結論
- 感染症のトライアングルは、感染症診療における基本中の基本
- 看護師も当然、意識する必要がある
- 感染臓器の特定には、看護師の診察も有用
- 臓器特的所見と全身所見で、抗菌薬の治療効果を判定する
はじめに
感染症や抗菌薬の領域は、看護師の場合どうしても近くて遠い存在になりがちです。
どういうことかというと、大概の診療科で使っていますがそのロジックや評価方法をときに間違っているからです。
わたし自身も抗菌薬の名前と一般的な細菌くらいしかわかりませんでした。
けれども勉強していく上で、感染症のトライアングルが分かれば、なんとなく抗菌薬の使い方がわかるようになってきました。
さらには、看護師特定行為にも抗菌薬関連の事項が記載されていますので、現代の看護師にとって抗菌薬に関する知識は必須といえるのかもしれません。
感染症におけるトライアングルは3+1個
感染症におけるトライアングルは、当然3つです。
- 感染臓器
- 病原微生物
- 抗菌薬
この3つに加えて
- 患者さん
を中心に取り巻いています。
当然、相互に作用していて感染臓器の推定ができれば、病原微生物の推定ができます。
病原微生物の推定ができれば、使用する抗菌薬も決まります。
抗菌薬が決まれば、治療を行って効果判定を行います。
病原微生物の同定には、培養検査が必須です。
具体的には、血液・尿・喀痰は3点セットといって良いでしょう。
病院では、Fever wok upという言葉があります。
Feverは熱のことです。
熱が出た患者さんを、ワークアップ(検索)するということです。
日本語では、熱源検索でしょうか。
あまり、臨床現場では日本語はあまり使われていません。
1つめは、まず患者さんの状態
感染症におけるトライアングルの基本は、まずは患者さんです。
患者さんの状態が分かれば、感染しやすい人なのかそうでないのかがわかります。
たとえば、免疫を下げるような薬剤を内服している場合は感染症に罹りやすい人、ということになります。
具体亭には、抗がん剤・ステロイド・免疫抑制薬などがその代表です。
他には、発生場所も重要です。
例えば、免疫抑制などの背景疾患を持たない、われわれのような元気な人の場合は普通の細菌をカバーすればよいということになります。
けれども、病院に入院していたり、施設に入所している場合には、一般的な細菌よりも少し強力な細菌が関与している場合があります。
当然、抗菌薬もその患者さんに応じた選択が必要になります。
一般的な細菌とは、例えば肺炎であれば肺炎球菌、尿路感染症であれば感受性の良い大腸菌ということになります。
感受性が良いということは、よしベーシックな抗菌薬で戦えるということになります。
例えば、大腸菌と一言で言っても、その種類は様々です。
セファゾリン(CEZ)やアンピシリン(ABPC)のような抗菌薬が効果を示す場合は、たちの良い細菌ということになります。
これらの抗菌薬は、カバーする範囲が狭いからです。
これが、たちが悪くなってくると同じ大腸菌でも、ESBLと呼ばれる耐性菌に様変わりします。
ESBLの場合は、メロペネム(MEPM)という、一言で言えば最強の抗菌薬がスタンダード治療とされています(セフメタゾールという選択もあります)。
いずれにせよ、どの抗菌薬を適当に選択していても治療できていた大腸菌が、2剤しか選択できないということは大きな問題です。
たとえると、小さい頃は可愛らしい坊っちゃんが、中学生くらいから不良少年になり手がつけられなくなってしまった状態です。
この中学生も、その都度教育を受ける機会があれば不良少年にならずに済んだはずです。
抗菌薬も同じで、大事に大事に抗菌薬は使っていく必要があるということです。
まとめると、一般人か入院歴を含めた医療関連感染のリスクがある人なのかで、初期に使用する抗菌薬選択が変わってきます。
感染臓器の特定
感染臓器の特定は、病歴こそが重要です。
看護師は病歴聴取も非常に苦手です。
病歴とは、患者さんに話を聞くのでなく、話を聞きながら鑑別診断を挙げていく作業になります。
聞くのではなく、聴取するという方が正しい言い回しかもしれません。
事情聴取も同じで、詳しくその時の状況を聞き、推論を行い犯人である可能性を限りなく追求する一方で、限りなく犯人でない可能性を追求する作業です。
犯人探しにおいては、白か黒かの2つしかありません。
実際はグレーゾーンも多いでしょうが、最終的には結論せざるを得ません。
一方、医療現場の場合は、程度問題ということになります。
尿路感染症と肺炎の可能性を考えているけど、肺炎が30%で尿路感染症が60%、その他の可能性が10%といったような感じです。
例えば、あなたは "がんです" ということは、言い切れます。
しかし、あなたは "がんではありません" ということはいきれません。
けれどもこれも程度問題ということになります。
がんである可能性は極めて低いので、定期検診のフォローアップだけで様子を見ましょう、となるかもしれません。
がんである可能性は限りなく低いですが、気になる場合は、定期検診以外でのフォローアップを要することになるはずです。
肺炎の場合
肺炎は最もコモン(ポピュラー)な感染症です。
感染症は基本的に、外界と交通している状況で発生します。
当然ですが、人は常に呼吸をしていますので、肺炎のリスクは常にあります。
感染症全般において大事なことがあります。
- 臓器特的所見
- 全身的所見
この2つを使い分けることです。
感染症診療において、血液データの白血球とCRPを見て診療している場合もあるようです。
当然ですが、白血球はCRPは感染症だとわかっている場合、経過に応じて下がりトレンドであることを確認する意味はあるかもしれません。
けれども、感染臓器は教えてくれませんし、病原微生物や抗菌薬も教えてくれません。
では、肺炎と診断するにはどうすればよいのでしょうか。
肺炎らしさを追求することです。
感染症は先に書いたように、全身的な所見がでます。
具体的には、発熱や食思不振、血液データでは炎症マーカーの上昇などです。
これだけを頼りに、抗菌薬を処方するということは、例えば日本橋まで行きたいけど地図もない中でたどり着かないと行けない状況といえるかもしれません。
そのため、情報を増やす必要があります。
情報とは、病歴です(繰り返します)。
肺炎の臓器特異的所見は、咳・膿性痰・胸痛・低酸素血症・呼吸数増加などです。
画像所見で、浸潤影があればより肺炎らしさが増えます。
全身所見では、先に書いたように発熱や食思不振や血液炎症データの上昇などです。
一方、抗菌薬の治療効果判定には、これらの臓器特異的所見と全身的所見の改善をモニタリングすればよいのです。
病原微生物の特定
病原微生物も、なんだかよくわからない感じです。
最初は、1対1対応で憶えましょう。
- 肺炎 = 肺炎球菌
- 尿路感染症 = 大腸菌
- 皮膚軟部組織感染 = ブドウ球菌、レンサ球菌
- 血流感染 = ブドウ球菌
- 腹腔内感染症 = グラム陰性桿菌、腸球菌ほか
なんとなくわかるでしょうか。
感染臓器が分かれば、病原微生物がわかります。
一般的に横隔膜より上はグラム陽性球菌、下はグラム陰性桿菌とされています。
当然例外もたくさんあります。
これらの原則が分かれば、病原微生物が分かれば感染臓器の推定も可能になるということです。
例えば、市中発生の場合、大腸菌であれば肺炎の原因菌となることは少ないです。
そのため、肺炎に対して抗菌薬治療を行っていた場合に、大腸菌が血液培養から検出された場合は、肺炎なのか?と感染症のトライアングルに立ち返ることが重要です。
常にこの繰り返しになります。
培養採取 → 抗菌薬 → 培養結果 → 感染臓器や抗菌薬は妥当か、といった感じです。
培養結果と感染臓器の妥当性が担保できるようであれば、抗菌薬の境域化を行います。
これを、De-escalationとかTargeted therapyとかNarrowingとかいいます。
デ・エスカレーションが臨床的には最も多様されていると思います。
抗菌薬の選択
抗菌薬の選択は、シンプルに考えれば簡単です。
感染臓器と病原微生物さえ分かれば、抗菌薬は決まってきます。
極論ですが、感染症によるショック(敗血症性ショック)の場合は、考えうる全ての細菌をカバーします。
いわゆる、メロバンと言っているやつです。
メロペネム(MEPM)とバンコマイシン(VCM)です。
メロペネムは、初学者向きではありませんので詳しくは書きませんが、ほとんどの細菌をカバーします。
つまり、メロペネムを使う場合は、メロペネムでカバーできていない細菌を考慮する必要があります。
その代表が、MRSAです。
つまり、メロバンの組み合わせは、体中の細菌を一掃します。
その結果、特殊な感染症が問題になります。
だから、より早期にde-escalation を行う必要があるのです。
メロバンが悪いわけではありませんが、使うなら正しく使いましょうということに尽きます。
少しだけアドバンスな話になってしまいました。
抗菌薬が決まれば、その抗菌薬であっているのかを評価します。
一般的に、72時間以降に抗菌薬の効果判定を行うとされています。
肺炎であれば、先に書いた臓器特異的所見の改善と全身的な所見を認めるはずです。
これらが72時間後も改善しない場合や増悪している場合は他の原因を考える必要があります。
感染症にはある格言があります。
「感染症は良くなるか悪くなるのかどちららしかない」というものです。
例外としては、感染性心内膜炎や膿瘍などの慢性感染症です。
慢性感染症の場合は、よくも悪くもならずに少しづつ悪くなりますし、治療すれば少しづつ良くなります。
逆説的には、72時間後も抗菌薬の効果が乏しい場合は、膿瘍形成などを考慮する必要があるということになります。
感染症治療の原則は、感染創の除去であり、抗菌薬は補助的なものです。
感染創の除去は、Source controlと言われます。
結構忘れがちですが、感染症治療における最も重要な基本原則です。
まとめ
- 患者さんの状態を評価する
- トライアングルそれぞれの妥当性を常に評価する
- 抗菌薬開始前には、培養採取
- 培養結果が出たら、抗菌薬の境域化
- 感染症治療で最も重要なのは、感染創の除去