まとめ
診断は,局所の生検
なんの細菌と戦っているのか明らかにする
点滴ではじめて,内服薬へのスイッチも検討される
はじめに
骨髄炎は骨の感染症です.
通常は,骨膜と骨髄双方の感染症のことを指します.
慢性と急性がありますが,治療法は同じであり分類することに特別な意義は臨床上は乏しいかもしれません.
ちなみに,慢性骨髄炎は6週~3ヶ月の症状を伴うものとされています.
小児の急性骨髄炎は長管骨に多いとされています.
高齢者の場合は,脊椎が多いです.
慢性骨髄炎は2つのパターンがあります.
1つは,急性骨髄炎の遷延です.
もう1つは,糖尿病性足壊疽などに伴う慢性潰瘍に付随したものです.
虚血を来すと,腐骨と呼ばれる状態となり骨髄炎が発症しやすくなります.
病原微生物
圧倒的に多いのが黄色ブドウ球菌(S.aureus)です.
だいたい2/3 ~ 3/4がS.aureusとされています.
次いで,レンサ球菌,緑膿菌などのグラム陰性桿菌が原因菌となります.
これらの細菌が多数ですが,どのような細菌でも原因微生物となり得ます.
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌などの皮膚常在菌は,人工物感染でおこりますが,人工物以外の感染は稀とされています.
診断
臨床所見(潰瘍や瘻孔形成など)がまず,診断の入口になります.
抗菌薬を使用する前は一般的には,血液培養の採取が行われます.
骨髄炎の場合は,先にも触れたように血流感染の結果,組織粘着性の強いS.aureusなどの細菌が骨に感染症を来します.
これは,感染性心内膜炎の可能性も十分に考慮する必要がありますので,必要に応じて血液培養は3セット採取するということも検討されるかもしれません.
ちなみに,2セットと3セットでは,感度が3%程度増える程度なので通常は3セットの採取は不要です.
下記にも記載しましたが,長期の抗菌薬の適切な治療が必要な場合は,生検まで行う必要があります.
そのため,血液培養で原因微生物が検出されれば,その時点で抗菌薬をDefinitive therapyとして開始することは多くの臨床プラクティスだと思います.
確定診断は,感染骨局所の培養検査になります.
シュロスバーグでは,CTガイド下に生検を行い,陰性の場合はもう一度行い,最終的に陰性の場合は外科的採取の検討や円ピリックな抗菌薬の開始と書かれています.
骨髄炎に限りませんが,発育遅延が起こり得る感染症の場合は延長培養を依頼する必要があります(TB,ブルセラ,ノカルジアなど).
ちなみに,通常はCTと禁忌がなければMRIでの画像検査が行われ,臨床診断としています.
将来的にはPETも治療効果判定を含む画像検査として,選択枝に入る可能性はあるのかもしれませんが,現時点では不明熱でなければ撮像の閾値は極めて高くなるのが現状です.
治療
感染症治療ですが,抗菌薬は補助的なものです.
そのため,感染症の治療は?と聞かれて,抗菌薬ですと答えると,50点ということになります.
治療の原則は,デブリードメントやドレナージになります.
骨の固定(ORIF)デバイスが留置されている場合は,それら固定器具の除去も検討されます.
これらの侵襲的な治療が行えない場合にかぎり,抗菌薬のみの治療が選択されているのが現状です.
あとは,全身状態として待てる状態の場合は,敢えて侵襲的な治療戦略を取らずに抗菌薬のみで治療を行うということも行われるかもしれません.
先にも少し書きましたが,通常は小児と高齢者の2峰性の分布を取ります.
これらの対象患者さんでは,積極的に侵襲的処置を選択しがたい,というのもあると思います.
抗菌薬治療
適切な治療法は明確とはなっていないのが現状です.
そのため,デブリードマンが必要かという議論のあとは,いつまで,どのような経路で,どのような抗菌薬治療を行うか,ということになります.
通常は特に急性骨髄炎の場合は,単一菌腫により起こります.
すなわち抗菌薬も単一薬剤で行われるのが基本です,
特に,骨髄炎や膿瘍性疾患のように長期に抗菌薬治療が必要な場合は,なるべく狭域の抗菌薬かつ内服薬を使用することが一般的な原則です.
ただ,内服薬では不足する場合や,選択肢に内服薬がない場合は,点滴での加療が継続されます.
点滴の場合は,セフトリアキソンなどの1日1回の投与で良い抗菌薬の場合は,外来での治療も可能です.
ただこれは,尿路感染症などの短期間での治療(最近のグラム陰性桿菌の一般的な治療期間は7日間程度)の話になります.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2404991
1.5ヶ月~2ヶ月の間,1日も休まずに点滴に来院するというのは,すこし現実的では無いかもしれません.
たとえば,経口内服薬による治療の有用性は以下のOVIVA試験,POET試験が代表的かもしれません.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1808312
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1710926
化膿性脊椎炎
化膿性脊椎炎の場合は,神経症状を来す場合は緊急での処置が必要になります.
緊急での除圧術(椎弓切除など)が検討されます.
脊髄圧迫が強くなってしまうと,下肢麻痺となり今後のQOLに多大な影響を与えてしまいます.
一方で,固定術を行うかどうかはその時の外科医との協議になるはずです.
感染をきたしている骨の周囲に,新たなデバイスを使用することは外科医にとっては可能であれば避けたいはずです.
脊髄の除圧だけ行い,安静保持とし,2期的に固定術を検討するというのはリーズナブルかもしれません(が実際どのように行われているのかは分かりません).
フォローアップ
骨髄炎の場合は,治癒という表現は時に適切でない場合があります.
これは,数年後の再発も報告されており,寛解や停止のほうが適切な表現方法かもしれません.
一般的な成人の寛解率は40-90%とされています.