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心不全に対するSGLT-2阻害薬の効果

はじめに

糖尿病治療薬の変遷

SFLT-2阻害薬は、過去の糖尿病治療と比較すると、その作用は大きく異なります。
以前の糖尿病治療の本質は、「インスリン」により血糖を下げることでした。

SGLT-2阻害薬は、グルコース・ナトリウムトランスポーターの一部(近位尿細管に作用)を阻害します。
これは、どういうことかと言うと、グルコースの「吸収」を抑えるということになります。
つまり、「インスリン」は関与しません。

糖尿病のネーミング

糖尿病とは、とてもネーミングがかっこ悪い病気の代表です。
名前の如く、尿の中に糖が出るという状態です。
通常、尿中に糖が検出されるためには、血糖値が180mg/dl程度まで上昇しなければ排泄されません。

ところが、SGLT-2阻害薬という薬は、糖の吸収を阻害するかわりに、尿中に糖を排泄します。
糖の吸収が少なくなれば、血糖が上昇しなくなり、インスリンは分泌は少なくなります。
インスリンは膵臓から分泌されます。
インスリン分泌が少なくなるということは、単純に膵臓への負担が減ることに繋がります。

ついでに、SGLT-2の呼称について

通常「エスジーエルティ」と呼ばれます。
一人だけ「エスグルット」と呼んでいる人がいました。

NEJMのビデオを見ましたが、エスジーエルティと呼んでいます。
ということで、わたしはエスジーエルティをこれからも使っていこうと思います。

https://www.nejm.org/do/10.1056/NEJMdo005615/full/

新薬のリスク

基本的には、新しい薬というのはリスクが大きいと考えます。
つまり、副作用プロファイルが明らかでないからです。
沢山の人に使われるほど、副作用というのは明らかになってきます。
当然、市販されるには厳しい安全性をクリアしています。
それでも市販後は、安全性の試験で行なわれた数とは比較にならないほどの人数に使用されます。
その結果、まれな副作用も徐々に明らかになってきます。

SGLT-2阻害薬の副作用

現在、SGLT-2阻害薬で明らかとなっている副作用は以下のようなものがあります。

  • 尿路感染症
  • 血糖値の上昇しない糖尿病性ケトアシドーシス
  • 尿量増加に伴う脱水

などが、代表的かつ比較的重篤な状態になりやすいものです。
他にも、当然たくさんあります。

糖尿病治療薬から心不全治療薬へ?

SGLT-2阻害薬は、そもそも糖尿病の薬剤です。
ところが、利尿作用、体重減少効果、脂質異常症の改善効果などが示されていますので、心不全の治療・管理薬としての効果もあることがわかってきました。

SGLT-2阻害薬については、正直詳しくはありませんので、今回の論文の背景部分を見てみようと思います。

代表的な研究

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26378978/

EMPA-REG OUTCOME Trial

エンパグリフロジンとプラセボの比較
プライマリアウトカム:心血管死亡など
症例数:7020人
結果:心血管複合死亡率の減少

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28605608/

CANVAS Trial

症例数:10142人
プライマリアウトカム:心血管複合死亡率
結果:心血管イベントは減少、足の切断は増加

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30415602/

DECLARE-TIMI58 Trial

ダパグリフロジンとプラセボの非劣勢試験
プライマリアウトカム:心血管複合イベント
対象:17160人
結果:SGLT-2阻害薬は、プライマリアウトカムへの影響なし、心血管死亡・心不全入院は減少

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30990260/

CREDENCE Trial

プライマリアウトカム:重度の腎傷害、腎・心血管系の複合死亡率
症例数:4401人
結果:プライマリアウトカムは約30%減少、他にも心血管死亡・心筋梗塞・脳卒中・心不全での再入院も減少

SGLT2 inhibitors in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a meta-analysis of the EMPEROR-Reduced and DAPA-HF trials

背景

DAPA-HF試験(dapagliflozin試験)とEMPEROR-Reduced試験(empagliflozin試験)では、ナトリウム-グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害が、糖尿病の有無にかかわらず、駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、心血管死または心不全による入院の複合リスクを低下させることが示されました。しかし、いずれの試験も心血管死亡や全死因死亡に対する効果を評価したり、臨床的に重要なサブグループにおける効果を特徴付けるためのパワーは得られていませんでした。DAPA-HF試験の研究レベルの公表データとEMPEROR-Reduced試験の患者レベルのデータを用いて、DAPA-HF試験とEMPEROR-Reduced試験のHFrEF患者および関連するサブグループに無作為に割り付けられたすべてのHFrEF患者を対象に、SGLT2阻害が致死的および非致死的心不全イベントおよび腎アウトカムに及ぼす影響を推定することを目的としました。

方法

糖尿病の有無にかかわらずHFrEF患者の心血管アウトカムに対するSGLT2阻害薬の効果を評価した2つの単発大規模試験について、事前に指定されたメタアナリシスを行いました。DAPA-HF試験(dapagliflozin試験)とEMPEROR-Reduced試験(empagliflozin試験)です。主要エンドポイントは全死因死亡までの時間でした。さらに、あらかじめ指定されたサブグループにおける心血管死または心不全による入院の複合リスクに対する治療の効果を評価しました。これらのサブグループは、2型糖尿病の状態、年齢、性別、アンジオテンシン受容体ネプリリリューシン阻害薬(ARNI)治療、ニューヨーク心臓協会(NYHA)機能分類、人種、心不全による入院歴、推定糸球体濾過率(eGFR)、体格指数、および地域に基づいていました(ポストホック)。時間から初発症までのエンドポイントにはCox比例ハザードモデルから導かれたハザード比(HR)を、治療相互作用にはCochranのQ検定を用いた;再発イベントの解析にはLin-Wei-Yang-Yingモデルから導かれた率比を用いました。

所見

両方の試験から得られた患者8474人のうち、推定された治療効果は、全死因死亡の13%の減少(Pooled HR; 0-87、95%CI; 0-77-0-98、p=0.018)と心血管死の14%の減少(0.86、0.76-0.98、p=0.027)でした。SGLT2阻害は、心血管死または心不全による初回入院の複合リスクの26%の相対的減少(0.74、0.68-0.82;p<0.0001)、心不全または心血管死による再入院の複合リスクの25%の減少(0.75、0.68-0.84;p<0.0001)を伴っていた。複合腎エンドポイントのリスクも低下した(0.62、0.43-0.90;p=0.013)。試験間の効果の大きさの異質性に関するすべての検定は有意ではなかった。プールされた治療効果は、年齢、性、糖尿病、ARNIによる治療、ベースラインのeGFRに基づくサブグループで一貫した有益性を示したが、NYHAの機能クラスおよび人種に基づくサブグループでは、治療ごとのサブグループ間相互作用が示唆されました。

結論

エンパグリフロジンとダパグリフロジンの心不全の入院に対する効果は、2つの独立した試験で一貫しており、これらの薬剤が腎アウトカムを改善し、HFrEF患者における全死因および心血管死を減少させることを示唆しています。

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