結論
- 主訴は重要
- 主訴=患者さんの訴えをすべて採用すべきではない
- 主訴に違和感を生じた場合は、医学的な主訴を採用する
診断における主訴
主訴とは、その名の通り患者さんの訴えです。
カルテの冒頭にまず書かれることが多いです。
例えば、倦怠感とか発熱といった具合です。
医療者、特に医師は診断のプロですので、患者さんの主訴と医学的主訴が異なることは理解しています。
基本的には、一元的に説明できるような主訴が好ましいと考えています。
これを、オッカムの剃刀と呼ばれています。
いらないものはすべて削ぎ落とすということです。
高齢者の場合は、異なる事象が同時に起こる可能性が高くなります。
そのため、一元的に説明できない状況では、ヒッカムの格言というものがが採用されます。
先に書いた通り、異なる事象が同時に(別々の問題で)起こっているということです。
主訴から診断の重み付けを行う
主訴は大きく分けて2種類あります。
High yieldなものと、Low yieldなものです。
Low yieldなものの代表が、倦怠感や発熱になります。
例えば、この2つの主訴の原因はとても多岐に渡るからです。
そのため、主訴をもう1つ加えることをおすすめします。
右膝関節痛を伴う発熱、とすることで右膝関節炎による発熱の可能性がぐっと上がります。
さらに時間経過をプラスします。
急性か慢性か、その中間の亜急性ということになります。
今回の人は、1日前からの症状だとしましょう。
そうすると、発熱を伴う急性右膝関節痛ということになります。
ここまできたら、急性単関節炎のジャンルからその診断の可能性を探っていけばよいわけです。
時間経過は重要
例えば、1日前からの発熱なのか、1ヶ月続く発熱なのかでは、鑑別される診断は大きく異なります。
普通急性の発熱の場合は、感染症の可能性があがります。
亜急性〜慢性経過の場合は、自己炎症性疾患や感染症のジャンルでは、膿瘍・感染性心内膜炎などの可能性があがります。
ちなみに、急性経過では普通感冒が最も多いと思います。
普通感冒とは、咳嗽・鼻汁・咽頭痛の3つの症状がそろった場合に診断されます。
結構、よくある症状と経過であるだけに、この3症状を伴わない場合は、少し病歴を追加することも有用です。
主訴を間違えない
先に書いたように、患者さんの書いた主訴を全面的に採用することは、誤診の元になりかねません。
病歴は、特に若いうちはちゃんと聞くべきです。
ただ、患者さんの話す内容の多くは、診断に全く関係のないことのほうが多いです。
そのため真摯な姿勢で聞きつつも、自分の聞きたいことを聴取するスキルが問診には必要になります。
たとえば嘔吐
嘔吐は、よくある症候ですが、いろんな原因で起こります。
よくあるのが、胃腸炎です。
胃腸炎も風邪と同じく、嘔吐・腹痛・下痢の3つの症状が、この順番で起こる必要があります。
必ずしも、症状が揃うとは限りませんが、3つの症状が揃わない胃腸炎は安易に診断すべきではありません。
これは、ライプニッツが言うように、胃腸炎と診断する場合は、代替診断を否定してはじめて胃腸炎と言える、ということになります。
例えば、吐血をしていたので緊急内視鏡を行ったとします。
本当に吐血なのでしょうか。
繰り返す嘔吐による、マロリーワイスの可能性は無いのでしょうか。
と言った具合です。
仮に、嘔吐の原因が小脳出血だとします。
内視鏡で血腫のサイズが拡大する可能性が生じます。
めまいも同様に、良性発作性頭位めまい症と安易に診断したが、小脳梗塞の可能性も考慮すべきということになります。
特に救急では、Must ruled out
特に夜間救急の場合は、極論ですが今ほっといたら死ぬ病気なのか、明日の外来でも良いのかを判断する必要があります。
常にWorse scenarioを考える必要があります。
母数の割には極めて稀ですが、胃腸炎症状での心筋炎もいます。
特に、再診される患者さんには重大な疾患が隠れていないか、検査の閾値を位置段階下げて対応する必要があります。
まとめ
- 患者さんの主訴は医学的主訴とは異なる
- 正しい診断へ早くたどり着くには、医学的主訴に置き換える
- 医学的主訴は、時間経過や随伴症状などの周辺の情報を組み合わせて妥当性を担保していく