集中治療室(ICU)におけるショック管理は、患者の生命予後を左右する重要な要素です。
ショックとは、急性循環不全の状態であり、組織灌流の低下によって、細胞の代謝要求を満たすための酸素供給または酸素利用が不十分になる、生命を脅かす病態と定義されます。
2025年に欧州集中治療医学会(ESICM)が発行した、ショックの診断と血行動態モニタリングに関する最新のガイドライン(2025年版)に基づき、特に輸液療法の判断とモニタリングに焦点を当てて、重要な推奨事項を解説します。
本ガイドラインの輸液療法に関する範囲は、輸液反応性の評価とモニタリングの指標に限定されており、輸液の種類や量といった具体的な処方は、ESICMの他の推奨事項で取り扱われています。
Contents
1. ショックの初期診断と組織灌流の評価
ショックは、低血圧、頻脈、および皮膚灌流異常、尿量減少、精神状態変化といった低灌流の兆候を伴うことが一般的ですが、低血圧はショックを定義するために必須ではありません。
ショックの短期死亡率は20%から50%にも及ぶため、早期の治療介入が不可欠です。
1-1. マルチモーダルな評価の重要性
ショックの診断や管理の成功は、単一の変数に頼るのではなく、複数のマーカーを用いた多角的な評価にかかっています。
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皮膚灌流のモニタリング:
- 皮膚灌流のモニタリングは、毛細血管再充満時間(CRT)の評価を用いて実施されるべきです。
- これは、皮膚温やチアノーゼ(mottling)の評価によって補完される可能性があります。CRTの異常が持続することは、敗血症性ショックにおける罹患率と死亡率の増加と関連しています。
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代謝・酸素化のマーカー:
- ショック状態では、通常、乳酸値が増加します(> 2 mmol/L)。
- 中心静脈カテーテルを留置している患者では、中心静脈酸素飽和度(S(c)vO2)の連続測定を実施すべきです。
- 中心静脈カテーテルと動脈カテーテルの両方を持つ患者では、静脈―動脈二酸化炭素分圧較差(Pv-aCO2)の連続測定を実施すべきです。Pv-aCO2は主に心拍出量(CO)によって決定され、この値が6 mmHgを超える場合は、輸液やInotropeの投与に反応する持続的なショック状態を示唆する可能性があります。
- これらのマーカーは、組織灌流の改善に迅速に反応するため、初期蘇生後の乳酸レベルの変化よりも早く治療の適切性を評価するのに役立つ場合があります。
2. 輸液療法の決定:反応性とリスクのバランス
ショック初期蘇生後、輸液を継続する前に、患者が輸液反応性(fluid responsiveness)を有するかどうかを評価する必要があります。
2-1. 輸液による潜在的利益とリスクの比較
輸液投与の決定は、輸液によって心拍出量(CO)が増加する潜在的な利益と、輸液過剰による潜在的なリスクを比較衡量して行われるべきです。
- 輸液過剰は、ICU患者において体液貯留症候群や転帰の悪化と関連しています。
- 輸液に反応しない患者に輸液を投与すると、COの増加がないまま体液が蓄積し、酸素供給の減少につながる可能性があります。
2-2. 輸液反応性の評価方法
輸液反応性を予測するためには、静的指標(例:CVP単独値)よりも動的変数を用いることが推奨されます。
動的指標は、COまたはその代理指標に対する心臓前負荷の誘発された変化の影響を観察します。
推奨される動的テスト:
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受動的下肢挙上(PLR)テスト:
- PLRテストは、自発呼吸活動の有無にかかわらず、人工呼吸管理中のショック患者の輸液反応性を評価するために強く推奨されます。
- PLRは約300 mLの輸液負荷の血行動態効果を模倣し、かつ可逆的です。
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呼気終末閉塞テスト(EEOT):
- 自発呼吸活動がない人工呼吸管理中のショック患者において、PLRテストの代替手段としてEEOTが推奨されます。
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脈圧変動(PPV)および一回換気量変動(SVV):
- 自発呼吸活動がなく、一回換気量 8 mL/kgである人工呼吸管理中の患者では、輸液反応性を評価するためにPPVを用いることが強く推奨されます。
- 同様の条件下でSVVを使用することも弱く推奨されます。
- PPVおよびSVVは、自発呼吸、心臓不整脈、低一回換気量、または右心不全の存在下では、信頼性が低下するという限界があります。特にTV < 8 mL/kgの場合、PPVの診断的精度は低下するため、単独での使用は慎重に行うべきです。
2-3. 輸液投与によるリスク評価のためのマーカー
輸液投与による有害性のリスクは、以下のマーカーを用いて評価される可能性があります。
- 血管内容量充満圧(Intravascular filling pressures)
- 腹腔内圧(IAP):ショック状態および腹腔内高血圧のリスク因子が確立されている患者には、IAPの連続モニタリングが考慮される場合があります。IAPのモニタリングは、輸液管理の安全性指標として役立ちます。
- 血管外肺水分量(EVLW)および肺血管透過性指数(PVPI):EVLWは肺水腫の定義(> 10 mL/kg)に用いられ、輸液療法を調整する際の臨床的に関連性の高い安全限界と見なされます。
- 静脈過剰超音波(VExUS)スコアリング
- PaO2/FiO2比、または肺超音波スコア
2-4. 輸液ボーラス効果の評価
輸液ボーラスは、その効果を評価しながら、200〜500 mLを5〜10分かけて投与することと定義されます。
- 輸液ボーラスの効果は、CO、またはそれが利用できない場合は脈圧の変化を評価することで検討される可能性があります。
- 最も重要な点は、輸液ボーラスの有効性を、CRT、皮膚のチアノーシス、S(c)vO2、二酸化炭素分圧(pCO2)由来の変数、および乳酸値といった、組織灌流の改善を示す変数の変化を考慮して評価すべきであるということです。
3. 血行動態モニタリングの個別化
ショック患者の管理においては、血圧目標やCOモニタリングを個別化することが重要です。
3-1. 動脈圧の目標設定
血圧目標は、ショック患者の蘇生中に個別化されるべきです。
- 敗血症性ショック: 最初の目標MAPは65~70 mmHgとすべきです。
- 高MAPが考慮されるケース(敗血症性ショック):
- 慢性の動脈性高血圧の既往があり、より高い血圧で臨床的な改善を示す患者。
- 高いCVP値を有し、より高い血圧で臨床的な改善を示す患者(MAP-CVPの灌流圧勾配を維持するため)。
- 低MAPが考慮されるケース(外傷性出血性ショック): 外傷性脳損傷(TBI)がない管理されていない出血を伴う外傷性出血性ショックでは、より低いMAP目標が考慮される場合があります。重度のTBI(GCS < 8)がある場合は、初期MAP > 80 mmHgを目標とすることが推奨されます。
- 持続的なモニタリング: 初期の治療に反応しないショック、または血管作動薬の持続注入が必要なショック患者では、動脈カテーテルを用いた動脈圧のモニタリングを実施すべきです。
3-2. 心拍出量(CO)のモニタリング
COおよび/または一回拍出量(SV)は、初期治療に反応しない患者において、ショックのタイプを評価し、血行動態の状態を評価し、治療反応を判断するためにモニタリングされるべきです。
- COモニタリングの適切性は、臓器機能、組織酸素化、代謝、および灌流を評価することによって解釈されるべきです。
- より侵襲的なモニタリング(経肺温希釈法や肺動脈カテーテル(PAC))は、COモニタリングが必要な患者で考慮される場合があります。特に右心不全のない患者ではEVLWを測定できる経肺温希釈法が、右心不全がある患者では肺動脈圧を測定できるPACが好まれます。
3-3. 中心静脈圧(CVP)のモニタリング
中心静脈カテーテルを留置しているショック患者では、CVPを測定すべきです。
- CVPは右心プレロードの指標であり、非常に低いCVPは体液減少性成分を、高いCVPは心臓関与を示唆します。
- しかし、ショック患者の蘇生中にあらかじめ決められたCVP値を目標とすべきではありません。高いCVP値は、組織浮腫や腎機能障害と関連しており、輸液過剰のリスクを示す安全指標として使用できます。
3-4. 心エコー検査の役割
心エコー検査は、ショックのタイプと血行動態の状態を評価するための第一選択の画像診断モダリティとして推奨されます。
- 心エコーは、心機能に関する追加情報を提供するために、COがモニタリングされている場合でも連続的な評価を実施すべきです。
- ショック患者において心エコー検査を実施することは、管理の変更につながり、治療効果を裏付けるものです。
- 心エコーで定義される左心および右心室収縮機能の表現型は、予後的な意義を持つ可能性があります。
まとめ
集中治療におけるショック管理と輸液療法は、刻々と変化する患者の状態に合わせた繊細な調整が求められます。
ESICMの最新ガイドラインは、初期蘇生後の輸液継続の是非を判断するために、静的指標ではなく動的指標(PLR、EEOT、PPV/SVVなど)を用いた「輸液反応性」の評価を強く推奨しています。
さらに、輸液投与の際には、EVLWやIAPなどのマーカーを用いて輸液過剰のリスクを評価し、灌流マーカー(CRT、S(c)vO2、Pv-aCO2)の変化を通じて、真に組織灌流が改善したかを確認するという、多角的で個別化されたアプローチが重要であると強調されています。
動脈圧目標も、患者の基礎疾患やショックの病態(敗血症、外傷、心原性など)に応じて個別化し、COモニタリングや心エコー検査を組み合わせて、包括的な血行動態評価を行うことが、最良の転帰につながる鍵となります。