診療科 集中治療科

重症患者の輸液判断における超音波(CCUS)活用の実践的フレームワーク

原題: How we use ultrasound to support clinical decisions on fluid administration in critical ill patients : Intensive Care Med (2025)

 
 

 

 

1. 背景 (Background)

 

静脈内輸液は集中治療において一般的な介入ですが、明確な適応に基づいて投与される「薬剤」として扱われるべきです。

従来、輸液療法は心拍出量の増加に主眼を置いていましたが、過剰な輸液は肺水腫や臓器の浮腫を引き起こし、臓器不全を悪化させる有害な結果をもたらす可能性があります 。

この文脈において、重症患者に対する超音波(CCUS)は、輸液の潜在的なリスクとベネフィットを評価する上で有用です。

本稿では、組織低灌流の徴候がある患者に対し、心エコー(CCE)、肺エコー(LUS)、静脈うっ血エコー(VEXUS)を組み合わせた包括的な意思決定フレームワークを提案しています。

 

2. 方法:5つのステップによるアプローチ (Methods)

 

著者は、輸液の判断が必要な場面で、以下の5つの臨床的疑問(ステップ)順次解決していくホリスティック(包括的)なアプローチを提案しています

 
 

 

  1. 明らかな循環血液量減少(Hypovolemia)はあるか? 8

     

     

  2. 重篤な心疾患(Critical Cardiac Conditions)はあるか?

     

     

  3. 肺うっ血(Pulmonary Congestion)の兆候はあるか?

     

     

  4. 体静脈うっ血(Systemic Congestion)の兆候はあるか?

     

     

  5. 輸液ボーラスによる有効性は期待できるか?

     

     

 

3. 結果:各ステップにおける診断指標 (Results/Diagnostic Criteria)

 

各ステップにおいて、超音波を用いて確認すべき具体的な所見と基準値は以下の通りです。

ステップ 評価項目 (Modality) 主な判断指標・基準値 臨床的解釈
1. 循環血液量減少 心エコー (CCE)

・左室拡張末期面積 (LVEDA) < 10 cm²

 

 


・収縮期の「Kissing walls」サイン

 

 


・下大静脈 (IVC) 呼気終末径 ≤ 10 mm

 

 

 

「あり」の場合:


即座に輸液を行い、灌流を回復させるべきである(反応性試験不要)

 

 

2. 重篤な心疾患 心エコー (CCE)

・右室拡大 (RV/LV比 > 0.6)

 

 


・重度の弁膜症


・左室充満圧 (LVFP) 上昇所見:


 - E/e' > 8 または e' ≤ 8 cm/s

 

 


 - E/A > 1.8

 

 

これらの所見は、輸液による肺・体うっ血のリスクが高いことを示唆する

 

 

3. 肺うっ血 肺エコー (LUS)

・Aプロファイル (Bライン < 3本):低リスク

 

 


・Bプロファイル (Bライン ≥ 3本):うっ血リスク

 

 

均一なBラインは静水圧性浮腫、不均一で胸膜異常を伴う場合は透過性亢進型浮腫を示唆

Bプロファイル時は輸液による浮腫悪化に注意

 
 

 

4. 体静脈うっ血 VEXUS法

・IVC径 ≥ 20 mm

 

 


・肝静脈:収縮期逆流


・門脈:拍動性 > 50%


・腎静脈:拡張期のみの血流

IVC拡大に加え、2つ以上の異常パターンがあれば体うっ血(臓器後負荷増大)のリスクが高い

 

 

5. 輸液反応性 機能的試験

・受動的下肢挙上 (PLR) 時のLVOT-VTI増加

 

 


・人工呼吸器の呼気・吸気閉塞試験による変化

 

 

心拍出量(Stroke Volume)の増加が期待できるかを予測する。固定された閾値ではなく、変化の大きさで評価する

 

 

 

4. 考察 (Discussion)

 

CCUSは、輸液のリスクとベネフィットのバランスを取るために有用です

 

 

  • 低リスク群: 重度の収縮機能障害、左室充満圧(LVFP)の上昇、またはうっ血の所見がない患者では、適応があれば輸液は概ね安全です

     

     

  • 高リスク群: 心機能障害やうっ血所見がある場合、単に「輸液反応性がある(輸液で心拍出量が増える)」という理由だけで輸液を行うべきではありません

     

     

  • 統合的判断: 輸液反応性の有無だけでなく、肺や体静脈のうっ血リスク(害の可能性)と、予想される血行動態改善(利益の可能性)を天秤にかけ、患者の臨床背景全体を考慮して決定する必要があります

     

     

 

5. 結論 (Conclusion)

 

組織低灌流の徴候がある場合にのみ、輸液は治療選択肢として検討されるべきです。

提案されたCCUSのステップバイステップ・アプローチを用いることで、臨床医は「明らかな循環血液量減少」を迅速に除外し、その後の「リスク(心機能・うっ血)」と「ベネフィット(輸液反応性)」を構造的に評価することができます。

これにより、ベッドサイドにおいて、より個別化された安全な輸液管理が可能になります 。


 

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