たとえば、1日3回の薬剤を毎食欠かさず飲むという行為は、我々でも困難です。
そのため、1日1回など使用回数を少なくし、極力1回にまとめる努力が必要になります。
高齢者の薬剤代謝
高齢者では、薬剤の代謝なども悪いといわれていますので、副作用は医療者が思っている以上に、頻繁に遭遇します。
DPP-4阻害薬
そんな時に登場する薬剤は、DPP−4阻害薬です。
1日1回で、血糖値を下げて低血糖が少ない薬剤ですので好んで使用されます。
当然どのようなタイプの薬剤でも、副作用のリスクがありますが、血糖値(だけ)を管理するという目的からは最も使用しやすいタイプの薬剤です。
トラゼンタ®やテネリア®などの薬剤は、腎機能がある程度悪くても使用可能ですので、使いやすい薬剤の1つであると言えます。
高齢者にはメトフォルミンは使用しずらい
また、糖尿病治療におけるベストエビデンスともいえるメトフォルミンも、超高齢者では使用薬から外されてしまいます。
高齢者診療においては、副作用の少ない効果的な薬剤を、なるべく1日1回で服用しやすい形態(1包化など)で提供することが必要になります。
嚥下機能が悪くなった患者さんでは、カプセルタイプなどは飲みにくい場合もありますので、剤形も処方選択するうえでは、服薬コンプライアンス(アドヒアランス)を高める上では気にする必要があります。
ちなみに、服薬コンプライアンスとは、服薬の遵守率のようなものです。
自分の病気で必要な薬剤とは関係なく、とにかく指示された通りに服用されている事を言います。
まとめ
- 糖尿病の診断基準は、主にHbA1c≥6.5と空腹時血糖≥126と随時血糖≥200 +α
- 合併症は、「しめじ」と「えのき」
- 低血糖は死亡率を上げる!
- 糖尿病治療の目標は、しめじえのきの予防を行うことでの死亡率改善
- 傾向糖尿病薬の第一選択は、メトフォルミンだが、適応は限られる
- 超高齢者の場合は、エビデンスに基づく治療介入が困難な場合が多いので、テーラーメイドな介入を